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春は溶けて、巡る(2025.04.02)

2025/04/04 08:17
それはまだ、冬の名残が町のあちこちにしぶとく居座っていた頃のことだった。

「春になったら、またここで」

駅前の、小さな喫茶店。窓際のいつもの席で、 少し熱すぎるコーヒーを前に、彼女はそう言った。

それから季節は滑るように進んで、雪は静かに溶けていき、街路樹には柔らかな蕾が顔を出し始めた。

僕は約束の場所へ向かう。何かを確かめるように歩きながら。

けれど、彼女の姿は、そこにはなかった。

ぬるくなったコーヒーをひとくち啜る。舌に残る酸味が、彼女の声をかき消していくようで。少しだけ目を伏せる。

たしかに現実だったはずの時間が、こうしてひとりきりで思い返すうちに、少しずつ夢へとすり替わっていく。春が、すべてを溶かして連れ去ってしまった――そんな気がして。

ああ、君との春は、何処にもなかったんだな。

それでも、窓の外の光は確かにあたたかくて、 駅前を行き交う人々の笑顔や、淡い桜色の景色が、どこか遠くでささやきかけてきた。

春は、また巡ってくるよ、と。

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