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note/米森
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▽ 2021.08.29 テディベアと指輪
20210829(日)12:14リビングの本棚には、両掌に収まるくらいのテディベアが置かれている。
彼との同棲を始めた五年前に、彼が持ってきたぬいぐるみだ。茶色い体に黒い目。
彼曰く、表情が私の笑った顔に似ているらしい。
ほこりが積もらないようにこまめにブラッシングしたり、首のリボンを正したり、テディベアの手入れは彼の日課だ。
どんなに忙しく、体調が悪い時であっても一度も忘れたことはない。
「この子がいると、君との暮らしが一層明る
くなるだろう?」
彼はよく、そうはにかみながら言った。
私とケンカをして、私が女友達のところへ家出したここ数日間だって。彼は手入れを欠かしていないに違いない。
彼が夜勤に出ている隙を見計らって家に戻ってきた。
久々に大きなケンカだった。言い争ううちにカッとなってしまって、「わたしのことなんか嫌いなんでしょ」と喚いてしまっていた。
早く、本当の家族になりたいだけなのに。自己嫌悪するばかりだ。
電気をつける。しんと冷えた部屋。彼が帰ってきたら、なんて言おうか。
ふと、テディベアと目が合った。その小さな腕に輝くものに、目を疑う。
銀色のダイアモンドリング。
テディベアの足下にはメッセージカードがあった。結婚しよう、と。
テディベアの腕に触れる。指輪を取ろうとして、やめた。
私の指に移すことができるのは、彼一人だけだから。
彼が帰ってきたら、テディベアに負けないとびっきりの笑顔で迎えよう。▽ 2021.08.29
20210829(日)12:13思い切って、自分にごほうびを。
ずっと憧れていたブランドの、新作の白いワンピースを着る。
クローゼットから出したお気に入りのパンプスを合わせたら、鏡の前でくるりと、右へ左へ一回転。うん。なかなかいい感じだ。
夏の夕暮れ。ベランダに出て、深呼吸をする。ここには私しかいない。顔を覆うものは何もいらない。
来年の春には、好きな服をまとって、心ゆくままどこへでもいけますように。
オレンジに染まったスカートの裾が、吹き抜ける風を受けてふわりと揺れた。▽ 2021.08.06
20210806(金)19:03どんな夢を見るか。どんな理想を唱えるか。
全てはそう、自分自身のために。
だけど、ふとつらくなって。
夢や理想を適当に捨て置く。
僕の輪郭が淡くなる。
選び取れないものなんか、この世界には山ほどあって。
そうしてこぼれたものが、僕の周りに積み重なっていって。
それでも、今、この瞬間だって、
何かを見て、つかもうとして、叫んでいて。
信じてしまうんだ。愛してしまうんだ。
こうしてまた、僕の輪郭が鮮やかに色づく。
淡くとも、僕であることに、きっと変わりはないけれど。▽ 2020.08.03
20200807(金)22:41あなたを想うことは容易いが、支えることは難しい。あなたは私の手が届かないずっと先を歩き続け、ある日足が竦み、今は座りこんでいる。あなたに手を差し伸べたいのに、どれだけ走ったって追いつけない。私の前にはあなたしかいないのに。だからせめて、私は祈り続けよう。あなたが立ってくれることを。▽ 2020.08.01
20200801(土)23:21あなたの帰りをわたしは待ち続けています。今宵はあなたの好きなクリームシチューを用意したの。デザートにはメロンを冷やしてあるわ。お口に合うといいのだけれど。テーブルランプの明かりがちらついて、消える。ずっと、私は待っています。だから、ねえ、お願い…また美味しそうに食べる姿を見せて。▽ 2020.07.31
20200801(土)23:20実家に置き去りにしていた玩具箱。ひっくり返すとクリスマスケーキの飾りらしきプラスチックの柊がころんと転がり落ちた。なんとはなしに私はそれを手に取り、姿見の前に立って、前髪に差してみた。小さすぎるし、正直似合わない。だけど不思議とわくわくした。まるで子どものころに戻ったみたいに。
(お題:柊)▽ 2019.10.12
20191012(土)17:26暗鬱な路地裏にあっても花の蕾は綻びた。懸命に咲こうとするその姿はとても美しく、だからこそ薄汚い土地に根を張ってしまったことは哀れだった。光のもとへと導く力はちっぽけな今の私にはない。ならばせめて、種をつけるまで守ろう。そしていつか、日向いっぱいに咲き誇る景色が見られますように。▽ 2019.10.12
20191012(土)17:25体はマシュマロ、瞳はチョコレート。コーヒーカップの中で揺られて気持ちよさそうなシロクマだ。ああもう、かわいいなあ。湯気にあてられて目の奥が疼きだす。いや元からだったか。キミはいいよね。可愛いってだけで可愛がられるんだもんな。ぐるぐる。スプーンでかき回すとクマは潜水していった。▽ 2019.07.27
20190728(日)00:25あの頃の私は私でない。だが、元級友らにとってはあの化け物が私なのだ。酒を酌み交わし昔話に花を咲かす宴。私は急拵えの笑みで会釈する。過日の思いは心の奥に、何重にも縛り上げ閉じ込めた。それは私が私であるために。私は声をかける。初めまして、と。訝しげな友。陰に潜む化け物は私を嘲った。▽ 2019.06.13
20190616(日)12:46背表紙を指で横になぞっていく。本棚には小説、漫画、辞書、料理本…はたまた哲学書。まるで私の変遷を映すようだ。年々色んなことに興味が湧いて。でも、昔から好きなものはずっと好きなままで。あ、そうか、変遷というよりは蓄積なのかも。楽しいことが沢山詰まった本棚。今日は何を読もうかな。