ネオン色の恋
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息苦しさを感じて目を覚ませば、自分の家だった。
どうやって帰ってきたっけ、と昨日の出来事を思い出そうと思考を巡らせる。というか、今日仕事は……?と、ようやく覚醒した頭。急いで壁にかかっている時計に目をやれば、いつもの起床時間より少し早い時間帯だった。
習慣というか自分の体内時計に感心と感謝をしながら、シャワー浴びなきゃと、体を起こそうとすれば、重みを感じて自分のお腹辺りへと視線を移す。
「は……」
視界に映ったのは大きな手。え、なんだこれ。恐る恐る、首を後ろに回す。
「あ、起きてる。おはよ」
「なっ!?!?」
朝の早い時間にも関わらず、私のお腹に腕を回した人物はしっかりと起きていて。あの人懐っこい笑みを浮かべ、あろうことか挨拶までしてきた。
「なっ、なんで、悠仁さんがここに……!?」
「なんでって。なに?昨日のこと忘れたん?」
ひどくない?なんて言いながらも、何が楽しいのか笑みを絶やさない悠仁さん。
待って。昨日のことってどういう意味。頭をフル回転させ、昨晩のことを思い出す。そうだ、昨日、またべろべろに酔っ払って。悠仁さんが、大丈夫かって私に聞いてくれて、それで……それで、なんだっけ。え、だめだ。何も思い出させない。まって、これ、もしかして、"また"やらかした……?決して私は、そんな性に奔放な女では無い、はずだ。
まさかと、恐る恐る布団を捲って確認すれば、しっかりと服は着ていて、ほっと胸を撫で下ろす。ちなみに昨日の服のままだ。
そんな風に慌てふためく私を見てか、ぶはっ、と吹き出したのは、悠仁さん。
「安心して。今回はヤってない」
「え?」
「ただ一緒に寝てただけだから。タクシー乗せてバイバイするつもりだったんだけどさあ、もう1人じゃ歩けそうになかったし、運転手も男で心配だったから、家まで一緒に行ったんよ」
私の手を取り、にぎにぎと触れながら、丁寧にこの経緯について話をしてくれる悠仁さん。手を離して欲しいところではあるけど、彼の話の方が気になってそれどころではない。
というか、そんな酔っ払いながらも、ちゃんと自分の住所を伝えることの出来た自分、すごいな……なんて他人事のように感心してしまう。
「俺は帰るつもりだったんよ?そしたら、名前ちゃん家着いたら速攻寝るし。鍵開けっぱで帰るわけにも行かんし、かと言って女の子の鞄漁って鍵勝手に取れんから」
勝手に人のスマホに連絡登録した人間のいう言葉か、とツッコミたくなったが、なんとか堪えた。彼の倫理観がよく分からない。何にしろ、今回はかなり迷惑を掛けてしまったらしい。
「ご迷惑おかけしてすみません」
「いいって。名前ちゃんと飲むの楽しかったし!まあ、あんま知らん人と飲むのは勧めないけど」
すっと目を細めて私をじっと射抜くように見つめる悠仁さん。さっきまでの明るかった雰囲気はなりを潜めていて、なんなら温度がぐっと下がったような気がする。どくん、どくん、と早鐘を鳴らしながら、「ど、どうして……?」とか細い声で聞き返せば、少しの間を置いて悠仁さんは口を開いた。
「俺が心配になるから」
「え、」
「名前ちゃんあんま酒の席知らんでしょ?無防備で心配になんの」
ゆっくりと伸びてくる悠仁さんの綺麗な指が、するり、と私の頬を撫で上げる。不思議とそれに不快感はなくて、されるがままに体を固まらせて、彼を見つめることしか出来ない。
そうしていれば、ふにゃり、となんだか幸せそうに笑った悠仁さんと、離れていく指。
「用意、しないん?今日も仕事でしょ?」
「あ!そうだ……!!用意しなきゃ!あ、悠仁さん、シャワー浴びます?」
「んー、家で浴びるから大丈夫。ほら、早く用意しといで」
彼の返事を聞いて、ベッドから出て浴室に向かおうとすれば、「あと男にあんまそういうこと言わん方がいあよ」と忠告を背中で受けた。
それから用意をなんとか済ませ、いつもの出社時間になり、悠仁さんと並んで家を出る。彼はタクシーを呼んでいるらしい。
そこで、はっと大事なことを思い出す。
「あ、お金……!」
そう。私の記憶が正しければ、彼にまだお金を返していない。鞄の中を確認すれば、お金を入れた封筒がやっぱりそこにある。
「あ、ちゃんと覚えてたんだ」
「当たり前です!あの、これ」
悠仁さんに差し出した封筒。中にはあの時の1万円札。彼の手がその封筒を受け取るのを視界が捉えて、ほっと息をつけば、「あのさ、」と彼にしては珍しく少し上擦った声が聞こえた。
「これ、受け取るからまた飯行ったり、遊びに行かん?」
「え?」
「俺は名前ちゃんと飲んだり喋ったりすんの楽しかったから。また、会いたい」
いつかのように、するりと、手の甲を彼の指が撫ぜたのを感じる。そのまま優しく彼の大きな手に包み込まれる私の手。言葉を発することが出来なくて、無言のまま顔を上げれば、全てを溶かしてしまいそうな熱い目を持った彼と目が合う。
何故だか分からないけど、目を逸らすことが出来なくて、じっと丸くて綺麗な彼の目をずっと見ていた。
「……ちゃんと、俺のこと見てくれると、嬉しい」
「えっ、」
「ホストの俺じゃなくて、さ……普通の、虎杖悠仁としての俺と接して欲しいんだけど……だめ?」
眉を下げ、彼らしくない頼りなさげな声だった。
彼に対しては普段、飄々としてるとか、あざといとか、そういう印象しかないけど、今回はそう感じることが出来なくて。それよりも、捨てられた子犬みたいな……なぜか、そんな風にみえた。
そんな彼を見ていると、首を縦に振るしか無かった。
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2024.03.25
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