ネオン色の恋
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「連絡してーって言ったのに、一言も連絡ないのは流石に冷たすぎない?」
「……」
「無言やめよ?!」
耳に当てた四角い端末からは、楽しそうに笑う男性の声が響いていて、頭が痛くなった。
彼の家から自宅へと帰って、体力的な疲労なのかまたは、精神的疲労なのか、とにかくどっと疲れが押し寄せた。シャワーを浴び、さっさとベッドに潜って再び眠りについたのが、多分お昼前。
そうして目が覚めたのが、夕方くらい。鞄の中で鳴る大きな着信音に叩き起された。電話だ、と覚醒しきってない頭で通話マークをタップし、「あ、繋がった!」とあの声が聞こえて寝惚けた頭は、すぐに覚醒した。
「もしかして、帰ってすぐ寝た?」
「はい、今起きました……」
「寝起きの声も可愛い。やっぱ俺ん家で寝てた方が良かったんじゃん」
可愛い、なんて簡単に言うものだから、うぐ、なんて可愛げのない声が漏れる。彼の言葉は、真に受けない方がいいって分かってるのに、反応してしまうのが悔しい。
彼が話す声の後ろから少し騒がしい音が聞こえて、「あの、」と声を掛ける。
「うん?どしたん?」
「今、忙しいんじゃ……?」
「あー、うるさい?今、店なんだよね。これからちょっと出るけど、待ってらんないから電話掛けてみた」
へへ、と楽しそうに笑う彼に、また息を飲む。私の連絡を待ってた、というのか。やっぱり、この人の考えてることは分からない。店には呼ばない、とはっきり言ったあの言葉も、彼の思惑はなんなんだろう。そこまで思考を巡らせ、そうだ、と自分が彼に伝えようとしたことを思い出し口を開く。
「あの、お金、返したいんで口座教えてください」
「お金?なんの?」
「今日運転手さんに渡してた1万円です」
彼の家の前で乗り込んだタクシーの運転手さんに、彼が渡した1万円は使わなかった。払ってもらう理由がそもそもないし、貸しを作るみたいでそれも嫌で。とにかく、その1万円を早く返してこれっきりにして欲しい。その気持ちでいっぱいだった。
彼の返答を待ってれば、「え、なんで」なんて、少し戸惑ったような声が私の鼓膜を揺らす。
「使わなかったん?」
「はい」
「はー……ほんっと、思い通りにさせてくんないよなあ」
「え?あの、口座、メッセージでも良いんで送ってください」
「やだ」
「はい?」
「あれあげたつもりだったし」
「もらえませんよ!?本当にお返ししたいので、口座教えてください」
「俺、口座とかないしなあ」
嘘つけ、と出そうになった言葉を寸のところで止める。危ない。本当にこの人と喋ってると、普段出ない素が出そうになる。
口座はどうしても教えたくないのか、それともお金を受け取る気がないのか。しかしこちらとしても、このお金を受け取って貰わなきゃ困るわけで。どうしたものか、と思考を働かせ、あ、と1つ閃く。
「なら、お店の方に行けば受け取って頂けますか?」
「それは絶対無理」
さっきまでの楽しそうだった声はどこへ行ったのか、低い声でばさりと言い放つ悠仁さん。その低い声に、どくり、と心臓が反応した。
「店は呼ばんって言ったじゃん」
「いや、入らないですよ。お金さえ受け取ってくれれば……」
「名前ちゃんにはもう、歌舞伎来て欲しくないって。無防備すぎて心配なるんだけど」
「……どういう意味ですか、それ」
む、として答えるも、彼はそこまで気にしてないようで、それにまた少し腹が立つ。彼に出会ってからずっと心を乱されているのが、釈然としない。
もやもやとした心を抱えながらも、次の案に思考を移していれば、「あ、そうだ」と悠仁さんの声がまた聞こえた。
「また会えばいーじゃん」
「はい?」
「会って直接渡してくれたらいいじゃん。名前ちゃんとならいつでも時間作るし!」
「なんでそうなるんですか……!?」
「名前ちゃんはお金、俺に返したいんよね?もう会うしかなくない?」
それを言われてしまえば、私が反論できるはずもなく、うぅ、と苦しい声しか出ない。それを聞いてか、悠仁さんは楽しそうに笑って「どーすんの?」と続きを促す。
仕方ない。彼が言うように、お金は絶対返したいし、この1回きりにする。1回だけ。もうこれで会わない。そうすれば、元の私に戻れる。そう自分に言い聞かすようにして、「……分かりました」と小さく返事を返した。
「おっけー。んじゃ、空いてる日送っといて。次はちゃんと連絡してな?」
「……はい」
「じゃあ、また」
ぷつり、と切れた通話にほっと胸を撫で下ろした。
一夜の過ちがこんなことになるなんて、誰が想像しただろう。ちなみに、私はできなかった。過去に戻ってやり直したい。本当に、やり直したい。と、しても仕方ない後悔が頭の中に埋め尽くされる。
「はあ……明日の仕事の用意しなきゃ」
どんなに考えても過去に戻ることは出来ない。だからもう諦めよう。この1万円を返せば良いだけなんだから。そう何とか心に踏ん切りをつけ、悠仁さんに空いてる日にちを送り付け、明日の仕事の用意を済ませた。
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2024.03.11