ネオン色の恋
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眠らない街、歌舞伎町。新宿へは何度か来たことはあったけど、この夜の街へ足を踏み入れたのは、初めて。
友達と新宿の大衆居酒屋でご飯と少しのお酒を味わい、この後どうする?なんて話をしていれば、「もう1件だけ飲みに行こ!」と引っ張られるまま連れてこられたのは、ホストクラブ。
絶対に自分からは足を踏み入れたりしない場所に、ドキドキとした緊張と少しの恐怖がいりまじって胸がぞわぞわとする。
「っらしゃいませー!!」
ギラギラとした店内に響く元気な声に圧倒されながら、案内された席へ腰を降ろせば、余計に緊張が増したし、ほろ酔よいだったはずなのに、その酔いすら覚めてしまった気がする。
暗い店内とギラギラと光る照明に、大音量のBGM、着飾った普段出会うことの無い男の人達。この空間を作り上げる全ての物が、自分を場違いだと言っているような気がして、居心地が悪い。
何人かのホストさんが、私たちの席に着いて沢山話をしてくれたけど、圧倒されっぱなしで内容は何一つ頭に残っていない。楽しくない、帰りたい、と下がる気分と比例するように顔も俯いていく。
「お隣失礼しま〜す!」
低くも高くもない。でも良く通る、そんな声が聞こえかと思えば、すぐ隣に誰かが腰をおろしたのを感じる。俯かせていた顔を上げれば、ピンクの髪を持った男の人。
「初めまして、ユウジです」
「は、はじめまして……」
「おねーさん、ホスト初めて?めっちゃきんちょーしてんね」
差し出された金色の名刺を受け取れば、目の前にいるお兄さんの写真と"ユウジ"と名前が書かれていた。なんか、ホストってもっと派手な名前のイメージなのに、と彼の顔を見れば、優しく笑った彼と目が合う。
すり、と綺麗な指先で私の手の甲を撫でる彼。生まれて初めてされたことに、反応することが出来ずに固まっていれば、ユウジさんは、ぽかん、とした顔で私を見つめてすぐに、んはっ、と楽しそうに笑った。
笑われたことへの恥ずかしさと、彼の慣れた感じにさすがホストだな……なんてちょっと引いてしまう。
「……あんま楽しくない?」
「え、」
「ずっとおねーさんのこと見てたら、そーいう顔に見えた。違った?」
「えっ、と……」
「すみません、ユウジさんちょっと」
楽しくないです、なんて馬鹿正直に答える勇気を持ち合わせてるわけもなく、何と答えよう、と思考を渦巻かせていれば、黒いスーツを見に纏った男性がやって来て、ユウジさんに何か耳打ちをする。はぁ、と深い溜息を吐いた後に「あー、うん。分かった、行くよ」とユウジさんは冷たく低い声で言い放ち、片手を挙げる。
さっきとは別人みたい、なんて思っていれば、くるり、とまたこちらに向き直ったユウジさんは、さっきの冷たい表情の人とは別人のような人懐っこい笑みを浮かべた。
「ごめん!俺ちょっと行かんとだめになった。すぐ戻ってくるから!」
ぱん、と手を合わせて謝るあざとい仕草でさえ、この人がするとすごく様になって全然いやらしさを感じない。
「あ、そーだ。おねーさん、名前なんて言うん?」
「名前……」
「ん、名前ちゃん。すぐ戻って来るから絶対また話そう!」
人懐っこい笑みを浮かべそう言ったユウジさんは、優しい手つきで私の頭を撫でてどこかへと行ってしまった。
さすがホスト……全部が自然。こういう世界のことはよく分からないけど、きっとすっごく人気の人なんだろうなあ、と彼の背中を見送れば、ユウジさんと変わるように別のホストがやってきた。
その後、ユウジさんが私たちの席に戻ってくることも、そして私たちが延長をすることもなく、お会計をして店を後にした。
「うーん、どうしよう……」
あの後、友達とはすぐに別れ、時間を確認すれば、終電はとっくの前に出ている。やらかしたなあ、と財布を確認するもタクシーで帰るのは厳しそうだ。ネカフェで始発を待つしかないだろう、と足を進めようとすれば、ぽん、と肩を叩かれる。
「やっぱり名前ちゃん!」
「え、ユウジさん……?」
「お、ちゃんと覚えてくれてたん?」
よかったぁ、と笑顔を浮かべるのはさっきのホストクラブに居たユウジさん。
「こんな時間に何してんの?歌舞伎に女の子1人じゃ危ねーよ」
「あー……、終電、逃しちゃって。今からネカフェ行くんで大丈夫です」
「え!?それ全然大丈夫じゃないかんね!?だめだめ、女の子1人でネカフェとか危険すぎ!」
え。そうなの?歌舞伎町ってそんな危ないのか、やっぱり無理してでもタクシー捕まえるしか、と思考を巡らせていれば、「知らんかったん?」と首を傾けるユウジさん。やっぱりあざとい。
「……ふぅん。もしかして、あんま遊び慣れてない?」
「……まあ、歌舞伎町はじめてなんで」
こんなにキラキラした人種のユウジさんからしたら、私みたいな女は芋臭くてダサく映るんだろうな。そう思うと、やっぱり居心地が悪くて。顔を俯かせれば、大きな手が私の手首を掴んだ。
「えっ、」
「じゃあさ、始発まで俺と飲まん?」
「え、いや……」
「さっき戻る〜って言ったのに俺戻れんかったから、奢るよ!」
さすがにそれは、と断ろうとすれば、まるでそれを遮るかのように、「んじゃ、着いてきて!」と、いつの間にか指を絡め取られ彼に引っ張られるまま歩くしか無くなって。
どんどん駅から離れていくけど、どこに行くんだろうと一抹の不安を感じていれば、真っ白な高いマンションの前でぴたり、と立ち止まるユウジさん。
「俺の家で飲むでもいい?」
「は!?なんっ、」
なんで、と言葉を口にする前にまた彼に手を引かれ、目の前のマンションへと飲み込まれていく。
知らない人の家なんてだめでしょ、それも男の人なんて、とそう頭の中で声がしてる気がする。それでも、いざこういう場面になればどう抵抗すればいいか分からなくて、彼の部屋へと引き込まれていく。
「ほら、入って入って」
そう楽しそうに口にしたユウジさんは靴を脱ぎ捨てて、部屋の奥へと進んでいく。
意外にも、物は少なくてきちんと整理がされた部屋。テレビボードの脇に飾られている写真は、彼が務めるホストクラブのメンバーなのだろうか。ぼんやりとその写真を眺めていれば、「なんか気になるもんあった?」と缶ビールを両手に持ったユウジさんが、いつの間にか背後にいた。
「あ、ごめんなさい、勝手に」
「別にいーよ?その写真、俺のお気に入り。同期と先輩とのやつ」
写真の中のユウジさんは嬉しそうに笑っていて。背景は多分、シャンパンタワーというやつなんだろう。
勝手なイメージだけど、夜の世界の人間関係ってもっと希薄なものだと思ってたから、それがすごく意外で。
「そんなとこで立ってないで、座ってよ。ほら、ここおいで」
ソファに腰掛けたユウジさんが、ぽんぽん、と隣を叩く。言われるがまま腰を降ろせば、ユウジさんは自然に距離を詰めて座り直す。
「ビール飲める?チューハイなくてさ」
「あー……ビール飲めるんで、大丈夫です」
ビールはすぐ酔ってしまうからあまり得意ではないけど、既に開けられたプルタブを視界が捉えて、断るのが申し訳なくてそう答えていた。
乾杯、と缶同士を当ててちびちびと飲み進める。
さすがホストと言ったところか、ユウジさんは会話をするのが本当に上手だった。彼の話を聞くのは楽しくて、さっきのホストクラブでの他の男性とは全く違う、なんて思いながら飲んでいれば、酔いはすぐに回ってしまう。
今、何時くらいなんだろう、とスマホを取り出そうとすれば、私の肩にユウジさんの手が乗って、反応をする前にどさ、と身体が傾いてソファの上に押し倒されていた。
「!ゆ、うじさ……」
「危機感なさすぎん?」
そう呟いたユウジさんはいつの間にか、私の上に跨っている。手首は大きい彼の手にしっかりと掴まれていた。
「名前ちゃんさ、知らん人に着いてっちゃいけませんって言葉知らんの?」
「え、あの、ユウジさんっ……」
「まじ可愛いね」
どろりと甘い声で小さくユウジさんがそう呟いたかと思えば、唇に熱くて柔らかい感触がした。抵抗しようとしてもびくともしなくて、長くて濃厚なキスに脳に酸素が回ってこない。逃げようにも、アルコールに侵された身体が思うように動いてくれなくて。私の口内を舌で犯し尽くしたユウジさんは、ちゅうっ、と官能的な音を鳴らした後にゆっくりと顔を離した。
「……その顔も、すっげーいい」
今日見た人懐っこい笑顔はそこにはなくて、妖艶に笑ったユウジさんは私の耳元へ唇を寄せる。
「だめじゃん。男にはもっと危機感持たんと」
ぎらり、とユウジさんの目の奥が光った気がした。
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