宮城
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リョータくん、今日は様子がなんかおかしい。
私の隣を歩く彼を見て、ふとそう思った。
私たちにとって土曜日はとても貴重な日だ。平日を乗り切った私たちがようやく会える日だから。
平日は、大学に通ってバイトをこなす私と、高校に通って部活を頑張ってるリョータくん。土曜日の夕方、彼の部活終わりに少しでもいいから会おうねって、付き合い始めてすぐの頃に決めた約束で、それが破られることはなく、変わらず今も続いていた。
私にとって、年下の彼氏はリョータくんが初めてだから、彼のことをかっこいいよりも、可愛いと思うことの方が多い。
勿論、全くかっこよくないわけじゃない。
彼のバスケの試合を何度か観に行ったけど、ボールを捌く姿も、色んな選手の間を縫うようにして駆け抜ける姿も、本当にかっこよかった。 それに、彼の容姿だってかっこいいの部類に入ると思う。それでも、彼に対してはどうしても、かっこいいより、可愛いが上回ってしまう。
今日はいつもより長い時間一緒に居れるから、リョータくんに美味しいものを作ってあげるんだ、と食材は昨日のうちに買い揃えたから、準備はバッチリだし、部屋の掃除も完璧だ。あとは、彼と私の家に向かうだけ、なんだけれど。
冒頭に感じたように、リョータくんの様子がなんだか変なのだ。
きょろきょろ辺りを見回すような素振りを見せたかと思えば、こちらをじっと見て目をそらす。とにかく、いつも以上に落ち着きがない、気がする。
なんなんだろう、今日の私の服装、変だったかな。そう思って窓ガラスに映る自分の姿に視線を向けてみる。うん、別に変ではないと思う。お気に入りのワンピースだし、靴だって服に合ってるはずだ。
挙動不審なリョータくんを観察していれば、あ、とひとつの答えが脳内に浮かぶ。もしかしたら、私と歩いてるところ見られたくない、とか。
「ね、リョータくん。離れて歩く方がいい?」
「は!?な、なんでそんなこと言うの!?」
ばっと勢いよくこちらに顔を向けたリョータくんは、焦りと驚きで染め上げられていた。
「ずっときょろきょろしてるよ。誰かに見られたくないのかなあって」
「ない!それは絶対ないから!!」
「じゃあ、なんで今日はそんな挙動不審なの?」
「きょ、挙動不審!?ちが、いや、その……」
「も〜、なに?あっ、なんかやましい事でもあるんでしょ」
歯切れ悪く答えたリョータくんを少し茶化すような口振りで笑えば、首が取れてしまうんじゃないかってくらいの勢いで横に振る彼。
「ねえって!絶対ない!!まじでないから!!」
「そんなに否定されると逆に怪しいんだけど……」
「いや、だから違うって!お願い信じて!」
「じゃあ理由言って」
「だから……それは、」
そこまで言って、ぴたりと会話が止まってしまった。え、まさか本当にやましい事でもあるの?なんて考えが浮かんで、体の温度が下がっていくのを感じる。まさか、違うよね。と、嫌な想像をしそうになる思考をなんとか止めようとすれば、「名前ちゃん!」と、リョータくんに呼ばれ、下げかけた顔を上げる。
「言う!言うから!お願い泣かないで!」
「え、泣いてないけど」
「ううん、名前ちゃん、泣きそうな顔してた……」
そう言ったリョータくんは、へにょと眉をこれでもかという程に下げていて。彼の方がずっと泣きそうな顔をしていると思う。というか、そんなに私の顔、泣きそうだったんだろうか。
そう思考を巡らせていれば、「お、俺は……!!」と、彼の手が私の手をぎゅっと掴んだ。
「手、繋がないの、かなって……!いっつもすぐ繋ぐのに、今日は、ぜんぜんっ……」
顔を真っ赤にしたリョータくんは、声をだんだんと小さくさせる。そんな彼をぽかん、と目を丸くして見つめる私。
てっきり、彼は手を繋ぐのが好きじゃないんだと思っていた。
1度だって嫌だと言われたことはないけど、手を繋ぐとリョータくんは、毎回肩を跳ね上がらせるものだから、手を繋ぐの嫌なんだと思っていた。手を繋げないのはちょっと寂しいけど、彼の嫌がることはしたくないから、今日は意識的に手を繋がないようにしていた。
「リョータくん、手繋ぐの嫌なんだと思ってた」
「は?!」
ちょっと意地悪だけど、わざとそう聞いてみる。すぐに言ってくなかったし、多少なりともちょっと不安になったから、仕返しだ。
そうするとリョータくんは、さっきよりも私の手を握る力を強め、「嫌なわけないじゃん……きんちょーすんの……」と、普段の彼とは似ても似つかない小さな声を出した。待って、可愛い。
私は、顔を真っ赤にしてる可愛い彼氏を前にして、上がっていく口角を抑えれるほど大人な彼女でもない。
「手繋ぐのは、好き?」
「う、うん……すき、に決まってんじゃん」
「ふふ、そっか。よかったあ。じゃあこれからも今まで通り、手繋ごうね」
「う……慣れるまで待ってもらえたり……」
「慣れるために繋ぐの!」
ぎゅっと彼の手を握り返せば、「荒治療じゃん……」なんて声が聞こえて、笑みがこぼれた。
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2024.03.12
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