宮城
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「お、俺とっ!付き合ってほしい、です」
仕事終わり。飲みに行こうと誘われ飲んだ帰り道。片思いをしていた同期の宮城くんが、頬を赤く染めあげ真っ直ぐに私を見つめながら言ってきた。
同期入社の宮城くんは、いつも私の隣に居てくれた。
要領が悪く仕事の覚えも遅い私と違い宮城くんは、何でも出来てみんなからも信頼されてて、それでいてかっこいい。みんなの憧れの的。
そんな宮城くんは、いつも私を助けてくれた。私がミスをすればサポートしてくれて、いつだって「大丈夫だよ」と優しく笑いながら励ましてくれた。
そんな彼に、私が恋をするのは時間がかからなかった。ずっと好きだった。
それでも、仕事も出来なければ他の子達みたいに愛嬌があるわけでも可愛いわけでもない私が彼にアタックする勇気なんて持ち合わせるはずもなくて。ましてや、告白なんてできるわけが無い。この恋は私の片想いで終わる。そう思っていた。
そんな彼からの突然の告白。
そんなわけない。なにか夢を見てるのか、はたまたからかわれてるので。なんて考えて宮城くんを見れば、熱を含む真剣な彼の瞳に射抜かれて、私は小さく「はい……」と答えていた。
「まじで!?やった……!!俺、一生大事にするから!」とガッツポーズをして嬉しそうに笑う宮城くんを見て、自然と私も笑みを零していた。
宮城くんと恋人になって数ヶ月。
恋人になってからの彼は、今までの何倍もやさして甘い恋人モードになっていて。そんな宮城くんに私はいつだってドキドキさせられていた。
自分に対しての自信なんて生まれてきて1度も持ったことない私に彼は何度も「名前ちゃんはもっと自分に自信もっていいのに」と優しく頭を撫でてくれた。
そう言ってくれても、そんな簡単にはいかなくて。いつも、こんな私なんかが完璧な彼の隣に居ていいのかと悩んだ。
1度だけ宮城くんに、「私なんかと付き合ってて恥ずかしくない……?」と聞いたことがある。
それを聞いた宮城くんは、眉を寄せ険しい顔をして、「それ、二度と言わないで」と今まで聞いたことないくらいの低い声で言った。
え、これ地雷なんだ。と、さすがの私でも気付いて、それから宮城くんには言わないように心掛けたけど、心の不安は拭えないままだった。
そんな私の不安を煽るかのように開かれたのは、会社の部署の飲み会。
「宮城さんって本当かっこいいです」
「え。そんなことないでしょ〜」
「ありますよ!絶対モテますよね?」
「俺が?ないない!全然モテなかった」
私と離れた席で、あはは、と笑う宮城くんと同僚の女性。
宮城くんの隣にいるあの子、社内でも美人って有名な子だ。いつもおしゃれでスタイルも良くて可愛くて。女の私から見ても魅力的ですごく綺麗。
2人を見ていると、胸の当たりがもやもやと嫌な気持ちに支配されて、お酒もご飯も味がしない。
すごく、嫌だ。帰りたい。
小さく誰にも聞こえないくらいの溜息をひとつ零したけど、気持ちが楽になることはなかった。
「宮城さんって彼女居るんですか?」
「えっ、」
期待した目で宮城くんを見つめながら、そう質問したあの子。
宮城くんと付き合ってることは内緒だ。
私が宮城くんに何度も何度も「内緒にしてほしい」と頼み込んで、最終的に宮城くんが折れてくれた。
だって、仕方ないじゃん。私なんかと付き合ってるってまわりに知られたら、宮城くんが笑われてしまうかも。まわりになんて思われるんだろう。そんなことばかり考えていると、どうしても内緒にして欲しかった。
だから、宮城くんの返事は決まっている。
「……あー、いないんすよねえ」
……そう、答えるよね。
「そうなんですか?」と嬉しそうなあの子の声を耳が拾う。
私が、そうしてくれって頼んだし、望んだ。なのに、どうしてこんなにも胸が苦しくて泣きたくなるんだろう。
彼女はいます、って言ってもらえなかった。名前は出さなくても恋人はいるって言ってくれると期待してた、なんて。どこまで自分勝手なんだ、と自分で自分に吐き気がした。
それからはもうあの二人を視界に入れる余裕なんてなくて、俯いてこの時間をやり過ごした。
飲み会が終わり、周りの人に挨拶をしてからすぐにその場を離れる。
ぽつん、と1人で歩く夜道が酷く寂しい。
宮城くんに、「帰り2人で帰ろーよ」と言ってもらえてたのに先に帰っちゃった。いや、もしかしたらあの子と盛り上がって、そんなこと忘れてしまってるかも。そんなことを考えて、目頭に熱が帯びるのを感じていれば、ばたばたと地を蹴る足音が響く。
その音に驚いて振り返れば、強い力で腕を捕まれて反射的に顔を上げれば。
「っ、何先に帰ってんの」
「み、やぎくん……」
「こんな暗い道1人で歩くとか、正気?俺、一緒に帰ろうなって名前ちゃんに言ったと思うんだけど」
険しい顔をする宮城くん。あ、これ怒ってる顔だ。
はぁ、と息を切らせる宮城くんの額にはうっすらと汗が滲んでいて、走って追いかけてくれたのかも、なんて少し心が跳ねた時にさっきの飲み会の光景を思い出して俯く。
「なんでなんも言ってくんないの?言ってくんなきゃなんもわかんねーって」
まるで諭すような口調にきゅっ、と唇を噛み締める。
「俺が、彼女いないって言ったの聞いてた?」
顔を上げれば、感情の読めない目で宮城くんが私を見下ろしていた。
なんて答えたら良いのかが、分からない。だって、そうしてと頼んだのは他でもない私だ。
何度も宮城くんは「やだ、なんで?」と言った。そんな彼にしつこく何度も何度も頼んで、「名前ちゃんがそうしたいなら、もうそれでいいんじゃない」と最後に呆れたように言われた。
私がそうして欲しかったって言ったんでしょ。こんな気持ち今更、言えるわけない。
「……名前ちゃんがそうしろって言ったんだろ」
宮城くんの吐き捨てるような声に、冷水を浴びせられたように全身が冷えていくような感覚に襲われる。心臓がぐっと握られたように、苦しい。
宮城くんが言ってることは何も間違っていない。
彼は何一つ悪くない。わかっているのに、どうしてこんなにも悲しくて苦しいんだろう。自分勝手な自分に吐き気すら覚える。
「そういう態度取るんだったら、俺も好きにさせてもらうから」
その言葉に、どくん、と体の血が逆流していくような苦しさに襲われた。
別れを意味してる言葉に聞こえた。彼に見捨てられたような気持ちになった。やだ、別れたくない、と思うのに唇からその言葉を出すことが出来ない。
宮城くんが何かを言おうと唇を開きかけた瞬間、掴まれていた腕を思いっきり振り払って走って家まで逃げた。
結局、どこまでいっても私はずるい。
言いたいことを言わないくせに、逃げるしか出来なくて。こんな自分勝手な女、嫌われても仕方がない。やっぱり宮城くんと私は釣り合わない。
そう思うし分かっているのに、別れるのはどうしても嫌で。大好きな宮城くんとずっと一緒に居たい。彼に愛されていたい。
そんなぐちゃぐちゃな思いと一緒に流れていってくれればいいのに、と涙を流しながらその日は眠りについた。
翌朝。腫れた瞼を冷やしてなんとか化粧で誤魔化し出社すれば、宮城くんは既にデスクに居た。
彼と目が合ったような気がしたけど、逃げるように目を逸らして仕事に取り掛かった。
どうしよう、いつ別れを告げられるのか、とそのことしかもう頭になくて。私の気持ちは昨日から変わらず、ぐちゃぐちゃなままだった。
「名前ちゃん」
会社で、自分の下の名前なんて今まで一度も呼ばれたこと無かった。みんな私を名字で呼ぶ。
聞き慣れた声と呼ばれた私の名前。そんなわけない、と思いながらも恐る恐る顔をあげる。
「み、宮城くん……?」
宮城くんが目の前に居る。
昨日のような怒った顔じゃなくて、ふわりと優しく笑う私の大好きな表情だ。
突然のことに呆然と彼を見つめることしか出来ない私。周りもこの状況に少しざわつき出す。
「今日、昼持ってきた?」
「え?」
「持ってきてないなら、一緒に食べに行こーよ」
「な、えっ、?」
1文字しか声を発せない私をよそに、ほら、と指を絡め取られて。未だに思考は追いつかないまま。
「あ、今日俺ん家久々に来て欲しいんだけど、だめ?名前ちゃんの作る料理、久々食いてーなあって」
宮城くんの爆弾発言に、オフィス内のざわつきがより一層、大きくなるのを感じる。
手を引かれ立たされるが、驚きが大きすぎて何も言えないし何も出来ずされるがまま。私は未だに呆然と、宮城くんを見つめていた。
そんな私を見て何が楽しいのか、宮城くんはただ楽しそうに笑っている。
「あのっ……!おふたりってどういう関係なんですかっ……?!」
そんな声が聞こえて視線を移せば、昨日宮城くんとずっと喋ってたあの子で。思わず、俯いて強く目を瞑ると、大きな手で優しく肩を抱かれた。
「恋人です」
甘く優しい声色でそう答えた宮城くんは、また私の手を引いて廊下へと足を進めた。
私たちのことを話しているであろう騒がしい声を背中で感じながらも、私の手を引いて廊下を進んでいく宮城くんにただ着いて行くことしか出来ない。一体何が起こったのか、脳の処理が追いつかない。
「あ、あのっ、宮城くんっ……」
考えも纏まらないまま彼を呼べば、足を止めてくれゆっくりとこちらに振り返る。
「どうかした?」
「いまのっ……!」
「俺、言ったじゃん。俺も好きにするって」
確かに、彼は昨晩そう言った。
言っていたけど、こんなことになるなんて一体誰が予想できるというのだろうか。
視線をさ迷わせて困惑していれば、優しく目尻を撫でられた。
「目ぇ、ちょっと赤い」
「あ、これは、」
「昨日泣いてた?」
「……うん、」
「そっか……。俺のせい、だよな。ほんっと、ごめん」
「ちが、そんな、」
「でも、さっきやっと言えたからすっげえスッキリした!」
切なそうな顔で私の目尻を撫でたかと思えば、ご機嫌そうに笑う宮城くんに、え、と声が漏れる。
「な、なんで……?別れるんじゃ……?」
「は?」
さっきまでご機嫌だったはずの宮城くんはどこへやら。不機嫌な表情と低い声。心なしか、私の手を握っている力が少し強くなったような気がする。
「何?名前ちゃん、別れたいの?」
「や、やだ!」
思わず大きい声で反射的にそう返していた。別れたくない、そんなのやだ。そう思うと、昨日あんなにも泣いたはずなのに、また目の前かゆらゆらと滲んでいく。
滲んだ視界の先で、ふ、と満足そうに笑う宮城くんが見えた。
「俺も別れたくねーもん。てか、別れるつもりないし今更離してやれないよ?」
「えっ?」
「俺が名前ちゃん手に入れんのにどんだけ努力したと思ってんの?」
「え、どういう……?」
どういう意味なんだろう、と目を丸くする。努力……?彼が……?もしかして、私は、私が思っているよりも、彼に愛してもらっているのでは……
「てか!んなことよりさあ、俺のこといい加減名前で呼んでよ。俺、名前ちゃんにリョータくんって呼ばれたいな〜」
「えっ、と……?」
「ほーら、リョータくんって呼んで?」
「リョ、リョータ、くん……?」
恐る恐る彼の名前を口にすれば、すごく嬉しそうに笑う彼。
「へへっ、かわい。んじゃ、ランチいこー!」
「っ、!?」
そう楽しそうに言ったリョータくんは私の唇に可愛いリップ音を鳴らして、歩き出した。
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