水戸
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「いつも送って貰ってごめんね」
「いいって。女の子一人で帰す方が心配だから」
私の隣を歩く水戸くんを見上げて謝れば、気にするな、と歯を見せて笑ってくれた。
今日は湘北バスケ部の試合だった。
ちなみに、私はバスケ部に知り合いがいるわけでもバスケが好きなわけでもない。なんならバスケの事は未だによくわかっていない。
そんな私がバスケ部の試合に足繁く通うのは、赤髪で体の大きい男の子、桜木花道くんを見るためだ。
初めは、体も声は大きいし不良だし……と彼に少なからず恐怖心を持っていたけど、絡まれた所を桜木くんが助けてくれて見る目が変わった。
あの時から、桜木くんは怖い不良の人というイメージから私のヒーローになった。あの日から私は桜木くんに恋をしている。
桜木くんに恋をしてから、こっそりと練習を見に行ったりこうして試合も見に行っていればいつの間にか、桜木くんのお友達である水戸くんたちと仲良くなって一緒に試合を見に行く仲になった。
私の家はみんなと逆方向にあることを知った水戸くんが「夜道で女の子一人は危ねーだろ」と言ってくれて、家まで送り届けてくれるようになった。
水戸くんのことも不良の人って印象だったけど、こんなに気遣いができる優しい人だったのかと、見た目で人を判断したことをすごく反省した。
「今日も桜木くん凄かったね」
「おー、絶好調だったな」
今日もすごく、かっこよかった。
リバウンドをばんばん取って、いつものように流川くんと何か言い合いをしてたけど、桜木くんがシュートも決めてた。
自信満々な彼がやっぱりかっこよくて、ずっとドキドキしながら彼だけを見続けた。
そうして、今日の試合を思い返す。
シュートを決めた桜木くんがばっとこっちに振り返って、すっごく嬉しそうな顔をしてて。一瞬、目が合った気がした。それだけで胸が甘く高鳴る。
けど、それは気がしただけだとすぐに浮き上がった気持ちはすぐに底へと落とされる。
「晴子さーん!!見ててくれましたか!この桜木花道のシュート!!!」
分かってた。彼を好きになって直ぐの頃、彼があの赤木さんのことを好きだと知った。
彼の目には赤木さんしか映ってない。
きっと……いや、絶対に私を見てくれることなんて無い。
「名前ちゃんってさ、」
水戸くんに名前を呼ばれて思考を止める。
隣にいる彼へ顔を上げれば、感情が読めない表情でこちらを見ていた。
「水戸くん……?」
「辛くねえ?」
「えっ」
「花道見てて辛くねえのかなって」
眉を下げてそうぽつり、と零すように口にした水戸くんに心臓を掴まれたような衝撃に襲われた。
この気持ちを誰にも伝えたことはなかった。
「な、なんで、知って……」
「そりゃあ、あんだけ花道のことずっと見てたら気付くよ」
それもそうか。知り合いがいる訳でもないのに、ずっとバスケ部を見に行って。バレないわけが無い。
「さ、桜木くんはそれ知って……?」
「まさか。あいつは鈍感だからよ。勿論、俺も言わねえし」
それを聞いてほっと胸を撫で下ろす。桜木くんにバレてなかったなら、それだけで一安心だった。
「花道は……あれだろ、その、さ」
「……赤木さんが好きだから?」
「あー……うん、そう」
視線を彷徨わせながら言い淀む水戸くんに、言いたいことが分かって口にすれば居心地が悪そうに後頭部を掻く彼。そんな彼を見て、申し訳なく思いながらも、「全然いいんだ、」と小さな声で零した。
「えっ」
「見てるとやっぱり辛いなーって思うけど、私に入り込む隙もないし……それに、赤木さんのことが大好きな桜木くんも好きだから。それでいいの」
これは本心だった。
辛いし何度も何度も泣いたりしたけど、桜木くんの恋を邪魔しようとか、私を見て!とは思えなかった。
おかしいかもしれないけど、赤木さんのことを好きな桜木くんも私は大好きだった。
「……名前ちゃんって強いんだな」
「えっ?」
「ちょっと尊敬した。俺はまだそうなれねーから。ずっと嫉妬してる」
「嫉妬……?えっ?!!水戸くん好きな子いるの!?」
ははっ、と自嘲するように笑う水戸くん。
まさかあの水戸くんが、私と同じ状況とは思わず大きい声を出してしまう。
「私は望み0だけど水戸くんならきっと大丈夫だよ!」
「え、名前ちゃん何で、」
「だって!水戸くん優しいし意外と紳士的っていうか気遣いもできるし!それに」
「それに?」
「水戸くんかっこいい、か、ら……」
しまった。つい興奮して絶対に言わなくていい事言った。自分の言ったことを脳が処理し始めるとじわじわと顔の温度が上がっていくのを感じる。
「あ、えと、もうすぐ家着くから!今日はここまでで大丈夫!それじゃあっ……」
「待てよ」
もう逃げる事しか頭になくて走り出そうとすれば、大きくて男らしい手に強く手首を掴まれた。
「いい逃げはさすがにずるくねえか?んなこと言われるとさ、期待するし諦めれねえんだけど」
「えっ……水戸くん、それって、」
「あーあ。ちゃんと見守るつもりだったのにな」
名前ちゃん、と普段の水戸くんからは想像もつかないくらいの甘い声で名前を呼ばれ、返事もろくに出来ず固まっているとすっと伸びてくる水戸くんの手。その手は、私の輪郭をなぞって耳たぶをゆっくりと撫ぜた。
「ひゃっ、」
「俺さ、なんも思ってねえ女の子毎回送るほど優しい男でもないんだよな。家から逆方向だぜ?さすがに今回は別のやつが行けよってなるわ」
気遣いが出来て優しい人。水戸くんは優しいから私を送ってくれてる。そう信じて疑いもしなかったけどそれは……。
「俺だって、名前ちゃんが花道のこと好きならそれでいいって思ってたのにさ、そんなこと言われたら俺もう我慢すんのやめてえんだけど」
心臓が早鐘を鳴らす。心臓が耳元にあるんじゃないかってくらい、うるさい。目の前の水戸くんにもこの音が聞こえてしまうかも。
「ちょっとでいいから俺のことも見てくんね?絶対俺のこと好きにさせるから」
「み、水戸くんっ……」
「取り敢えず、今度2人で遊びに行きませんか?」
意地悪な顔をして笑う水戸くんに、今まで感じたことの無い胸の高鳴りが止まらない。桜木くんを見てた時よりもずっとずっと、心臓がうるさくて苦しい。
そんな今まで経験のない感情に困惑して。気付けば彼の言葉にこくん、と首を縦に降っていた。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2024.2.1
1/2ページ