悠仁
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「……じくん」
「んぅ……?」
「悠仁くん、起きて」
大好きな人の声が聞こえて、ゆっくりと目蓋を開けば、スーツを身に包んだ名前さんが俺の肩を揺らしていた。
そうだ。昨日、家に泊めてもらったんだった。
「おはよ、悠仁くん」
「……ん、」
「ふふっ、まだ寝ぼけてる」
「ねむい……」
「学校行かなきゃでしょ?ほーら、早く用意しないと遅刻するよ」
彼女がふわりと優しく笑みを浮かべる。
補助監督さんとして働く名前さんは、俺より少し年上の恋人。
寝起き一発目にそんな大好きな人の顔を見れんのは、けっこー、くる。
そんなことを考えながら、伸ばした俺の手は細い彼女の腕をしっかりと掴んでいた。
「キスしたい」
ゆっくりと彼女の唇に自分のそれを重ねようと近付ければ、「だーめ」という声とともに唇に感じたのは、彼女の指先。
「なんで?」
「学校行かなきゃでしょ」
「キスするくらいで遅刻しないって」
「悠仁くん、キスで済まないでしょ?もういいから早く準備して」
彼女のピンクの唇から出た言葉に少しの不満が募る。
きっといつもの俺なら、ここで諦めて洗面所へと向かってるんだろう。けど、今日はなんだか少しそれがムカつく。
俺は、掴んだ彼女の腕を勢いよく引いて彼女をベッドへと組み敷いた。
「……ゆ、悠仁くん?」
急な俺の行動に驚いたのか、珍しく動揺を隠せてない彼女がなんだか可愛くて、思わず笑みが零れてしまう。そんな俺を見た彼女は、キッ、と俺を睨みつけた。
そんな表情もやっぱ可愛くて、にやにやとあがる口角を抑え切ることは不可能だった。
「名前さん、キスして」
「だから……!」
「ね、いーじゃん。キスしてくんなきゃ、俺どかんよ?」
「もー……私が五条さんにドヤされるんだよ?七海さんにも怒られるし、」
「やめて」
少し自分の機嫌が戻ったのに、俺もすっげー世話になってるけど、彼女の口から出た五条先生、ナナミン……他の男の名前がまた俺の機嫌を逆なでした。
「こーいう時に他の男の名前出さんでって」
「他の男って……」
「まじで嫉妬するんだって」
意識して悲しいって顔を作る。この表情に彼女はめっぽう弱い。
俺の想像通り、彼女は「う……」なんて声を出して視線を左右にさ迷わせた。
「ずるい。その顔に私が弱いの分かっててやってるでしょ」
「んー?ね、キスだめ?」
「歯磨きしてないでしょ。……もう、これで我慢して」
彼女の言葉の次に聞こえた可愛いリップ音と、俺の頬に触れる柔らかい感触。
予想もしていなかったことに、え、と固まっていればその隙に彼女は、俺の腕から抜け出していた。
「朝ごはん作ったから、早く用意しておいで。今日は車で高専、送ってあげるから」
ね?、と彼女は俺の頭を優しく撫でて寝室から出ていった。
……まじで、思うように行かなさすぎだろ。
がしがし、と自分の髪をかいたあとに俺もベッドから降りて洗面所へと向かった。
彼女の家の勝手にも随分と慣れた。
洗面台の棚には、俺用のコップと歯ブラシ、カミソリ、ワックスと我が物顔で彼女のものの隣に並んでいる。
そのことに、意識せずとも勝手に口角が緩む。
「悠仁くんもう着くよ」
「……うん」
あれから彼女が作ってくれた朝食を食べて、彼女の車で高専の近くまで向かう。そこで俺だけ下ろされて、俺は歩いて高専に。彼女は少し時間をあけて高専へ向かう。
俺としては高専まで一緒に行きたいけど、「それはだめ」と彼女からのお許しが出たことは無い。なんで?と聞けば、「大人としてそれはだめなの」と腑に落ちない返事。
俺は、彼女よりも年下だから子供扱いされるのは仕方ないのかもしれないけど、彼女の口からよく出る「大人」という言葉が正直気に食わない。
「また拗ねてる」
「……拗ねてないって」
まるでちっちゃい子にするみたいに、よしよしって頭を撫でてくる彼女の手がムカつくけど心地良い。
ぱし、と彼女の手を掴んで自分の口元に持っていけば、少し目を見開いた後に目尻を下げて微笑む彼女が視界の端で見えた。
「いっつも我慢ばっかりさせてごめんね」
名前さんは、狡い人だなってたまに思う。そんな言い方されたら、俺、なんも言えんって。
「ううん。行ってきます」
「待って」
これ以上は、彼女を困らしてしまう。こんだけ拗ねて、駄々をこねた後に言うことじゃないのは分かってるけど、決して彼女を困らせたい訳では無い。
車から降りようと彼女に背を向ければ、腕を掴まれた。
「ん?どうかした……、っ?!」
どうかしたん?、と言おうとした言葉は、俺の唇と重なった彼女のそれに吸い込まれていった。
「え、え!名前さ、いまっ、」
「ちゃんとキス、してなかったから今日は特別。頑張ってね、いってらっしゃい」
ほら、名前さんはずるい。普段なら、こんな高専の近くでキスとかしてくれんのに。彼女は俺の扱いをよく分かっていて、ずるい。
そして、単純で名前が大好きな俺はこれだけで機嫌が元に戻ってしまう。
「うん!頑張れる!行ってきます!」
勢いよく車から降りて、顔の熱を逃がすように高専まで全速力で走る。
そうして俺は、教室に着いたところで『今日も家行っていい?』と名前さんに連絡をしていた。
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2024.2.11
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