悠仁
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会社から1歩出た瞬間、どっと疲れが私の全身に覆い被さるような感覚に襲われた。
自分の仕事をこなしながら、上司の無理難題に答えるのも要領を得ない後輩の尻拭いも、全てがストレスだった。ただ、それを断ったりと翻すほど私も器用な人間ではなかった。
最後に定時で帰れたのはいつだったか、それももう覚えていない。
さっさと家に帰って寝たい。
今日は彼が来てませんように、と願いながら電車に揺られた。
私の年下の彼氏、虎杖悠仁。
彼の性格を例えるならば、"優しい" この一言に尽きる。悠仁は底抜けに優しい。きっと、会えばその優しさの全てを彼は私にくれるだろう。ただ、こんな精神状態と年上だからという私のプライドのせいで彼に酷い八つ当たりをしてしまう自信がある。
だから、今日は会いたくない。どうか、今日だけは家に居ないで。
そう祈って玄関の扉を開けて、視界に映った大きいスニーカーを見て酷く落胆した。神様は私の味方をしてくれないらしい。
「おかえり。今仕事終わったん?遅くない?」
リビングに繋がる扉からひょっこり、と顔を出すのは紛れもなく私の彼氏、悠仁だった。
「ただいま、来てたんだ」
「うん、今日バイトなかったから。学校終わってそのまま来た」
合鍵を渡したのも、来たい時に来ていいよなんて言ったのも、私だ。だから、悠仁がいることもなんら不思議なことではない。ただ、タイミングが悪いだけの話。
「ん?名前、なんか今日疲れてる?」
「そんなことないよ。着替えてくる」
精一杯の強がりだった。きっと、いつもの私なら悠仁ともっとお喋りしたりスキンシップを取ってただろう。疲れは過去一で溜まってるし、正直今は、悠仁を気に掛ける余裕が残ってない。出来ることなら1人になりたい。でも、そんなことを本人に言えるわけがなかった。
「ねえ、ちょっと待ってよ。なんかあったん?」
「だから何もないって。スーツ早く脱ぎたいの」
食い下がる悠仁に背を向け、着替えを置いてる寝室へと足を進める。ぱたぱた、と後ろから私の後を着いてくる悠仁の足音がした。
今の私、すごく嫌な態度取ってる。その自覚はあるのに、このもやもやとする気持ちを抑えることは出来なかった。きっとこれ以上悠仁といると本当に八つ当たりをしてしまいそうだった。
「着替えるからあっち行って」
部屋から出て欲しい、そう遠回しに伝えたつもりだった。それなのに、彼が部屋を出ていく音はしないし、背後の気配は消えない。
「ねえ、話聞いてる?」
「ん、」
部屋から出て、と言おうと振り返れば両手を広げてる悠仁。
「……え、なに?」
「ハグってストレスかいしょーらしいよ」
目尻を下げて笑った悠仁は未だ両手を広げて私を待っていた。
「……いい、」
首を横に振り悠仁から目を逸らす。本当はあの逞しい胸元に飛びついて抱き締められたかったんだと思う。でも、さっきまで機嫌の悪さを隠すことなく彼にぶつけたり、何より年上の私が……なんてまた変なプライドが邪魔をしていた。ほら、懸念してたことが的中してる。今日はやっぱりダメな日なんだ。
そう、自己嫌悪に陥っていれば「じゃあさ、」とまた悠仁が口を開いた。
「俺が名前のこと抱き締めたいから来てよ」
「は……」
「今すぐ名前のことぎゅーってしたい。だからお願い」
「来てよ」とまた笑顔で私を待つ悠仁。
「俺の頼み、聞いて欲しいなあ……なんて」
ほーら、と腕を広げながら体を左右に揺らす悠仁。
本当に、ずるい。そして、やっぱり底抜けに優しい。そんなこと言われたら我慢出来るわけないじゃん。
「へへっ、名前つかまーえたっ」
おずおずと悠仁の胸元に体を預ければ、がっしりとした腕に優しく抱き締められた。
「……ごめん、」
「なあんで謝んの?」
「嫌な態度取ったし……」
「えー、そんなん気にしてないって」
あははっ、笑いながら悠仁の指先が私の髪をとく。悠仁にこうして髪を触ってもらったり、頭を撫でてもらうのが実は好き。これを言ったことはないけど、多分悠仁は気付いてる。でも悠仁もそれを口にはしない。悠仁はそういう優しさを持っている男の子だった。
「……優しすぎて心配になる、」
「へ?」
「悠仁、優しすぎるから心配」
「俺、名前にしかこんな優しくせんよ?だから心配しなくてだいじょーぶ」
「俺、好きな子にしか優しくせんから」
そう甘く耳元で囁かれた。きっと、今めちゃくちゃ顔がにやけてると思うし、すごく赤いんだろう。それを隠すようにまた悠仁の胸元に顔を埋めれば、楽しそうに笑う声が頭上から聞こえていた。
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