三井
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唐突だが、好きな女が出来た。俺だけの女になって欲しい、だれにも渡したくねえ、と思うくらいには本気のやつだ。
俺とは別の課で働く同期入社の 名字。ふわふわとした綿菓子みたいな女で少し天然。そんな彼女は俗に言う、"あざとい系女子"に分類されるんだろう。
そんな彼女のあざとさにころっと落ちた俺は、あの手この手を使って必死のアプローチを繰り返してはいるが、なんの成果も得れていないのが現状だ。
「 名字、お疲れ。昼休憩か?」
「あ!三井くん!お疲れ様」
昼休憩。社員食堂へ足に踏み入れまず初めに視界が捉えたのは、1人で食事をとる意中の彼女。迷うことなく声を掛け、隣の席に腰をおろす。彼女の様子を横目で確認すれば、特に嫌がってるような素振りもなく、美味しそうにオムライスを頬張っていた。
そのことに胸を撫で下ろしながら、今日も可愛い 名字をこっそりと堪能する。可愛い。彼女のことを独占できたら、どれだけ幸せなんだろうか。
「今日、髪あげてんだな」
普段はゆるく巻き下ろされている彼女の髪は、少し高い位置で結い上げられている。女の髪型についてはよく知らないが、多分、ポニーテールってやつなんだろう。
ゆらゆらと揺れる毛先が、俺の胸を大きく鳴らせる。
「そう。今日、時間ギリギリだから結んだの」
「髪あげてんのも、似合うな」
なるべく自然に聞こえるように、そう意識して言葉にしてみたが「ありがとう」と笑う彼女に軽く躱された気がする。
手強い、というか、まじで1mmも靡いてくれやしねえ。だからといって、諦めるなんて選択肢は毛頭ないが。
「今日の夜、忙しいか?」
「今日?予定ないけど……」
「んじゃ、飯でも食いに行かねぇ?」
柄にもなく、心臓がドキドキとうるさく音を立てる。断られたらさすがの俺でも、堪えるだろ。
「いいよ。行こっか」
「え!?良いのか!?」
「うん。ふふっ、三井くんから誘ったのになにそれ」
揶揄うように笑う彼女に小さく胸が高鳴る。下心や邪な気持ちなど全く感じさせない彼女の表情に、やっぱ脈ナシか?それとも……と勘ぐってしまう。いや、ここで諦めるような男では俺はないだろうが、と自分自身を奮い立たせる他ない。
「あ。でも遅くまではちょっと厳しいかも」
「え、」
「明日からの連休、実家に帰るんだよね」
「は、連休ずっと実家か?」
「うん。そろそろ顔出せーってうるさいから、連休中は実家で大人しくしようかなあって」
まじかよ。連休中も誘ったりして距離詰めようと計画していた俺の考えは、彼女の一言で崩れ去った。
地方からこっちにきた彼女とは、連休中会うことは叶わないらしい。やっぱ、飯いくの本当は嫌だったりすんだろうか、と小さな不安が顔を出す。
「三井くんは?」
「あ、?」
「三井くんは連休どうするの?」
可愛らしい笑顔を浮かべ、くりくりの丸い目が俺を見つめる。
今、俺の予定を聞いてんのか?
ただ予定を聞かれただけのくせに、彼女が俺に興味を持ってくれたような気がして。それだけのことで、俺のテンションは分かりやすく上がっていく。我ながら単純な野郎だと思う。
「あー……買い物とか、バスケ、しに行くかも」
「バスケ!三井くんすっごいバスケ上手なんだよね?」
「あ……?や、ふつーだろ……」
何とも歯切れの悪いだっせぇ返し。普段ならもっとドヤ顔で返してるだろ。我ながら情けなくなってくる。
「いいなぁ……三井くんがバスケしてるとこ見てみたい」
「は……」
「絶対かっこいいもん」
もう頭の回転は機能しなかった。こいつ、今、俺をかっこいいって言ったのか?は?これ、まじで現実か?夢なら一生醒めないまま見させて欲しいとすら、思う。
そんなアホなことを考えていれば、隣で「ごちそうさまでした」と手を合わせる 名字。その仕草にすら、また胸が鳴る。
「じゃあ、私もう行くね」
「もう行くのか?」
「連休入る前に終わらす仕事いっぱいだからね」
頑張らなきゃ、と言って立ち上がる彼女にやべえ、と焦る。なんか、言え、言えよ俺!
「っ、連絡していいか……!?」
「え?あぁ、仕事終わったら連絡して?」
「や、それはそうなんだけどよ、その、連休中も連絡……」
クソだせぇ。なんだそれ。もっとなんかあっただろうが。今日ほど自分をぶん殴りたくなった日はないだろう。
「うん、私も連絡するよ」
「えっ、」
「私も三井くんとお喋りしたいから。連休中、いっぱい連絡して?」
「お、おう。任せろ」
「ふふっ、なあにそれ。じゃあ今日の夜も楽しみにしてるね」
ふわり、と笑った彼女は食堂を後にする。
彼女の耳が普段より赤く見えたのは、俺の都合のいい勘違いだったんだろうか。
「はー……まじで、可愛すぎんだろ……」
この恋の進展がようやく見えてきた気がする。今日、もっと勝負かけるしかねぇ、なんて決意をしながら、少し冷えた唐揚げを口に放りこんだ。