三井
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太陽が傾き始めたお昼過ぎ。テレビからは連日報道されてるとある芸能人のスキャンダルを取り上げるワイドショー。またこの話か、なんてぼんやりとテレビを見ながら自分の膝の上に預けられている頭を撫でた。
人の膝に頭を預けて薄く口を開きながらすぅすぅ、と寝息を立てているのは、彼氏の寿くん。
今日は彼もオフで私も仕事が休みで、久しぶりにまったりとお家デートの日。お昼ご飯を一緒に作って食べて。そうすれば、「ねみぃ。ちょっと膝貸してくんね?」と、彼に膝枕を強請られて言われた通りに膝を貸せば、直ぐに眠りについてしまった。
相当、疲れてたんだろうなあ。疲れててもこうして、私と時間を作ってくれたことが何よりも嬉しくてにやついてしまう。彼が寝ててくれてよかった。絶対にこんな顔見られたらいじり倒されるに決まってる。
「……かっこいい、」
無意識にそう呟いていた。はっ、と慌てて口を抑えて寿くんを見れば、相変わらず口を開けながら寝息を立てていてほっ、と胸を撫で下ろした。
私よりもずっと身長の高い寿くんを見下ろす事なんてそうそう無いから、じっと彼を見下ろせばやっぱりかっこよくて気付けば言葉を零していた。
イケメン選手、なんて取り上げられるだけにナチュラルに顔が良い。目鼻立ちがはっきりしてるし、あんなにいつも汗だくでコートを走ってるのに肌もすごく綺麗。
穴があくんじゃないかってほど寿くんの顔を見つめていればやっぱり気になるのは顎の傷。
同じ大学で出会った寿くん。出会った頃にはこの傷は彼の顎に付いていた。
こんな傷、どうやったらつくんだろう。
そっとその傷跡に触れれば、そこは皮膚より少し硬くなっていた。
「気になんのか」
突然聞こえた声にびっくりして思わず手を離せば、さっきまで閉じられてた瞳は開いていて私を見つめていた。
「ごめん、痛かった?」
「いや、くすぐったかっただけだ。これ、もう昔の傷だから痛くねーよ」
くぁ、と大きく欠伸をしながらそう答えた寿くんは、ゆっくりと私の膝から起き上がった。
「膝さんきゅ。ちょっと寝たらスッキリしたわ」
「……膝、怪我した時にここも怪我したの?」
寿くんの傷がある所と同じ部分の自分の顎を指さす。好きな人のことについては色々知りたいというのが、乙女心というやつで。
「……ちげえ」
「違うの?」
「おう……これは俺が、馬鹿なことした傷っつーか」
「ばかなこと?」
あーとか、うーとか、唸りながら言い淀む寿くんに、あ。これ聞いちゃだめなことだったのかも、と後悔をした。これだけ濁すってことは、きっと彼にとって聞かれたく無かったことだったんだろう。
「寿くんごめん、聞かない方が、」
「いや。名前には聞いて欲しい。俺が馬鹿で無駄な時間過ごしてたこと」
そこから寿くんは、昔を懐かしむようにそして、過去の後悔の念を吐露した。その間、私の手はずっと彼の手に強く握られていた。
「……そう、だったんだ」
「おー……引いたか?」
いつもの自信満々な寿くんからは想像できないくらいに眉を下げて不安そうな表情。まるで捨て犬みたいで。ずっと握られてたままだった手を握り返せば、寿くんは目を丸くした。
「ちょっとびっくりした。今のバスケ大好きな寿くんからは想像できないね」
「……おう、」
「でも、それがあったから今、こんなにバスケに打ち込めて愛せてるんだよね」
傍で見てきたからわかる。どれだけ寿くんがバスケに一生懸命でバスケが大好きかということに。たまに私がバスケに嫉妬しそうになるくらいだ。
「……そうだな、やっぱバスケが俺には必要だって、バスケがしてえってあの時、強く思った」
「そっか。なら必要な事だったんだよきっと」
「お前、まっじでさあ……」
「わ、っ!?」
はーっ、と深く息を吐いたかと思えば、私よりも大きい寿くんの体に包み込まれていた。大切なものに触れるように、あまりにも優しすぎるその手つきに胸がいっぱいになる。同じように、彼の大きな背中にゆっくりと手を添えた。
「やっぱ好きだわ」
「えっ、」
「名前のそういうとこも、全部好きだ。ずっと今までのこと言わねえとって思ってたけど、なかなか言い出せなかった」
「そっか」
きっと寿くんの中で、私の事考えてくれて、いっぱいいっぱい悩んでくれてたんだろう。少し震えたような彼の声から、それがよく伝わってきた。ありがとう、の意味を込めてぽんぽん、と優しく彼の背中を撫でれば、先程よりも強く抱きしめられる。
「名前とはずっと一緒にいてえから」
「うん、私も。寿くんとずっと一緒にいたい」
「……おう、」
ぴくり、と一瞬寿くんの体が反応した。これはきっと照れてる。そんなことも分かるくらいには一緒にいるんだよね。
「どんな寿くんでも大好きだよ」
「俺も、どんな名前でも好きだ」
さっきよりも小さい呟くような声でそう返してくれた彼に自然と笑みがこぼれた。
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2024.1.30