三井
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「今回の同窓会、三井くん来るって!」
あんたも絶対参加しな!と友人からの連絡にえ、と声が無意識に零れ落ちた。
三井寿くん。高校3年間私はずっと彼に片思いをしていた。当時、その思いを伝えるなんて勇気もなく卒業。それから何度か同窓会は開催もされていたけど、彼が姿を表すことは無かった。そんな三井くんが今回の同窓会には参加するらしい。
卒業して私は地元の大学に進学し、三井くんは推薦で都内の大学へ進んだと聞いていたけど、この間ニュースで彼がバスケ選手として活躍する姿を観た。元気そうな彼の姿と鮮やかにシュートを決める姿を目にしてあの頃と変わらず胸を高鳴らせていた。
「絶対参加して今度こそ三井くんと距離詰めなさいよ!」
友人の言葉に整理が追い付かない頭ではうん、としか返せなかった。数年振りに会う彼を前にして友人が言ってくれた"距離を詰める"なんてことが出来る自信はこれっぽっちも無かった。
「名字さんって字綺麗なんだな」
入学してすぐの頃、私の前の席に座っていた三井くんが関心したような表情で声を掛けてくれたのが彼とした初めての会話だった。
「そんなことないと思う、けど......」
中学で男子と特に関わらず過ごしてきた私からすればそれだけで心臓が破裂してしまうんじゃないかと思えて、歯切れの悪い言葉しか出なかった。けど、そんな私を気にすることも無く三井くんは、「いや綺麗だろ。俺そんな綺麗に書けねえし」と。歯を見せて笑ってて。
人生で初めて男の子に褒められた。それが三井くんだった。
「名字さんって手ちっせえな」
「三井くんは、おっきいね」
「そりゃ、俺は男だしバスケもしてるからな!」
そんな会話をしたことを今でもよく覚えている。
この時は自覚出来なかったけど今思い返せば、あの瞬間に私は三井くんを好きになってたと思う。
それから三井くんは怪我をして学校に来なくなって彼と話すことはそれから1度も無くなった。たまに来たと思えば、怖い人たちと一緒にいることが増えていった。バスケをしなくなって、不良になって......。3年に上がって少ししてからバスケ部に戻ったと聞いて友達と何度もバスケをする彼を見に行って、その度に胸の奥がきゅうっと甘く締め付けられるような感覚を味わっていた。
そんな三井くんに会えるって楽しみな気持ちと、きっと彼は私の事なんて1mmも覚えていないんだろうなと諦めた気持ちを抱えながら、同窓会当日までを過ごした。
「で、まだ話し掛けてないって?」
「まあ……うん」
はぁ、と呆れたと言わんばかりのため息を着いた友人から視線を逸らし、離れた席に座る三井くんを視界に入れた。
久しぶりに会ってもやっぱり三井くんはかっこいい。液晶越しに何度も見てたけど生の三井くんを視界に入れるだけで心臓がうるさく高鳴った。
正直、この同窓会に来るまでは話し掛ける気持ちでいっぱいだった。が、いざ三井くん前にすれば、これ声掛けて「お前誰?」としかならなくない?まともに三井くんと喋ったのだってあの入学してすぐの頃のみだ。無理忘れられられてる自信しかない。
「そんなんでどーすんのよ」
「もしかしたら彼女いるかもじゃん……」
「あんたねえ……。彼女いようがいまいが、初恋にケリつけなきゃ一生結婚できないでしょ」
正論すぎる友人の言葉が胸が痛い。
「どうしても無理なら私が一緒にいってあげるから」と頼もしい言葉を残して友人は他の席へと移ってしまった。
1人になって視界に映るのはテーブルとあまり中身が減っていない自分のグラス。
年齢を重ねて大人になったつもりだった。学生時代もっと三井くんと話していれば、また会えたらもあの頃よりももっとアプローチするのに、なんて何度も考えていたはずの結果がこれだ。何一つあの頃から成長していない自分に嫌気がさす。
彼女の言う通り、このまま引き摺り続けて本当に結婚すら出来ない痛い女になってしまいそう……。
「ここ、空いてんのか?」
「え……、」
低音な男性の声が頭上からして顔を上げて、一瞬心臓が破裂したんじゃないかってくらい大きく動いたような感覚がした。
「えっ……!?みっ、……」
三井くんが、いた。
グラスを片手に真っ直ぐ私を見る彼。
三井くんが、私を見てる。え。今なんて言った?本当に私に話しかけた?突然すぎて、頭の処理が追い付かない。
「隣座っても大丈夫か?」
「え!、あ、うん……大丈夫、」
しどろもどろにそうなんとか答えれば、さんきゅ、と三井くんが私の隣に腰をおろす三井くん。
え。なにこれ夢?現実?あの三井くんが、私の隣に座ってる。どういうこと……
「元気、してたか?」
「え、」
「あー……俺の事、覚えてねぇ?」
「お、覚えてるよ!三井くんみたいなすごい人、覚えてるに決まってる……!」
むしろ1度も忘れられずにここまで来たんですけど!そう心の中で付け加える。勿論そんなこと口が裂けても言えない。
「むしろ、三井くんに忘れられてると思ってた」
「はあ?覚えてるに決まってんだろ」
そう眉を顰め少し呆れた顔しながら名字さん、と三井くんが私の苗字を口にした。
数年ぶりに彼の口から自分の苗字が出た事に感激をしつつ、今はどうしてるんだとか近況をお互い話しながらもこっそりと彼の左手の薬指に光るものが無いかを確認すれば、そこには何も無くほっと胸をなでおろした。
「……結婚、すんのか?」
「え?」
一体なんの話をしてるんだろうと彼の顔を見返せば、真剣な目で真っ直ぐと私を見つめていて。その目に捕らえられたみたいに体が動かなくなるような感覚がした。
「しないけど……そんな予定もないし、一体なんの話?」
「は?しねえのか?さっき結婚がどうとか言ってただろ」
「あー、あれは私が結婚できなさそーっていう話なだけ」
へへへ、と笑いながら心の中であなたのお陰でと付け加える。一瞬目を丸くした三井くんは、へぇ、と少し低い声で相槌を打った。
なんだか夢、みたい。あの三井くんとこうやって笑いながら普通に話できてるの。正直これだけでも、幸せかも。なんて噛み締めていると、膝になにかが当たっている感触がしてそこに視線を移せば、私の膝にぴったりとくっついている少し太めのジーパン。え、と次は顔を上げれば明らかにさっきより三井くんとの距離が縮まっていて。
「え、えっ……?!」
「俺もこの間まで結婚できそうにねぇって思ってた」
さっきと同じようにじっと三井くんの目が私を見つめる。彼の目が逸らすな、と暗示をかけているみたいで目を逸らすことが出来ない。
「俺、今まで同窓会参加しなかったんだけどよ、なんでかわかるか?」
「えっ?えっと、ごめん、わかんない……」
「…… 名字さんも参加してねぇんだろなって勝手に決め付けて行く必要ねぇって思ってた」
「え……私?」
「ずっと後悔してた。 名字さんにちゃんと話せなかったこと」
周りのわいわいと盛り上がる騒がしい声が聞こえるはずなのに、今は全く耳に入ってこない。まるで、私と三井くんの空間だけ切り取られたみたいに三井くんの声だけが聞こえてくるような。
「俺が……グレた時もバスケ復帰した時もずっと、本当は 名字さんと喋りたかった。あんなちょっとの会話じゃ足んねえ。もっと俺の事、意識して欲しかった、」
熱の篭った2つの瞳がじっと私を見つめている。私の隣来てから三井くんは何も飲んでないはずなのに、さっきよりもずっと頬が赤らんでるような気がするのはきっと気のせいじゃない。こんなのまるで……
「そ、ういうの言われると、期待……しそうになる、」
「しろよ。 名字さんに会いに俺は来たし、期待させてぇからこうやってんだよ。それに、結婚とか聞こえて馬鹿みてぇに焦った……」
後半はもうあの三井くんなのかと、疑いそうになるくらい声量が小さかった。
どうなってるんだ、とかどうしようどうしよう、ってぐるぐると渦巻く考えの中で、自分の鼓動の主張が激しくなっていく。
あの頃は何も出来なくて、今回だって結局勇気が出なくて。それが嫌だった。今回こそ、勇気を出してって考えてたじゃないか。
「なっ、えっ、おいっ……手っ……」
ぴと、と彼の膝の上に置かれていた手に自分の手を控えめに重ねた。頭上から聞こえる少し上擦った三井くんの声。
「……わ、私も、今回は三井くんが来るって聞いたから」
「は……」
「……私も、もっと三井くんと仲良く、なりたくて、ずっと後悔してた……」
顔が、熱い。きっと今、三井くんと同じくらい私の顔も赤いと思う。ゆっくりと三井くんを見上げれば目を見開いてこっちを見ていた。
「お前、言ってる意味わかってんのか?俺の方が、期待すんぞ?」
「期待、して欲しい、です……」
あぁ、もう本当に沸騰しそうなくらい顔が熱い。未だに鼓動がうるさいけど、さっきよりも期待が多い音をしていると思う。
「あっ、」
「おう、お言葉に甘えてめちゃくちゃ期待させてもらうからな」
重ねてたはずの私の手はいつの間にか、彼の大きな手にきゅっと優しく包み込まれてる。
「やっぱ、手ぇちっせえ」
そう言って目を細めて笑う三井くんと、初めて話した時の三井くんの顔が重なる。
「……取り敢えず、この後2人でどっか抜けようぜ」
また少し小さい声で言った三井くんにキャパオーバーを起こした私はただこくり、と頷くことしか出来なかった。
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