私を嫌ってたはずの後輩が過保護になった件
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「あんま寝れなかったな……」
携帯のアラームと共に瞼を持ち上げれば、今回は見知った自室の天井が広がっていた。
無意識に脳裏で思い出されるのは、昨晩のことだった。怪我をして、それからこの部屋にあの伏黒くんがやって来て……。
「俺が今日からあんたの左目になります」
彼はそう宣言をして自分の部屋へと帰って行った。
いやいやいや。どういうこと?どういう状況?え?なんでそうなった?というか、伏黒くんって私の事嫌いじゃなかったっけ。嫌いな相手にそんなこと言う?もしかして私の勘違いか聞き間違えなのでは……と思考を巡らせて、やめた。
直ぐに自分の都合のいいように考える私の悪い癖が出てる。あの日確かに聞いた。伏黒くんははっきりと私のことが嫌いだと話していた。
伏黒くんはいい子だから、きっと嫌いな相手にそう言わなければならない程に罪悪感を抱かせてしまったに違いない。そう考えると本当に心が痛むし、自分の行動に心底嫌気がさす。
これからどうしよう、と頭を悩ませながら身支度を済ませた。こんな私でも一応は呪術高専の一員で呪術師の端くれ。授業もあるし休んでる暇はない。暫くは任務に出れない、と昨日医務室に出る前に五条先生に言われたけど。
取り敢えず共同スペースに行って朝ごはん食べて、教室に行こう。話はそれからだ。
ふー、と大きく息を吐いて気合いを入れ直し、ガチャ、と自室の扉を開けば「おはようございます」と低い声が聞こえ体が石のように固まった。
「え、」
「おはようございます。今日は寝坊してないんですね」
「ふ、伏黒くん……」
ドアを開ければ、何故かその先に伏黒くんがいた。
何故私が寝坊をしている事を知っているんだ。そうツッコミを入れたかったけど、予想すらしてなかった上に、昨晩から先程にかけて頭を悩ませていた張本人の登場に空いた口が塞がらない。
頭の中はクエスチョンマークで埋め尽くされ、正常に働かなかった。
「なにぼーっとしてるんですか」
「え、えっ、なんでここにいるの!?」
「はあ?あんたもう昨日のこと忘れたんですか?」
何言ってんだお前、とでも言いたげな表情で眉を顰める伏黒くん。
忘れるわけがない。むしろその事しか考えれなくて、普段の睡眠時間の半分もいってないレベルなんですが。
やっぱり言おう。本当に気にしないで欲しいって。これは伏黒くんのせいじゃないし、君がここまでする必要は無いって言ってあげなきゃ。あまりにも伏黒くんが可哀想だ。
「あのね伏黒くん、その事なんだけど、」
「共同スペース」
「え?」
「行くんですよね。共同スペース。朝飯食うんでしょ。ほら、行きますよ」
「えっと……?」
「今日から俺はあんたの左目なんで。ほら、さっさと行きますよ」
「えっと、この手は……?」
私に手のひらを見せるように手を差し出す伏黒くんに、より一層頭の中はクエスチョンマークで埋め尽くされていく。
「手貸してください。歩けないでしょう」
「な、!!?」
聞き間違えかと彼の手と顔を交互に見れば、ん、と相変わらず手を差し出す伏黒くん。
手を繋げ、と言ってるの?正気か?え、まじでどういう状況なんだ、これ。
「まだその目じゃ歩きづらいですよね」
「そんなことないよ!!?」
「嘘つかないでください。昨日、真希さんたちに支えられて戻ってきましたよね?」
だからそういうことをなんで知ってるんだ……!
「それに、昨日一人で歩こうとして転けてましたよね。これ以上怪我増やすつもりですか?」
うぅ。ぐうの音も出ない。確かにこの片目だけの視界にはまだ慣れていないし、距離感も掴めていない。
伏黒くんの言うようにいつまた転んで怪我をするか。それこそ迷惑極まりないだろうし、もっと伏黒くんが罪悪感を抱いてしまうのでは……?それはだめだ、と思考を渦巻かせおずおずと彼の手に自分の手をそっと重ねた。
「えっと、じゃあ……お願いします……」
「…………」
「伏黒くん?」
「……なんでもないです。行きましょう」
じっと手を見て微動だにしない伏黒くんに、首を傾げ声を掛ければ、彼はぎゅっと私の手を繋いで私に背を向け足を進めた。
それに遅れないように私も同じように足を動かす。
顔を上げてみても伏黒くんの背中しか見えなくて、今彼がどんな表情をしてるかは分からなかった。
それにしても、男の子と手繋ぐのなんかいつぶりだろう。小学生の頃とか多分それくらい。
やっぱり伏黒くんは手が大きいな。この手が私を助けてくれた。車の中でも、私が起きるまでも、ずっと握ってくれてて。
そこまで考えていれば、あれ?とひとつの疑問が浮かんだ。
「そういえば、報告書ってどうなった?今日書く?」
「あぁ。それなら昨日俺が提出しました」
「え!うそ、ごめん!」
「いや、別に……」
「どうしよ、お詫びするよ!」
「いいですって。状況が状況でしたから」
「いやいやいや。なんか奢る?ファミレスとか、それかして欲しいこととかあったらするよ!なんでも言うこと聞くし……!」
「ふっ、」
さすがに報告書を全部書かせてしまったのは不味い。しかもあのイレギュラーだぞ。良くない、と焦りながらあれこれ言ってみれば、私の目の前から聞こえて来たのは小さな笑い声。
「焦りすぎだろ」
「そりゃ焦るでしょ……!」
「今日はよく喋るんですね。昨日全然喋ってくれなかったのに」
「え!??いや、えっとね、」
振り返った伏黒くんはじとり、と目を細めて私を見下ろしていた。
はっきりと言葉にされなくても、「お前俺のこと避けてただろ」と言われてることは分かった。
だからなんでそんな怒るんだ。関わる時間が少なくなる方が伏黒くんも嬉しいでしょ……!!せっかく頭フル回転で伏黒くんを思って(ほぼ自分の保身のためだが)考えた案なのに……!
「こっちの方がいい」
「え?」
「……名前さんは、こうやってペラペラ色々喋ってるほうがいいです。これからも、こうやって喋りかけてください」
「ん?うん……?」
行きましょう、と再びに前に向き直って足を進めた伏黒くん。
心做しか耳が赤く見えたのは、私の見間えかもしれない。
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2024.1.31 更新
2024.2.1 修正