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Lの遠出

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 大学の研究室で真希さんの血液からウイルスを解析する松戸氏。
 どこかぼんやりとした時間が流れている。
 クマのぬいぐるみを抱きしめて、甘える様にシキに寄りかかる真希さんの姿は、親子の様にも姉妹の様にも見える。机の上に投げ出されたノートには相変わらず几帳面に体温が記録されていた。
 boyは黒板に落書きを始めた様だ。
 親指の爪を噛みながら私もまたぼんやりとその光景を眺める。
 ……甘いものでも探してこよう。


 ドーナツが近場で手に入った。紙袋の重さに機嫌良く研究室に戻るも、出て行った時と全く変わらない状況に、果たしてこの研究室の時間は止まっているのではないかと、馬鹿なことを考えた。
 黒板を振り向くとboyの落書き基、計算は大きく展開されており、あと少しで答えが出そうだった。

「何かわかりましたか?」
「このウイルスは砂糖は好きだが加糖は嫌いらしい」
「糖質?」
何故でしょう。一瞬私に視線が集中した気がしますが……
「このウイルスのエネルギー源は糖質だ。真希さんは元々低血糖症を患っていたから、発症していないのはおそらくそれが原因だろう」
「二階堂教授の注射は関係ないと?」
「ああ、おそらくだがそれは低血糖症対策だろう」
「……そうですか。それでウイルスのエネルギー源が分かった事は抗ウイルス薬を作る助けになりますか?」
 気まずそうに首を横に振る松戸氏。


「13:11」
 子供特有の高い声が研究室に響き渡る。
「13:11」
 boyがとても大切なことの様に幾度も幾度も繰り返す。
 シキが真希さんのノートを借り受け黒板の前まで歩く。開かれたページの問題と黒板の数式を見比べる。
「13:11」
 boyがさらに訴えかける様に声を上げる。シキの隣に並んだ私はチョークを手に取り暗号の答えを書く。
「 M K」
 シキの澄んだ声が、研究室の中で響く。
「暗号ですね」
「お父さんからの?」
 真希さんの問いに頷いたシキが、彼女にノートを返す。
「もしかしたら抗ウイルス薬を作るヒントかもね」
「だとしても……MKって何だ?」
 
 MK薬品、成分、酵素、タンパク質……意外とあるMKに関連する単語を挙げて行く。
「松戸さん、引っ掛かる言葉があれば止めてください」
ミッド・カイン、その単語に大きく反応した松戸氏。
「それだ、ミッド・カイン。そうか、ミッド・カインならウイルスを抑えられると言う事か。ミッド・カインと言うのはだな」
「癌の進行を止め、また、アルツハイマーの特効薬としても期待されるタンパク質ですね」
 頷く松戸氏。だが、その表情は晴れやかとは言い難い。
「ミッド・カインを人工的に生成する事は可能なのですか?」
 真希さんの期待に満ちた瞳。それから逃げるように松戸氏は答えた。
「100億の研究費と、5年の歳月があればな」
「5年……」
 萎んだ声を出す真希さんに慌てて松戸氏は言う。
「だか、何とかしてみるよ。……そうだ、例えば胎児にはこのミッド・カインが豊富なんだ」
この場の雰囲気を変える様に声を上げる松戸氏。
真希さんの肩を支えていたシキが、boyを見つめる。
その視線に気がついた松戸さんは、胎児でなくてはダメだと言いって何やら考え始めた様だが。
「松戸さん、彼はあのウイルスで壊滅した村の生き残りです」
シキの言葉に思考を止めた松戸氏が振り返る。
足早にboyに近寄ると、その肩を掴んで言った。

「頼む、血を取らせてくれ」
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