小さなプロローグ
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sideL
シキさんは12月の半ばに来て、1月10日まで滞在する予定だと、ワイミーさんが教えてくれた。
余りにも何度も私が尋ねたからだろう。シキさんに日程を尋ねてくれたそうだ。
だが、今日はもう12月の25日。誰がどう見ても“半ば”は過ぎている。
ここ数日、私の機嫌は段々悪くなっていっている。
夏以降、それなりに交流ができる様になったハウスの子供達(もちろん、初めに喧嘩を仕掛けてきた奴らは、論外だ)も、この所恐る恐るとしか話しかけ来ない。
楽しくおしゃべりなど、する気にならないから、全く気にはならないのだが。
儘ならない世の中にため息を吐きながら、今朝一番に人が集まる場所へ行ってみる。
もしかしたら、シキさんがハウスに居るのではないか? そんな淡い期待を抱きながら。
ハウスに飾られたクリスマスツリーの下に、ローレンス家の紋章の入ったプレゼントが置かれていたので、一瞬期待したのだが、シキさんは居なかった。
ハウスの個人個人に当てられたローレンス家からの贈り物は、シキさんがひとつずつ考えたのだろう。それぞれに合った贈り物が贈られていた。
仲の良いエマには、センスの良い洋服。ワイミーさんには、カシミヤのシックな色の膝掛け。
「ほら、エルの分もありますよ」
ワイミーさんが、手渡してくれた小さな小箱の中には、いつかと同じ金平糖が詰め込まれていた。
ふと、コレはシキさんからの謝罪なのだと気が付いた。
ワイミーさんは予定を尋ねる時にきっと正直に、こう言っただろう『エルが、貴女が来るのを楽しみに待っています』と。
何故、予定通りにならなかったのかは、分からないが、モヤモヤと私の周りを取り巻いていた、黒いモヤの様なものが少し、晴れた様な気がした。
12月26日。長い間世間を騒がせていた、通り魔が、ようやく逮捕されたらしい。それには、とある人の助言があった様だ。
いまイギリスの警察は、犯人では無くその恩人とも言える人を探し出すのに躍起になっている。感謝状を送るにも、相手がわからないのでは如何ともし難いからだ。
警察が公開した手掛かりは、Lと言う、一字のみだった。
オールドイングリッシュと言う書体で書かれたそれに、何故かドキドキした。自分の名前と同じL。
新聞の報道では、ここ二年程、Lと言う何者かの助言により、解決した事件が有ったのだとか。
“名探偵L事件を解決へ”
いわゆるワイドショーとでも言う様な番組が、センセーショナルに今回の通り魔事件の報道をはじめたが、ハウスの子供達によって、どこが面白いのかよく分からないアニメ番組へと変えられてしまった。
後で、ワイミーさんに資料をお願いしてみよう。私は何故かワクワクしながら、そのLたるもののことを考えた。
何故かシキさんの顔が頭の中にチラついたが、彼女は今日も来ない。退屈な時間ーー暇つぶしに……そのもう一人のLなる人物はもってこいだった。
過去にその人が解決に導いたと言われる事件の内容と、今回の通り魔事件の詳細をパソコンに表示する。
何故このLと言う人は、身分を明かさないのだろうか? 一体どんな人なのだろうか?
調べて分かったのが、Lの最初の事件とも言うべき事件が、ごく小さな田舎町で起こった事件である事、小さな子供達の連続誘拐殺害事件であり、最後の被害者になりかけたのが何とシキさんであったことぐらいだ。
シキさんには、そんな過去が有ったのだと、驚いた。エマは知っているのだろうか?
「エマさん、シキさんの事なのですが」
ちょうどよく、エマを見かけたので尋ねてみる。そうしたら、物凄い勢いで怒られた。
「絶対シキに聞いちゃダメだからね。怖い思いをしたのに、思い出したら可哀想」
「はい、尋ねません。シキさんが嫌な思いをするのは、私も好みません。ただ、エマさんがシキさんから何か聞いていないかと思ったので」
「事件の後暫く外出させて貰えなかったのが大変だった見たいよ。9月16日でしょ、事件があったの。その後、クリスマスまで一歩も家から出して貰えなかったって、憤慨してたわ。いい? エル。最近貴方、少しまともになってきたと思ってるけど、シキに嫌な思いをさせたら、私たちは許さないから」
肝に銘じておく様に、と捨て台詞を吐いて、立ち去っていくエマ。
だから私もシキさんに、嫌な思いはさせたくは、ありませんって! まあ、聞いてませんねエマ……
結局、名探偵Lの事で分かることは、それほど無かった。しかし、彼の人の後を追う様に事件に目を通しながら、同じ推理の道を辿ってゆくのは面白かった。シキさんが、なかなか来ない事に対する不満は、いつの間にか小さくなり、私は、名探偵Lの足跡を追うのに腐心する様になっていた。名探偵Lとやらを見つけても、警察に教えてやる気はさらさら無いが……
シキさんが、ハウスに姿を見せたのは、今年も終わるという、12月31日の事だった。
雪が積もる仲、ハウスの子供達は外へ出て、雪遊びをしていた。
シキさんが到着したのはすぐに分かった。雪遊びに夢中だった子供達が、一斉にハウスの門へと集まったからだ。
背の高い子供達の影になって、来訪者が見えない。つまり訪れたのは背の低い人物で、こんな日に訪れるとしたら、もともと12月半ばには訪れると、予定していたシキさん以外に考えられない。
大勢の子供達に囲まれて、ハウスへと入って来たシキさんは、窓際で外を眺めたままの私に向かって、穏やかないつもの笑顔を見せてくれた。
そして、シキさんが、ハウスに来てからと言うもの、私の名探偵Lに対する興味は急速に消えていった。
ただ、シキさんが家に帰ってしまうと、また思い出しては、名探偵Lの足跡を追うのだった。
シキさんは12月の半ばに来て、1月10日まで滞在する予定だと、ワイミーさんが教えてくれた。
余りにも何度も私が尋ねたからだろう。シキさんに日程を尋ねてくれたそうだ。
だが、今日はもう12月の25日。誰がどう見ても“半ば”は過ぎている。
ここ数日、私の機嫌は段々悪くなっていっている。
夏以降、それなりに交流ができる様になったハウスの子供達(もちろん、初めに喧嘩を仕掛けてきた奴らは、論外だ)も、この所恐る恐るとしか話しかけ来ない。
楽しくおしゃべりなど、する気にならないから、全く気にはならないのだが。
儘ならない世の中にため息を吐きながら、今朝一番に人が集まる場所へ行ってみる。
もしかしたら、シキさんがハウスに居るのではないか? そんな淡い期待を抱きながら。
ハウスに飾られたクリスマスツリーの下に、ローレンス家の紋章の入ったプレゼントが置かれていたので、一瞬期待したのだが、シキさんは居なかった。
ハウスの個人個人に当てられたローレンス家からの贈り物は、シキさんがひとつずつ考えたのだろう。それぞれに合った贈り物が贈られていた。
仲の良いエマには、センスの良い洋服。ワイミーさんには、カシミヤのシックな色の膝掛け。
「ほら、エルの分もありますよ」
ワイミーさんが、手渡してくれた小さな小箱の中には、いつかと同じ金平糖が詰め込まれていた。
ふと、コレはシキさんからの謝罪なのだと気が付いた。
ワイミーさんは予定を尋ねる時にきっと正直に、こう言っただろう『エルが、貴女が来るのを楽しみに待っています』と。
何故、予定通りにならなかったのかは、分からないが、モヤモヤと私の周りを取り巻いていた、黒いモヤの様なものが少し、晴れた様な気がした。
12月26日。長い間世間を騒がせていた、通り魔が、ようやく逮捕されたらしい。それには、とある人の助言があった様だ。
いまイギリスの警察は、犯人では無くその恩人とも言える人を探し出すのに躍起になっている。感謝状を送るにも、相手がわからないのでは如何ともし難いからだ。
警察が公開した手掛かりは、Lと言う、一字のみだった。
オールドイングリッシュと言う書体で書かれたそれに、何故かドキドキした。自分の名前と同じL。
新聞の報道では、ここ二年程、Lと言う何者かの助言により、解決した事件が有ったのだとか。
“名探偵L事件を解決へ”
いわゆるワイドショーとでも言う様な番組が、センセーショナルに今回の通り魔事件の報道をはじめたが、ハウスの子供達によって、どこが面白いのかよく分からないアニメ番組へと変えられてしまった。
後で、ワイミーさんに資料をお願いしてみよう。私は何故かワクワクしながら、そのLたるもののことを考えた。
何故かシキさんの顔が頭の中にチラついたが、彼女は今日も来ない。退屈な時間ーー暇つぶしに……そのもう一人のLなる人物はもってこいだった。
過去にその人が解決に導いたと言われる事件の内容と、今回の通り魔事件の詳細をパソコンに表示する。
何故このLと言う人は、身分を明かさないのだろうか? 一体どんな人なのだろうか?
調べて分かったのが、Lの最初の事件とも言うべき事件が、ごく小さな田舎町で起こった事件である事、小さな子供達の連続誘拐殺害事件であり、最後の被害者になりかけたのが何とシキさんであったことぐらいだ。
シキさんには、そんな過去が有ったのだと、驚いた。エマは知っているのだろうか?
「エマさん、シキさんの事なのですが」
ちょうどよく、エマを見かけたので尋ねてみる。そうしたら、物凄い勢いで怒られた。
「絶対シキに聞いちゃダメだからね。怖い思いをしたのに、思い出したら可哀想」
「はい、尋ねません。シキさんが嫌な思いをするのは、私も好みません。ただ、エマさんがシキさんから何か聞いていないかと思ったので」
「事件の後暫く外出させて貰えなかったのが大変だった見たいよ。9月16日でしょ、事件があったの。その後、クリスマスまで一歩も家から出して貰えなかったって、憤慨してたわ。いい? エル。最近貴方、少しまともになってきたと思ってるけど、シキに嫌な思いをさせたら、私たちは許さないから」
肝に銘じておく様に、と捨て台詞を吐いて、立ち去っていくエマ。
だから私もシキさんに、嫌な思いはさせたくは、ありませんって! まあ、聞いてませんねエマ……
結局、名探偵Lの事で分かることは、それほど無かった。しかし、彼の人の後を追う様に事件に目を通しながら、同じ推理の道を辿ってゆくのは面白かった。シキさんが、なかなか来ない事に対する不満は、いつの間にか小さくなり、私は、名探偵Lの足跡を追うのに腐心する様になっていた。名探偵Lとやらを見つけても、警察に教えてやる気はさらさら無いが……
シキさんが、ハウスに姿を見せたのは、今年も終わるという、12月31日の事だった。
雪が積もる仲、ハウスの子供達は外へ出て、雪遊びをしていた。
シキさんが到着したのはすぐに分かった。雪遊びに夢中だった子供達が、一斉にハウスの門へと集まったからだ。
背の高い子供達の影になって、来訪者が見えない。つまり訪れたのは背の低い人物で、こんな日に訪れるとしたら、もともと12月半ばには訪れると、予定していたシキさん以外に考えられない。
大勢の子供達に囲まれて、ハウスへと入って来たシキさんは、窓際で外を眺めたままの私に向かって、穏やかないつもの笑顔を見せてくれた。
そして、シキさんが、ハウスに来てからと言うもの、私の名探偵Lに対する興味は急速に消えていった。
ただ、シキさんが家に帰ってしまうと、また思い出しては、名探偵Lの足跡を追うのだった。