小さなプロローグ
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部屋の中にいたのは、同じぐらいの年齢の男の子だった。
暗い部屋の中には、孤児院という施設には珍しいパーソナルコンピュータが置かれている。 その前の床に蹲るように座っていた少年が、顔だけ振り返って訝しげにこちらを見る。
「はじめまして。今日から20日間ハウスでお世話になるシキと申します。こちらは貴方のお部屋ですか?」
「はい、私の部屋です」
困った、いつも同じ部屋を借りていたから、今回もそうだと思い込んでいた。ワイミーさんに確認を取らなかったのもまずい。
「ごめんなさい。部屋を間違えたみたいです」
トランクを持ち続けるのが辛くなって来て、ドアの横に一度下ろす。
「あの、貴方のお名前を聞いてもいい?」
「……Lです」
「 ! エル?」
「はい、アルファベットのLそれが私の名前です。ワイミーさんならもう少ししたらここに来ます。良かったら待っててください」
それだけ言うと、彼ーLはまた、パソコンの画面へと視線を戻してしまった。
部屋の中は、私が使わせてもらっていた時と代わり映えしない、ベットと机があり、小さな備え付けのクローゼットが有る至ってシンプルな部屋だった。しかしながら床には様々な書籍や印刷物が散らばっていてその隙間を埋めるように、小さなトレーに盛り込まれた、クッキーやキャンディが置かれていた。
どうぞ、と言われても、足の踏み場もない。躊躇う気配を察知したのか、Lはのそりと動いて、散らばっていた数冊の本を積み上げた。
人一人分出来た隙間に、礼を言いながら座る。
暗闇に慣れた目が、積み上げられた書籍のタイトルを読み取り始める。
ほぼ全てがそれぞれ別の分野の専門書。そして、その中でもかなりレベルの高いものだ。
パソコンの画面に目をやれば、慣れ親しんだグラフが映し出されている。
「ーー株取引」
自分で言うのもなんだが、この年齢で株取引のデータなど見てもさして面白くもない。とは言え、自分の場合それは大事な収入源でも有るのだけれども。それでも、例え株で少々失敗しようとも、我が家の財産には何の影響も及ばさない。
ただ、自分が趣味で使う資金が減るだけだ。
「分かるんですか? 初めてです」
独り言とも言える呟きに、返しがあったことに驚いた。彼は多分人から干渉されるのは嫌いなタイプだ。
「私もやってますから。お小遣い稼ぎ程度ではあるけれど」
「そうなんですね。私の場合は必要にかられて……と言ったところでしょうか。お金が有れば出来ることも増えます。欲しいものも買えます。ハウスに来るまで、私はお金を知識として知っては居ても、何故必要なのか理解していませんでした」
ワイミーズハウスに来る子供達はそれぞれ家庭になんらかの事情を抱えて居る。そしてその多くが孤児だ。年齢からすれば世間とどこかズレて居るLだが、環境がそうさせていたのだろう。
「Lの欲しいものは何?」
株取引で稼いで、彼は一体何に使うのだろう? 突然興味が湧いた。
「欲しいものはーー」
Lが言いかけた途端、ドアが急性にノックされ開けられる。
「シキお嬢様。もう、お着きだったのですね。連絡を忘れていて申し訳ありません。こちらの部屋は十日ほど前から彼の部屋にと与えてありまして、今度から隣の部屋を使って頂いても宜しいですか?」
姿を見せたワイミーさんは、どこか焦ったように室内を見回した。
「はい。部屋は空いて居るところで大丈夫です。ありがとうございます。Lも、居させてくれてありがとう。部屋、隣の部屋の様なので、短い間ですが、よろしくお願いします」
Lは、こくりと頷くと、パソコン脇の紙に何かを書きつけ始めた。
邪魔をしてはいけないと、ワイミーさんと静かに部屋を後にする。ドアの横にあったトランクはさりげなくワイミーさんが隣の部屋まで運んでくれた。
「シキ。宜しかったら、私の部屋でお昼にしませんか? 今日は朝からバタバタしていて、まだ昼食を取れていないのです。付き合って頂けると嬉しいのですが」
ワイミーさんからの素敵なお誘いに勿論と答えて、部屋を後にする。
ーー新しい部屋には、一輪の鮮やかなオレンジの薔薇が飾られていた。
暗い部屋の中には、孤児院という施設には珍しいパーソナルコンピュータが置かれている。 その前の床に蹲るように座っていた少年が、顔だけ振り返って訝しげにこちらを見る。
「はじめまして。今日から20日間ハウスでお世話になるシキと申します。こちらは貴方のお部屋ですか?」
「はい、私の部屋です」
困った、いつも同じ部屋を借りていたから、今回もそうだと思い込んでいた。ワイミーさんに確認を取らなかったのもまずい。
「ごめんなさい。部屋を間違えたみたいです」
トランクを持ち続けるのが辛くなって来て、ドアの横に一度下ろす。
「あの、貴方のお名前を聞いてもいい?」
「……Lです」
「 ! エル?」
「はい、アルファベットのLそれが私の名前です。ワイミーさんならもう少ししたらここに来ます。良かったら待っててください」
それだけ言うと、彼ーLはまた、パソコンの画面へと視線を戻してしまった。
部屋の中は、私が使わせてもらっていた時と代わり映えしない、ベットと机があり、小さな備え付けのクローゼットが有る至ってシンプルな部屋だった。しかしながら床には様々な書籍や印刷物が散らばっていてその隙間を埋めるように、小さなトレーに盛り込まれた、クッキーやキャンディが置かれていた。
どうぞ、と言われても、足の踏み場もない。躊躇う気配を察知したのか、Lはのそりと動いて、散らばっていた数冊の本を積み上げた。
人一人分出来た隙間に、礼を言いながら座る。
暗闇に慣れた目が、積み上げられた書籍のタイトルを読み取り始める。
ほぼ全てがそれぞれ別の分野の専門書。そして、その中でもかなりレベルの高いものだ。
パソコンの画面に目をやれば、慣れ親しんだグラフが映し出されている。
「ーー株取引」
自分で言うのもなんだが、この年齢で株取引のデータなど見てもさして面白くもない。とは言え、自分の場合それは大事な収入源でも有るのだけれども。それでも、例え株で少々失敗しようとも、我が家の財産には何の影響も及ばさない。
ただ、自分が趣味で使う資金が減るだけだ。
「分かるんですか? 初めてです」
独り言とも言える呟きに、返しがあったことに驚いた。彼は多分人から干渉されるのは嫌いなタイプだ。
「私もやってますから。お小遣い稼ぎ程度ではあるけれど」
「そうなんですね。私の場合は必要にかられて……と言ったところでしょうか。お金が有れば出来ることも増えます。欲しいものも買えます。ハウスに来るまで、私はお金を知識として知っては居ても、何故必要なのか理解していませんでした」
ワイミーズハウスに来る子供達はそれぞれ家庭になんらかの事情を抱えて居る。そしてその多くが孤児だ。年齢からすれば世間とどこかズレて居るLだが、環境がそうさせていたのだろう。
「Lの欲しいものは何?」
株取引で稼いで、彼は一体何に使うのだろう? 突然興味が湧いた。
「欲しいものはーー」
Lが言いかけた途端、ドアが急性にノックされ開けられる。
「シキお嬢様。もう、お着きだったのですね。連絡を忘れていて申し訳ありません。こちらの部屋は十日ほど前から彼の部屋にと与えてありまして、今度から隣の部屋を使って頂いても宜しいですか?」
姿を見せたワイミーさんは、どこか焦ったように室内を見回した。
「はい。部屋は空いて居るところで大丈夫です。ありがとうございます。Lも、居させてくれてありがとう。部屋、隣の部屋の様なので、短い間ですが、よろしくお願いします」
Lは、こくりと頷くと、パソコン脇の紙に何かを書きつけ始めた。
邪魔をしてはいけないと、ワイミーさんと静かに部屋を後にする。ドアの横にあったトランクはさりげなくワイミーさんが隣の部屋まで運んでくれた。
「シキ。宜しかったら、私の部屋でお昼にしませんか? 今日は朝からバタバタしていて、まだ昼食を取れていないのです。付き合って頂けると嬉しいのですが」
ワイミーさんからの素敵なお誘いに勿論と答えて、部屋を後にする。
ーー新しい部屋には、一輪の鮮やかなオレンジの薔薇が飾られていた。