ツイステ夢 短編集
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魔法で浮かべられたシャンデリアに、空を見上げるくらい高い天井と本棚。空中には、本を取り出したり、人を案内したりするロボットが数体。そしてそれらを含んでも、アフリカゾウを入れたとしても、それらが小さく見えるほど幅広いスペース。
そんな大きな図書館は貴重な本も貸出している為、出身国、年齢、性別、名前を記入して貰っているのだ。
それも、ええ、大きい図書館ですから。
ふと顔を見上げると男の子が見えた。
小さな頃から、同い年かそれより上くらいの。魔法薬で人間の姿になってまで、陸随一と謳われる大きな図書館に入り浸る努力家くん。
何故人間じゃないことを知っているかは、私の家がこの図書館を経営しているからにある。タコと書かれてあったとき、最初に思ったのが醤油だったことは今でも忘れない。アイラブジャパン。ジャパンというのは、私の親戚が絶望しながら発していた言葉である。最後まで「ジャァパァァァンンン……」と「オシ・ガァーーー」と不思議な鳴き声をしていた。ちなみに親戚はそのあとオシ・ガァーというものを自分で作り出すことにしたらしい。流石、デッキブラシに乗って「お願いっ、飛んで!!」と言ってた奴のことだけはある。
おっと、話が反れたね。努力家くんは、最初はプクプクしてたのに今じゃシュッとしている。なんというか、努力家な事はそこですぐに分かった。ダイエット方法をぜひとも教えてもらいたい。そう思って見つめていたら、ハマるわ、ハマるわ。
だってさ、自分の手をニョキッと増やして勉強に使ったり休ませたりしてるの凄すぎない? しかも余らせた手はペン回ししたりとか。ペン回し私出来ないから、ダイエット方法の次に教えて欲しいや。え、いや、やろうと思えば出来るんだけどいつの間にか消えてるんだよね。
あと何より凄いのが、海の中の知識量。私は図書館経営者の娘であるし本は沢山読める立場だが、それでも見られない知識はあった。例え禁書を読めたとしても理解するのは難しいし、それ以前に陸の知識に偏っている。それに比べてあのタコさんは海や水中の知識が半端なかった。ああ、いつか知識を共有したい。そして世界をもっと知りたい。
……と、努力家くんのことを考えていく内に、あるものが心の中で翼を生やしてくる訳ですよ。
友達になりたい!!!!
これ1択しか無いでしょう。という訳で、話したくて十メートルくらい離れて本棚の影に隠れているんですが、私に新たな影が差してきましてね。ええ、それも背の高い2つの影が。実は前から気配はあったものの、今回直接絡んでくるとは思わなかった。
「なぁに、お前。アズールのこと好きなの〜?」
アズール、とは私が今一番友達になりたい人である。そしてこの人達はアズールさんの取り巻きAとB.実際にはJとFだけど。
「好きですけど全然」
「は? どっちだし」
「いやだから両方」
「あ?」
「い?」
「……こいつ締めていいかな」
「ダメです」
即答するとタレ目な取り巻きFが黙った。と思いきや、クスクスと笑い始める。釣られたのか取り巻きJも肩を震わせ始めた。私は密かに電動式歯ブラシを思い出していた。
何が面白いのかと聞けば、「いえ、普通の人間がここまで食いついてきたことはないので」と返される。普通??普通って何ですか?? 貴方達何と戦ってるんですか??
怪訝顔で対応していると、ガタッと音がした。振り向くとアズールさんが席を立っていた。「ジェイド、フロイド。どこですか?」とキョロキョロして沢山あった手をいっぺんに消す姿に「友達になりたい」と思わず声を漏らす。
そのとき、とても驚いた顔の双子には気づかなかった。
*
らっぁっしゃいしゃいやせーー!! と何語か分からない店員の声が響く。
取り巻きJ,もとい(奢ってくれたからジェイドさんとちゃんと呼ぶことにした)ジェイドさんは今さっき届いたパフェを差し出しながら微笑んだ。隣の取り巻きFは不機嫌顔でこちらを見ている。やめろその眉間のシワに『えいえいっ』しちゃうぞ。
「……あのさぁ、なんで友達になりたいわけ?」
「話してみたいから」
「友達にならなくても話せるじゃん」
「そうですよ。僕達みたいに」
そう言ってニッコリ笑う長身双子に口元が引きつる。そういう意味じゃないし、こんな堂々と「友達じゃない」って言われたの初めてやぞ。ズズズ…、とファミレスの中で啜るメロンジュースがもっと冷たい気がしてきた。お母さん、胃が痛いです。少女漫画でよくある氷ふっかける奴あるけど、そんなんやったら「え、殺す」で始まって「なんかムカつく殺す」でギュッギュッされちゃうと思うんだよね。もはや殺すしか言ってないぞ取り巻きF。
そもそも何故、アズールさんに友達申請しようとしたのに双子と一緒に居るんだっけ。ああ、思い出した。「なんか面白そう」と強制連行されたんだった。人のこと気まぐれではしご担ぎするのはやめなさい。
「それにアズールは友達というのを実感したことがありませんし」
「……へぇ」
事も無げに「そうなんだ」と呟くと、ジェイドさんと取り巻きFはぱちくりと目を瞬かせる。
その様子をじっと見ていると、店員がシーフードドリアを置きに来た。匂いに釣られるようにしてシーフードドリアの方に目線を向けたとき、______私は噎せた。
「では、アズールの前に私達双子と付き合うのはどうでしょう?」
ゲホッ、と料理を食べる前に激しく咳き込んだ私に店員が心配してくる。介護しようとしてくれる店員に断りを入れつつ、原因をキッと睨んだ。前言撤回。取り巻きJさんに戻してやろうか。それに何だ『付き合う』って。普通に友達になりましょうでいいじゃないか。
「ああ、誤解されていそうなので言っておきます。友達になりたい訳ではありませんよ。だって僕達は……」
「『友達』なんて分かんないし」
ニヤニヤニヤニヤ。くそう。この男どもの目を見ていると分かる。完全に「面白そうなんで」と書いてあるからだ。決して本気の恋人申請ではない。
なぜ、こうなった。
「さあ? 僕達に目を付けられた幸運に感謝ですかね」
「……逆ですけど?」
「俺達はその逆の逆なわけ」
なんでそんな自信満々に答えるのか本当に意味が分からないけど、とりあえず私は逆の逆の逆を望ませてもらおう。そして思考放棄を望む。
パクリ! と、どんどん口の中に放り込まれていく食べ物に双子達の動きが止まる。ついでに双子達の皿からもエビとキノコを盗った。取り巻きFからのフォーク振り下ろし攻撃を避けて無難に口に頬張る。ちらりと目を向ければ取り巻きJが絶望した顔で見ていた。
「は? キノコ盗るとか貴方鬼ですか??」
「仕返しですが何か」
あまりにもショックそうだったので、盗ったキノコより多めに入ったキノコ尽くしを注文した。ついでにさっき拾った世にも珍しい毒キノコを渡しておいた。すると取り巻きJさんの顔が光った。いや、物理的に光ったとかじゃなくてこう……眩しい笑顔と言いますか。それを取り巻きFと一緒に鑑賞した。毒キノコは海の中では中々見られないとか何とか言っている。
へい、店員。
サングラスぷりーず。
*
「ご馳走様でした」
結局はあの双子に払われてしまったので、語気が下がりながらも礼を言う。礼を言うとまたあの不思議な笑みが帰ってきた。
付き合いたいとは言われたものの、『見たことがある人』の扱いは変わらない。ドラマでよく見る「家まで送っていきます」なんてのはなく、ただ単に私の数少ない連絡先一覧に『NEW』が2つ増えただけだった。周囲の女性の視線を掻っ攫うデカ双子にハァ……と溜め息が溢れる。
ああ……。私はアズールさんと友達になりたいだけなのに。
♦
その後も双子との奇妙な関係は続いた。アズールさんのフレンド申請を勝手に消された。あいつらデバフだ。アズールさんの目の前に座ろうとすれば、取り巻きJに本を大量に置かれ、挙句にその大量の本の山が崩れた。大変面倒臭かったが取り巻きJを助けることに。
反対に、取り巻きFの方は爆睡してたので毛布を掛けてやったら、後日丁寧に紙袋に入れてまで返されていた。ちなみに本人手渡しではなく受付の方に届いていたし、その受付が何故かキャーキャーしていたのが謎で、謎で、仕方ない。ギャーギャーはこっちが言いたい。
双子は双子でも、似てない部分は当たり前にも沢山あった。元気が良さげなら嬉しい気持ちを沢山聞いてあげた。聞いて、その気持ちを分けてもらったしWin-Winの関係じゃないかな。逆に元気が無さそうな日は、見ていて可哀想に思えたので出来る限り側に居てやることにした。いつしかスリーマンセルになってた。恋人関係? 何それ美味しいの?
ある日、私は思った。
あれ? アズールさんにフレンド申請してなくない?
アカン。これはアカン。
そんなこんなで絶望した顔で、ぼうっと歩いていたのが原因だったのかもしれない。
「そこの女、あのクソオクタの女だな?」
「……はい?」
急に現れたガラの悪そうな人達に囲まれた。と思えば、勢い良く頭を下げられ土下座される。
ちょっと待て。テンプレどこに行った。
ガラの悪そうな人達は叫んだ。
「無理を承知でお願いします!! 人質役になって下さい!!!」
頭を擦り付ける、いかにも同い年っぽそうな学生達に唖然とした。人質とは?
聞けば、近々行われる学校のイベントにサバゲーのようなものがあるらしい。サバゲーもまた親戚から教えて貰った言葉だが、どうやら私だけでなく他の人にも「サバゲー」という単語を布教していたようだ。恐るべし親戚。
とにかく、そのサバゲーには毎年双子に痛い目を見ているらしく、もし人質が居れば今年こそ勝てるのではないかとのこと。
「俺達、今回が最後のイベントなんです……だから」
「だから_____ズルしようって?」
「え?」
聞こえなかったのか、はたまた理解出来なかったのか。明らかに後者だろうけど私はもう一度「ズルしたいんだね」と言ってやった。
「双子が勝てるのは努力してるから。私は努力してる姿は読書でしか見たことがないけど。で、貴方達は? こんなズルを企画してるくらいなら練習でもどうかな? 練習だったら私はいくらでも付き合うよ」
双子は確かに分かりにくい。けど勉強している姿は図書館でならば知っている。あのとき本の山が崩れたとき。罰として双子に仕舞うことを命じたとき。あいつらは、本の題名だけを見て元の位置に仕舞えたんだ。それを見て確信した。双子はただ図書館に来て、読書しているだけじゃないことに。それをコイツらは知らない。そして努力を無かったことにして踏みにじろうとしている。
うーん……。改めて考えてみると腹立つな。
胸元からマジカルペンを取り出して、1つ、呪文を唱えるとしよう。
「イターイ、イターイ」
飛ばなーい。
マジカルペンが光ったのを見せつけながら、にっこりと笑う。
「はい。これで当日下痢になる魔法を掛けました」
嘘だけどね。
そう言った瞬間、私を囲んでいた男達がヒィッ! と無様な声をあげて、顔を青くしながら逃げていった。その様子にケラケラと笑っていると、またあの影が2つ出来る。ついでに両肩が重い。
「ねぇねぇ、いつの間にそんな面白い魔法を見つけたわけぇ?」
「あー、あれですか。嘘ですよ」
「じゃあマジカルペンが光ったのは?」
「普通に光らせただけかな」
「……」
「……」
私を含めた3人が一斉に黙る。
かと思いきや、プッと吹き出した誰かの音をきっかけに私達は腹を抱え始めた。
「っはは!! あれは無いねぇ」
「ククッ、そうですね。……フフッ」
確かにあれはおかしかったね。
二人の名前を言いながら返すと両脇のデカ男達は固まってしまった。何だよ急に…。
あっ。
「取り巻きFとJっていう呼び名気に入ったのか」
「……」
どうやらこれも違ったらしい。無言で両肩に力を加えてくる二人に本当に見当が付かない。名前を呼び捨てしたから怒ったんだと思ったんだけどな。「ごめん今度からウツボって呼ぼうか?」と謝る。今度は無言で優しく頭をはたかれた。
まさに海のギャングは気まぐれと言えよう。
こいつらがギャングなら、さながら私は子分①だろうか。
♦
[chapter:とあるタコの受難]
最近、二人の様子が可笑しい。
僕ことアズール・アーシェングロットとしては、1人だけ状況把握していないことにイライラが募った。
最初は気まぐれに僕に着いてきていたのが、今では二人から『図書館』というワードが出る始末。もしかしたら……。ジェイドの方はともかく、フロイドは頭を打ったのかもしれない。
別の意味で心配し始めたとき、僕は調査に乗り出すことにした。
で?
……僕は一体何を見させられているのか。遠くから3人組の声が聞こえる。
「ウツボってタコが大好物だってさ」
「は? 何それ」
「確かに大好物ではありますね」
「え、じゃあアズールさん食べられちゃう?」
「食べねーよ。……それより食いたいもんあるし」
フロイドの最後の言葉に目を見開いた。フロイドがふいっと、女の子とは逆の位置にいるジェイドへと顔を背ける。それを見た女の子は「ハッ! 共食い……」と見当違いなことを言っていた。絶対違うと思う。
気付けば、フロイドとジェイドと帰っていた。
帰り道、どちらも『女の子』の話を一切しないことに、またもや驚いた。分かったことと言えば、少しだけ僕に対する言葉当たりが強くなったぐらいか。これはいつものことだ。何故か、図書館帰りの時だけは当たりが強くなる。
と、帰り道の途中まで来て忘れ物を思い出してしまった。ガサゴソと鞄の中を漁ってみるが、筆箱が見つからなくて冷や汗が流れる。
「俺らが探してきてあげよーか?」
フロイドの言葉に何故か縦には頷けなかった。
なんとなく、遅くなりそうな気がする。
そんな気持ちで走って図書館に戻ってきた訳だが。
「……頭が痛いですね」
眠らされたのか、ぐったりした様子の『女の子』が拐われたシーンを目撃してしまった。ユニーク魔法を使ったのか、一瞬で消えてしまった犯行にこれからの苦労が垣間見えた。
ああ……。
当分、あの二人は荒れそうである。
そしてもう一つ頭が痛いことに、
_____犯人は同じ制服を着ていた。
♦【キャラ紹介】
主人公
関係の始まりが始まりなものだから、全くもって気づく気配は無い。
ジェイド
優しさにやられた。
フロイド
健気さにやられた。
タコ
見てしまった記憶を消去したい人。
犯人たち。
小学生の姿を纏った探偵や、祖父に探偵を持つ探偵に見つかった時よりも逃げたほうが良い人たち。
逃げて。