竈門家のお姉ちゃん
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あのあと私は寝てしまったらしい。
眠気がどっと押し寄せてまだ眠いとき、お母さんからの声で意識が覚醒していく。だけど眠かった。瞼が開かないでいると今度は低い声がしてくる。お父さんの声だ。
「燈火。起きて父さんと一緒に行こうか」
ハッとした。いつの間にか私に掛けられていた羽織がふわっと畳の上に落ちる。すっかりヒノカミ神楽のことを忘れていた。
「お父さん……。ごめんなさい」
泣きそうになってお父さんを見るとお父さんは何も言わずに微笑んでいた。ただ「大丈夫」と言うだけで。
少し安心したが、もうすぐ夜が明けてしまう。夜が明ける前にやらなければいけないのに。急いで身支度を整えた。
お母さんは炭治郎をおんぶ紐で背中にやり、禰豆子は腕に抱いていた。寒いので何重にも厚着をしていた。
「じゃあ、行こうか」
お父さんの合図でお母さんと一緒に返事をする。戸締まりをして私たちは家を出た。
家に出ると、雪が月の光を反射していて雪だけが目立っていた。しかしあまり見えないので行灯を持ったお父さんが先導していた。
ザクザクと雪を踏み込む度に視界には藤の花が写り込む。両親は今のところ誰かが置いてくれている程度にしか思っていなかった。
数十分か歩くと突然お父さんが止まった。周りには灯籠のような木だけが円を描いていた。そこにお父さんが順に火を付けていく。
「用意するから待っていてくれ」
そう言ってお父さんはあの衣装を着た。顔には炎と書かれた面妖な紙を付け、燃える火を表したかのような紅い羽織を着た。
カッコいいなと思ってボーッとしていると、お父さんは既に燃える木の中で立っていた。手には燃えた棒を持っている。
そしてタン、と足を一歩出した。すっと足を横にずらすようにステップが組み込まれていく。ああ、踊りなのだと今更ながら理解した。
お父さんが踊り続けるなか横からお母さんの説明が入った。曰く、うちは竈門という名前だけあって火を扱う仕事をしているので、ヒノカミ様に怪我や災いが起こらないように舞いを捧げてお祈りするらしい。ちなみに舞いはヒノカミ神楽と言うのだと。
私はなんでか格好悪いと思った。だって本当に災いが起こっていないのだろうか。お父さんの痩せこけ始めた頬はどうと言うのだろうか。まだ若いのにお父さんはそれでもヒノカミ神楽を新年に踊り続けている。
「……」
一生懸命やっているお父さんの目の前で思うことじゃない。
だけど見過ごせなかった。お父さんに薬草を渡しているのに、お父さんは何故かお母さんの料理しか口にしかなかった。なんでだろう。なぜだろう。
私にはお父さんがよく分からなかった。