竈門家のお姉ちゃん
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ゲンノショウコ、ヨモギ、ドクダミ……等々、山で手に入れた薬草をかごに詰めていると軍服のような黒い服を着た人が下に見えた。
相手は下の道を歩いているので、上の段にいる私には気付いていない。その軍服の背には「滅」の字があった。あれが老人の言っていた鬼殺隊の隊員なのだろう。
もっと見ようと崖の近くまで匍匐前進をする。どうやら鬼殺隊の隊員は1人しか居ないらしい。気配が1人だけしかしなかった。念のため辺りを見回したが本当に1人だけのようだ。そこまで見て私の頭の中で何かがピコンと思い立った。
「……」
""____『鬼殺隊の隊員は皆、特殊な刀を持っているんじゃ』""
頭の中で老人の言葉が甦る。私は静かにその場で立ち上がった。目をきょろきょろと動かして大きめの石を探すとそれを右手に持った。
五歩くらい下がってから、ステップを踏みながら思い切り石を飛ばす。石は遠くに飛ぶと木や草に当たってカサカサと音を立てた。下にいる鬼殺隊員が音の鳴った方向を向く。
今だろう。
スー、と歯の隙間から空気を出すように息を少しずつはく。まだ慣れていない全集中の呼吸である。そして気付かれないように鬼殺隊員の首をめがけて飛び降りた。
隊員に近づいてくると察したのかこちらを振り向こうとする。だが顔を知られては面倒臭いので足を伸ばし、頭を蹴って強制的に外を向かせた。
そのまま体重を掛けて、板を倒すように背中も蹴って押し倒そうとする。しかし流石は隊員と言ったところか、顔を見られないのは成功したが揺れただけで倒れはしなかった。
ならば、と体が地に落ちる前に髪の毛を引っ張りバランスを取ると、足を胴に巻き付けて鳩尾を刺激した。隊員は悲鳴をあげると振り回すように体を揺らし始める。
現在足を胴に巻き付けて保っている私であるのでそれは効かなかった。逆に酔いそうになったが。最後に頭を後ろに下げて勢いよく隊員の後ろ頭を目掛ける。後ろに頭を下げたせいで隊員がよろけそうになったが、それでも倒れはしなかった。
ゴツン、と嫌な音が鳴った。それを機に隊員は前に倒れていったので、巻き添えを食らわないように隊員の背中を蹴って後方へと飛んだ。息は稽古のおかげで切れてはいなかったが、心臓が未だに荒波を打っていた。
まだ起きているかもしれないので警戒しながら隊員に近寄る。隊員は気絶していた。もしかして殺られると思ったショックで気絶したのだろうか。もしそうならば有難いことである。私の手は隊員の腰へと伸びていく。
それはカチャリと音が鳴った。ひんやりとした感触が改めて刀なのだと理解していく。これは盗みだ。悪いことだとは思っている。だけど。だけどね。守る手段を選ばずにはいられないのだ。
「ごめんね。藤の花を大量に置いていくから」
そう言って私は先ほど集めていた薬草と藤の花を隊員の周りに置いていった。なんだか死人に花を添えている気分である。なんとも言えない苦い気分になった。
もちろん老人には内緒の出来事である。両親には言おうという心さえ無い。きっとその心はこれからも生まれることはないだろう。私は両手で黒く鈍く光る刀を持ち、刀を持つという重みを味わった。この刀は自分の寝床に眠らせることにするとしよう。
しばらく見つめ、刀を握り締めながら走り帰った。
その日はなかなか寝付けなかった。