竈門家のお姉ちゃん
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私は赤ん坊の頃から記憶があった。
記憶は、なんの変哲もない大人が平々凡々な一生を終えるというもの。しかし今となっては平々凡々では無かったことが分かる。
近未来な環境でその大人は生きていた。ここではあり得ない物だらけだったが、なんとなく自分なのだろうと直感した。
知識をそこから貰い、成長して少し可愛げのない子供になったがそれでも家族は愛情を注いでくれた。そんな私は竈門家の長女である。
最近できつつある日課は産まれた弟を見守ること。昨日はやっと「ねぇね」と呼んでくれた。うちの子かわいい。
私は弟が出来てからというものの色んなことを聞くようになった。全ては家族が幸せに暮らす為である。
1つめに山野で拾った葉っぱや花を母さんや地元の人に聞き回った。炭治郎が間違って毒を食べないようにする為だ。
2つめにこの時代の料理の作り方。材料は貴族や記憶とは違うので、麦飯だったり魚だったりするのが多かった。
だからこそレパートリーを増やしたいと思って色んな人たちに聞いて試すようになった。今では家族たちの料理番は週に2日だけだが私である。
ただ、味となるとまだ母さんに勝てたことはない。父さんはいつも母さんをべた褒めしていた。私も褒めて貰って食卓は温かかった。
3つめに女としての磨きかた。これは炭治郎の影響だった。新しい家族のお姉ちゃんとして周りからよく見られたいという自己満足的なものである。
地元の人から化粧品を貰ったり買ったりし、母さんからはそれらの使い方を聞いたりした。父さんは鼻血をよく出していた。
最後に体を鍛える方法。これは……。とある人の話を聞いて決めたことだった。町から離れたところに住む老人の話である。よく山野に出ては薬草を拾う私を窘めるように言った言葉が原因だった。
『小さいのに偉いなぁ。くれぐれも鬼に狙われんじゃないぞ』
老人は私の頭を撫でながら言った。その目はとても強い思いが込められているように感じた。鬼とは。それはなんだと聞くと老人はすらすらと答えてくれた。声が大きくなっていったのはそれほど何かあったのだろう。
『鬼か? 鬼はなぁ、人をあっという間に食っちまう化け物のことじゃ。あれほど恐ろしい生き物はない』
悲痛そうな顔で話す老人は色んなことを話してくれた。曰く、鬼は日輪刀と呼ばれる特殊な刀でないと倒せないこと。曰く、鬼は藤の花が嫌いなこと。曰く、鬼は___元は人間で残酷なまでに人を食べてしまうこと。
ひゅ、と喉が鳴った。頭の中は笑顔で私を呼ぶ家族のことで一杯だったからだ。そんな私を見てか、老人は私に語りかけるように言葉をゆっくりと紡ぐ。『強くなりたいか?』と。答えは1つしかなかった。
_____それが『呼吸』と『体術』の訓練を始めたきっかけである。
老人に会うことは伝えたが、その内容は両親には内緒だった。心配する両親の顔を見るのは心が痛かったので、今は老人を両親に紹介して稽古のことは伏せつつ老人の家にいることになっている。
鬼を倒す鬼殺隊という存在が居るらしいが常に守ってくれる訳ではない。だからこそ自分が強くなるべきなのだ。
稽古をするなかで両親に愚痴を溢すことはもちろん、辛いときに話し掛けられず、話すことも心が許さないのはとても辛い。
だけど大切なものを失くすよりは良いと考えると冷静になれた。それに私には炭治郎がいる。老人が何故私を鍛えてくれるかは分からないが何も聞かずに私は黙って稽古を受けた。家族を守られるのならば何でもいい。
今日も日が暮れる前に藤の花を家の周りに撒いてから帰宅した。藤の花は町であったのをこっそり拝借したものである。
帰宅すると奥の台所からお母さんの呼ぶ声がした。次に風呂場からお父さんの声が聞こえてくる。異口同音に「おかえり」という言葉が家に広がった。
それに嬉しくなって女らしくない大声で返事をする。足は居間に寝ている炭治郎へと向かっていた。炭治郎はすやすやと寝ていた。私はゆっくりと近くに腰を下ろして、炭治郎の丸まった手に人差し指を通す。ぎゅ、と炭治郎が握った。
「あいしてるよ、たんじろー」
私の枯れた声に反応して炭治郎が寝ながら身をよじる。手を頬に当てるとすり寄ってきた。流石うちの子。めっちゃ可愛い。好き。