夢見の旅人
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アトラが絶望した次の日。
なかなかベッドから出てこないのでカミラが呼びに行くと、どもりながら「おはようございます」と言ってきた。まるで他人のように。
アトラは終始、ボーっとしていた。
朝食を、初めて食べるかのようにパンをひとくち食べては、パンの裏表を交互に見て、スープにつけてまた食べる。
様子がおかしいので、今日は雪かきできるかと聞くと、「こんな雪でわがまま言えないよね」と言い、スコップを手に取った。
友達がもう遊びに出るような時間も、隣人が仕事に出るような時間も、かまわず雪かきを続けた。
そもそも、友達と会うことをやめた。
市場に出て買い物を教えて欲しいと言うので、連れていくと、値段の計算をつぶやきながら復習していた。
友達が通りすがると買った荷物をカミラに押し付けていたのに、友達が向こうから来てもかまわず率先して荷物を「持つよ」と言った。
「無理はしなくていい」と言うと、「無理をしているのはお母さんでしょ」と返す。
カミラは最初こそ、娘は実情を知って改心したのだと思った。
しかし、どうにも様子がおかしかった。
その後すぐ、カミラが病に倒れると、アトラはカミラの看病を始めた。
妙によそよそしかった。まるで義理の娘のように。
「頑張ってきた証拠だよ」
カミラが手を見つめて、仕事ができないことを嘆くと、アトラはそう言った。
「誇らしい」と思うよりも、普段言わない言葉にカミラはキョトンとした。
遊びに来ない娘を気にして、ふたりの友達が家に来た。アトラは遊びを断った。
「ごめん。前も言ったけどもう無理なんだ」
「あっそ。なんか、付き合悪くなったね。一日くらいいいじゃん」
家のこと以上の問題にはならなかったので、カミラはいままで娘の友達付き合いに口出ししてこなかった。
それでも、少々わがままが過ぎる子たちだと日ごろから思っていた。
「あのねえ。こっちはお母さんが病気で倒れて、もう生活もギリギリなの。ふつう、心配したり、配慮したりするものでしょう。友達なら、それくらいしたら?」
けんかになるどころか、まるで第三者のように叱った。年近い子どもなら偉そうと取られるような態度。
「なに、偉そうに。というか、あんたは友達じゃないし」
「うん。ごめんね」
アトラは、拒絶に、拒絶で返した。
友達だから彼女たちは家まで来たというのに、年頃らしい言葉だ。しかしそれに、アトラは癪に障る対応をする。友達ではないことを、肯定した。
相手も、友達ではないと言い切ったからにはもう引っ込められない。
お互いの拒絶で終わった。
友人だった二人組は、玄関の扉を乱暴に閉めて帰った。
「ここで、友達なんて選べないでしょう」
あまりに軋轢があると、村八分になることを心配して、カミラは注意するようにアトラに言った。
「病気の母親を捨てるようなことをするくらいなら、友達も、この村もいらない」
カミラは、あまりの返事にぞっとした。
この村で、自分の見栄を気にして立ち回る娘だった。
幼いころから、ずっと。
あきらかに、自分の娘ではない。
見栄の種類が、まったく違う。
それからカミラは、正体の分からない、優しくしてくれる娘が恐ろしく、彼女もまた義理の親のように接した。
それでも、生活は続いてゆく。
病気がすこしマシになった日。カミラはなんとかアトラの叔父の家に援助を求めに行く。
彼は、感染を気にしてカミラの手に触れぬようお金を渡そうとすると、お金を雪の上に落としてしまった。
「す、すまん」
カミラも彼も、お互い、手が震えていた。
――恐ろしくても、生活を続けていかなくては。娘がどんなに変わろうとも。
カミラは家に帰り、濡れたお金をアトラに渡す。すぐにいつものカゴを持って、アトラは市場に出掛けた。
アトラは市場から帰ると、城勤めの召喚状を持っていた。
「明日から使用人として働けるようになったから、行ってくるね。来年の寒気も越せるかも」
家仕事を嫌っていたアトラが、生活のためにと率先して使用人の仕事に勤めだしたことに、カミラはあっけにとられた。
続いても、最初のうちだけ。
そう思っていたのもつかの間。
アトラは、それから使用人を生涯勤め続けた。
その後、アトラはカミラの体を温める青燐水式の暖房器具を買い、家に備え付ける青燐水タンクを新調し、節約して市場で買った食べ物や城の余った食材をもらってきてはカミラに振舞った。
ふたりとも体格が近くなったことから、2人で使える服を新調するまでになった。
カミラがアトラにしていたことは、倍になって返ってきていた。
おかげで、まだ45歳というカミラの体は回復した。
働きすぎの疲労。食べ物を食べなかった栄養失調。冷えからくる体調不良だったために、二次症状の風邪とやせ細った体で重病に見えていただけだった。
こういった症状に必要なのは、薬と並行して、食べ物と、女の人は冷え取りのために体を温めること。
そして布団で寝れば回復。
カミラはまた、近所付き合いをしながら細々と仕事を再開した。
もう体を壊さないように、気を使いながら。
変わった娘に感謝しながら。
なかなかベッドから出てこないのでカミラが呼びに行くと、どもりながら「おはようございます」と言ってきた。まるで他人のように。
アトラは終始、ボーっとしていた。
朝食を、初めて食べるかのようにパンをひとくち食べては、パンの裏表を交互に見て、スープにつけてまた食べる。
様子がおかしいので、今日は雪かきできるかと聞くと、「こんな雪でわがまま言えないよね」と言い、スコップを手に取った。
友達がもう遊びに出るような時間も、隣人が仕事に出るような時間も、かまわず雪かきを続けた。
そもそも、友達と会うことをやめた。
市場に出て買い物を教えて欲しいと言うので、連れていくと、値段の計算をつぶやきながら復習していた。
友達が通りすがると買った荷物をカミラに押し付けていたのに、友達が向こうから来てもかまわず率先して荷物を「持つよ」と言った。
「無理はしなくていい」と言うと、「無理をしているのはお母さんでしょ」と返す。
カミラは最初こそ、娘は実情を知って改心したのだと思った。
しかし、どうにも様子がおかしかった。
その後すぐ、カミラが病に倒れると、アトラはカミラの看病を始めた。
妙によそよそしかった。まるで義理の娘のように。
「頑張ってきた証拠だよ」
カミラが手を見つめて、仕事ができないことを嘆くと、アトラはそう言った。
「誇らしい」と思うよりも、普段言わない言葉にカミラはキョトンとした。
遊びに来ない娘を気にして、ふたりの友達が家に来た。アトラは遊びを断った。
「ごめん。前も言ったけどもう無理なんだ」
「あっそ。なんか、付き合悪くなったね。一日くらいいいじゃん」
家のこと以上の問題にはならなかったので、カミラはいままで娘の友達付き合いに口出ししてこなかった。
それでも、少々わがままが過ぎる子たちだと日ごろから思っていた。
「あのねえ。こっちはお母さんが病気で倒れて、もう生活もギリギリなの。ふつう、心配したり、配慮したりするものでしょう。友達なら、それくらいしたら?」
けんかになるどころか、まるで第三者のように叱った。年近い子どもなら偉そうと取られるような態度。
「なに、偉そうに。というか、あんたは友達じゃないし」
「うん。ごめんね」
アトラは、拒絶に、拒絶で返した。
友達だから彼女たちは家まで来たというのに、年頃らしい言葉だ。しかしそれに、アトラは癪に障る対応をする。友達ではないことを、肯定した。
相手も、友達ではないと言い切ったからにはもう引っ込められない。
お互いの拒絶で終わった。
友人だった二人組は、玄関の扉を乱暴に閉めて帰った。
「ここで、友達なんて選べないでしょう」
あまりに軋轢があると、村八分になることを心配して、カミラは注意するようにアトラに言った。
「病気の母親を捨てるようなことをするくらいなら、友達も、この村もいらない」
カミラは、あまりの返事にぞっとした。
この村で、自分の見栄を気にして立ち回る娘だった。
幼いころから、ずっと。
あきらかに、自分の娘ではない。
見栄の種類が、まったく違う。
それからカミラは、正体の分からない、優しくしてくれる娘が恐ろしく、彼女もまた義理の親のように接した。
それでも、生活は続いてゆく。
病気がすこしマシになった日。カミラはなんとかアトラの叔父の家に援助を求めに行く。
彼は、感染を気にしてカミラの手に触れぬようお金を渡そうとすると、お金を雪の上に落としてしまった。
「す、すまん」
カミラも彼も、お互い、手が震えていた。
――恐ろしくても、生活を続けていかなくては。娘がどんなに変わろうとも。
カミラは家に帰り、濡れたお金をアトラに渡す。すぐにいつものカゴを持って、アトラは市場に出掛けた。
アトラは市場から帰ると、城勤めの召喚状を持っていた。
「明日から使用人として働けるようになったから、行ってくるね。来年の寒気も越せるかも」
家仕事を嫌っていたアトラが、生活のためにと率先して使用人の仕事に勤めだしたことに、カミラはあっけにとられた。
続いても、最初のうちだけ。
そう思っていたのもつかの間。
アトラは、それから使用人を生涯勤め続けた。
その後、アトラはカミラの体を温める青燐水式の暖房器具を買い、家に備え付ける青燐水タンクを新調し、節約して市場で買った食べ物や城の余った食材をもらってきてはカミラに振舞った。
ふたりとも体格が近くなったことから、2人で使える服を新調するまでになった。
カミラがアトラにしていたことは、倍になって返ってきていた。
おかげで、まだ45歳というカミラの体は回復した。
働きすぎの疲労。食べ物を食べなかった栄養失調。冷えからくる体調不良だったために、二次症状の風邪とやせ細った体で重病に見えていただけだった。
こういった症状に必要なのは、薬と並行して、食べ物と、女の人は冷え取りのために体を温めること。
そして布団で寝れば回復。
カミラはまた、近所付き合いをしながら細々と仕事を再開した。
もう体を壊さないように、気を使いながら。
変わった娘に感謝しながら。