夢見の旅人
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アトラの母、カミラは、明らかに娘が変わったことに気が付いていた。
寒い土地では、誰もが必死に生きている。
アトラも同じだった。父親がいたころは普通の農家の生活を送っていた。
しかし、父親がいなくなり生活が苦しくなっても、アトラの姿勢は変わらなかった。
友達と同じように見せかけるため、必死に振る舞った。
排除されないために。
アトラは、自分と仲良くしてくれる友達のために頑張った。
「友達をやめる」と言われるのを恐れた。
父親は、行方不明としかわかっていない。書き置きも、痕跡もない。
仕事に行くと言って、それっきりだった。
母親が譲ってくれる食べ物を、アトラは遠慮なく食べた。生きるために、遠慮は命取りだ。
アトラはできるだけ、手がひどく荒れる仕事は避けていた。雪かきは早めに終わり、掃除も程よいところでやめる。
それでも変わらず、カミラは農家としての仕事を全うした。
畑を耕し、市場に売り、農業組合にも卸す。
永遠の雪国で家事をこなす。男仕事の雪かきも行う。
それでも、消耗だけしていって、生活が楽になることはない。苦しい生活だった。
もう限界も近いというとき、アトラは言った。
「お母さん」
「なに」
「お父さんはいつ帰ってくるの」
一度もされなかった質問だった。
娘なりの配慮だろう。
「さあね」
本当にわからなかった。実際、帰ってきてくれたらどれだけいいだろうか。
拗ねたようにカミラが答えれば、アトラは淡々と本題を言う。
「お父さんって農業組合に入ってたよね」
「そうだけど」
「組合の援助金って出る?」
「え、なんで?」
「死亡援助金みたいなのって出た?」
カミラは怒りと悔しさが、複雑に入り混じった感情で顔がこわばった。
「出るに決まってるでしょ……使ったわよ」
「え、いつ?」
「ぜんぶ、あんたの腹ん中よ」
アトラの顔は絶望に染まった。
援助金を当てにしていたから、我慢できた。いつか母親が、潤沢に晩御飯を彩るだろうと。そう期待していたのだろう。
しかし、援助金と言っても、延々と出るわけでもない。多くもらったからといって、贅沢ができる状況ではない。
アトラは、そのことがわかっていなかった。
カミラの、自分の分を削って娘に渡していたものも、仕事を一途に頑張った努力も、伝わっていなかった。
もちろん、伝えるつもりなく、そんなそぶりは見せなかった。
お互いに「まさか」だった。
余裕があると思っていたから、アトラは仕事を選んでいた。
さまざまなことに合点がいき、カミラは肩を落とした。
「まったく……」
娘が絶望していても、そんなことに構える状況ではなかった。
そろそろ、食料が尽きる、そんな夜。
アトラが変わってしまった。
寒い土地では、誰もが必死に生きている。
アトラも同じだった。父親がいたころは普通の農家の生活を送っていた。
しかし、父親がいなくなり生活が苦しくなっても、アトラの姿勢は変わらなかった。
友達と同じように見せかけるため、必死に振る舞った。
排除されないために。
アトラは、自分と仲良くしてくれる友達のために頑張った。
「友達をやめる」と言われるのを恐れた。
父親は、行方不明としかわかっていない。書き置きも、痕跡もない。
仕事に行くと言って、それっきりだった。
母親が譲ってくれる食べ物を、アトラは遠慮なく食べた。生きるために、遠慮は命取りだ。
アトラはできるだけ、手がひどく荒れる仕事は避けていた。雪かきは早めに終わり、掃除も程よいところでやめる。
それでも変わらず、カミラは農家としての仕事を全うした。
畑を耕し、市場に売り、農業組合にも卸す。
永遠の雪国で家事をこなす。男仕事の雪かきも行う。
それでも、消耗だけしていって、生活が楽になることはない。苦しい生活だった。
もう限界も近いというとき、アトラは言った。
「お母さん」
「なに」
「お父さんはいつ帰ってくるの」
一度もされなかった質問だった。
娘なりの配慮だろう。
「さあね」
本当にわからなかった。実際、帰ってきてくれたらどれだけいいだろうか。
拗ねたようにカミラが答えれば、アトラは淡々と本題を言う。
「お父さんって農業組合に入ってたよね」
「そうだけど」
「組合の援助金って出る?」
「え、なんで?」
「死亡援助金みたいなのって出た?」
カミラは怒りと悔しさが、複雑に入り混じった感情で顔がこわばった。
「出るに決まってるでしょ……使ったわよ」
「え、いつ?」
「ぜんぶ、あんたの腹ん中よ」
アトラの顔は絶望に染まった。
援助金を当てにしていたから、我慢できた。いつか母親が、潤沢に晩御飯を彩るだろうと。そう期待していたのだろう。
しかし、援助金と言っても、延々と出るわけでもない。多くもらったからといって、贅沢ができる状況ではない。
アトラは、そのことがわかっていなかった。
カミラの、自分の分を削って娘に渡していたものも、仕事を一途に頑張った努力も、伝わっていなかった。
もちろん、伝えるつもりなく、そんなそぶりは見せなかった。
お互いに「まさか」だった。
余裕があると思っていたから、アトラは仕事を選んでいた。
さまざまなことに合点がいき、カミラは肩を落とした。
「まったく……」
娘が絶望していても、そんなことに構える状況ではなかった。
そろそろ、食料が尽きる、そんな夜。
アトラが変わってしまった。