【FF14】メイドさんの夢旅行
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アトラは、静かな夢の中にいた。
夜の真っ黒な海が広がっていた。
足がすくむほどの星の輝きを、暗い海が静かに映している。
アトラの足元、白い砂浜がかすかにその輪郭を浮かび上がらせている。
アトラはそのまま腰を下ろす。波が、記憶をさらっていくような音を立てていた。
その波間に、まだ語られていない物語が光の粒となって浮かんでいた。
アトラは光の粒に顔を近づける。
アーモロートの広場で見た花火に浮かんでいた、あの記憶の数々が思い出された。
アトラが一人、膝を抱えて座っていると──
「お前、なぜこんなところにいる」
声のほうに顔を向けると、そこには古代人の姿をしたエメトセルクが立っていた。
「ここ、どこなんですか?」
「星海の手前、生者の世界の向こう側――
ここは、どこにも属さぬ場所。
物語を続けるお前と、物語を終えた私が交わる、刹那の狭間だ」
彼もまた、何も命じず、何も命じられぬ、ただの魂の残響だった。
「どうしてこんなところに……」
「……私が、呼んだのかもしれんな」
エメトセルクはアトラの隣に腰を下ろし、星空と海を静かに見つめた。
かつて旅の終わりに、一度だけ彼と星を見上げた記憶が、アトラの中に蘇る。
一拍置いてアトラは驚く。
「えっ……もう行っちゃうんですか? だって、まだ早いですよ」
エメトセルクが眉間のしわを深くしながら、手を口元に当て考え込む。
「……そうか。時系列がずれているのだろうな。ここには、時間の概念などない。
お前の現実では、私はまだ生きているのか」
「……あ、ああ……そういうこと、なんですね……」
エメトセルクが星海へ還る“その時”。
なぜか、まだ少女であるアトラと、彼の魂は交差していた。
(だって……ソル帝でさえ、私が七十歳のおばあちゃんになっても、生きてるはず)
アトラは心の中で、年数と情報を改めて確認した。
「旅の記憶をもらった相手だからな……どうやら、思った以上に縁が深くなっているらしい」
「ふふ。私のせいですね」
「お前は知っていたか?
自分の魂が、この世のものと異邦の魂が混ざっているものだと」
「ヒュトロダエウスさんに会うまでは知らなかったです」
「……それを確かめるために、お前を皇室に引き入れたのだったな」
「そうだったんですか!?
私てっきり、素行を認められたとばかり……」
「それで選べばすぐに後悔していただろうな。
牢屋を南国リゾートにするやつが、どこにいる」
「その節は、どうもすみません……」
「すぐ調子に乗ることに一貫していたな……」
「は、ははは……」
「それにお前、今までぼかしていたが……私の正体をちゃんと知っているのだろう? でなければ、ここで会話が成立するはずがない」
「あっ……バレちゃいました?」
「お前一体何者だ?」
「実は、「この世界が物語になっている」世界から転生して来たんです」
かくかくしかじか。アトラは手短に説明する。
「……とんでもない話だな。だが、それすらもこの星では珍しくない気がしてきた。
まあそのデタラメにも、魂が混ざっていることの説明はつくが……」
死んだ者との会話――本来なら交わることのない、贅沢な時間。
ぽつぽつと、心に沈んでいた思いが浮かび上がり、少しずつ言葉になる。
ここではふたりぼっち。暗闇のおかげで、暗に隠れた話や気持ちが漂っても、遮られることはない。
「アトラ」
「はい?」
「もうひとつの魂の名はなんだ」
アトラはきょとんとする。
それは、あまりに突然で、けれど懐かしい問いだった。
隣を見てみれば、黄金の輝きを秘めた瞳と視線が交差する。
暗闇でも、よく見えた。
「絵理沙です」
「絵理沙か」
エメトセルクは静かに胸の内で名前を馴染ませた。
小さく口の中で繰り返すように、そっと唇を動かして。
たとえ記憶が波間に沈もうと、この名を呼ぶことに意味がある。
「エメトセルク様のもうひとつのお名前は?」
「私か? さて、どうするか。
そもそも、それも知っているのではないか?」
「なっ……ここは、ここは教える流れでしょう!」
エメトセルクはもったいぶって教えようとしない。
(絵理沙としてなら、知ってるけれど……今の私はアトラ。だからこそ、本人の口から聞きたい)
なかなかエメトセルクが折れないので、アトラは諦めることにした。この気持ちも海に流すことにする。
「……私、決めたんです。
この世界のこと、古代世界のこと……
全部記録に残してみようと思います」
絵理沙の記憶とアトラの目で見たもの──
使用人――メイドさんになってから書き続けた手帳をもとに、自分の見てきたもの。
それらを頼りに、できる限りの情報を記録として残し、人々の未来の糧としたい。
“新生”した帝国で、学びながら。
「きっと、英雄様はお忙しいでしょうから。彼のことも私、記録していきます。
エメトセルク様とは関わりの深い方ですし。
まあ、シャーレアンで論文書いてたりするかもしれませんが……」
「そうか。
残すことを担うというなら
私も名前を言わないわけにもいかないか」
海に流したはずの願い事が、波に押し返されて戻ってくる。
「我が名はハーデス。
英雄に敗れたばかりの、敗北者だ」
彼にしては、珍しく弱気な物言いだった。
しかし、その目はどこか清々しい。
英雄に、光の斧で星に還ってきたそのすぐ後の時系列。
海の向こうに、語られるべき物語がまだいくつも残っているような気がした。
(ああ……まだ海に行って、カイロスで焼き付いた記憶を洗ってないから、最後の役目にはまだ行き着いてないんだ)
「ハーデスさん。
星海に行っても大変ですよ」
――まだアナウンス役残ってんすから。
アトラは心のなかで合掌した。
「……寒気がすることを言うな」
本人も予感はあるらしい。
「……お名前、ちゃんと残しておきます」
空に浮かぶ、星座を作るように。
どこまでも長く、その言葉が続くように。
「それなら、思い残すことはない。
私たちは、確かに生きていたんだ」
エメトセルクは満天の星を見つめる。
その壮大さは、アトラにとって畏れるような景色であり、この世界では墓標のようにも見えた。
あの星のひとつが、やがて――
エメトセルク、いやハーデスの生きた証になる。
その光は、きっとどこかで、誰かが見上げる夜に輝くだろう。
「おまえは……絵理沙は、そろそろ帰らなくてはな」
エメトセルクが立ち上がる。
「わかりました……ハーデスさん。
星海でも、しばらくお元気で」
「ああ。絵理沙もな」
風が微かに頬を撫でる。
黒い髪が風に遊ばれた。
アトラは驚いて自分の髪を指先で掴む。
“絵理沙”だったころの髪。
髪が戻っているなら、おそらく見た目も戻っているだろう。
この世界だけに現れる、魂としての姿。
けれど、エメトセルクには最初からわかっていた。
魂を視ることのできる、その目で、アトラを、絵理沙を。
だからこそ、その姿の名を呼んだ。
アトラは、そっと顔をほころばせた。
この夢が終わるまで、あと少しだけ、静かな時間が流れていた。
夜の真っ黒な海が広がっていた。
足がすくむほどの星の輝きを、暗い海が静かに映している。
アトラの足元、白い砂浜がかすかにその輪郭を浮かび上がらせている。
アトラはそのまま腰を下ろす。波が、記憶をさらっていくような音を立てていた。
その波間に、まだ語られていない物語が光の粒となって浮かんでいた。
アトラは光の粒に顔を近づける。
アーモロートの広場で見た花火に浮かんでいた、あの記憶の数々が思い出された。
アトラが一人、膝を抱えて座っていると──
「お前、なぜこんなところにいる」
声のほうに顔を向けると、そこには古代人の姿をしたエメトセルクが立っていた。
「ここ、どこなんですか?」
「星海の手前、生者の世界の向こう側――
ここは、どこにも属さぬ場所。
物語を続けるお前と、物語を終えた私が交わる、刹那の狭間だ」
彼もまた、何も命じず、何も命じられぬ、ただの魂の残響だった。
「どうしてこんなところに……」
「……私が、呼んだのかもしれんな」
エメトセルクはアトラの隣に腰を下ろし、星空と海を静かに見つめた。
かつて旅の終わりに、一度だけ彼と星を見上げた記憶が、アトラの中に蘇る。
一拍置いてアトラは驚く。
「えっ……もう行っちゃうんですか? だって、まだ早いですよ」
エメトセルクが眉間のしわを深くしながら、手を口元に当て考え込む。
「……そうか。時系列がずれているのだろうな。ここには、時間の概念などない。
お前の現実では、私はまだ生きているのか」
「……あ、ああ……そういうこと、なんですね……」
エメトセルクが星海へ還る“その時”。
なぜか、まだ少女であるアトラと、彼の魂は交差していた。
(だって……ソル帝でさえ、私が七十歳のおばあちゃんになっても、生きてるはず)
アトラは心の中で、年数と情報を改めて確認した。
「旅の記憶をもらった相手だからな……どうやら、思った以上に縁が深くなっているらしい」
「ふふ。私のせいですね」
「お前は知っていたか?
自分の魂が、この世のものと異邦の魂が混ざっているものだと」
「ヒュトロダエウスさんに会うまでは知らなかったです」
「……それを確かめるために、お前を皇室に引き入れたのだったな」
「そうだったんですか!?
私てっきり、素行を認められたとばかり……」
「それで選べばすぐに後悔していただろうな。
牢屋を南国リゾートにするやつが、どこにいる」
「その節は、どうもすみません……」
「すぐ調子に乗ることに一貫していたな……」
「は、ははは……」
「それにお前、今までぼかしていたが……私の正体をちゃんと知っているのだろう? でなければ、ここで会話が成立するはずがない」
「あっ……バレちゃいました?」
「お前一体何者だ?」
「実は、「この世界が物語になっている」世界から転生して来たんです」
かくかくしかじか。アトラは手短に説明する。
「……とんでもない話だな。だが、それすらもこの星では珍しくない気がしてきた。
まあそのデタラメにも、魂が混ざっていることの説明はつくが……」
死んだ者との会話――本来なら交わることのない、贅沢な時間。
ぽつぽつと、心に沈んでいた思いが浮かび上がり、少しずつ言葉になる。
ここではふたりぼっち。暗闇のおかげで、暗に隠れた話や気持ちが漂っても、遮られることはない。
「アトラ」
「はい?」
「もうひとつの魂の名はなんだ」
アトラはきょとんとする。
それは、あまりに突然で、けれど懐かしい問いだった。
隣を見てみれば、黄金の輝きを秘めた瞳と視線が交差する。
暗闇でも、よく見えた。
「絵理沙です」
「絵理沙か」
エメトセルクは静かに胸の内で名前を馴染ませた。
小さく口の中で繰り返すように、そっと唇を動かして。
たとえ記憶が波間に沈もうと、この名を呼ぶことに意味がある。
「エメトセルク様のもうひとつのお名前は?」
「私か? さて、どうするか。
そもそも、それも知っているのではないか?」
「なっ……ここは、ここは教える流れでしょう!」
エメトセルクはもったいぶって教えようとしない。
(絵理沙としてなら、知ってるけれど……今の私はアトラ。だからこそ、本人の口から聞きたい)
なかなかエメトセルクが折れないので、アトラは諦めることにした。この気持ちも海に流すことにする。
「……私、決めたんです。
この世界のこと、古代世界のこと……
全部記録に残してみようと思います」
絵理沙の記憶とアトラの目で見たもの──
使用人――メイドさんになってから書き続けた手帳をもとに、自分の見てきたもの。
それらを頼りに、できる限りの情報を記録として残し、人々の未来の糧としたい。
“新生”した帝国で、学びながら。
「きっと、英雄様はお忙しいでしょうから。彼のことも私、記録していきます。
エメトセルク様とは関わりの深い方ですし。
まあ、シャーレアンで論文書いてたりするかもしれませんが……」
「そうか。
残すことを担うというなら
私も名前を言わないわけにもいかないか」
海に流したはずの願い事が、波に押し返されて戻ってくる。
「我が名はハーデス。
英雄に敗れたばかりの、敗北者だ」
彼にしては、珍しく弱気な物言いだった。
しかし、その目はどこか清々しい。
英雄に、光の斧で星に還ってきたそのすぐ後の時系列。
海の向こうに、語られるべき物語がまだいくつも残っているような気がした。
(ああ……まだ海に行って、カイロスで焼き付いた記憶を洗ってないから、最後の役目にはまだ行き着いてないんだ)
「ハーデスさん。
星海に行っても大変ですよ」
――まだアナウンス役残ってんすから。
アトラは心のなかで合掌した。
「……寒気がすることを言うな」
本人も予感はあるらしい。
「……お名前、ちゃんと残しておきます」
空に浮かぶ、星座を作るように。
どこまでも長く、その言葉が続くように。
「それなら、思い残すことはない。
私たちは、確かに生きていたんだ」
エメトセルクは満天の星を見つめる。
その壮大さは、アトラにとって畏れるような景色であり、この世界では墓標のようにも見えた。
あの星のひとつが、やがて――
エメトセルク、いやハーデスの生きた証になる。
その光は、きっとどこかで、誰かが見上げる夜に輝くだろう。
「おまえは……絵理沙は、そろそろ帰らなくてはな」
エメトセルクが立ち上がる。
「わかりました……ハーデスさん。
星海でも、しばらくお元気で」
「ああ。絵理沙もな」
風が微かに頬を撫でる。
黒い髪が風に遊ばれた。
アトラは驚いて自分の髪を指先で掴む。
“絵理沙”だったころの髪。
髪が戻っているなら、おそらく見た目も戻っているだろう。
この世界だけに現れる、魂としての姿。
けれど、エメトセルクには最初からわかっていた。
魂を視ることのできる、その目で、アトラを、絵理沙を。
だからこそ、その姿の名を呼んだ。
アトラは、そっと顔をほころばせた。
この夢が終わるまで、あと少しだけ、静かな時間が流れていた。