【FF14】メイドさんの夢旅行
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最後の花火が、夜空に咲いた。
広場の誰もが、余韻に浸っていた。
けれど、ヒュトロダエウスは異変に気づいた。
「……アトラアティウス?」
振り返ると、そこにいるはずの姿が、霞んでいた。
まるで、立ち上る煙のように、輪郭が薄れていく。
ほんの少し、冷たくなったような――いや、違う。何かが、遠ざかっていくような感覚。
(……あれ?)
アトラはふと、自分の手のひらを見た。
その輪郭が、ゆらりと揺れる。
まるで空気に溶けていくように、少しずつ、薄れていっていた。
白い靄が体を包み込んでいる。
(そんな、ばかな……)
カロンは空を見上げていて、エメトセルクは誰にも気づかれないように小さくため息をついている。
彼らはまだ気づいていない。
でも、アトラだけがわかっていた。
(これで、終わりなんだ……
影の案内人の“案内”が終わった……)
旅の記録がイデアになり、あの花火で物語は「完成」した。
完成した物語の住人は、もうこの世界には必要ない。
ゆっくりと、確かに、自分がここから“戻されよう”としている。
それでもアトラは、声を出すのを躊躇った。
この美しい時間に、水を差したくはなかった。
(でも……せめて、ありがとうだけは)
心配そうなヒュトロダエウスの顔、カロンの喜び弾けた横顔。エメトセルクが心に沁みている横顔を見た。
目に焼き付けるように――その姿も、風の匂いも。
少しだけ声が震えたけれど、ちゃんと笑えた気がした。
「ごめんなさい、みなさん……!」
夢幻の力の記録が完了したとき、それは同時に「物語の終わり」を意味していた。
役目が終わった創造物は、元の時代へと引き戻される。
それが、“戻れない”という意味だったとしても。
「ありがとうございました! 今日のこと……忘れません!」
その瞬間、ヒュトロダエウスの表情が変わった。
彼は何かを察したように、アトラへ駆け寄ろうとする。
「アトラアティウス!? ……待って、どういう――」
手を伸ばしても、もう触れられない。
アトラの体は、光とともに淡く揺らいでいた。
カロンの叫びも、もう遠い。
「ええ!? 待って、そんな、急すぎるよ……!」
エメトセルクが、アトラと目を合わせた。
その表情は、何かを飲み込んだ者のそれだった。
「まだ記録に関して、聞いておきたいことがあったというのに……調子のいいやつめ。まったく」
最後にもう一度、アトラは夜空を見上げた。
イデアの花は、まだほんの少しだけ咲き残っていた。
(ああ――きれいだな)
そんなふうに思いながら、アトラは消えていった。
記録も、声も、存在の痕跡さえ何ひとつ残さずに。
***
「陛下、こちらを献上したいのですが」
夜勤の合間にアトラが皇帝の部屋を訪れると、ちょうど彼は目を覚ましたところだった。
アトラは、迷いながらも手にしていたイデアを差し出す。
身分の差や、渡すタイミングも不相応ではあった。
しかし、渡すものが古代の道具なので、別の使用人が挟まると都合が悪い者のため、直接渡すこととなった。
「……私が創ったものを、わざわざ? 持っているのだから、ふたつも必要はない。
お前が持っておいたらどうだ」
すげなく断られたが、持っていてくれていることにアトラは驚いた。
アトラの記憶に触れたとき、ふっと目を伏せて微笑む。
「お前のような奴がいてくれたなら、もう少し違う道もあったかもしれんな
……なんぞ言わん。私はこの道を選んだ。この物語は私のものだ」
アトラはそっと差し出したイデアを引っ込めて、ポケットにしまう。
「何人もの同胞が、このイデアで救われた……そのお礼だけは言っておこう」
窓辺に座る皇帝は、外を眺める。
夜のとばりが下りて、さらに雲が覆っている。月は見えない。
「……あの頃のまま、この道を選んだ。
お前の望んだ結果ではなかったか?」
けれどもその眼差しは、「否定」ではなく「承認」を含んでいる。
かつてなら切り捨てたかもしれない世界に、今はもう、少しだけ目を向けられる。
「私は私の役目を果たす。お前は……好きに歩け。私はこの星を“守る”」
アトラはしばらく、黙って皇帝の横顔を見つめていた。
月が丸く照らす夜の帳の向こうに、何を思っているのか。
あるいは、何を思わないようにしているのか。
その背に積もった覚悟は、もう誰にも降ろせないほど重いのだろう。
「……ありがとうございます」
短く、けれども確かな声で、アトラは言った。
それは礼なのか、別れの言葉なのか、自分でもわからなかった。
けれどその声は、今の彼自身にしか出せない響きを帯びていた。
静かに頭を下げ、背を向ける。
その足取りには、未練も問いかけもない。
ただ、一度きりの未来へ歩き出す人間の歩幅だけがあった。
扉に手をかける前、ふとアトラは立ち止まり、振り返る。
しかし、皇帝はもう窓の外に目を向けたまま動かない。
それでも、アトラは微笑んだ。
誰にも見せない、小さな感謝のような、祝福のような笑みだった。
そして、扉が静かに閉じられる。
夜の静寂だけが、そこに残った。
あの“若者”は、自らを英雄とも救世主とも呼ばなかった。
ただ、人と人のあいだに残されたものを、拾い、繋ぎ、そっと去っていった。
「滑稽なものだな。我が身の道理すら揺らぐとは」
窓に映る己の顔――そこに在るのは、かつての皇帝ではない。
絶対を掲げて戦い続けた、あの頃の眼差しではない。
彼の視線が、ふと机の端に置かれた小さな金属片に向く。
かつて自分が創った“イデア”の原型。
そして、今アトラが手渡しかけた、異なる可能性の鍵。
それを手に取り、皇帝はひとり呟いた。
「……そうだな。語る時は、いずれ来る。
この星の意志が、まだ応えるというのなら――」
広場の誰もが、余韻に浸っていた。
けれど、ヒュトロダエウスは異変に気づいた。
「……アトラアティウス?」
振り返ると、そこにいるはずの姿が、霞んでいた。
まるで、立ち上る煙のように、輪郭が薄れていく。
ほんの少し、冷たくなったような――いや、違う。何かが、遠ざかっていくような感覚。
(……あれ?)
アトラはふと、自分の手のひらを見た。
その輪郭が、ゆらりと揺れる。
まるで空気に溶けていくように、少しずつ、薄れていっていた。
白い靄が体を包み込んでいる。
(そんな、ばかな……)
カロンは空を見上げていて、エメトセルクは誰にも気づかれないように小さくため息をついている。
彼らはまだ気づいていない。
でも、アトラだけがわかっていた。
(これで、終わりなんだ……
影の案内人の“案内”が終わった……)
旅の記録がイデアになり、あの花火で物語は「完成」した。
完成した物語の住人は、もうこの世界には必要ない。
ゆっくりと、確かに、自分がここから“戻されよう”としている。
それでもアトラは、声を出すのを躊躇った。
この美しい時間に、水を差したくはなかった。
(でも……せめて、ありがとうだけは)
心配そうなヒュトロダエウスの顔、カロンの喜び弾けた横顔。エメトセルクが心に沁みている横顔を見た。
目に焼き付けるように――その姿も、風の匂いも。
少しだけ声が震えたけれど、ちゃんと笑えた気がした。
「ごめんなさい、みなさん……!」
夢幻の力の記録が完了したとき、それは同時に「物語の終わり」を意味していた。
役目が終わった創造物は、元の時代へと引き戻される。
それが、“戻れない”という意味だったとしても。
「ありがとうございました! 今日のこと……忘れません!」
その瞬間、ヒュトロダエウスの表情が変わった。
彼は何かを察したように、アトラへ駆け寄ろうとする。
「アトラアティウス!? ……待って、どういう――」
手を伸ばしても、もう触れられない。
アトラの体は、光とともに淡く揺らいでいた。
カロンの叫びも、もう遠い。
「ええ!? 待って、そんな、急すぎるよ……!」
エメトセルクが、アトラと目を合わせた。
その表情は、何かを飲み込んだ者のそれだった。
「まだ記録に関して、聞いておきたいことがあったというのに……調子のいいやつめ。まったく」
最後にもう一度、アトラは夜空を見上げた。
イデアの花は、まだほんの少しだけ咲き残っていた。
(ああ――きれいだな)
そんなふうに思いながら、アトラは消えていった。
記録も、声も、存在の痕跡さえ何ひとつ残さずに。
***
「陛下、こちらを献上したいのですが」
夜勤の合間にアトラが皇帝の部屋を訪れると、ちょうど彼は目を覚ましたところだった。
アトラは、迷いながらも手にしていたイデアを差し出す。
身分の差や、渡すタイミングも不相応ではあった。
しかし、渡すものが古代の道具なので、別の使用人が挟まると都合が悪い者のため、直接渡すこととなった。
「……私が創ったものを、わざわざ? 持っているのだから、ふたつも必要はない。
お前が持っておいたらどうだ」
すげなく断られたが、持っていてくれていることにアトラは驚いた。
アトラの記憶に触れたとき、ふっと目を伏せて微笑む。
「お前のような奴がいてくれたなら、もう少し違う道もあったかもしれんな
……なんぞ言わん。私はこの道を選んだ。この物語は私のものだ」
アトラはそっと差し出したイデアを引っ込めて、ポケットにしまう。
「何人もの同胞が、このイデアで救われた……そのお礼だけは言っておこう」
窓辺に座る皇帝は、外を眺める。
夜のとばりが下りて、さらに雲が覆っている。月は見えない。
「……あの頃のまま、この道を選んだ。
お前の望んだ結果ではなかったか?」
けれどもその眼差しは、「否定」ではなく「承認」を含んでいる。
かつてなら切り捨てたかもしれない世界に、今はもう、少しだけ目を向けられる。
「私は私の役目を果たす。お前は……好きに歩け。私はこの星を“守る”」
アトラはしばらく、黙って皇帝の横顔を見つめていた。
月が丸く照らす夜の帳の向こうに、何を思っているのか。
あるいは、何を思わないようにしているのか。
その背に積もった覚悟は、もう誰にも降ろせないほど重いのだろう。
「……ありがとうございます」
短く、けれども確かな声で、アトラは言った。
それは礼なのか、別れの言葉なのか、自分でもわからなかった。
けれどその声は、今の彼自身にしか出せない響きを帯びていた。
静かに頭を下げ、背を向ける。
その足取りには、未練も問いかけもない。
ただ、一度きりの未来へ歩き出す人間の歩幅だけがあった。
扉に手をかける前、ふとアトラは立ち止まり、振り返る。
しかし、皇帝はもう窓の外に目を向けたまま動かない。
それでも、アトラは微笑んだ。
誰にも見せない、小さな感謝のような、祝福のような笑みだった。
そして、扉が静かに閉じられる。
夜の静寂だけが、そこに残った。
あの“若者”は、自らを英雄とも救世主とも呼ばなかった。
ただ、人と人のあいだに残されたものを、拾い、繋ぎ、そっと去っていった。
「滑稽なものだな。我が身の道理すら揺らぐとは」
窓に映る己の顔――そこに在るのは、かつての皇帝ではない。
絶対を掲げて戦い続けた、あの頃の眼差しではない。
彼の視線が、ふと机の端に置かれた小さな金属片に向く。
かつて自分が創った“イデア”の原型。
そして、今アトラが手渡しかけた、異なる可能性の鍵。
それを手に取り、皇帝はひとり呟いた。
「……そうだな。語る時は、いずれ来る。
この星の意志が、まだ応えるというのなら――」