【FF14】メイドさんの夢旅行
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「お、元気にやってるみたいだね」
アトラが洗濯物を干して、カラの籠を抱えて廊下を移動していると、見覚えのある女性に声をかけられる。
黒髪のポニーテイルに、今日はしっかりとした役職を感じさせる服装をしていた。
「あ……あのときの! とってもお世話になりました。私、アトラといいます。よろしくお願いします」
「うんうん。よかった。」
女性はニカッと笑う。雪に囲まれた国で、珍しく快活な性格をしている。
魔導城への召喚状を譲ってくれた時と同じように快活で、カラカラと笑った。
「私はディアナ。私も城勤めなんだ。よろしくね」
「はい」
ディアナはひらめいたように眉を上げる。
「アトラちゃん。お仕事はどお?」
「覚えることも多くて大変ですけど、なんとかやってます」
「そお」
「はい。あの、ディアナさんは……」
どこにお勤めの方ですか。
アトラがそう尋ねようとすると、ディアナは言葉をかぶせた。
「ところでさ」
「は、はい」
「お願いがあるんだ」
「えっ。なんでしょうか。ぜひ、力になります」
ほかでもない、アトラにとっては好条件の仕事を紹介してくれた恩人である。
アトラは二つ返事で内容も聞かずに請け負った。
「んふ。頼もしーい」
ディアナは不敵に笑った。
アトラは急に悪寒をおぼえる。
「陛下を、籠絡してくれない?」
「……はい?」
籠絡。自分の思いどおりに操ること。
元の世界――絵理沙の記憶では、妲己。玉藻前。など。
つまりは悪女である。
「そもそも陛下と話すなんて無理です!」
「無理なんてことないって。ただ少し、気を引いてくれればいいから」
冗談めかして言ったつもりのディアナの目が、笑っていないことにアトラは気づいた。
「ど、どうしてですか?」
「ねえ、考えたことない? 陛下は確かに強いけれど、その力がずっと正しい方に使われるとは限らない。ガレマールは急速に変わっている。兵器をグレードアップさせすぎるとさ、土地ごと破壊されるかもしれないじゃない? たとえば、蒸発するとか。帝国の兵器なら、可能かもしれないでしょ」
アトラはぞっとした。シタデル・ボズヤ蒸発事件。
遠い未来の話だが、史実通りに行けば、それは現実になることをアトラは知っている。
ディアナの話を黙って聞いた。
「だから、やりすぎないように陛下には国を治めて欲しいんだけど……ちょっと手立てがないのよね。それでね、アトラちゃん」
「はいっ」
「籠絡ってのは言い過ぎたかもしれないけど、目的は変わらない。プロにお願いしたけど、もう何人もリタイアしちゃって。だからアトラちゃん。よかったらお願い!」
ディアナはアトラの片手をとって、懇願する。
「かわいい、いたいけな女の子なら陛下の行き過ぎた行動を止められるかもしれない」
「は、はあ」
なんとも気の抜ける提案であったが、ディアナの顔は真剣そのものだった。
ぐっと力の入った眉間を見ながら、アトラは考える。
平穏に暮らしたいなら、この依頼は断るべきだ――それは明白だ。
けれど。
この世界の知識を持ったまま転生したのは、なぜなのか。
ただ平和に働いて暮らすだけでいいと思っていたのに、母の病も快方に向かい、仕事にも慣れてくると……心のどこかで「知りたい」という欲が芽を出していた。
もしかしたら、エメトセルクに近づけば何かわかるかもしれない。
少しの助力なら、可能かもしれない。
「――大した期待は、しないでくださいね」
情けない保険をかけつつ答えると、ディアナの顔が喜びでほころんだ。
「そこはそれ。なにもあなたひとりに負荷をかけるなんてことしないから。なにかあっても、他の作戦がある。危険を感じたら、そのための連絡手段も渡しておく」
ディアナはバッジ状のリンクパールを、アトラに手渡した。
小さな金属片はアトラの掌で、かすかにきらりと光る。
「これは私の信念。すべては帝国のためにと思ってるの。これからよろしくね。」
――くれぐれも、みんなには内緒でね。
「……はい。よろしくお願いします」
胸の奥にわずかな重みを感じながら、アトラは洗濯かごの取っ手を強く握りしめた。
アトラが洗濯物を干して、カラの籠を抱えて廊下を移動していると、見覚えのある女性に声をかけられる。
黒髪のポニーテイルに、今日はしっかりとした役職を感じさせる服装をしていた。
「あ……あのときの! とってもお世話になりました。私、アトラといいます。よろしくお願いします」
「うんうん。よかった。」
女性はニカッと笑う。雪に囲まれた国で、珍しく快活な性格をしている。
魔導城への召喚状を譲ってくれた時と同じように快活で、カラカラと笑った。
「私はディアナ。私も城勤めなんだ。よろしくね」
「はい」
ディアナはひらめいたように眉を上げる。
「アトラちゃん。お仕事はどお?」
「覚えることも多くて大変ですけど、なんとかやってます」
「そお」
「はい。あの、ディアナさんは……」
どこにお勤めの方ですか。
アトラがそう尋ねようとすると、ディアナは言葉をかぶせた。
「ところでさ」
「は、はい」
「お願いがあるんだ」
「えっ。なんでしょうか。ぜひ、力になります」
ほかでもない、アトラにとっては好条件の仕事を紹介してくれた恩人である。
アトラは二つ返事で内容も聞かずに請け負った。
「んふ。頼もしーい」
ディアナは不敵に笑った。
アトラは急に悪寒をおぼえる。
「陛下を、籠絡してくれない?」
「……はい?」
籠絡。自分の思いどおりに操ること。
元の世界――絵理沙の記憶では、妲己。玉藻前。など。
つまりは悪女である。
「そもそも陛下と話すなんて無理です!」
「無理なんてことないって。ただ少し、気を引いてくれればいいから」
冗談めかして言ったつもりのディアナの目が、笑っていないことにアトラは気づいた。
「ど、どうしてですか?」
「ねえ、考えたことない? 陛下は確かに強いけれど、その力がずっと正しい方に使われるとは限らない。ガレマールは急速に変わっている。兵器をグレードアップさせすぎるとさ、土地ごと破壊されるかもしれないじゃない? たとえば、蒸発するとか。帝国の兵器なら、可能かもしれないでしょ」
アトラはぞっとした。シタデル・ボズヤ蒸発事件。
遠い未来の話だが、史実通りに行けば、それは現実になることをアトラは知っている。
ディアナの話を黙って聞いた。
「だから、やりすぎないように陛下には国を治めて欲しいんだけど……ちょっと手立てがないのよね。それでね、アトラちゃん」
「はいっ」
「籠絡ってのは言い過ぎたかもしれないけど、目的は変わらない。プロにお願いしたけど、もう何人もリタイアしちゃって。だからアトラちゃん。よかったらお願い!」
ディアナはアトラの片手をとって、懇願する。
「かわいい、いたいけな女の子なら陛下の行き過ぎた行動を止められるかもしれない」
「は、はあ」
なんとも気の抜ける提案であったが、ディアナの顔は真剣そのものだった。
ぐっと力の入った眉間を見ながら、アトラは考える。
平穏に暮らしたいなら、この依頼は断るべきだ――それは明白だ。
けれど。
この世界の知識を持ったまま転生したのは、なぜなのか。
ただ平和に働いて暮らすだけでいいと思っていたのに、母の病も快方に向かい、仕事にも慣れてくると……心のどこかで「知りたい」という欲が芽を出していた。
もしかしたら、エメトセルクに近づけば何かわかるかもしれない。
少しの助力なら、可能かもしれない。
「――大した期待は、しないでくださいね」
情けない保険をかけつつ答えると、ディアナの顔が喜びでほころんだ。
「そこはそれ。なにもあなたひとりに負荷をかけるなんてことしないから。なにかあっても、他の作戦がある。危険を感じたら、そのための連絡手段も渡しておく」
ディアナはバッジ状のリンクパールを、アトラに手渡した。
小さな金属片はアトラの掌で、かすかにきらりと光る。
「これは私の信念。すべては帝国のためにと思ってるの。これからよろしくね。」
――くれぐれも、みんなには内緒でね。
「……はい。よろしくお願いします」
胸の奥にわずかな重みを感じながら、アトラは洗濯かごの取っ手を強く握りしめた。