夢見の旅人
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使用人の暮らし
ガレマールの文化には常に驚かされるものの、アトラは順調に使用人として勤めていた。
若く15歳で勤めるのはめずらしくないが、精神の方は15歳以上なので、多少はうまく勤めることができていた。
親が丈夫に産んでくれて、食べるものをアトラに優先して育ててくれたことも大きいだろう。
仕事場では先輩方に「かわいがって」もらいながら日々励む。
掃除洗濯、まずは初歩的な仕事から。
あとは品物を補充したり、それが終われば乾いた洗濯物を取り込み、雪が酷い日は絵理沙であった時に使っていた冷蔵庫より寒い部屋で、洗濯物が凍ったら砕けば水分が飛ぶ。という方法を使って乾かした。
驚く文化はたくさんあり、アトラは馴染むのに相当の苦労が伴った。
家に帰れば使用人と同じく家事仕事が待っており、病の母のため、柔らかく煮た野菜と粥を食べさせた。その後、やっと自分の体にも、肉抜きのボルシチのような料理を与えられるようになった。
「母さん。おいしい? 熱くない?」
「……おいしいよ。ありがとう」
課せられたものにまっすぐな母。
娘を育てるつもりが、体を壊し、今度は幼いともいえる娘に面倒を見てもらう。
親としては申し訳ないやら、みじめと思うやら、ふさぎ込むこともある。
それでも娘を育ててきたことに誇りがあり、アトラの母は、目を合わせて礼を伝えることを忘れなかった。
「何かあったら呼んでね。私、片付けしてくるから」
「うん」
――日本でも、親が年老いるまで生きていたら、こうしていたのかな。
家族とは疎遠で、日本での生活は過酷ではなかったので、時々恋しくなる時もある。
しかし、アトラは輝きを感じていた。
新しい文化。守る存在。情報社会によって加速された日本での生活とは違う、待つ時間のある生活。
ガレマール帝国となってからは、日本やアメリカなどの情報社会の運命を同じようにたどるかもしれない。その時は加速して、待つ時間も無くなるのかもしれない。
アトラは、少しずつこの世界に馴染んでいった。
アトラはそういえば、と、転生した当時のことを思い出した。
転生する前、なにやら不思議な夢を見た気がする。
黒づくめの人たちの会議。あれは仮面をつけていた様子から、まるで十四人委員会の会議を見ているようだった。
自分の記憶であるかのように感じられるほど、感触もリアルだったが、ぼやけてもいた。
あの夢は、単なる夢か。
それとも、なにかメッセージを伝えようとしているのか。もんもんと考え込むアトラ。
明かりを消して、眠りに入る。
その夜、アトラはまた、感触が現実と感じられる不思議な夢を見た。
立派な馬のようなものに乗って、空を駆ける。星は瞬き、夜のちいさな明かりはどこまでも続く。
楽しい気持ちになって、馬の背を撫でてやる。下の方は、遠く、緑の陸が見えた。
隣には、同じように二人乗りの黒い馬が駆けていた。うしろに乗った柔和な男性が、笑いながら、手綱を握る男性にちょっかいを出している。
馬の操縦者はしかめっ面で、柔和な男性の手を払っていた。
ふたりは明かりに照らされて、以前の夢に見た黒づくめの服を着ていたが、仮面もフードもかぶっていなかった。
ふたりと目が合う。柔和な男性は両手を広げて肩をすくめた。楽しそうである。
しかめっ面の男性は、仕方ないと口角を片方だけつりあげて、笑った。
夢は、心地よくゆれるゆりかごのような余韻を残して、やわらかに終わっていった。
ガレマールの文化には常に驚かされるものの、アトラは順調に使用人として勤めていた。
若く15歳で勤めるのはめずらしくないが、精神の方は15歳以上なので、多少はうまく勤めることができていた。
親が丈夫に産んでくれて、食べるものをアトラに優先して育ててくれたことも大きいだろう。
仕事場では先輩方に「かわいがって」もらいながら日々励む。
掃除洗濯、まずは初歩的な仕事から。
あとは品物を補充したり、それが終われば乾いた洗濯物を取り込み、雪が酷い日は絵理沙であった時に使っていた冷蔵庫より寒い部屋で、洗濯物が凍ったら砕けば水分が飛ぶ。という方法を使って乾かした。
驚く文化はたくさんあり、アトラは馴染むのに相当の苦労が伴った。
家に帰れば使用人と同じく家事仕事が待っており、病の母のため、柔らかく煮た野菜と粥を食べさせた。その後、やっと自分の体にも、肉抜きのボルシチのような料理を与えられるようになった。
「母さん。おいしい? 熱くない?」
「……おいしいよ。ありがとう」
課せられたものにまっすぐな母。
娘を育てるつもりが、体を壊し、今度は幼いともいえる娘に面倒を見てもらう。
親としては申し訳ないやら、みじめと思うやら、ふさぎ込むこともある。
それでも娘を育ててきたことに誇りがあり、アトラの母は、目を合わせて礼を伝えることを忘れなかった。
「何かあったら呼んでね。私、片付けしてくるから」
「うん」
――日本でも、親が年老いるまで生きていたら、こうしていたのかな。
家族とは疎遠で、日本での生活は過酷ではなかったので、時々恋しくなる時もある。
しかし、アトラは輝きを感じていた。
新しい文化。守る存在。情報社会によって加速された日本での生活とは違う、待つ時間のある生活。
ガレマール帝国となってからは、日本やアメリカなどの情報社会の運命を同じようにたどるかもしれない。その時は加速して、待つ時間も無くなるのかもしれない。
アトラは、少しずつこの世界に馴染んでいった。
アトラはそういえば、と、転生した当時のことを思い出した。
転生する前、なにやら不思議な夢を見た気がする。
黒づくめの人たちの会議。あれは仮面をつけていた様子から、まるで十四人委員会の会議を見ているようだった。
自分の記憶であるかのように感じられるほど、感触もリアルだったが、ぼやけてもいた。
あの夢は、単なる夢か。
それとも、なにかメッセージを伝えようとしているのか。もんもんと考え込むアトラ。
明かりを消して、眠りに入る。
その夜、アトラはまた、感触が現実と感じられる不思議な夢を見た。
立派な馬のようなものに乗って、空を駆ける。星は瞬き、夜のちいさな明かりはどこまでも続く。
楽しい気持ちになって、馬の背を撫でてやる。下の方は、遠く、緑の陸が見えた。
隣には、同じように二人乗りの黒い馬が駆けていた。うしろに乗った柔和な男性が、笑いながら、手綱を握る男性にちょっかいを出している。
馬の操縦者はしかめっ面で、柔和な男性の手を払っていた。
ふたりは明かりに照らされて、以前の夢に見た黒づくめの服を着ていたが、仮面もフードもかぶっていなかった。
ふたりと目が合う。柔和な男性は両手を広げて肩をすくめた。楽しそうである。
しかめっ面の男性は、仕方ないと口角を片方だけつりあげて、笑った。
夢は、心地よくゆれるゆりかごのような余韻を残して、やわらかに終わっていった。