【FF14】メイドさんの夢旅行
名前変換はこちら。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ガレマールの文化には、驚かされることばかりだ。それでもアトラは順調に使用人として勤めていた。
十五歳で働くのは珍しくないが、精神の年齢はそれ以上だ。多少は仕事もそつなくこなす。
親が丈夫に産んでくれたこと、食べ物を優先して与えてくれたことも大きいのだろう。
仕事場では先輩たちに「かわいがって」もらいながら、掃除や洗濯といった初歩的な仕事に励む。
品物の補充を終えれば、乾いた洗濯物を取り込む。雪が酷い日には、絵理沙だったころに使っていた冷蔵庫より寒い部屋に干す。
洗濯物が凍ったら、砕けば水分が飛び、驚くほど早く乾く――そんな文化の違いにも、驚かされる日々だ。
家に帰れば、そこでも家事仕事が待っている。病の母のために柔らかく煮た野菜と粥を作り、口に運ぶ。
その後、肉を抜いたボルシチのような料理をアトラは食べる
「母さん。おいしい? 熱くない?」
「……おいしいよ。ありがとう」
課せられたものに、いつもまっすぐ向き合ってきた母。
本当は、自分が娘を育てるはずだったのに──体を壊し、今では幼いともいえる娘に世話をされている。
親として、申し訳なさとみじめさが胸に広がり、ふさぎ込むこともあった。
それでも、この子をここまで育ててきた年月は誇りだった。
だからアトラの母は、食事を受け取るたび、必ず目を合わせて礼を言うのを忘れなかった。
アトラは、病の母の世話は、最初こそ戸惑った。
絵理沙としての記憶には、誰かを看病した経験はほとんどない。
けれど使用人の仕事を初めてから、迷いなく動く。手の感覚も、鍋の火加減も、日々仕事の勉強で身に付いた。
柔らかく煮た野菜と粥を口に運びながら、絵理沙は不思議な感覚に包まれていた。
「何かあったら呼んでね。私、片付けしてくるから」
「うん」
――日本でも、親が年老いるまで生きていたら、こうして世話をしていたのだろうか。
家族とは疎遠だったが、日本での生活は決して過酷ではなかった。それでも、ふと恋しく思い出す瞬間がある。
けれど今のアトラは、この世界に確かな輝きを感じていた。
新しい文化。守るべき存在。
情報が絶え間なく流れる日本とは違い、ここには「待つ時間」があった。
帝国歴元年。ガレマールは共和政から帝政へと移行した。
エオルゼア歴でいえば、1522年のことだ。
やがてガレマール帝国も、日本やアメリカのように情報社会へ進むかもしれない。そのときは、この「待つ時間」も失われるだろう。
それでもアトラは、少しずつ、この世界に馴染んでいった。
アトラは、ふと転生した当時のことを思い出した。
――あのとき、不思議な夢を見た気がする。
黒づくめの者たちが並ぶ長い卓。全員が無表情の仮面をつけ、低く押し殺した声で何事かを議論していた。
十四人委員会――そう呼ばれる存在の会議を、まるで自分がそこに座っているかのような感触で見ていた。
手の甲に伝わる冷たい金属の感触、遠く響く石壁の反響。すべてが妙に生々しいのに、輪郭はぼやけている。
あれは、ただの夢だったのか。
それとも、この世界へ来る前に送られた、何者かからのメッセージだったのか。
考えれば考えるほど、答えは遠のいていく。
アトラは小さく息をつき、明かりを消した。闇がゆっくりと視界を満たし、やがて眠りが静かに訪れた。
その夜、アトラはまた、感触が現実と感じられる不思議な夢を見た。
白い靄を通して見える景色――立派な馬のようなものに乗って、空を駆けていた。星は瞬き、夜の小さな明かりはどこまでも続く。
楽しい気持ちになって、馬の背を撫でてやる。下の方は、遠く、緑の陸が見えた。
隣には、同じように二人乗りの黒い馬が駆けていた。うしろに乗った柔和な男性が、笑いながら、手綱を握る男性にちょっかいを出している。
馬の操縦者はしかめっ面で、柔和な男性の手を払っていた。
ふたりは明かりに照らされて、以前の夢に見た黒づくめの服を着ていたが、仮面もフードもかぶっていなかった。
ふたりと目が合う。柔和な男性は両手を広げて肩をすくめた。楽しそうである。
しかめっ面の男性は、仕方ないと口角を片方だけつりあげて、笑った。
夢は、心地よくゆれるゆりかごのような余韻を残して、やわらかに終わっていった。
十五歳で働くのは珍しくないが、精神の年齢はそれ以上だ。多少は仕事もそつなくこなす。
親が丈夫に産んでくれたこと、食べ物を優先して与えてくれたことも大きいのだろう。
仕事場では先輩たちに「かわいがって」もらいながら、掃除や洗濯といった初歩的な仕事に励む。
品物の補充を終えれば、乾いた洗濯物を取り込む。雪が酷い日には、絵理沙だったころに使っていた冷蔵庫より寒い部屋に干す。
洗濯物が凍ったら、砕けば水分が飛び、驚くほど早く乾く――そんな文化の違いにも、驚かされる日々だ。
家に帰れば、そこでも家事仕事が待っている。病の母のために柔らかく煮た野菜と粥を作り、口に運ぶ。
その後、肉を抜いたボルシチのような料理をアトラは食べる
「母さん。おいしい? 熱くない?」
「……おいしいよ。ありがとう」
課せられたものに、いつもまっすぐ向き合ってきた母。
本当は、自分が娘を育てるはずだったのに──体を壊し、今では幼いともいえる娘に世話をされている。
親として、申し訳なさとみじめさが胸に広がり、ふさぎ込むこともあった。
それでも、この子をここまで育ててきた年月は誇りだった。
だからアトラの母は、食事を受け取るたび、必ず目を合わせて礼を言うのを忘れなかった。
アトラは、病の母の世話は、最初こそ戸惑った。
絵理沙としての記憶には、誰かを看病した経験はほとんどない。
けれど使用人の仕事を初めてから、迷いなく動く。手の感覚も、鍋の火加減も、日々仕事の勉強で身に付いた。
柔らかく煮た野菜と粥を口に運びながら、絵理沙は不思議な感覚に包まれていた。
「何かあったら呼んでね。私、片付けしてくるから」
「うん」
――日本でも、親が年老いるまで生きていたら、こうして世話をしていたのだろうか。
家族とは疎遠だったが、日本での生活は決して過酷ではなかった。それでも、ふと恋しく思い出す瞬間がある。
けれど今のアトラは、この世界に確かな輝きを感じていた。
新しい文化。守るべき存在。
情報が絶え間なく流れる日本とは違い、ここには「待つ時間」があった。
帝国歴元年。ガレマールは共和政から帝政へと移行した。
エオルゼア歴でいえば、1522年のことだ。
やがてガレマール帝国も、日本やアメリカのように情報社会へ進むかもしれない。そのときは、この「待つ時間」も失われるだろう。
それでもアトラは、少しずつ、この世界に馴染んでいった。
アトラは、ふと転生した当時のことを思い出した。
――あのとき、不思議な夢を見た気がする。
黒づくめの者たちが並ぶ長い卓。全員が無表情の仮面をつけ、低く押し殺した声で何事かを議論していた。
十四人委員会――そう呼ばれる存在の会議を、まるで自分がそこに座っているかのような感触で見ていた。
手の甲に伝わる冷たい金属の感触、遠く響く石壁の反響。すべてが妙に生々しいのに、輪郭はぼやけている。
あれは、ただの夢だったのか。
それとも、この世界へ来る前に送られた、何者かからのメッセージだったのか。
考えれば考えるほど、答えは遠のいていく。
アトラは小さく息をつき、明かりを消した。闇がゆっくりと視界を満たし、やがて眠りが静かに訪れた。
その夜、アトラはまた、感触が現実と感じられる不思議な夢を見た。
白い靄を通して見える景色――立派な馬のようなものに乗って、空を駆けていた。星は瞬き、夜の小さな明かりはどこまでも続く。
楽しい気持ちになって、馬の背を撫でてやる。下の方は、遠く、緑の陸が見えた。
隣には、同じように二人乗りの黒い馬が駆けていた。うしろに乗った柔和な男性が、笑いながら、手綱を握る男性にちょっかいを出している。
馬の操縦者はしかめっ面で、柔和な男性の手を払っていた。
ふたりは明かりに照らされて、以前の夢に見た黒づくめの服を着ていたが、仮面もフードもかぶっていなかった。
ふたりと目が合う。柔和な男性は両手を広げて肩をすくめた。楽しそうである。
しかめっ面の男性は、仕方ないと口角を片方だけつりあげて、笑った。
夢は、心地よくゆれるゆりかごのような余韻を残して、やわらかに終わっていった。