【FF14】メイドさんの夢旅行
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ぱちり、とまぶたを開く。
もちろん、移動の時によく見る白い靄は晴れた後。
昨夜はアーモロートの自室で眠ったはずだった。
だが目に映ったのは、使用人寮の天井だった。
──また勝手に移動させられたらしい。影の案内人の仕業だろう。
もういちいち理由を考える気にもなれない。
アトラはどんよりとした気分のまま、身支度を始めた。
住み込みの許可も下りて、今では立派なメイド生活。
慣れた手つきで制服に着替え、職場へと向かう。
午後、いつものように仕事をこなし、皇帝のティータイムが近づく。
「準備をお願い」とマルケリナに声をかけられ、
アトラは銀のトレイに茶器を並べる。芳醇な香りが立ちのぼる。
静かな、優雅なひととき──のはずだった。
「最近、我が国の情報が外に漏洩している。何か知っているか?」
皇帝ソルの声が響く。穏やかなはずの声が、アトラの耳には氷のように冷たく感じられた。
(お紅茶を召し上がりながらの尋問、というわけ?)
わざわざ自分に尋ねてきたということは、すでに何らかの疑念を持っているのだろう。
ディアナのことかもしれない。つい先日までは無事だったが、もしかすると――捕まったのかもしれない。
アトラは内心を抑え、静かに微笑んだ。
「外部に、ですか? 陛下が治められた属州にも行ったことのない私には、想像もつかないお話でございます」
アーモロートや無人島には行ったことがある。
だが、それはいずれも夢見の力で飛んだもので、自らの足で踏破したわけではなかった。
アトラと皇帝ソルは、かつてアーモロートで顔を合わせている。
だが、こんな場でその話はお門違いだ。
アトラが外の世界の険しさを、実際に肌で知っているわけではない。
それは、まぎれもない事実だった。
――皇帝の視線が鋭くなる。
先ほどまでの余裕の色は、すでに霧のように消えていた。
「例えば、誰かがスパイとして潜入しているとかな」
その声は静かだった。
だが、その静けさこそが重く、アトラの肺を圧迫する。
アトラは一拍、思考の間を置く。
軽はずみな言葉を避け、けれどあえて間を空けず、口を開いた。
「スパイ、ですか?」
肯定でも否定でもない。
だが、もっともらしく響く、曖昧な応答。
カップを置く音が、空間に鋭く響いた。
まるでそれが、返答に対する評価そのもののように。
「ときに、工作員の存在を知っているか?」
一万二千年を超えて生きる存在に、嘘は通じない。
見抜かれるのがオチだ。
皇帝ソルを出し抜く術など、アトラは持ち合わせていなかった。
それどころか──考える猶予すら与えられていない。
この場では、下手なごまかしは自分の首を絞めるだけ。
嘘はつかず、しかしすべてを明かさずに済む道を探るしかない。
アトラは一拍の沈黙ののち、決断した。
「はい。この間、この国にも工作員がいらっしゃると聞きました」
正直に答える。ただし、それ以上は語らない。
本当のことだけを言い、余計な情報は与えない。
──それが、今の自分にできる唯一の抵抗だった。
この言葉が、運命を左右するかもしれない。
アトラの背筋に、冷たい緊張が這い上がる。
だが、もう後戻りはできなかった。
「ほう。どこでだ?」
「酒場です、陛下」
「誰から聞いた?」
「酒場の方です」
アトラの声は冷静を装っていた。
だが、指先から体温が少しずつ逃げていくのを感じる。
──星の輝きのような目。
冷えた視線が、アトラの内奥を射抜く。
まるで心の奥底まで、静かに沈んでいくような錯覚に囚われた。
無意識のうちに、アトラは自分の手を握りしめていた。
努めてとぼける。
声には皮肉を混ぜず、ただ淡々と。
「もしかして私、工作員のスカウト対象なのでしょうか?」
笑いを交える余裕はない。
だが、無表情のままでは却って怪しまれる。
アトラはゆるく眉を上げ、どこか他人事のような口調で言った。
身寄りは母一人きり。
連絡を取る相手も、今や城の人間しかいない。
──もし自分が誰かをスパイに仕立てるなら。
条件としては、自分ほど理想的な素材もない。
皇帝ソルは、アトラの思考をすべて見透かしたかのように言った。
「それは私の仕事ではない」
たった一言。
それきり、追及はなかった。皇帝はあっさりと会話を終える。
アトラは、張りつめていた肩の力をようやく抜いた。
「私の仕事ではない」とはつまり、それは別に担当がいるということだ。
もしかすると、皇帝自らが故意に情報を流し、誰かを“釣って”いるのかもしれない。
だが――
執務室の扉が、重く開く音がした。
全身鎧に身を包んだ軍人が三人、無言で入室する。
鋼鉄の靴音が、やけに大きく響いた。
アトラと、その隣にいたマルケリナを囲むように立つ。
兜に覆われた顔は何も語らず、それがかえって不気味だった。
アトラは無意識にマルケリナと肩を寄せ合った。
軍の二人が、無言のままアトラの腕を掴む。
「うわっ——!」
容赦ない力に引き倒され、息が詰まる。
「なにすんのよ!」
マルケリナが軍人の腕を掴んだ。
だが、軍人は表情一つ変えず、淡々とそれを振り払う。
マルケリナの体があっけなく床に投げ出された。
「マルケリナ!」
アトラは叫ぶ。
「ちょっと、私に用があるんでしょ。マルケリナは関係ないならやめて!」
「お前に、命令する権利があるとでも?」
皇帝ソルの声が、低く冷たく響いた。
これは皇帝の命令で動いている兵士だということを状況が語った。
次の瞬間、腕を強く引かれる。
鋭い痛みが走る。
「——っ!」
悲鳴を上げても、軍人は一瞥すらくれない。
ただ、粛々と仕事をこなすように。
アトラはそのまま、謁見室へと連れて行かれた。
もちろん、移動の時によく見る白い靄は晴れた後。
昨夜はアーモロートの自室で眠ったはずだった。
だが目に映ったのは、使用人寮の天井だった。
──また勝手に移動させられたらしい。影の案内人の仕業だろう。
もういちいち理由を考える気にもなれない。
アトラはどんよりとした気分のまま、身支度を始めた。
住み込みの許可も下りて、今では立派なメイド生活。
慣れた手つきで制服に着替え、職場へと向かう。
午後、いつものように仕事をこなし、皇帝のティータイムが近づく。
「準備をお願い」とマルケリナに声をかけられ、
アトラは銀のトレイに茶器を並べる。芳醇な香りが立ちのぼる。
静かな、優雅なひととき──のはずだった。
「最近、我が国の情報が外に漏洩している。何か知っているか?」
皇帝ソルの声が響く。穏やかなはずの声が、アトラの耳には氷のように冷たく感じられた。
(お紅茶を召し上がりながらの尋問、というわけ?)
わざわざ自分に尋ねてきたということは、すでに何らかの疑念を持っているのだろう。
ディアナのことかもしれない。つい先日までは無事だったが、もしかすると――捕まったのかもしれない。
アトラは内心を抑え、静かに微笑んだ。
「外部に、ですか? 陛下が治められた属州にも行ったことのない私には、想像もつかないお話でございます」
アーモロートや無人島には行ったことがある。
だが、それはいずれも夢見の力で飛んだもので、自らの足で踏破したわけではなかった。
アトラと皇帝ソルは、かつてアーモロートで顔を合わせている。
だが、こんな場でその話はお門違いだ。
アトラが外の世界の険しさを、実際に肌で知っているわけではない。
それは、まぎれもない事実だった。
――皇帝の視線が鋭くなる。
先ほどまでの余裕の色は、すでに霧のように消えていた。
「例えば、誰かがスパイとして潜入しているとかな」
その声は静かだった。
だが、その静けさこそが重く、アトラの肺を圧迫する。
アトラは一拍、思考の間を置く。
軽はずみな言葉を避け、けれどあえて間を空けず、口を開いた。
「スパイ、ですか?」
肯定でも否定でもない。
だが、もっともらしく響く、曖昧な応答。
カップを置く音が、空間に鋭く響いた。
まるでそれが、返答に対する評価そのもののように。
「ときに、工作員の存在を知っているか?」
一万二千年を超えて生きる存在に、嘘は通じない。
見抜かれるのがオチだ。
皇帝ソルを出し抜く術など、アトラは持ち合わせていなかった。
それどころか──考える猶予すら与えられていない。
この場では、下手なごまかしは自分の首を絞めるだけ。
嘘はつかず、しかしすべてを明かさずに済む道を探るしかない。
アトラは一拍の沈黙ののち、決断した。
「はい。この間、この国にも工作員がいらっしゃると聞きました」
正直に答える。ただし、それ以上は語らない。
本当のことだけを言い、余計な情報は与えない。
──それが、今の自分にできる唯一の抵抗だった。
この言葉が、運命を左右するかもしれない。
アトラの背筋に、冷たい緊張が這い上がる。
だが、もう後戻りはできなかった。
「ほう。どこでだ?」
「酒場です、陛下」
「誰から聞いた?」
「酒場の方です」
アトラの声は冷静を装っていた。
だが、指先から体温が少しずつ逃げていくのを感じる。
──星の輝きのような目。
冷えた視線が、アトラの内奥を射抜く。
まるで心の奥底まで、静かに沈んでいくような錯覚に囚われた。
無意識のうちに、アトラは自分の手を握りしめていた。
努めてとぼける。
声には皮肉を混ぜず、ただ淡々と。
「もしかして私、工作員のスカウト対象なのでしょうか?」
笑いを交える余裕はない。
だが、無表情のままでは却って怪しまれる。
アトラはゆるく眉を上げ、どこか他人事のような口調で言った。
身寄りは母一人きり。
連絡を取る相手も、今や城の人間しかいない。
──もし自分が誰かをスパイに仕立てるなら。
条件としては、自分ほど理想的な素材もない。
皇帝ソルは、アトラの思考をすべて見透かしたかのように言った。
「それは私の仕事ではない」
たった一言。
それきり、追及はなかった。皇帝はあっさりと会話を終える。
アトラは、張りつめていた肩の力をようやく抜いた。
「私の仕事ではない」とはつまり、それは別に担当がいるということだ。
もしかすると、皇帝自らが故意に情報を流し、誰かを“釣って”いるのかもしれない。
だが――
執務室の扉が、重く開く音がした。
全身鎧に身を包んだ軍人が三人、無言で入室する。
鋼鉄の靴音が、やけに大きく響いた。
アトラと、その隣にいたマルケリナを囲むように立つ。
兜に覆われた顔は何も語らず、それがかえって不気味だった。
アトラは無意識にマルケリナと肩を寄せ合った。
軍の二人が、無言のままアトラの腕を掴む。
「うわっ——!」
容赦ない力に引き倒され、息が詰まる。
「なにすんのよ!」
マルケリナが軍人の腕を掴んだ。
だが、軍人は表情一つ変えず、淡々とそれを振り払う。
マルケリナの体があっけなく床に投げ出された。
「マルケリナ!」
アトラは叫ぶ。
「ちょっと、私に用があるんでしょ。マルケリナは関係ないならやめて!」
「お前に、命令する権利があるとでも?」
皇帝ソルの声が、低く冷たく響いた。
これは皇帝の命令で動いている兵士だということを状況が語った。
次の瞬間、腕を強く引かれる。
鋭い痛みが走る。
「——っ!」
悲鳴を上げても、軍人は一瞥すらくれない。
ただ、粛々と仕事をこなすように。
アトラはそのまま、謁見室へと連れて行かれた。