【FF14】メイドさんの夢旅行
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アトラが白い靄を抜けて目を開けると、そこはアーモロートの一室だった。
夢の中で移動した記憶はない。意図せず古代に来てしまったようだ。
――夢見の力が、使えない。
まるで誰かに封じられたような感覚。影の案内人の仕業だと、すぐに察した。
「これは……案内人が移動させたってわけね」
思わず口をついて出た言葉に、アトラは自分でも苦笑する。
本当に、力の主導権を奪われたのだ。
ため息をついてベッドを出る。戻る手段がない以上、アゼムのところへは徒歩で動くしかない。何が起きてもいいように準備を整える。
(まいったな……)
夢を通じて過去へ行けるとはいえ、訪れる時間軸は常に進んでいる。カロンと出会った瞬間へ戻れたことは一度もなかった。
まるで、別の人生を断片的に追いかけているような感覚だった。
――このままでは、間に合わないかもしれない。
災厄は確実に迫っている。それでも、まだ希望はある。
だからこそ。
「……仲良し大作戦、決行」
アゼムを探し、エメトセルクとの和解を目指す。そして未来へ、一緒に進むのだ。
まずは情報収集。アトラはアーモロートのポレス市場に立ち寄り、人々の話に耳を傾けた。
アゼムは現在、正式な部隊こそ持たぬものの、依頼を受けて各地で奔走しているという。カロンもその手伝いに出ていて、姿は見えない。
(やっぱり、彼女も放っておけないんだ)
ヒュトロダエウスは今日も変わらず、何か面白いものを探しているらしい。以前見かけたときのように、人々と笑い合っていたという。
街では最近、「星の意志を創る計画」という噂も耳に入ってくる。
――エメトセルクなら、もう委員会で議論しているだろう。彼は責任感が強い。どんなに反対しても、星の未来のために動き出すはず。
アトラは少しだけ空を仰いだ。
(落ち込んだとき、エメトセルクは劇を観に行ってたっけ。彼なりの息抜きだったのかな)
そんな思い出に背中を押されながら、アトラはアーモロートの外へ出るため、エレベーターへ向かった。
カロンの推薦で住民登録も済んでいる。起動も問題ないはずだ――。
アーモロートの玄関口へ差しかかったとき、植木のそばのベンチに、ひとりの人物が座っていた。
深くうつむき、動かない。アーモロートではあまり見かけない姿だった。
アトラはその姿がなぜか気になった。
――古代人は、困っている者にきっと声をかける。
助けるかは置いといて。
「ご気分が悪いのですか?」
返事はない。顔を伏せたまま、まるでアトラの声が届いていないかのようだった。
気になって、アトラはそっとしゃがみ込み、顔を覗き込んだ。
――赤い仮面。
見覚えのある形。
双子座の……。
その瞬間、相手が動いた。
「……なんだ。お前、いつからそこにいた」
ゆっくりと顔を上げたその人は、いつもの威厳など、どこにもなかった。
虚ろな瞳に、深く滲む疲労。
硬く結ばれた口元。背はわずかに丸まり、まるで重荷に押し潰されているようだった。
アトラは思わず息を呑んだ。
「……エメトセルク様?」
まさか、と思った。
けれど、間違いようがない。この沈んだ姿もまた、彼だった。
こんなに……こんなに傷ついている。
アトラの胸に、堰を切ったように流れ込んでくる感情があった。
アゼムが去ったことが、彼にとってどれほどの痛手だったのか。
どれほど、彼にとって支えだったのか。
親友が、役目を放棄して委員会を去った。
後任も立てず、何も告げず。
災厄が迫る今、彼ひとりにかかる重圧は――想像以上だった。
「……まだ帰っていなかったのか。それとも観光気分か?」
その声音は冷たく、言葉は鋭かった。
アトラは一瞬で息を呑む。
怒りに身構えたが、それよりも早く――彼の怒気がぶつかってきた。
言葉より、圧が怖かった。反射的に半歩、身を引く。
そして、次の瞬間。
「……すまない」
謝った。
えっ、とアトラの思考が止まる。
――今、謝った……?
ただの皮肉で済ませるつもりだったのに、それすら保てなかった。
怒りの奥から、どうしようもない苛立ちと、やるせなさが滲んでくる。
いつもの彼ではない。
しかし、それどころではないのだ。
アトラの命は、百年にも満たない。のんびりしている暇はない。
ディアナとも話し、目的は明確だった。――皇帝の威力を抑えること。
そのためには、まずこの沈んだ顔の持ち主に、未来を見せるしかない。
アトラが帰るには、「仲良し大作戦」を成功させるしかないのだ。
この沈んだ顔を変えるような“なにか”を持って帰る。
アゼムとエメトセルクを、もう一度向き合わせる――そのために動く。
「こちらこそ、失礼しました」
そう言って軽く頭を下げ、アトラはエレベーターへと向かった。
操作パネルに手をかざすと、扉が静かに開く。
外へのアクセスは可能。問題ない。
そのとき、背後から足音が近づくのを感じた。
――誰か来る?
横にずれると、後ろから声が落ちてきた。
「……お前、まさか外に行くのか?」
低く、疲れた声。
振り返ると、そこにいたのは、まだ猫背のままのエメトセルクだった。
立ち上がるだけでも重そうだったのに――わざわざ追ってきたのか。
アトラの身では、外に出るのは自殺行為に等しい。
それを止めようとしたのだろう。
その気持ちが、痛いほど伝わってくる。
アトラは正面から彼を見つめた。
「はい。アゼム様を探しに行きます」
「……は?」
「なぜ、お前が」と、そう言いたげな視線が、エメトセルクから突き刺さる。
アトラは少し居住まいを正し、言葉を選びながら口を開いた。
「私の主が、どうやらご友人のアゼム様と仲違いされたようでして。
なので、せめてお二人の心残りを解消させたくて、探しに行こうと思ったんです」
エメトセルクは目を細めた。
「……主?」
(まあ、どうとでも取られるよね……)
だがアトラは、内心で続けている。
――主の信頼を得れば、アシエンの内情にも近づける。
皇帝の力の本質を知り、その流れを読み解ける。
けれどそれ以上に……あの人の孤独が、どうしても放っておけない。
完全なる自分のエゴ。
アトラは笑った。
「恩返しから始まった旅ですが、どうやらもう引き返せそうにありません」
エメトセルクは開いた口をしばらく閉じることができなかった。
アトラは、その反応を予想していた。予想してはいたが――。
(……もう、どうにでもなれ)
「アゼム様に、会わなきゃいけないんです。
どうして十四人委員会を去ったのか、確かめに」
アトラは言葉を区切りながら、懸命に続けた。
「理由がわかれば……みんなが前へ進めるかもしれません。
たとえ歩む道が違っても、たどり着く場所が同じなら、きっと」
エメトセルクの思考に、いくつもの疑問が浮かぶ。
アトラの言葉、意図、その裏側――気になる点はいくらでもあった。
だが、問いただすには惜しい。
この真剣さは、疑うより見届けるに値する。
エメトセルクはふっと口元をゆるめた。
「お前に“主”がいたのか。しかも、アゼムと関係のある人物とは……異邦から来たというのに、面白い巡り合わせだ」
「……はい。あなたもよくご存知の方です」
その言い回しに、エメトセルクの視線が鋭くなる。
まるで仮説を組み立てる学者のように、アトラを見つめる。
アトラは少し息を吸って、慎重に言葉を選ぶ。
「名前は言えません。でも、その方はとても強い責任感を持っていて……
世界をどうにかしようとする大望を抱く人です。
だけど同時に、深く傷ついているのを感じました」
一瞬、エメトセルクの表情に翳りが走る。
その影はすぐに消え、代わりに平静な声が返る。
「……その悲しみを見たとき、お前はどう思った?」
「胸の奥に、冷たい波がなだれ込んでくるようで。
痛くて、悔しくて……でも、ただ立ち尽くすしかなかった」
アトラは自分の拳をぎゅっと握りしめた。
「だから、せめてその無念を晴らしたい。
その方の力で今の私があるなら……少しでも、その人の助けになりたいんです」
エメトセルクは、口を開きかけて、ふと視線をそらした。
喉元まで出かかった言葉がある。
「――余計なお――」
だが、その続きを言うには、ほんの少しだけ、心が疲れすぎていた。
そして、目の前の異邦人が本気で自分を案じていることも、
面倒なほど伝わってきた。
その熱意を、皮肉の一言で切り捨てるのは――
あまりにも、むなしい。
「……好きにしろ」
その言葉には、呆れと諦め、ほんの少しの許容が混じっていた。
アトラがぽかんと目を見開く。
エメトセルクはそれに気づきながらも、視線を戻さなかった。
だが、彼はすぐに話題を切り替えた。
「……すぐに発つのか」
アトラもハッとして意識を切り替える。
「いえ、今日は下見だけです。外に出られるか、確認しに来ました。出発はまだ先で……」
「お前、夢見の力とやらでどこでも好きなところに移動できるんじゃなかったのか?
以前、アゼムと直接話していただろう」
「う……それが、今使えなくなってしまって……
だから徒歩で移動することになりました」
「そうか……では、また後日」
「はい、また……え?」
アトラは思わず聞き返した。
「また? ――後日って、いつ?」
問いに対する答えは返ってこない。
エメトセルクはそれ以上何も言わず、静かに背を向けると、街の奥へと歩き去っていった。
その背中は、やはり少し猫背で、しかしどこか覚悟のようなものを背負っている気がした。
アトラはきょとんとしたまま、その場に立ち尽くす。
やがて、ゆっくりと歩き出し、先ほどまでエメトセルクが座っていたベンチに視線を向けた。
……どうして、こんなところにいたのだろう?
その時、不意に胸の奥で何かが繋がった。
「あっ……」
――彼は、アゼム様を待っていたんだ。
ここで。玄関口で。
仕事を投げ出して探しに行くほど無責任でもなく、
かといって、平然と忘れられるほど薄情でもない。
むしろ、敬意を抱いていたのだ。ずっと。ずっと――。
だから、「また後日」というあの言葉は――
まさか。
エメトセルクは、“同行する”つもりでいる。
それを特別なことだと思っていない。
自分が行かねば、お前などすぐに死ぬ。それくらい、わかりきったことだと。
アトラはじんわりと胸が熱くなるのを感じた。
どれだけ不器用でも。
どれだけ遠回しでも。
この人は、やっぱり――。
「やさしすぎる……」
オタクは打ちひしがれていた。
夢の中で移動した記憶はない。意図せず古代に来てしまったようだ。
――夢見の力が、使えない。
まるで誰かに封じられたような感覚。影の案内人の仕業だと、すぐに察した。
「これは……案内人が移動させたってわけね」
思わず口をついて出た言葉に、アトラは自分でも苦笑する。
本当に、力の主導権を奪われたのだ。
ため息をついてベッドを出る。戻る手段がない以上、アゼムのところへは徒歩で動くしかない。何が起きてもいいように準備を整える。
(まいったな……)
夢を通じて過去へ行けるとはいえ、訪れる時間軸は常に進んでいる。カロンと出会った瞬間へ戻れたことは一度もなかった。
まるで、別の人生を断片的に追いかけているような感覚だった。
――このままでは、間に合わないかもしれない。
災厄は確実に迫っている。それでも、まだ希望はある。
だからこそ。
「……仲良し大作戦、決行」
アゼムを探し、エメトセルクとの和解を目指す。そして未来へ、一緒に進むのだ。
まずは情報収集。アトラはアーモロートのポレス市場に立ち寄り、人々の話に耳を傾けた。
アゼムは現在、正式な部隊こそ持たぬものの、依頼を受けて各地で奔走しているという。カロンもその手伝いに出ていて、姿は見えない。
(やっぱり、彼女も放っておけないんだ)
ヒュトロダエウスは今日も変わらず、何か面白いものを探しているらしい。以前見かけたときのように、人々と笑い合っていたという。
街では最近、「星の意志を創る計画」という噂も耳に入ってくる。
――エメトセルクなら、もう委員会で議論しているだろう。彼は責任感が強い。どんなに反対しても、星の未来のために動き出すはず。
アトラは少しだけ空を仰いだ。
(落ち込んだとき、エメトセルクは劇を観に行ってたっけ。彼なりの息抜きだったのかな)
そんな思い出に背中を押されながら、アトラはアーモロートの外へ出るため、エレベーターへ向かった。
カロンの推薦で住民登録も済んでいる。起動も問題ないはずだ――。
アーモロートの玄関口へ差しかかったとき、植木のそばのベンチに、ひとりの人物が座っていた。
深くうつむき、動かない。アーモロートではあまり見かけない姿だった。
アトラはその姿がなぜか気になった。
――古代人は、困っている者にきっと声をかける。
助けるかは置いといて。
「ご気分が悪いのですか?」
返事はない。顔を伏せたまま、まるでアトラの声が届いていないかのようだった。
気になって、アトラはそっとしゃがみ込み、顔を覗き込んだ。
――赤い仮面。
見覚えのある形。
双子座の……。
その瞬間、相手が動いた。
「……なんだ。お前、いつからそこにいた」
ゆっくりと顔を上げたその人は、いつもの威厳など、どこにもなかった。
虚ろな瞳に、深く滲む疲労。
硬く結ばれた口元。背はわずかに丸まり、まるで重荷に押し潰されているようだった。
アトラは思わず息を呑んだ。
「……エメトセルク様?」
まさか、と思った。
けれど、間違いようがない。この沈んだ姿もまた、彼だった。
こんなに……こんなに傷ついている。
アトラの胸に、堰を切ったように流れ込んでくる感情があった。
アゼムが去ったことが、彼にとってどれほどの痛手だったのか。
どれほど、彼にとって支えだったのか。
親友が、役目を放棄して委員会を去った。
後任も立てず、何も告げず。
災厄が迫る今、彼ひとりにかかる重圧は――想像以上だった。
「……まだ帰っていなかったのか。それとも観光気分か?」
その声音は冷たく、言葉は鋭かった。
アトラは一瞬で息を呑む。
怒りに身構えたが、それよりも早く――彼の怒気がぶつかってきた。
言葉より、圧が怖かった。反射的に半歩、身を引く。
そして、次の瞬間。
「……すまない」
謝った。
えっ、とアトラの思考が止まる。
――今、謝った……?
ただの皮肉で済ませるつもりだったのに、それすら保てなかった。
怒りの奥から、どうしようもない苛立ちと、やるせなさが滲んでくる。
いつもの彼ではない。
しかし、それどころではないのだ。
アトラの命は、百年にも満たない。のんびりしている暇はない。
ディアナとも話し、目的は明確だった。――皇帝の威力を抑えること。
そのためには、まずこの沈んだ顔の持ち主に、未来を見せるしかない。
アトラが帰るには、「仲良し大作戦」を成功させるしかないのだ。
この沈んだ顔を変えるような“なにか”を持って帰る。
アゼムとエメトセルクを、もう一度向き合わせる――そのために動く。
「こちらこそ、失礼しました」
そう言って軽く頭を下げ、アトラはエレベーターへと向かった。
操作パネルに手をかざすと、扉が静かに開く。
外へのアクセスは可能。問題ない。
そのとき、背後から足音が近づくのを感じた。
――誰か来る?
横にずれると、後ろから声が落ちてきた。
「……お前、まさか外に行くのか?」
低く、疲れた声。
振り返ると、そこにいたのは、まだ猫背のままのエメトセルクだった。
立ち上がるだけでも重そうだったのに――わざわざ追ってきたのか。
アトラの身では、外に出るのは自殺行為に等しい。
それを止めようとしたのだろう。
その気持ちが、痛いほど伝わってくる。
アトラは正面から彼を見つめた。
「はい。アゼム様を探しに行きます」
「……は?」
「なぜ、お前が」と、そう言いたげな視線が、エメトセルクから突き刺さる。
アトラは少し居住まいを正し、言葉を選びながら口を開いた。
「私の主が、どうやらご友人のアゼム様と仲違いされたようでして。
なので、せめてお二人の心残りを解消させたくて、探しに行こうと思ったんです」
エメトセルクは目を細めた。
「……主?」
(まあ、どうとでも取られるよね……)
だがアトラは、内心で続けている。
――主の信頼を得れば、アシエンの内情にも近づける。
皇帝の力の本質を知り、その流れを読み解ける。
けれどそれ以上に……あの人の孤独が、どうしても放っておけない。
完全なる自分のエゴ。
アトラは笑った。
「恩返しから始まった旅ですが、どうやらもう引き返せそうにありません」
エメトセルクは開いた口をしばらく閉じることができなかった。
アトラは、その反応を予想していた。予想してはいたが――。
(……もう、どうにでもなれ)
「アゼム様に、会わなきゃいけないんです。
どうして十四人委員会を去ったのか、確かめに」
アトラは言葉を区切りながら、懸命に続けた。
「理由がわかれば……みんなが前へ進めるかもしれません。
たとえ歩む道が違っても、たどり着く場所が同じなら、きっと」
エメトセルクの思考に、いくつもの疑問が浮かぶ。
アトラの言葉、意図、その裏側――気になる点はいくらでもあった。
だが、問いただすには惜しい。
この真剣さは、疑うより見届けるに値する。
エメトセルクはふっと口元をゆるめた。
「お前に“主”がいたのか。しかも、アゼムと関係のある人物とは……異邦から来たというのに、面白い巡り合わせだ」
「……はい。あなたもよくご存知の方です」
その言い回しに、エメトセルクの視線が鋭くなる。
まるで仮説を組み立てる学者のように、アトラを見つめる。
アトラは少し息を吸って、慎重に言葉を選ぶ。
「名前は言えません。でも、その方はとても強い責任感を持っていて……
世界をどうにかしようとする大望を抱く人です。
だけど同時に、深く傷ついているのを感じました」
一瞬、エメトセルクの表情に翳りが走る。
その影はすぐに消え、代わりに平静な声が返る。
「……その悲しみを見たとき、お前はどう思った?」
「胸の奥に、冷たい波がなだれ込んでくるようで。
痛くて、悔しくて……でも、ただ立ち尽くすしかなかった」
アトラは自分の拳をぎゅっと握りしめた。
「だから、せめてその無念を晴らしたい。
その方の力で今の私があるなら……少しでも、その人の助けになりたいんです」
エメトセルクは、口を開きかけて、ふと視線をそらした。
喉元まで出かかった言葉がある。
「――余計なお――」
だが、その続きを言うには、ほんの少しだけ、心が疲れすぎていた。
そして、目の前の異邦人が本気で自分を案じていることも、
面倒なほど伝わってきた。
その熱意を、皮肉の一言で切り捨てるのは――
あまりにも、むなしい。
「……好きにしろ」
その言葉には、呆れと諦め、ほんの少しの許容が混じっていた。
アトラがぽかんと目を見開く。
エメトセルクはそれに気づきながらも、視線を戻さなかった。
だが、彼はすぐに話題を切り替えた。
「……すぐに発つのか」
アトラもハッとして意識を切り替える。
「いえ、今日は下見だけです。外に出られるか、確認しに来ました。出発はまだ先で……」
「お前、夢見の力とやらでどこでも好きなところに移動できるんじゃなかったのか?
以前、アゼムと直接話していただろう」
「う……それが、今使えなくなってしまって……
だから徒歩で移動することになりました」
「そうか……では、また後日」
「はい、また……え?」
アトラは思わず聞き返した。
「また? ――後日って、いつ?」
問いに対する答えは返ってこない。
エメトセルクはそれ以上何も言わず、静かに背を向けると、街の奥へと歩き去っていった。
その背中は、やはり少し猫背で、しかしどこか覚悟のようなものを背負っている気がした。
アトラはきょとんとしたまま、その場に立ち尽くす。
やがて、ゆっくりと歩き出し、先ほどまでエメトセルクが座っていたベンチに視線を向けた。
……どうして、こんなところにいたのだろう?
その時、不意に胸の奥で何かが繋がった。
「あっ……」
――彼は、アゼム様を待っていたんだ。
ここで。玄関口で。
仕事を投げ出して探しに行くほど無責任でもなく、
かといって、平然と忘れられるほど薄情でもない。
むしろ、敬意を抱いていたのだ。ずっと。ずっと――。
だから、「また後日」というあの言葉は――
まさか。
エメトセルクは、“同行する”つもりでいる。
それを特別なことだと思っていない。
自分が行かねば、お前などすぐに死ぬ。それくらい、わかりきったことだと。
アトラはじんわりと胸が熱くなるのを感じた。
どれだけ不器用でも。
どれだけ遠回しでも。
この人は、やっぱり――。
「やさしすぎる……」
オタクは打ちひしがれていた。