【FF14】メイドさんの夢旅行
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――目が覚めたら、異世界でした。
目を開けた瞬間、吐く息が白く散った。
冷たいシーツの感触が背中に貼りつく。見上げれば、鉄骨の骨組みがむき出しになった天井。
外は雪。降りやむ気配はなく、窓の向こうで積み重なっていく。
稀に晴れる日には、ふたつの月が並んで夜空を漂う――そんな世界に、私はいた。
鏡に映ったのは、十五歳ほどの見知らぬ少女。額には、ひとつ余分な目が静かにたたずんでいた。
ここはガレマール共和国。キャンプ・ブロークングラスの前身、ラテルム村のような、小さな村。
名前は……アトラ・アティウス。
それが、目覚めた私の全てだった。
――いったいどうして。
絵理沙はパニックになったものの、叫べもしなかった。
息を吸うたび、肺の奥まで冷気が入り込み、喉が凍るようだった。
華やかな異世界転生物も真っ青の、ハードモード。
帝都のはずれ、小さな畑と雪に埋もれた家。父はもういない。働き手もいない。
残ったのは、病を抱えた母と、自分だけ。
母は痩せ細った指で鍬を握り、雪をかき分けて畑に立つ。
栄養失調で立ちくらみしても、夜明け前に起きて火を起こし、鍋の中の粥を子にだけよそった。
「食べなさい、アトラ」
自分の分をそっと減らして、笑う。
その笑みが痛かった。
母が選んだ道の先がどこに行き着くか、アトラには分かっていたのに――。
「本当に、ごめんなさい。親戚も……どこも厳しいみたいで」
母はせき込み、指先を見つめた。
荒れてひび割れた皮膚。厚くなった爪。土の色を帯びたしわ。
その手は、長い年月、畑で働き続けてきた証だった。
アトラは思った――美しい手だ、と。
「この手は、お母さんが頑張ってきた証拠だよ」
「……ありがとう、アトラ」
放っておけるはずがなかった。
この人を支える――そう決めた瞬間、胸の奥で何かが固く結ばれた。
けれど、十五の娘にできることは限られている。
家業を継ぐにも腕力は足りない。笑顔で客を惹きつける愛想もない。
母に秘密を抱えれば、すぐに感づかれるだろう。
病の母の心労を増やすわけにはいかない。
残された道は、驚くほど少なかった。
「叔父さんに少しだけ助けてもらったから、これで食べ物を買ってきてくれる?」
「うん。わかった。待っててね」
厚着をして、アトラは外へ出た。雪を踏みしめる音だけが響く。
これといった案はない。ただ母に食べさせるものを買わなくては。
市場へ向かう途中――
「ねえ、そこの子」
声に振り向くと、長身の女性が立っていた。百八十ほどだろうか。黒髪を高く結び、勝気な笑みを浮かべている。
目は橙色に輝き、黒いコート一枚という薄着。それなのに寒さをまるで気にしていない様子だった。
日本で暮らしていた頃の感覚が残っているせいか、アトラはその異様さを深く考えなかった。
「なんでしょう」
「ちょっと頼みたいことがあってさ」
女性はひらりと封筒を取り出した。
赤い蝋の封に、皇族のしるし。魔導城からの召喚状だ。
「これ、受け取ってくんない?」
「……何ですか?」
「来てくれるはずだった子が、急に来られなくなってね。あんたなら、悪くないと思ってさ」
そう言って、意味ありげにアトラの顔を覗き込む。
ガレマール城――つい最近、魔導城と改名された王城。
階級こそ下級だが、農家から下級役人へ成り上がれる道。
仕事のない少女にとって、天からの助けにも見える。
だが、本当に助けなのか?
年端もいかぬ自分を、利用しようとしているのではないか――
アトラは目を細めた。
「……確認させてください」
女性は軽くうなずき、封筒を差し出す。
アトラは慎重に受け取り、細かい文字をひとつひとつ追い始めた。
「いいねえ。文字、読めるんだ」
女性の何気ない一言に、アトラはハッとした。
この国で学校に通えるのは、貴族か特待生だけ。
民間の農家が文字を学ぶ機会など、まずない。
それなのに――自分は読めている。
「か、書くのはできません」
口にした瞬間、胸の奥で小さく反発があった。
――やったことがないだけで。
無意識に、封筒を強く握りしめる。なぜ、自分は読めるのだろうと。
(異世界転生チートってことだろうか……)
「じゅうぶんでしょ。むしろその方が雇う側からすると手間が省ける」
女性は軽く笑ってそう言った。
アトラは迷った。だが、この話を断るほどの余裕はない。
「……行かせてください。使用人になります」
こうしてアトラは、あっさり城の使用人として勤めることになった。
その数か月後――ガレマール共和国は、『ガレマール帝国』と名を変える。
目を開けた瞬間、吐く息が白く散った。
冷たいシーツの感触が背中に貼りつく。見上げれば、鉄骨の骨組みがむき出しになった天井。
外は雪。降りやむ気配はなく、窓の向こうで積み重なっていく。
稀に晴れる日には、ふたつの月が並んで夜空を漂う――そんな世界に、私はいた。
鏡に映ったのは、十五歳ほどの見知らぬ少女。額には、ひとつ余分な目が静かにたたずんでいた。
ここはガレマール共和国。キャンプ・ブロークングラスの前身、ラテルム村のような、小さな村。
名前は……アトラ・アティウス。
それが、目覚めた私の全てだった。
――いったいどうして。
絵理沙はパニックになったものの、叫べもしなかった。
息を吸うたび、肺の奥まで冷気が入り込み、喉が凍るようだった。
華やかな異世界転生物も真っ青の、ハードモード。
帝都のはずれ、小さな畑と雪に埋もれた家。父はもういない。働き手もいない。
残ったのは、病を抱えた母と、自分だけ。
母は痩せ細った指で鍬を握り、雪をかき分けて畑に立つ。
栄養失調で立ちくらみしても、夜明け前に起きて火を起こし、鍋の中の粥を子にだけよそった。
「食べなさい、アトラ」
自分の分をそっと減らして、笑う。
その笑みが痛かった。
母が選んだ道の先がどこに行き着くか、アトラには分かっていたのに――。
「本当に、ごめんなさい。親戚も……どこも厳しいみたいで」
母はせき込み、指先を見つめた。
荒れてひび割れた皮膚。厚くなった爪。土の色を帯びたしわ。
その手は、長い年月、畑で働き続けてきた証だった。
アトラは思った――美しい手だ、と。
「この手は、お母さんが頑張ってきた証拠だよ」
「……ありがとう、アトラ」
放っておけるはずがなかった。
この人を支える――そう決めた瞬間、胸の奥で何かが固く結ばれた。
けれど、十五の娘にできることは限られている。
家業を継ぐにも腕力は足りない。笑顔で客を惹きつける愛想もない。
母に秘密を抱えれば、すぐに感づかれるだろう。
病の母の心労を増やすわけにはいかない。
残された道は、驚くほど少なかった。
「叔父さんに少しだけ助けてもらったから、これで食べ物を買ってきてくれる?」
「うん。わかった。待っててね」
厚着をして、アトラは外へ出た。雪を踏みしめる音だけが響く。
これといった案はない。ただ母に食べさせるものを買わなくては。
市場へ向かう途中――
「ねえ、そこの子」
声に振り向くと、長身の女性が立っていた。百八十ほどだろうか。黒髪を高く結び、勝気な笑みを浮かべている。
目は橙色に輝き、黒いコート一枚という薄着。それなのに寒さをまるで気にしていない様子だった。
日本で暮らしていた頃の感覚が残っているせいか、アトラはその異様さを深く考えなかった。
「なんでしょう」
「ちょっと頼みたいことがあってさ」
女性はひらりと封筒を取り出した。
赤い蝋の封に、皇族のしるし。魔導城からの召喚状だ。
「これ、受け取ってくんない?」
「……何ですか?」
「来てくれるはずだった子が、急に来られなくなってね。あんたなら、悪くないと思ってさ」
そう言って、意味ありげにアトラの顔を覗き込む。
ガレマール城――つい最近、魔導城と改名された王城。
階級こそ下級だが、農家から下級役人へ成り上がれる道。
仕事のない少女にとって、天からの助けにも見える。
だが、本当に助けなのか?
年端もいかぬ自分を、利用しようとしているのではないか――
アトラは目を細めた。
「……確認させてください」
女性は軽くうなずき、封筒を差し出す。
アトラは慎重に受け取り、細かい文字をひとつひとつ追い始めた。
「いいねえ。文字、読めるんだ」
女性の何気ない一言に、アトラはハッとした。
この国で学校に通えるのは、貴族か特待生だけ。
民間の農家が文字を学ぶ機会など、まずない。
それなのに――自分は読めている。
「か、書くのはできません」
口にした瞬間、胸の奥で小さく反発があった。
――やったことがないだけで。
無意識に、封筒を強く握りしめる。なぜ、自分は読めるのだろうと。
(異世界転生チートってことだろうか……)
「じゅうぶんでしょ。むしろその方が雇う側からすると手間が省ける」
女性は軽く笑ってそう言った。
アトラは迷った。だが、この話を断るほどの余裕はない。
「……行かせてください。使用人になります」
こうしてアトラは、あっさり城の使用人として勤めることになった。
その数か月後――ガレマール共和国は、『ガレマール帝国』と名を変える。