【FF14】メイドさんの夢旅行
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アトラは牢屋を開けて飛び出した。エメトセルクの姿はもうない。
地下牢自体も封鎖されておらず、まるで「お好きにどうぞ」と言わんばかりに解放されていた。
狭い石造りの螺旋階段を駆け上がる。
最後の段を踏みしめ、身体を折り曲げて暖炉の隙間から這い出た。
「暖炉が入り口だったんだ……」
たどり着いた簡素な部屋から迷うことなく廊下へ出る。
そこからは知っている場所だったので、迷うことなく外へ出ることができた。
空は夜だった。
澄んだ空気が肌を刺し、まつ毛に霜がつくほど冷たい。
けれど、それが心地よかった。
「あら、おかえり。泊まり込みだったんだってね」
家には、変わらない母……いや、以前より妙に元気になった母がいた。
しかも、客人までいる。母と同年代くらいの男が二人。
アトラは思わず足を止め、顔が引きつる。
「た、ただいま。……ていうか、この人たちは?」
「私が元気になったからって快気祝いに来たのさ」
――いやいや。
見舞いにも来なかったような人たちが、わざわざ快気祝い?
母のことを気にかけるタイプには見えなかったはずなのに。
アトラはちらりと男たちを見やる。
笑ってはいるが、何か妙だ。
病気だった母を見捨てたくせに、今さら顔を出し、しかも母に食事まで振る舞わせている。
アトラには、どうにも 「祝ってもらう側の行動ではない」 ように見えた。
客人たちは、アトラに食べさせた時よりも ずっと豪華な料理を 食べている。
母は何かにつけて 「たくさん食べてね」 などと言い、甲斐甲斐しく世話を焼いていた。
――ああ、でも田舎ってこういうとこよね! 村八分よりはましね!
胸の奥に嫌気が差す。
絵理沙の頃に散々味わった、あのうっとうしい「身内づきあい」。
女親子しかいない家なんて、こういう時には格好の標的だ。
客人への苛立ち以上に、母がまんざらでもなさそうなことが許せない。
このまま食卓につけば――
「結婚はまだか?」
「初めてはいつだ?」
「晩酌をしろ」
そんな 下世話な言葉 を浴びせられるのは目に見えている。
――元気になったら、こういう事するんかい!
もちろん、アトラは知っている。
母の世話焼きな性格に何度も救われ、仕事でも支えられたことを。
感謝すべきなのだろう。……だが、こればかりは耐えられない。
居心地の悪い現実。
アトラは黙って荷物をまとめた。
「今日から使用人の棟に住むから。仕送りの話はまた後でね」
そうだけ言い残し、再会を祝うこともなく家を出た。
もちろん、使用人の宿泊棟に移動する許可なんて取っていない。
――けど、今はどうでもいい。
アトラは昨晩までいた牢屋に戻った。
石の壁に囲まれた狭い部屋。だが、不思議と落ち着く。
荷物を広げながら、「手続きはあとでどうにでもなる」と心の中でつぶやいた。
***
翌朝。
牢屋で快適な一晩を過ごしたアトラは、侍女長のプリシラに 使用人が寮としている棟への移動申請をした。
すると、プリシラは そっとアトラの手を握り、
「おかえりなさい」
と、優しく迎え入れた。
――アトラは、困惑する。
「皇帝陛下が、あなたは研究所の給仕として働いていると聞いたわ。心配したんだから」
実の母との、この差。
もちろん、良し悪しの問題ではない。
だが、アトラには沁みるものがあった。
「いい? 研究所の給仕は少ないけど、事故死が多いの。
もしまた研究所に行くことになったら、あなたは皇室で働いているのだからと断りなさい。
他の人を犠牲にすることになっても、自分の身はちゃんと守るのよ。
死んだら終わりなんだから」
プリシラはそう言い切ると、いつもの厳格な姿勢で仕事に戻った。
「さ、お仕事するわよ。使用人の宿泊棟の話は、また後日連絡するわ」
アトラも仕事を再開し、いくつかの 新たな情報 を手に入れる。
――なんと、アトラは 魔導研究所の給仕をしていて、皇帝の研究視察にも付き添っていたことになっている らしい。
……誰? その、漫画で喋らないけど背景にいつもいるキャラみたいなポジション。
ちょっといい。影の存在って感じで。有能感もすごい。
しかも、アトラがバカンスで日焼けしていたのが、
「魔導光を浴びすぎて焼けた」 ということになっていた。
温かい魔導光は肌が焼ける、という噂らしい。
アトラは、いざとなったら 皇帝と距離を縮める手段として 研究所勤めを利用するのも悪くないと思った。
とはいえ、プリシラが心配してくれたことを考えると、すぐに移動を決めるのは少し気が引けた。
休憩の合間にディアナにリンクパールで連絡を取ると、彼女も出張中だったらしい。
「どこかで食事でもしない?」
ディアナからの誘いに、アトラはすぐに乗った。
直接会えば、いろいろと情報交換もできるかもしれない。
それに、気の置けない相手と食事をするのも悪くない。
――皇帝陛下のお茶の時間。
アトラは、同僚の女性とともに紅茶を準備する。
2人体制での給仕。
鉄製の温ポットを使い、香り高い紅茶とお茶菓子を用意した。
貴族出身の使用人も多い皇室において、庶民出身の使用人が働くのは決して珍しくない。
それも、混沌を愛する皇帝陛下の方針ゆえだ。
アトラの同僚の女性は貴族の出で、礼儀作法も立ち居振る舞いも洗練されている。
そのため、皇帝に直接紅茶を渡す役目は、自然と彼女に任されることとなった。
アトラは庶民ならではの実務に専念し、紅茶の準備を整える。
だが、話しかけられたのはアトラだった。
「お前、この仕事を続けるのか」
牢屋でのやりとりがありながら、アトラは皇帝の前で堂々と仕事を続ける。
皇帝はそれを 「指摘」 した。
――いや、違う。
アトラには、それが挑発のようにも聞こえた。
あるいは、逃げる道を示すようにも。
もちろん、皇帝はそのつもりではない。
試すように。
皇帝の目が細められ、アトラを射抜く。
「この仕事が私の務めですから」
「――逃げもしないか」
皇帝は紅茶を受け取り、一口飲む。
同僚の女性が表情をほぼ変えずにアトラを一瞬だけ見たあと、すぐに平然とした顔に戻す。――貴族の鏡だ。
「このたび、身辺整理と労働保険の良さも考えて、住所を使用人棟へ移すことにいたしました」
なんなら、さらに近くなりましたけど?
そう言外に含めて、慎ましく答える。
「ほう。それなら――無断欠勤や行方不明は、保険適用外としておこうか」
皇帝はアトラが牢屋から消えていた間のことを指摘してきた。
「それならちょうどいいですね。保険適用外を口実に、実家への仕送りを止められます。帰れば男を二人も連れ込んでる母に、余計な金を渡さずに済むので」
皇帝はうんざりとした目を向け、じっとアトラを見据えた。
労働保険など、言い訳のようなものだ。適用されようがされまいが、大した問題ではない。
――とはいえ、母への仕送り額は一度見直すべきかもしれない。
「研究所の給仕に『戻して』やろうか」
「皇帝陛下のお膝もとでしたら、どこへでも勤めさせていただきます」
「減らぬ口だ」
皇帝の言葉に皮肉を返しながらも、アトラは密かに手応えを感じていた。
今や、目的は「皇帝の威力を削ぐこと」ではない。すっかりアゼムとエメトセルクの確執を解くことへと向いてしまっていた。
籠絡など、最初から不可能だ。ならば、態度を軟化させる方向で揺さぶるべきだ。
それに、エメトセルクの結末を知っている以上、転生組の末端としてアシエンの内情を探るのも手だと考えている。
まずは親友ふたりの確執を解き、それでも皇帝の威光が揺るがなければ転生組に加わる。最後の手段として、命を賭して統合を阻止する。
ハイデリン側につく道もあるが、アトラ自身は魂の消滅まで覚悟しているわけではない。ただ、命の消耗――それだけなら構わない。
地獄から地獄へ。
――そんな運命も、悪くない。
アトラとして歩み始めた時、ピンチを救ってくれたディアナに恩を返すため。
旅人に宿をくれたカロンに協力するため。
夢のような魔法をくれたエメトセルクには、できる限りのことを。
生んで育ててくれた母カミラには――親孝行の真似事くらい、まだできるかもしれない。
皇帝が、この身の処分を決めなければ、の話だが。
「お前も紅茶の礼儀くらい身につけろ」
皇帝の声が、淡々と落ちてくる。
「え? は、はい。精一杯務めさせていただきます」
言いながら、アトラは自分の返答が妙に滑稽に思えた。
皇帝は冷ややかに笑った。
「……見せてもらおうか、お前の忠誠心とやらを」
地下牢自体も封鎖されておらず、まるで「お好きにどうぞ」と言わんばかりに解放されていた。
狭い石造りの螺旋階段を駆け上がる。
最後の段を踏みしめ、身体を折り曲げて暖炉の隙間から這い出た。
「暖炉が入り口だったんだ……」
たどり着いた簡素な部屋から迷うことなく廊下へ出る。
そこからは知っている場所だったので、迷うことなく外へ出ることができた。
空は夜だった。
澄んだ空気が肌を刺し、まつ毛に霜がつくほど冷たい。
けれど、それが心地よかった。
「あら、おかえり。泊まり込みだったんだってね」
家には、変わらない母……いや、以前より妙に元気になった母がいた。
しかも、客人までいる。母と同年代くらいの男が二人。
アトラは思わず足を止め、顔が引きつる。
「た、ただいま。……ていうか、この人たちは?」
「私が元気になったからって快気祝いに来たのさ」
――いやいや。
見舞いにも来なかったような人たちが、わざわざ快気祝い?
母のことを気にかけるタイプには見えなかったはずなのに。
アトラはちらりと男たちを見やる。
笑ってはいるが、何か妙だ。
病気だった母を見捨てたくせに、今さら顔を出し、しかも母に食事まで振る舞わせている。
アトラには、どうにも 「祝ってもらう側の行動ではない」 ように見えた。
客人たちは、アトラに食べさせた時よりも ずっと豪華な料理を 食べている。
母は何かにつけて 「たくさん食べてね」 などと言い、甲斐甲斐しく世話を焼いていた。
――ああ、でも田舎ってこういうとこよね! 村八分よりはましね!
胸の奥に嫌気が差す。
絵理沙の頃に散々味わった、あのうっとうしい「身内づきあい」。
女親子しかいない家なんて、こういう時には格好の標的だ。
客人への苛立ち以上に、母がまんざらでもなさそうなことが許せない。
このまま食卓につけば――
「結婚はまだか?」
「初めてはいつだ?」
「晩酌をしろ」
そんな 下世話な言葉 を浴びせられるのは目に見えている。
――元気になったら、こういう事するんかい!
もちろん、アトラは知っている。
母の世話焼きな性格に何度も救われ、仕事でも支えられたことを。
感謝すべきなのだろう。……だが、こればかりは耐えられない。
居心地の悪い現実。
アトラは黙って荷物をまとめた。
「今日から使用人の棟に住むから。仕送りの話はまた後でね」
そうだけ言い残し、再会を祝うこともなく家を出た。
もちろん、使用人の宿泊棟に移動する許可なんて取っていない。
――けど、今はどうでもいい。
アトラは昨晩までいた牢屋に戻った。
石の壁に囲まれた狭い部屋。だが、不思議と落ち着く。
荷物を広げながら、「手続きはあとでどうにでもなる」と心の中でつぶやいた。
***
翌朝。
牢屋で快適な一晩を過ごしたアトラは、侍女長のプリシラに 使用人が寮としている棟への移動申請をした。
すると、プリシラは そっとアトラの手を握り、
「おかえりなさい」
と、優しく迎え入れた。
――アトラは、困惑する。
「皇帝陛下が、あなたは研究所の給仕として働いていると聞いたわ。心配したんだから」
実の母との、この差。
もちろん、良し悪しの問題ではない。
だが、アトラには沁みるものがあった。
「いい? 研究所の給仕は少ないけど、事故死が多いの。
もしまた研究所に行くことになったら、あなたは皇室で働いているのだからと断りなさい。
他の人を犠牲にすることになっても、自分の身はちゃんと守るのよ。
死んだら終わりなんだから」
プリシラはそう言い切ると、いつもの厳格な姿勢で仕事に戻った。
「さ、お仕事するわよ。使用人の宿泊棟の話は、また後日連絡するわ」
アトラも仕事を再開し、いくつかの 新たな情報 を手に入れる。
――なんと、アトラは 魔導研究所の給仕をしていて、皇帝の研究視察にも付き添っていたことになっている らしい。
……誰? その、漫画で喋らないけど背景にいつもいるキャラみたいなポジション。
ちょっといい。影の存在って感じで。有能感もすごい。
しかも、アトラがバカンスで日焼けしていたのが、
「魔導光を浴びすぎて焼けた」 ということになっていた。
温かい魔導光は肌が焼ける、という噂らしい。
アトラは、いざとなったら 皇帝と距離を縮める手段として 研究所勤めを利用するのも悪くないと思った。
とはいえ、プリシラが心配してくれたことを考えると、すぐに移動を決めるのは少し気が引けた。
休憩の合間にディアナにリンクパールで連絡を取ると、彼女も出張中だったらしい。
「どこかで食事でもしない?」
ディアナからの誘いに、アトラはすぐに乗った。
直接会えば、いろいろと情報交換もできるかもしれない。
それに、気の置けない相手と食事をするのも悪くない。
――皇帝陛下のお茶の時間。
アトラは、同僚の女性とともに紅茶を準備する。
2人体制での給仕。
鉄製の温ポットを使い、香り高い紅茶とお茶菓子を用意した。
貴族出身の使用人も多い皇室において、庶民出身の使用人が働くのは決して珍しくない。
それも、混沌を愛する皇帝陛下の方針ゆえだ。
アトラの同僚の女性は貴族の出で、礼儀作法も立ち居振る舞いも洗練されている。
そのため、皇帝に直接紅茶を渡す役目は、自然と彼女に任されることとなった。
アトラは庶民ならではの実務に専念し、紅茶の準備を整える。
だが、話しかけられたのはアトラだった。
「お前、この仕事を続けるのか」
牢屋でのやりとりがありながら、アトラは皇帝の前で堂々と仕事を続ける。
皇帝はそれを 「指摘」 した。
――いや、違う。
アトラには、それが挑発のようにも聞こえた。
あるいは、逃げる道を示すようにも。
もちろん、皇帝はそのつもりではない。
試すように。
皇帝の目が細められ、アトラを射抜く。
「この仕事が私の務めですから」
「――逃げもしないか」
皇帝は紅茶を受け取り、一口飲む。
同僚の女性が表情をほぼ変えずにアトラを一瞬だけ見たあと、すぐに平然とした顔に戻す。――貴族の鏡だ。
「このたび、身辺整理と労働保険の良さも考えて、住所を使用人棟へ移すことにいたしました」
なんなら、さらに近くなりましたけど?
そう言外に含めて、慎ましく答える。
「ほう。それなら――無断欠勤や行方不明は、保険適用外としておこうか」
皇帝はアトラが牢屋から消えていた間のことを指摘してきた。
「それならちょうどいいですね。保険適用外を口実に、実家への仕送りを止められます。帰れば男を二人も連れ込んでる母に、余計な金を渡さずに済むので」
皇帝はうんざりとした目を向け、じっとアトラを見据えた。
労働保険など、言い訳のようなものだ。適用されようがされまいが、大した問題ではない。
――とはいえ、母への仕送り額は一度見直すべきかもしれない。
「研究所の給仕に『戻して』やろうか」
「皇帝陛下のお膝もとでしたら、どこへでも勤めさせていただきます」
「減らぬ口だ」
皇帝の言葉に皮肉を返しながらも、アトラは密かに手応えを感じていた。
今や、目的は「皇帝の威力を削ぐこと」ではない。すっかりアゼムとエメトセルクの確執を解くことへと向いてしまっていた。
籠絡など、最初から不可能だ。ならば、態度を軟化させる方向で揺さぶるべきだ。
それに、エメトセルクの結末を知っている以上、転生組の末端としてアシエンの内情を探るのも手だと考えている。
まずは親友ふたりの確執を解き、それでも皇帝の威光が揺るがなければ転生組に加わる。最後の手段として、命を賭して統合を阻止する。
ハイデリン側につく道もあるが、アトラ自身は魂の消滅まで覚悟しているわけではない。ただ、命の消耗――それだけなら構わない。
地獄から地獄へ。
――そんな運命も、悪くない。
アトラとして歩み始めた時、ピンチを救ってくれたディアナに恩を返すため。
旅人に宿をくれたカロンに協力するため。
夢のような魔法をくれたエメトセルクには、できる限りのことを。
生んで育ててくれた母カミラには――親孝行の真似事くらい、まだできるかもしれない。
皇帝が、この身の処分を決めなければ、の話だが。
「お前も紅茶の礼儀くらい身につけろ」
皇帝の声が、淡々と落ちてくる。
「え? は、はい。精一杯務めさせていただきます」
言いながら、アトラは自分の返答が妙に滑稽に思えた。
皇帝は冷ややかに笑った。
「……見せてもらおうか、お前の忠誠心とやらを」