【FF14】メイドさんの夢旅行
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まさか未来の英雄の開拓無人島にたどり着くとは、アトラは夢にも思っていなかった。
アトラは島に滞在することにした。
ヒロシと名乗る青年は、最初こそ「リムサ・ロミンサまで送ろうか」と親切に言ってくれた。だがアトラが「帝国の地下牢から命からがら逃げてきた」と話すと、彼は顔を曇らせ、少し考えてからうなずいた。
「じゃあ、しばらくここにいなよ。働いてくれるなら歓迎する」
嘘は言っていない。実際、アトラは牢から逃げてきたのだ。
ヒロシはさらに、「帝国も今は保護が受けられるようになっている」と説明したが、アトラは食い下がった。
「権力者に目をつけられていて……帰るのは危険なんです」
これも嘘ではなかった。
働くと言ったからには、アトラは懸命に働いた。
魔法人形たちと協力して木材を運び、道を整え、ヒロシが快適に過ごせる休憩所を作り込む。のんびりした作業なのに、用意される食事は申し訳なくなるほど豪勢で、休憩にはココナッツジュースやトロピカルな果物がふるまわれた。魔法人形たちは、かいがいしく世話を焼いてくれる。
常夏の爽やかな風はアトラの白い肌を焼き、夜は星空の下、涼しい風を浴びながらハンモックやワラを敷いた床で眠る。健全で健康な日々。
ヒロシは常に島にいるわけではない。だからこそ、唯一の島民としてアトラは、より精を出して働いた。
日々が過ぎていくうちに、夢の中の影の案内人ですら言いづらそうに口を開くほど、アトラは島暮らしを満喫していた。
「そろそろ次の手を考えても……いいんじゃない? ねぇ……」
「麻を30束と種を探してこなきゃだからあとでね」
アトラは立派な島民になっていた。
鉱物を採る重労働は無理でも、植物を運ぶくらいはできる。グラナリーオフィスの開拓団に加わって素材を集めたり、モンスターがいない場所では一人で採取にも出かけた。
島には定期的な来客を想定した宿泊施設が建てられつつあり、アトラは皇室仕込みのスキルで寝具や食器の配置まで万全に整えた――もっとも、万能な魔法人形たちがほとんどの作業を片づけてしまうので、彼女の仕事は驚くほど少ないのだが。
服も新調した。集めた素材で工房に作ってもらった長袖シャツと作業ズボン、頑丈なブーツ。開拓者というより、どう見ても農家である。
ときにはミニオンと戯れたり、魔法人形が作った料理を味見して味を確認したりもした。
「正直、厚待遇すぎる。帰りたくない……いや、お母さんを置いてはいけないから脱出しないとだけどね?」
夢の中、影の案内人は深いため息をつく。
「ま、まあ、いいんじゃない。おすすめしたの、私だからね……」
心底あきれられた。
「次はプール作ろうよって話になってるんだ。ゲームの無人島開拓にはプールなかったけど、リゾートなら欲しいよねって。ま、私は石とか運べないから、布とか種とか集めるのが限界だけど」
「オタク早口……しかもメタいこと言うじゃん」
「隠すことでもないでしょ、あんたには」
アトラは影の案内人の正体を知らないが、こちらの事情を知っているならと開き直って話を続けた。
「でね、思いついたの。聞いて」
「お、おう」
影の案内人が少し圧されるなか、アトラは得意げに語る。
「無人島で作った防寒着を着て牢屋に戻れるんじゃないかって思ってさ。さっそく暖房アイテムも装備して戻ってみたの」
「とんでもないことするねあんた……」
「そしたらね、ほんとにあったかい服のまま牢屋に戻れて。誰も来ないから、いま牢屋めっちゃ快適になっちゃってるの」
「……は?」
「ベッド代わりの毛皮敷いて、ポットで湯まで沸かしてるから、むしろ別荘。封鎖された牢屋だったのが腹立ったけど、逆に超ラッキーだったわ」
「へ、へー……」
アトラの斜め上すぎる行動に、影の案内人は完全に思考停止した。
――話していること、全部ほんとじゃん……。
アトラは首飾りをヒントに、「身に付けている物なら夢見の力で移動できる」と気づいて以来、無人島で交換してもらった生活用品を次々と牢屋に持ち込んでいた。
もはや城勤めの使用人ではなく、母に守られる娘でもなく、完全に“絵理沙”に戻っていた。
「さすがに大きいものは無理ね。こないだモアイ像と一緒に寝てみたけどダメだったわ。皇帝の度肝抜きたかったのに」
「バカでしょ!? てか、そんなに往復してたの知らなかったわ」
「そうそう。カバンは余裕。ヒロシさんが古い暖房器具くれてさ、魔法人形さんたちがそれを元に新しいのを作ってくれたの。だから古いほうを牢屋に持ち込んで、超快適生活! 豊かな土地とリゾートはすべてを解決するね!」
「いやいやいや、そういうつもりでリゾート紹介したんじゃないから!!」
「え、違うの……?」
影の案内人はマジであきれた。しばらく無言のあと、肩をすくめて言う。
「……落ち着けば状況を変える案も浮かぶでしょ、って意味だったの。新しい人生の提案じゃないから」
「そっかぁ……じゃあ私が勝手に“第三の人生”始めちゃったんだ」
「ほんとあんた変わってるよね。なんで無人島開拓のコンセプト通りに突っ走っちゃってんの」
アトラは、第一の人生(絵理沙)よりも、第二の人生(帝国使用人)よりも、今が一番充実していた。
「『わたし、こんなことしてていいのかな……』ってそろそろ言い出してほしいよ」
「我が世の春だよ。こんなことしかしていたくないよ」
「皇帝への忠誠はどうしたんだよ」
「やっぱり特産品の献上かな?」
「それお土産じゃん。ノリが友達かよ」
「蜂蜜とココナッツと南国ファッションフルセットは基本よね? バスボムとかも作っちゃおうかなあ。重曹とクエン酸だっけ?」
アトラの胸にある皇帝への尊敬は変わらない。
むしろ夢見の力を試す絶好の機会となり、「いずれ役に立てる準備が整ってきた」と本人は思っていた。
「この力でお仕えできる日が楽しみだなあ。いつ牢屋に訪問するんだろう」
「牢屋で待ち構えるっておかしいでしょ。牢屋には来ないよ」
「えっ」
「捕らえられたのに皇帝の前に平然と現れる――そういう能力の使い方を期待してたんじゃないの?」
「!」
「“それでもなお皇帝のもとへ戻ってくる忠犬なのか”って試されてたんでしょ」
「……!!」
アトラは、自分が完全に勘違いしていたことに、ようやく気付いた。
アトラは島に滞在することにした。
ヒロシと名乗る青年は、最初こそ「リムサ・ロミンサまで送ろうか」と親切に言ってくれた。だがアトラが「帝国の地下牢から命からがら逃げてきた」と話すと、彼は顔を曇らせ、少し考えてからうなずいた。
「じゃあ、しばらくここにいなよ。働いてくれるなら歓迎する」
嘘は言っていない。実際、アトラは牢から逃げてきたのだ。
ヒロシはさらに、「帝国も今は保護が受けられるようになっている」と説明したが、アトラは食い下がった。
「権力者に目をつけられていて……帰るのは危険なんです」
これも嘘ではなかった。
働くと言ったからには、アトラは懸命に働いた。
魔法人形たちと協力して木材を運び、道を整え、ヒロシが快適に過ごせる休憩所を作り込む。のんびりした作業なのに、用意される食事は申し訳なくなるほど豪勢で、休憩にはココナッツジュースやトロピカルな果物がふるまわれた。魔法人形たちは、かいがいしく世話を焼いてくれる。
常夏の爽やかな風はアトラの白い肌を焼き、夜は星空の下、涼しい風を浴びながらハンモックやワラを敷いた床で眠る。健全で健康な日々。
ヒロシは常に島にいるわけではない。だからこそ、唯一の島民としてアトラは、より精を出して働いた。
日々が過ぎていくうちに、夢の中の影の案内人ですら言いづらそうに口を開くほど、アトラは島暮らしを満喫していた。
「そろそろ次の手を考えても……いいんじゃない? ねぇ……」
「麻を30束と種を探してこなきゃだからあとでね」
アトラは立派な島民になっていた。
鉱物を採る重労働は無理でも、植物を運ぶくらいはできる。グラナリーオフィスの開拓団に加わって素材を集めたり、モンスターがいない場所では一人で採取にも出かけた。
島には定期的な来客を想定した宿泊施設が建てられつつあり、アトラは皇室仕込みのスキルで寝具や食器の配置まで万全に整えた――もっとも、万能な魔法人形たちがほとんどの作業を片づけてしまうので、彼女の仕事は驚くほど少ないのだが。
服も新調した。集めた素材で工房に作ってもらった長袖シャツと作業ズボン、頑丈なブーツ。開拓者というより、どう見ても農家である。
ときにはミニオンと戯れたり、魔法人形が作った料理を味見して味を確認したりもした。
「正直、厚待遇すぎる。帰りたくない……いや、お母さんを置いてはいけないから脱出しないとだけどね?」
夢の中、影の案内人は深いため息をつく。
「ま、まあ、いいんじゃない。おすすめしたの、私だからね……」
心底あきれられた。
「次はプール作ろうよって話になってるんだ。ゲームの無人島開拓にはプールなかったけど、リゾートなら欲しいよねって。ま、私は石とか運べないから、布とか種とか集めるのが限界だけど」
「オタク早口……しかもメタいこと言うじゃん」
「隠すことでもないでしょ、あんたには」
アトラは影の案内人の正体を知らないが、こちらの事情を知っているならと開き直って話を続けた。
「でね、思いついたの。聞いて」
「お、おう」
影の案内人が少し圧されるなか、アトラは得意げに語る。
「無人島で作った防寒着を着て牢屋に戻れるんじゃないかって思ってさ。さっそく暖房アイテムも装備して戻ってみたの」
「とんでもないことするねあんた……」
「そしたらね、ほんとにあったかい服のまま牢屋に戻れて。誰も来ないから、いま牢屋めっちゃ快適になっちゃってるの」
「……は?」
「ベッド代わりの毛皮敷いて、ポットで湯まで沸かしてるから、むしろ別荘。封鎖された牢屋だったのが腹立ったけど、逆に超ラッキーだったわ」
「へ、へー……」
アトラの斜め上すぎる行動に、影の案内人は完全に思考停止した。
――話していること、全部ほんとじゃん……。
アトラは首飾りをヒントに、「身に付けている物なら夢見の力で移動できる」と気づいて以来、無人島で交換してもらった生活用品を次々と牢屋に持ち込んでいた。
もはや城勤めの使用人ではなく、母に守られる娘でもなく、完全に“絵理沙”に戻っていた。
「さすがに大きいものは無理ね。こないだモアイ像と一緒に寝てみたけどダメだったわ。皇帝の度肝抜きたかったのに」
「バカでしょ!? てか、そんなに往復してたの知らなかったわ」
「そうそう。カバンは余裕。ヒロシさんが古い暖房器具くれてさ、魔法人形さんたちがそれを元に新しいのを作ってくれたの。だから古いほうを牢屋に持ち込んで、超快適生活! 豊かな土地とリゾートはすべてを解決するね!」
「いやいやいや、そういうつもりでリゾート紹介したんじゃないから!!」
「え、違うの……?」
影の案内人はマジであきれた。しばらく無言のあと、肩をすくめて言う。
「……落ち着けば状況を変える案も浮かぶでしょ、って意味だったの。新しい人生の提案じゃないから」
「そっかぁ……じゃあ私が勝手に“第三の人生”始めちゃったんだ」
「ほんとあんた変わってるよね。なんで無人島開拓のコンセプト通りに突っ走っちゃってんの」
アトラは、第一の人生(絵理沙)よりも、第二の人生(帝国使用人)よりも、今が一番充実していた。
「『わたし、こんなことしてていいのかな……』ってそろそろ言い出してほしいよ」
「我が世の春だよ。こんなことしかしていたくないよ」
「皇帝への忠誠はどうしたんだよ」
「やっぱり特産品の献上かな?」
「それお土産じゃん。ノリが友達かよ」
「蜂蜜とココナッツと南国ファッションフルセットは基本よね? バスボムとかも作っちゃおうかなあ。重曹とクエン酸だっけ?」
アトラの胸にある皇帝への尊敬は変わらない。
むしろ夢見の力を試す絶好の機会となり、「いずれ役に立てる準備が整ってきた」と本人は思っていた。
「この力でお仕えできる日が楽しみだなあ。いつ牢屋に訪問するんだろう」
「牢屋で待ち構えるっておかしいでしょ。牢屋には来ないよ」
「えっ」
「捕らえられたのに皇帝の前に平然と現れる――そういう能力の使い方を期待してたんじゃないの?」
「!」
「“それでもなお皇帝のもとへ戻ってくる忠犬なのか”って試されてたんでしょ」
「……!!」
アトラは、自分が完全に勘違いしていたことに、ようやく気付いた。