夢見の旅人
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「さ、てー。改めて聞かせていただこう。お前は何者だ?」
アトラ、ただいま皇帝に怪しまれて拘束状態です。
アトラは夜勤明けから一度家に帰り、半日休みをもらっていた。午後から出勤すると、皇帝から呼び出され、わざわざご指名とはいったい何事かと駆けつけてみれば、魔導具装置により魔法の鎖で捕らえられ身動きが取れない状態となった。
アトラは汗をかいて、皇帝の目もみれず足元を見続ける。
「説明しようにもですね、私もよくわかっていなくて……どうしてこんなことがおきたのか」
「ほう」
皇帝はくるりと背中を向け、顔だけ振り返っていった。
「落ち着いているな、アティウス。昨日、私が何者か、なぜわかっているかのように返事をした?」
――ほんとですよねー。とんだ馬鹿ですね私。
「そんな。偉大なる皇帝陛下でいらっしゃる以外の何だとおっしゃるのでしょうか」
アトラの顔に冷や汗が流れる。小さい失態で大きな失態を引き起こしてしまうのは避けたかった。
「平然と勤めに来たということは、悪意がないのはわかる。考えなしであることもな」
室内には皇帝とアトラ以外、誰もいない。皇帝は机に腰をかけて尋問を開始する。
「なぜ私と会話が成立したのか。お前は何者なのか。何が目的だ」
昨日、アトラはエメトセルクの記憶と時が繋がったという嬉しさからつい返事をしたが、それこそが罠だった。というより、アトラがウカツだっただけであった。皇帝の正体を知っていなければ、首飾りを贈った相手が皇帝ソルだとわかるはずがない。
アトラはうまい嘘をつける自信もなかった。ディアナの言っていたように、プロではない。
「……ご存知のように、悪意はありません。考えなしもその通りです」
アトラは慎重に発言する。自分がまた、いらぬことを言えばディアナに被害がとんでしまうことを思うと、口が重く感じた。皇帝はただ黙ってアトラを見る。
「皇帝陛下にはご恩があります。尊敬の念を抱くことはあれど、敵意はありません」
皇帝は促すようにただ、沈黙していた。「それで?」とも言いたげに。アトラは、嘘をつかず、真実のまま話すために頭を働かせた。
「……陛下が、首飾りのことをお聞きになったとき、きっと私の知っている方なのだとわかったのでございます」
皇帝は沈黙を続ける。気を抜けば隙をつかれて、こちらの精神を揺るがす言葉を投げてくるだろう。アトラは脂汗も出そうなほど緊張しながら、己を奮い立たせた。罠はすでに張られている。
「正体を知っているな?」と聞きはしたが、彼は自分が誰かを明かしていない。
「首飾りをいただいたとき、そのことを知っていらっしゃる方が3名いらっしゃいました。陛下は、その3名のどなたか……もしくは、そのお話を聞いたお知り合いなのですよね?」
皇帝はあからさまに舌打ちをした。
――あっぶねー! 心理戦も囲い込まれてる!
アトラはどっと汗が吹き出た。
「目的は、ありません。いろんな人に会いに行けるという力以外、何も持たぬ市民でございます」
たっぷりと沈黙した後、皇帝は息を吐き出した。
「……はあ。そういうことにしておこう」
こわいよー。
生まれたてのヒヨコのようにアトラは震えた。
「それから、私のことを誰かに言ったりしたか?」
ディアナに報告するかしまいか、悩みはしたものの、説明が難しく、アトラは結局夢で見たことを誰にも話していなかった。
微振動のようにアトラは首を横に振った。
「ふむ。とりあえずはいいだろう」
皇帝の言葉を聞いて、アトラはホッと息を吐く。
「自由に移動する力には利用価値がありそうだ」
皇帝の声は冷たく響き、部屋の空気を一層張り詰めさせた。皇帝ソルは鋭い目でアトラを見据え、怯えたアトラに手をかざした。アトラは足掻くように言葉を絞り出しす。
「陛下、この秘密は誰にも言いません。どうか、信じてください。私の力がもし陛下のお役に立つのなら、忠実に従いこの力を使います」
皇帝はしばらく沈黙し、その言葉を吟味するように考え込む。アトラの目には誠実さがあるものの、この目に揺るがされるようでは、この国を治めることはできないと切り捨てる。
「その力、使えるものなら使ってみせろ」
アトラが目を覚ますと、冷たい床で寝ていた。体のあちこちが痛む。
「あいててて……」体を確認する。特に怪我はない。場所を見渡すと、冷たい床は石造りで、ガレマールでは見覚えのあるものだった。そばには擦り切れた布でできたアイアンフレームベッド。簡素なトイレ。牢屋でよく見るタイプの鉄格子。
……よく見るタイプの鉄格子? 牢屋?
状況からすると、アトラは牢屋に放りこまれていた。
「ふーんなるほどね、こういうことするんだ。ふーん」
アトラは情けなさと悔しさで胸がいっぱいになり、その怒りを抑えきれずにぶつぶつとつぶやいた。忠誠心を試すためにも拘束されているわけだが、頭に血が上ったアトラがそういったことに気付くことはない。
牢屋の外は石畳の廊下。静寂と影が続いている。しずくの落ちる音がより一層静けさを引き立てる。なにより、この土地の寒さが体の芯まで響いてくる。かすかに魔導技術によって光る電灯が、まるで命の灯のように感じられた。アトラは延々と続く静寂と寒さで、身体だけでなく心まで冷え切っていく。
時間はまるで止まっているかのように感じられ、昼か夜かもわからない。
暗闇の中、頭の中に皇帝ソルの鋭い目が浮かび上がる。ハッとして首元に手をやる。首飾りは取り上げられていなかった。ホッとして、動いたついでにベッドへ移動する。依然、頭の内からあの鋭い瞳がアトラを見つめてくる。気のせいかもしれないが、寂しさを募らせた複雑な視線も感じた。寒さも相まって、胸が締め付けられる。これは今の自分の気持ちを表してるのか、それとも……。
できるだけ丸まって、擦り切れた布を体にかける。アトラは横になって、夢の続きを見ることにした。この状況で、眠れるかもわからないが、やるしかない。
アトラには不安もあった。
前回の夢見で過去に行った時は、夜勤の仮眠中で、おそらく体は現代に残されたままだった。
寒い牢屋で夢見をすれば、凍死の危険性がある。
しかし我らが皇帝陛下は、こんな状況でも何とかしてみせろと仰せだ。ということだろう。
アトラ、ただいま皇帝に怪しまれて拘束状態です。
アトラは夜勤明けから一度家に帰り、半日休みをもらっていた。午後から出勤すると、皇帝から呼び出され、わざわざご指名とはいったい何事かと駆けつけてみれば、魔導具装置により魔法の鎖で捕らえられ身動きが取れない状態となった。
アトラは汗をかいて、皇帝の目もみれず足元を見続ける。
「説明しようにもですね、私もよくわかっていなくて……どうしてこんなことがおきたのか」
「ほう」
皇帝はくるりと背中を向け、顔だけ振り返っていった。
「落ち着いているな、アティウス。昨日、私が何者か、なぜわかっているかのように返事をした?」
――ほんとですよねー。とんだ馬鹿ですね私。
「そんな。偉大なる皇帝陛下でいらっしゃる以外の何だとおっしゃるのでしょうか」
アトラの顔に冷や汗が流れる。小さい失態で大きな失態を引き起こしてしまうのは避けたかった。
「平然と勤めに来たということは、悪意がないのはわかる。考えなしであることもな」
室内には皇帝とアトラ以外、誰もいない。皇帝は机に腰をかけて尋問を開始する。
「なぜ私と会話が成立したのか。お前は何者なのか。何が目的だ」
昨日、アトラはエメトセルクの記憶と時が繋がったという嬉しさからつい返事をしたが、それこそが罠だった。というより、アトラがウカツだっただけであった。皇帝の正体を知っていなければ、首飾りを贈った相手が皇帝ソルだとわかるはずがない。
アトラはうまい嘘をつける自信もなかった。ディアナの言っていたように、プロではない。
「……ご存知のように、悪意はありません。考えなしもその通りです」
アトラは慎重に発言する。自分がまた、いらぬことを言えばディアナに被害がとんでしまうことを思うと、口が重く感じた。皇帝はただ黙ってアトラを見る。
「皇帝陛下にはご恩があります。尊敬の念を抱くことはあれど、敵意はありません」
皇帝は促すようにただ、沈黙していた。「それで?」とも言いたげに。アトラは、嘘をつかず、真実のまま話すために頭を働かせた。
「……陛下が、首飾りのことをお聞きになったとき、きっと私の知っている方なのだとわかったのでございます」
皇帝は沈黙を続ける。気を抜けば隙をつかれて、こちらの精神を揺るがす言葉を投げてくるだろう。アトラは脂汗も出そうなほど緊張しながら、己を奮い立たせた。罠はすでに張られている。
「正体を知っているな?」と聞きはしたが、彼は自分が誰かを明かしていない。
「首飾りをいただいたとき、そのことを知っていらっしゃる方が3名いらっしゃいました。陛下は、その3名のどなたか……もしくは、そのお話を聞いたお知り合いなのですよね?」
皇帝はあからさまに舌打ちをした。
――あっぶねー! 心理戦も囲い込まれてる!
アトラはどっと汗が吹き出た。
「目的は、ありません。いろんな人に会いに行けるという力以外、何も持たぬ市民でございます」
たっぷりと沈黙した後、皇帝は息を吐き出した。
「……はあ。そういうことにしておこう」
こわいよー。
生まれたてのヒヨコのようにアトラは震えた。
「それから、私のことを誰かに言ったりしたか?」
ディアナに報告するかしまいか、悩みはしたものの、説明が難しく、アトラは結局夢で見たことを誰にも話していなかった。
微振動のようにアトラは首を横に振った。
「ふむ。とりあえずはいいだろう」
皇帝の言葉を聞いて、アトラはホッと息を吐く。
「自由に移動する力には利用価値がありそうだ」
皇帝の声は冷たく響き、部屋の空気を一層張り詰めさせた。皇帝ソルは鋭い目でアトラを見据え、怯えたアトラに手をかざした。アトラは足掻くように言葉を絞り出しす。
「陛下、この秘密は誰にも言いません。どうか、信じてください。私の力がもし陛下のお役に立つのなら、忠実に従いこの力を使います」
皇帝はしばらく沈黙し、その言葉を吟味するように考え込む。アトラの目には誠実さがあるものの、この目に揺るがされるようでは、この国を治めることはできないと切り捨てる。
「その力、使えるものなら使ってみせろ」
アトラが目を覚ますと、冷たい床で寝ていた。体のあちこちが痛む。
「あいててて……」体を確認する。特に怪我はない。場所を見渡すと、冷たい床は石造りで、ガレマールでは見覚えのあるものだった。そばには擦り切れた布でできたアイアンフレームベッド。簡素なトイレ。牢屋でよく見るタイプの鉄格子。
……よく見るタイプの鉄格子? 牢屋?
状況からすると、アトラは牢屋に放りこまれていた。
「ふーんなるほどね、こういうことするんだ。ふーん」
アトラは情けなさと悔しさで胸がいっぱいになり、その怒りを抑えきれずにぶつぶつとつぶやいた。忠誠心を試すためにも拘束されているわけだが、頭に血が上ったアトラがそういったことに気付くことはない。
牢屋の外は石畳の廊下。静寂と影が続いている。しずくの落ちる音がより一層静けさを引き立てる。なにより、この土地の寒さが体の芯まで響いてくる。かすかに魔導技術によって光る電灯が、まるで命の灯のように感じられた。アトラは延々と続く静寂と寒さで、身体だけでなく心まで冷え切っていく。
時間はまるで止まっているかのように感じられ、昼か夜かもわからない。
暗闇の中、頭の中に皇帝ソルの鋭い目が浮かび上がる。ハッとして首元に手をやる。首飾りは取り上げられていなかった。ホッとして、動いたついでにベッドへ移動する。依然、頭の内からあの鋭い瞳がアトラを見つめてくる。気のせいかもしれないが、寂しさを募らせた複雑な視線も感じた。寒さも相まって、胸が締め付けられる。これは今の自分の気持ちを表してるのか、それとも……。
できるだけ丸まって、擦り切れた布を体にかける。アトラは横になって、夢の続きを見ることにした。この状況で、眠れるかもわからないが、やるしかない。
アトラには不安もあった。
前回の夢見で過去に行った時は、夜勤の仮眠中で、おそらく体は現代に残されたままだった。
寒い牢屋で夢見をすれば、凍死の危険性がある。
しかし我らが皇帝陛下は、こんな状況でも何とかしてみせろと仰せだ。ということだろう。