メイドさんの夢旅行

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 アトラが次に目が覚めたのは、カロンの自宅だった。
 消えていなくなっていたから、もとの世界に帰ったのかと思っていたカロン。
 アトラは昨日あったこと、自分には夢見の力があることをカロンに話した。

「私も君の帰り方を調べていたけれど、わかってよかった。そっかそっか。大躍進だね~」

 アトラは聞いたことある言葉選びに、「ん?」と違和感を感じつつ、帰る方法を調べてもらっていたことや、お世話になったことにお礼を言わずにいなくなったことを謝罪した。

「いやいや! 謝らないで。無事に帰れるなら、それに越したことはなのだからね」
「ありがとうございます」
「うんうん。また遊びに来れるのなら、いつでも来てちょうだいね」

 やっぱり聞いたことがある会話だと思いつつ、アトラはまた食事をカロン宅にていただくことになった。

「にしても、すごい力だね。ヴェーネス様のお力にもなるかもだけど、旅人を止めるのはやめておこうかな」

 アトラはカロンが自分を尊重してくれるように感じられ、うれしく思った。
 それどころか食事まで世話になり、恩返しできないほうが申し訳なかった。

「私もカロンさんに近い形で、参加するかもしれません」
「えっ、本当?」

 アトラの目標はディアナの言った「皇帝の勢いを落とす」である。それはハイデリンの活躍を推せば叶うことでもあるので、アトラは協力する意思を伝えた。

「そっかあ。それなら私は運び屋で、アティウスちゃんはメッセンジャーってことでヴェーネス様を支えることができるね」
「はい。ぜひ」

 カロンは楽しそうに目を細めた。アトラもそれにうなずく。

 ふたりが未来の展望を話していると、カロンの自宅のドアがノックされる。

「朝から失礼する」

 カロンが扉を開けると、そこにいたのはエメトセルクだった。
 となりに、しょげた様子のアゼムもいた。

「やあ。朝からどうしたのさおふたりさん」
「アゼムがそこの異邦人に世話になったのでな」

 うながされたアゼムは、アトラに礼を言った。

 ――言わされている。なんだかかわいそうだな。
 
 お礼を言われるためではなく、たまたま見かけてアゼムの居場所を探し出せそうだと思っただけだったので、アトラは謙遜してお礼を受け取った。

「わざわざよかったのに」

 それでも真面目なエメトセルクは「そうはいかない。けじめはつける」と言ってアゼムの首根っこをつかんでここまで来たという。
 アゼムとエメトセルクはこうして生きてきたんだなあ……とアトラは現実と距離をとった思想をする。

「やあやあ。私も、ついこのあいだ所長にお説教されてね。アゼム様の部隊があるならそこに異動させるって言われちゃったよ」
「お断りだ。似たようなのが増えて、困るのはこちらだからな」
「仲間だねえ。アゼム様」

 カロンも似たような話を共有する。
 面倒ごとの気配を察したエメトセルクは、丁重に断った。
 アゼムは苦笑をするばかりで、とても反省している様子はない。

 アトラは、ふと気になって、エメトセルクの顔を見た。
 少し、笑っていた。仕方ない、とでもいうように。

 アトラは、勘違いをしていたことを自覚した。
 エメトセルクのことを知っている。アゼムのことを知っている。この世界のことを知っている。
 そう思っていたところに、エメトセルクは、現実の古代の彼は、もっと素直な性格だったと目の当たりにした。
 アゼムにドキドキハラハラさせられている時も、皇帝として生きている時も。
 エメトセルクは存外、人生を楽しんでいた。
 死んだ後も、なんだかんだ光の戦士の旅路を見守っていた。
 そんなシーンが、アトラの頭の中にフラッシュバックした。
 人は、行動に嘘はつけない。

 アトラは何も知らなかった。
 こんなにも、エメトセルクはアゼムや親しい人たちといる時間を愛しているのだということを。
 
 きっと、まだまだ知らないことのほうが、多いのだと。

「それで、お前はもう元の世界に帰れるのか。なんでも行きたい場所へ行けるようになったとか」

 アトラはそのままぼーっとエメトセルクを見ていた。声をかけられて、ハッとする。

「あ、はい。もう帰れると思います。みなさんには、大変お世話になりました」

 ぺこりとお辞儀をする。

「そうか、なら礼をもらっても、手に余るだけか」

 ――なんと。用意してくれていたのか。
 アトラは嬉しくなって顔を明るくする。
 調子よくカロンも話の続きを催促した。

「エメトセルク様、アティウスちゃんに何用意したんですか」
「いいだろう、別に。帰れるとなっては、もらっても困るだけのものだ」

 アゼムが最後に自分も気になるというと、エメトセルクは長い沈黙とため息の末、ポケットから首飾りを取り出した。
 
 アトラは「ポケット!? かわいいものついてるな古代人のローブって……」と見当違いなことを思っていたら。

 パチン。小気味よいスナップが部屋に響く。エメトセルクは魔法でもって、首飾りを浮かせていた。浮いた首飾りはゆっくりとアトラの元へ行き、手前で止まった。
 首飾りは、小さなクリスタルの欠片を、丈夫な紐で括り付けた、旅人を思わせるような作りだった。うっすらと、青く光っている。アトラには少々大きいように見えた。
 
「小さくては不便だろうからな」

 アトラがその首飾りを手に取ると、目くらましのように光がはじけて、思わずアトラは目をつむる。
 ゆっくりと目を開けると、驚いた顔のカロンが、面とフードを外して感動していた。
 
 ――目の色が、やっぱり、ディアナさんに似ている。
 
 さらに強く輝く、オレンジ色だった。

「わあ、すごい! さっすがエメトセルク様だね」
「カロンさん、お面……」
「これはねえ、いいの。いいのよ!」

 仮面とフードは、親しい間柄でこそ外す慣習がある。
 それ以外にも、初対面には使い魔のような扱いをしないとか、礼儀を尽くすなどの意志を表すために、仮面とフードを外す。
 カロンは、慣習と気持ちに、偽りなかった。

 カロンは喜んで、アトラの手を取った。
 アトラの手は、カロンより小さいものの、もう、ぬいぐるみのようにカロンの手に収まることはない。カロンとの目線は以前よりも近く、アトラはしっかりと床に立っていた。

 大きくなってる!

「わあ、これ、エメトセルクさん、これ……」
「だから、帰るなら必要なさそうだと言っただろう」

 そうは言うエメトセルクの横から、アゼムが、でもすごく喜んでいるよ、とエメトセルクを肘でつついた。
 エメトセルクは鼻で息をして、それならいいか、と肩をすくめ、緩んだ表情になる。ついででアゼムに肘で反撃しておく。

 アトラは首飾りが自分の首にかかっていることを確認した。きらりと青く光る、クリスタルの欠片。

「エメトセルク様、ありがとうございます」

 アトラはエメトセルクに向かってお辞儀をした。
 
「礼に礼を言ってどうする」

 そうはいうものの、エメトセルクはまんざらでもない顔だった。

 


 やることはやった、と、エメトセルクとアゼムはカロンの自宅を後にした。

 アトラは首飾りを首にかけたまま、クリスタルの部分を手に取る。欠片は傾けるとキラキラ光って、その光はアトラの顔にちりばめられていた。
 カロンが、何気なく言う。

「私、今後本当にアゼム様のところへ異動になったらってことを考えて、アティウスちゃんには、エメトセルク様を攻略してほしいな」

 またもや聞いたことあるような話。どこかの誰かに、皇帝を籠絡してほしいと言われたような。
 アトラはすかさず言った。

「あなたならその必要ないですよカロンさん」
「え、そお?」
「たぶん、ただあなた自身を生きてるだけで大丈夫です」
「どういうこと……?」

 カロンは首を傾げて、ピンと来ていない様子でうなっていた。
 
 ――アゼム様のような生き方をするなら、おのずと道は開かれよう。
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