夢見の旅人
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アトラは影の案内人がいなくなっても、目覚めることはなかった。夢はまだ続いており、どこからかうっすらと音が聞こえてくる。アトラはその音の方へと歩を進めた。足取りは夢の中らしい、ふんわりとした感触だった。
「――アゼム。ついにやらかしたか」
はっきりと音が聞こえ、それは人の声であることが判明した。
ぼやけていた映像も、徐々にはっきりしてくる。
アトラの目に映ったのは、エメトセルクと、赤い仮面をつけ、落ち着いた雰囲気の黒いローブをまとった男性と話している場面だった。場所は見覚えのある会議室。
「今回も君が手助けに行くのか?」
「……今回ばかりは、ヤツにわからせるためにも、手を出すわけにはいかないだろう」
エメトセルクがこぶしを握る。
小柄な白いローブの少年が、困ったようにふたりを見ていた。
しかし冷静に次の展開にもっていきたい意思を示す。
「この状況じゃ、十四人委員会でも手が出せないね。ラハブレア、どう捉える?」
「あの山をレイブンが囲って飛んでいるなら、むやみに攻撃もできない。アゼムがなにかの拍子に呼んだからだが、地割れの危険性を考えると地続きにもアプローチできない」
「空にはレイブン。地面は地割れの予兆。残すは精鋭で動くことだろうか」
白いローブの少年と赤い仮面の黒いローブの男性こと、ラハブレア呼ばれた男は冷静に分析した。
「こういった状況をなんとかしてきたのがあいつだというのに……!」
どうやら、会話を聞き進めると、アゼムは行方不明であることがわかった。
困った状況を引き起こしたのも、アゼムが原因であるらしい。
アトラは「それは困ったね」と他人事のようにとらえていたが、夢では強く感情が影響された。
自分に無関係な話ではない。どうにかできるかも。
そんな感情が湧き出てきて、アトラはアゼムを探し出そうと気持ちが動いた。夢というのは、自分の感情がその場でひとつになってしまうようだった。
気が付くと、アトラは川辺に立っていた。
遠くから滝の音であろう轟音が聞こえてくる。近くで川はせせらいで、冷たい湿気がアトラの肌に染みわたる。
小さな虫の鳴き声。木々が風に揺れるささめき。
アトラが「これは目覚めたときの感覚?」と思いあたりを見回すと、大きな光る道具の横で、ちょいと休憩とばかりに寝そべっている人を発見した。
向こうもこちらに気が付いたらしく、驚きはするものの、のんきに手を振ってくれた。
君がこんなところにいたら危ないんじゃないか。
そう言ったのは、見覚えと聞き覚えのある声の人物。アゼムだった。
アトラは、ああ、本当だった。影の案内人が言っていた、夢でどこでも行けるという話は。と思い当たった。
アトラはアゼムの元に駆け出していた。目的が達成されたのだ。次に行かなくては。
「もう十四人委員会の人たちがカンカンであなたのこと探してます」
そうだろうとアゼムは返事をする。
「どうしてこんなところに?」
アゼムは、となりにある魔道具を指さしながら説明してくれた。地割れの予兆がでていた土地に調査し、補強に必要な情報と魔道具をそろえて、この山に来たという。魔道具に魔力を込めれば、地割れを補強し、レイブンを追い払える。そこから山の地割れにみんなで対処すれば、この土地は安全になるのだと説明した。
しかし、作業途中で自分は魔力が切れてしまい、救援要請を出そうにも、少しでも動くとレイブンの群れに気付かれてしまうため、ゆっくり休んで回復を待っているらしい。
「なんか、レイブンを呼んじゃったのもアゼムさんだって……どうしてですか?」
レイブンの出す毒は、土地の補強に使えると事前に近くの町で確認したので、そのために大量に呼んだことを教えてくれた。
この毒は、植物には影響がないらしい。人間には効くので、アゼム自身は解毒剤をちゃんと用意していた。
「大胆なことしますねえ」
ふたりはちょっと笑って、アゼムは空を眺めた。
アトラはそもそも、どうしてここにいるのかを聞かれる。
「眠って夢を見ると、どうやらいろんなとこに行けてしまうみたいです。今までは事故みたいにいろんなところに行ってたんですけど、アゼムさんのことろには意図的に来られちゃいました。もしかしたら、もう自分のいた世界に戻れるのかもしれません」
それはいいことだ。おめでとう。アゼムはアトラを祝福してくれた。
「ありがとうございます。でも一応、エメトセルクさんたちに伝えてきますね」
気を付けて。無理をしないで。
アゼムは、自分がいつも言われているだろう言葉をアトラにかけてくれる。
アトラはもう一度、アゼムの隣に寝そべって意識を手放す。
アトラは、会議室の机の上で目が覚める。まだ会議室にいた3人と会うことができた。
川辺のマイナスイオンと森林浴で緩んだ気持ちは、かたい机の上によって引き締められる。
「お前、いつのまにそこに?」
エメトセルクが驚いてアトラを見る。ラハブレアと、白いローブの少年も、小さいアトラをのぞき込む。
アトラはどう説明したものかと思ったが、とりあえず信じようが信じまいが、伝えておくことにした。
「さまざまな次元を今まではさまよってましたが、最近、行きたい場所に行けるようになったんです。それはともかく、私、アゼムさんに会ってきました。探しているんですよね?」
ラハブレアも、白いローブの少年も、そしてエメトセルクもアゼムの名前が出たことに目を丸くする。
「嘘か本当かは聞いてから決めてほしいんです」
アトラはアゼムから聞いたレイブンの活用法、土地の補強、魔道具の魔力補充の話を一気に伝えた。
「レイブンはわざと呼んで、地割れの危険があるのに避難せず、土地の補強をするために魔道具を使うことにして、作業をしていたら魔道具も自分も魔力不足で川辺で寝ていただと?」
エメトセルクに改めてまとまられると、なかなかにぶっ飛んだ話だった。話し終えれば、エメトセルクがアトラの話に異を唱えるのではないかと思っていたが、彼は眉間のしわを深くするばかりだった。
「アゼムなら、やりそうなことだね」
「まったくだ」
白いローブの少年の言葉に、ラハブレアがうなずく。「やっぱり、あそこの香辛料は失い難いものだ」と少年はつぶやく。
エメトセルクは何も言わないままだったが、その沈黙は、肯定を意味していた。
意見、満場一致である。
「あのバカ!」
「――アゼム。ついにやらかしたか」
はっきりと音が聞こえ、それは人の声であることが判明した。
ぼやけていた映像も、徐々にはっきりしてくる。
アトラの目に映ったのは、エメトセルクと、赤い仮面をつけ、落ち着いた雰囲気の黒いローブをまとった男性と話している場面だった。場所は見覚えのある会議室。
「今回も君が手助けに行くのか?」
「……今回ばかりは、ヤツにわからせるためにも、手を出すわけにはいかないだろう」
エメトセルクがこぶしを握る。
小柄な白いローブの少年が、困ったようにふたりを見ていた。
しかし冷静に次の展開にもっていきたい意思を示す。
「この状況じゃ、十四人委員会でも手が出せないね。ラハブレア、どう捉える?」
「あの山をレイブンが囲って飛んでいるなら、むやみに攻撃もできない。アゼムがなにかの拍子に呼んだからだが、地割れの危険性を考えると地続きにもアプローチできない」
「空にはレイブン。地面は地割れの予兆。残すは精鋭で動くことだろうか」
白いローブの少年と赤い仮面の黒いローブの男性こと、ラハブレア呼ばれた男は冷静に分析した。
「こういった状況をなんとかしてきたのがあいつだというのに……!」
どうやら、会話を聞き進めると、アゼムは行方不明であることがわかった。
困った状況を引き起こしたのも、アゼムが原因であるらしい。
アトラは「それは困ったね」と他人事のようにとらえていたが、夢では強く感情が影響された。
自分に無関係な話ではない。どうにかできるかも。
そんな感情が湧き出てきて、アトラはアゼムを探し出そうと気持ちが動いた。夢というのは、自分の感情がその場でひとつになってしまうようだった。
気が付くと、アトラは川辺に立っていた。
遠くから滝の音であろう轟音が聞こえてくる。近くで川はせせらいで、冷たい湿気がアトラの肌に染みわたる。
小さな虫の鳴き声。木々が風に揺れるささめき。
アトラが「これは目覚めたときの感覚?」と思いあたりを見回すと、大きな光る道具の横で、ちょいと休憩とばかりに寝そべっている人を発見した。
向こうもこちらに気が付いたらしく、驚きはするものの、のんきに手を振ってくれた。
君がこんなところにいたら危ないんじゃないか。
そう言ったのは、見覚えと聞き覚えのある声の人物。アゼムだった。
アトラは、ああ、本当だった。影の案内人が言っていた、夢でどこでも行けるという話は。と思い当たった。
アトラはアゼムの元に駆け出していた。目的が達成されたのだ。次に行かなくては。
「もう十四人委員会の人たちがカンカンであなたのこと探してます」
そうだろうとアゼムは返事をする。
「どうしてこんなところに?」
アゼムは、となりにある魔道具を指さしながら説明してくれた。地割れの予兆がでていた土地に調査し、補強に必要な情報と魔道具をそろえて、この山に来たという。魔道具に魔力を込めれば、地割れを補強し、レイブンを追い払える。そこから山の地割れにみんなで対処すれば、この土地は安全になるのだと説明した。
しかし、作業途中で自分は魔力が切れてしまい、救援要請を出そうにも、少しでも動くとレイブンの群れに気付かれてしまうため、ゆっくり休んで回復を待っているらしい。
「なんか、レイブンを呼んじゃったのもアゼムさんだって……どうしてですか?」
レイブンの出す毒は、土地の補強に使えると事前に近くの町で確認したので、そのために大量に呼んだことを教えてくれた。
この毒は、植物には影響がないらしい。人間には効くので、アゼム自身は解毒剤をちゃんと用意していた。
「大胆なことしますねえ」
ふたりはちょっと笑って、アゼムは空を眺めた。
アトラはそもそも、どうしてここにいるのかを聞かれる。
「眠って夢を見ると、どうやらいろんなとこに行けてしまうみたいです。今までは事故みたいにいろんなところに行ってたんですけど、アゼムさんのことろには意図的に来られちゃいました。もしかしたら、もう自分のいた世界に戻れるのかもしれません」
それはいいことだ。おめでとう。アゼムはアトラを祝福してくれた。
「ありがとうございます。でも一応、エメトセルクさんたちに伝えてきますね」
気を付けて。無理をしないで。
アゼムは、自分がいつも言われているだろう言葉をアトラにかけてくれる。
アトラはもう一度、アゼムの隣に寝そべって意識を手放す。
アトラは、会議室の机の上で目が覚める。まだ会議室にいた3人と会うことができた。
川辺のマイナスイオンと森林浴で緩んだ気持ちは、かたい机の上によって引き締められる。
「お前、いつのまにそこに?」
エメトセルクが驚いてアトラを見る。ラハブレアと、白いローブの少年も、小さいアトラをのぞき込む。
アトラはどう説明したものかと思ったが、とりあえず信じようが信じまいが、伝えておくことにした。
「さまざまな次元を今まではさまよってましたが、最近、行きたい場所に行けるようになったんです。それはともかく、私、アゼムさんに会ってきました。探しているんですよね?」
ラハブレアも、白いローブの少年も、そしてエメトセルクもアゼムの名前が出たことに目を丸くする。
「嘘か本当かは聞いてから決めてほしいんです」
アトラはアゼムから聞いたレイブンの活用法、土地の補強、魔道具の魔力補充の話を一気に伝えた。
「レイブンはわざと呼んで、地割れの危険があるのに避難せず、土地の補強をするために魔道具を使うことにして、作業をしていたら魔道具も自分も魔力不足で川辺で寝ていただと?」
エメトセルクに改めてまとまられると、なかなかにぶっ飛んだ話だった。話し終えれば、エメトセルクがアトラの話に異を唱えるのではないかと思っていたが、彼は眉間のしわを深くするばかりだった。
「アゼムなら、やりそうなことだね」
「まったくだ」
白いローブの少年の言葉に、ラハブレアがうなずく。「やっぱり、あそこの香辛料は失い難いものだ」と少年はつぶやく。
エメトセルクは何も言わないままだったが、その沈黙は、肯定を意味していた。
意見、満場一致である。
「あのバカ!」