【FF14】メイドさんの夢旅行
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「なるほどね。エーテル操作をしない、魔法のない世界かあ」
ヒュトロダエウスの質問攻めは、創造物管理局の外にあるベンチで行われた。
アトラは「この人たち、仕事はいいのか?」と思ったが、ヒュトロダエウスはちょうど仕事が終わった休憩時間だったようだ。
カロンに至っては、先の会話で無断外出中。
それでも注意されるだけで連れ戻されないのは、カロンにはそういった自由が認められているか、あるいは言っても聞かないと諦められているからだろう。
「めずらしいと思わない? ヒュトロダエウス局長は、次元を旅する人の話を聞いたことある?」
「うーん。なくはないけれど、確かに、めずらしいね。ところで、キミは困っている? 例えば、帰りたいとか」
「え?」
話を振られて、アトラは一瞬戸惑った。帰りたい気持ちも本当だ。やらなければならないことは多い。
しかし、せっかくアーモロートに来たのだから、すぐに帰るのはもったいない気もむくむくと膨らんでいた。
アトラとしては悩みどころだった。夢見の力をどう使えるかもわかっていない以上、今どうするかが重要だ。
「困っているといえば、宿なしですね」
「あー……フフ」
ヒュトロダエウスは確かに、と笑った。
「それについては、私が預かろうと思っているんです」
「カロンの家かい? でもその前に、アニドラスの所長にいろいろ断りを入れておいたほうがいいんじゃないかな。発見したのもアニドラスだっていう話だし、そもそもキミ、今無断外出中だろう?」
「ほんとだ」
カロンはハッとして頭をかいた。
「ヒュトロダエウス、本当にありがとう。そんなわけで、私は戻らなくちゃ」
「はいはい。突飛な行動もほどほどにね。ま、ワタシはおもしろくていいけれど」
カロンは立ち上がり、ヒュトロダエウスもそれに連なって席を立つ。
ふたりは軽く手を振りあって、別れた。
アニドラス・アナムネーシスに戻ると、カロンは先ほどすれ違ったアニドラス・アナムネーシスの職員に説教され、
その後、所長に報告に行くと、またさらに説教された。
「まるでラハブレア議長やエメトセルク様の苦労を味わっているかのようだ」
所長は荒げたりせず、終始落ち着いた態度でカロンに説教した。
お小言を言われながらも、カロンはあっけらかんとしていた。
(この人、叱られるたびに元気になるタイプだ……)
アトラは少し距離を置き、肩をすくめて眺める。
「アゼム様が部隊でも立ち上げられたのなら、お前をそっちに移動させたいほどだ」
「いやです。私、イデアを使いたいとか作りたいのではなく、運びたいので」
「それについては助かっているさ。しかし、自由すぎるのは手に余る。このことはヴェーネス様を通じて相談するべきか……いや、彼女は喜んで終わりか」
話は紆余曲折を経て、カロンが後見人としてアトラを預かることが決まった。さらに、所長からの指示で、カロンはアニドラスに突如現れた次元の旅人アトラについて、レポートにまとめることになった。
アトラは特に口を挟むこともなく、その場で静かに見守る。カロンは所長からお小言を受け、時折頭をかきながらも、どこかあっけらかんとした態度で聞いている。アトラにとっては、自由奔放で頼れるカロンの姿を目の当たりにするだけでも、少し安心感を覚えた。
アトラこと絵理沙は、この古代の文明を利用して元の世界へ帰ることも考えたが、いったん保留にした。
まずはガレマールでの生活に区切りをつけるかどうかで、今後の方針が変わってくる。もしかすると、この古代での活動が皇帝に近付く手立てにつながるかもしれない。
(エメトセルクに会えなくても、アーモロートを少しでも知ることができれば……)
カロンは仕事のかたわら、アトラと話をした。
「カロンさんは、アニドラスの職員で、運び担当なんですか?」
「そうだね。あっちからこっちへ、必要なところに運んで――面白そうなものがあれば集める。そんな日々さ。
さっき言ってたアゼム様にも運んだことがあるよ。イデアの活用方法は、私もヒュトロダエウス局長もおもしろいと思っていてね。それもこの仕事のいいと
ころ。その人が欲しいときに、手渡せるのが私の喜びなんだ」
カロンは自分の役割をよく理解している人物だった。
アトラはそんなカロンを見て、まぶしく思う。古代の人々は、心にひねくれたものがない。たとえあったとしても、そのまままっすぐ進み続けている。
「あ、すっかり忘れていた」
手を打って、カロンがアトラのほうを振り向いた。
「君、食事が必要なんだっけ?」
「あ、はい。そうです」
アトラはあらかじめ、初対面の時にエネルギーはエーテルから摂取できないことを伝えていた。
「実はアーモロートに、そういう創造生物をサポートするための食事を出しているところがあるんだ。そろそろ仕事も終わるし、行ってみようか」
カロンの仕事が終わると、アトラはアーモロートのペットカフェに足を運ぶこととなった。
ふたりは食事処「ハルーメナ ポダラキア」に到着した。
日が落ち、濃紺とオレンジの空に宝石の粒のような星々が瞬く時間。人々はテーブルを囲み、食事を楽しんでいる。なかには使い魔や創造生物と一緒に食事をする姿もあった。
店内に入り、壁に掛けられたメニューを眺める。
カロンは新作の『エルピス発! 花の香りのジュース』に目をとめ、即決した。
アトラはバナナや穀物を使った焼き菓子のような軽食を選ぶ。
「なんだかすみません。お世話になりっぱなしで」
「いいのいいの。旅人の話は私も気になるし、これも縁でしょう。ヴェーネス様もアゼム様も、アニドラスに寄ったときに聞かせてくれる話がすごくおもしろいんだ。そういう旅人を迎えるのは、私の喜びのひとつさ」
アトラは机に座り、向かいの椅子にカロンが腰を下ろす。
ふたりで食事を待っていると、店の扉が開き、先ほど会ったヒュトロダエウスが入ってきた。隣には、仮面の人物――エメトセルクの姿もある。
「最近、エルピスでアゼムの使い魔が噂になってるらしいよ。とっても気になると思わないかい?」
「全然。ちっとも。あいつが絡んでるなら、厄介なのは間違いない」
「えー、つれないなあ」
ヒュトロダエウスが談笑しながら進んでくるのに気づき、カロンは軽く手を上げた。
「ああ、ヒュトロダエウス局長、エメトセルク様。おふたりがこういうお店に来るのはめずらしいね」
ヒュトロダエウスのほうも気づき、「さっきぶりだね」と軽く返した。
もうひとりはエメトセルクと呼ばれていた。市民がつける銀の仮面とは違い、深い赤の仮面だ。
正直なところ、アトラにはカロンとほかの市民との違いがよくわからない。
――エメトセルクのように仮面の色が違っていれば、もう少し見分けやすいのに。カロンなら黄色か、あるいは落ち着いた色に明るさを混ぜたレンガ色だろうか。
「エルピスの新作が入ったって耳にしてね」
「ヒュトロダエウス局長も気になりましたか。私も注文したところです」
「いいねえ」
ヒュトロダエウスとカロンが談笑するあいだ、アトラはふとエメトセルクと目が合った。
仮面をしていても、光を宿す目は見えるものであった。
ヒュトロダエウスの質問攻めは、創造物管理局の外にあるベンチで行われた。
アトラは「この人たち、仕事はいいのか?」と思ったが、ヒュトロダエウスはちょうど仕事が終わった休憩時間だったようだ。
カロンに至っては、先の会話で無断外出中。
それでも注意されるだけで連れ戻されないのは、カロンにはそういった自由が認められているか、あるいは言っても聞かないと諦められているからだろう。
「めずらしいと思わない? ヒュトロダエウス局長は、次元を旅する人の話を聞いたことある?」
「うーん。なくはないけれど、確かに、めずらしいね。ところで、キミは困っている? 例えば、帰りたいとか」
「え?」
話を振られて、アトラは一瞬戸惑った。帰りたい気持ちも本当だ。やらなければならないことは多い。
しかし、せっかくアーモロートに来たのだから、すぐに帰るのはもったいない気もむくむくと膨らんでいた。
アトラとしては悩みどころだった。夢見の力をどう使えるかもわかっていない以上、今どうするかが重要だ。
「困っているといえば、宿なしですね」
「あー……フフ」
ヒュトロダエウスは確かに、と笑った。
「それについては、私が預かろうと思っているんです」
「カロンの家かい? でもその前に、アニドラスの所長にいろいろ断りを入れておいたほうがいいんじゃないかな。発見したのもアニドラスだっていう話だし、そもそもキミ、今無断外出中だろう?」
「ほんとだ」
カロンはハッとして頭をかいた。
「ヒュトロダエウス、本当にありがとう。そんなわけで、私は戻らなくちゃ」
「はいはい。突飛な行動もほどほどにね。ま、ワタシはおもしろくていいけれど」
カロンは立ち上がり、ヒュトロダエウスもそれに連なって席を立つ。
ふたりは軽く手を振りあって、別れた。
アニドラス・アナムネーシスに戻ると、カロンは先ほどすれ違ったアニドラス・アナムネーシスの職員に説教され、
その後、所長に報告に行くと、またさらに説教された。
「まるでラハブレア議長やエメトセルク様の苦労を味わっているかのようだ」
所長は荒げたりせず、終始落ち着いた態度でカロンに説教した。
お小言を言われながらも、カロンはあっけらかんとしていた。
(この人、叱られるたびに元気になるタイプだ……)
アトラは少し距離を置き、肩をすくめて眺める。
「アゼム様が部隊でも立ち上げられたのなら、お前をそっちに移動させたいほどだ」
「いやです。私、イデアを使いたいとか作りたいのではなく、運びたいので」
「それについては助かっているさ。しかし、自由すぎるのは手に余る。このことはヴェーネス様を通じて相談するべきか……いや、彼女は喜んで終わりか」
話は紆余曲折を経て、カロンが後見人としてアトラを預かることが決まった。さらに、所長からの指示で、カロンはアニドラスに突如現れた次元の旅人アトラについて、レポートにまとめることになった。
アトラは特に口を挟むこともなく、その場で静かに見守る。カロンは所長からお小言を受け、時折頭をかきながらも、どこかあっけらかんとした態度で聞いている。アトラにとっては、自由奔放で頼れるカロンの姿を目の当たりにするだけでも、少し安心感を覚えた。
アトラこと絵理沙は、この古代の文明を利用して元の世界へ帰ることも考えたが、いったん保留にした。
まずはガレマールでの生活に区切りをつけるかどうかで、今後の方針が変わってくる。もしかすると、この古代での活動が皇帝に近付く手立てにつながるかもしれない。
(エメトセルクに会えなくても、アーモロートを少しでも知ることができれば……)
カロンは仕事のかたわら、アトラと話をした。
「カロンさんは、アニドラスの職員で、運び担当なんですか?」
「そうだね。あっちからこっちへ、必要なところに運んで――面白そうなものがあれば集める。そんな日々さ。
さっき言ってたアゼム様にも運んだことがあるよ。イデアの活用方法は、私もヒュトロダエウス局長もおもしろいと思っていてね。それもこの仕事のいいと
ころ。その人が欲しいときに、手渡せるのが私の喜びなんだ」
カロンは自分の役割をよく理解している人物だった。
アトラはそんなカロンを見て、まぶしく思う。古代の人々は、心にひねくれたものがない。たとえあったとしても、そのまままっすぐ進み続けている。
「あ、すっかり忘れていた」
手を打って、カロンがアトラのほうを振り向いた。
「君、食事が必要なんだっけ?」
「あ、はい。そうです」
アトラはあらかじめ、初対面の時にエネルギーはエーテルから摂取できないことを伝えていた。
「実はアーモロートに、そういう創造生物をサポートするための食事を出しているところがあるんだ。そろそろ仕事も終わるし、行ってみようか」
カロンの仕事が終わると、アトラはアーモロートのペットカフェに足を運ぶこととなった。
ふたりは食事処「ハルーメナ ポダラキア」に到着した。
日が落ち、濃紺とオレンジの空に宝石の粒のような星々が瞬く時間。人々はテーブルを囲み、食事を楽しんでいる。なかには使い魔や創造生物と一緒に食事をする姿もあった。
店内に入り、壁に掛けられたメニューを眺める。
カロンは新作の『エルピス発! 花の香りのジュース』に目をとめ、即決した。
アトラはバナナや穀物を使った焼き菓子のような軽食を選ぶ。
「なんだかすみません。お世話になりっぱなしで」
「いいのいいの。旅人の話は私も気になるし、これも縁でしょう。ヴェーネス様もアゼム様も、アニドラスに寄ったときに聞かせてくれる話がすごくおもしろいんだ。そういう旅人を迎えるのは、私の喜びのひとつさ」
アトラは机に座り、向かいの椅子にカロンが腰を下ろす。
ふたりで食事を待っていると、店の扉が開き、先ほど会ったヒュトロダエウスが入ってきた。隣には、仮面の人物――エメトセルクの姿もある。
「最近、エルピスでアゼムの使い魔が噂になってるらしいよ。とっても気になると思わないかい?」
「全然。ちっとも。あいつが絡んでるなら、厄介なのは間違いない」
「えー、つれないなあ」
ヒュトロダエウスが談笑しながら進んでくるのに気づき、カロンは軽く手を上げた。
「ああ、ヒュトロダエウス局長、エメトセルク様。おふたりがこういうお店に来るのはめずらしいね」
ヒュトロダエウスのほうも気づき、「さっきぶりだね」と軽く返した。
もうひとりはエメトセルクと呼ばれていた。市民がつける銀の仮面とは違い、深い赤の仮面だ。
正直なところ、アトラにはカロンとほかの市民との違いがよくわからない。
――エメトセルクのように仮面の色が違っていれば、もう少し見分けやすいのに。カロンなら黄色か、あるいは落ち着いた色に明るさを混ぜたレンガ色だろうか。
「エルピスの新作が入ったって耳にしてね」
「ヒュトロダエウス局長も気になりましたか。私も注文したところです」
「いいねえ」
ヒュトロダエウスとカロンが談笑するあいだ、アトラはふとエメトセルクと目が合った。
仮面をしていても、光を宿す目は見えるものであった。