夢見の旅人
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「なるほどね。エーテル操作をしない、魔法のない世界かあ」
ヒュトロダエウスの質問攻めは、創造物管理局の外にあるベンチで行われた。
アトラは「この人たち、仕事はいいのか?」と思ったが、ヒュトロダエウスはちょうど仕事が終わった休憩時間だったようだ。カロンに至っては、先の会話で無断外出中だ。
それでも注意されるだけで連れ戻されないのは、カロンにはそういった自由が認められているか、あるいは言っても聞かないと諦められているからだろう。
「めずらしいと思わないかい? ヒュトロダエウス局長は、次元を旅する人の話を聞いたことある?」
「うーん。なくはないけれど、確かに、めずらしいね。ところで、キミは困っている? 例えば、帰りたいとか」
「え?」
話を振られて、アトラは一瞬戸惑った。確かに、帰ってやらなければならないことは多いが、せっかくアーモロートに来たのだから、すぐに帰るのはもったいない気がする。また来ることが保証されているわけでもない。
アトラとしては悩みどころだったが、夢見の力をどう使えるか試している最中だ。そうであれば、今どうするかが重要だ。
「困っているといえば、宿なしですね」
「あー……フフ」
ヒュトロダエウスは確かに、と笑った。
「それについては、私が預かろうと思っているんです」
「カロンの家かい? でもその前に、アニドラスの所長にいろいろと断りを入れておいたほうがいいんじゃないかな。発見したのもアニドラスだっていう話だし、そもそもキミ、今無断外出中だろう?」
「ほんとだ」
カロンはハッとして頭をかいた。
「ヒュトロダエウス。本当にありがとう。そんなわけで、私は戻らなくちゃ」
「はいはい。突飛な行動もほどほどにね。ま、ワタシはおもしろくていいけれど」
カロンは立ち上がって、それに連なりヒュトロダエウスも席を立つ。
ふたりは軽く手を振りあって、別れた。
アニドラスに戻ると、カロンは先ほどすれ違った人物に説教され、アニドラスの所長に報告に行くと、またさらに説教された。
「まるでラハブレア議長やエメトセルク様の苦労を味わっているかのようだ」
所長は荒げたりせず、終始落ち着いた態度でカロンに説教した。
お小言を言われながらも、カロンはあっけらかんとしていた。
「アゼム様が部隊でも立ち上げられたのなら、お前をそっちに移動させたいほどだ」
「いやです。私、イデアを使いたいとか作りたいのではなく、運びたいので」
「それについては助かっているさ。しかし、自由すぎるのは手に余る。このことはヴェーネス様を通じて伝えるべきか……いや、彼女は喜んで終わりか」
話は紆余曲折を経て、アトラをカロンが後見人として預かることが決まった。さらに、所長からの指示で、カロンはアニドラスに突如現れた次元の旅人アトラについて、レポートにまとめることになった。
アトラこと絵理沙は、この古代の文明を利用して元の世界へ帰ることも考えたが、アトラの母親やこの世界で見てきたことが気になり、戻ることをいったん保留にした。
アトラは、仕事の片手間に、カロンと話をした。
「カロンさんは、アニドラスの職員で、運び担当なんですか?」
「そうだね。あっちからこっちへ。必要そうなところに運んで、面白そうなものがあれば集める。そんな日々さ。さっき言ってた、アゼム様にも運んだこともあるよ。イデアの活用方法が、私とヒュトロダエウス局長もおもしろいと思っていてね。それもまたこの仕事のいいところ。その人が欲しいときに、手渡せるのが私の喜びなんだ」
カロンは自分のことがよくわかっている人物だった。
アトラはそんなカロンを見て、まぶしく思った。古代の人々は、心にひねくれたものがない。あったとしても、そのまままっすぐ進み続けている。
「あ、すっかり忘れていた」
手を打って、カロンはアトラに振り向いた。
「君、食事が必要なんだっけ?」
「あ、はい。そうです」
アトラはあらかじめ、初対面の時にエネルギーはエーテルから摂取できないことを伝えていた。
「実は、アーモロートにそういった創造生物をサポートするための食事を出しているところがあるんだ。そろそろ仕事が終わるから、行ってみようか」
カロンの仕事が終わると、アトラはアーモロートのペットカフェに出向くこととなった。
ふたりは食事処の「ハルーメナ ポダラキア」に到着した。日が落ちて、濃紺とオレンジの空にたくさんの宝石の粒が瞬く時間。人々はテーブルを囲み、食事を楽しんでいた。なかには、使い魔や創造生物と食事をしている人もいた。
店内に入り、壁に掛けられたメニューをカロンとアトラは眺める。
カロンは新作の『エルピス発! 花の香りのジュース』という新作メニューに心ひかれたようで、それに決めていた。
アトラはバナナや穀物が使われた焼き物っぽい食べ物をお願いした。
「なんだかすみません。お世話になりっぱなしで」
「いいのいいの。旅人の話も気になるし。これもなにかの縁でしょう。ヴェーネス様もアゼム様も、アニドラスに立ち寄ったとき聞かせてくれる話がすごくおもしろいんだ。そういった旅人を迎えるのも、私の喜びのひとつだよ」
アトラは机に座り、お向かいの椅子にカロンが座る。
ふたりで食事を待っていると、先ほど会ったヒュトロダエウスが、誰かと話しながら「ハルーメナ ポダラキア」の店内に入ってきた。
「最近、エルピスではアゼムの使い魔ってコが噂になってるって話があるんだ。とっても気になると思わないかい?」
「全然。ちっとも。あいつが関わってるなら厄介には変わりない」
「えー。つれないなあ」
カロンはその存在に気付いて、挨拶をした。
「ああ、ヒュトロダエウス局長、エメトセルク様。ふたりがこういったお店に来るのは、めずらしいね」
ヒュトロダエウスのほうも気が付いて、さっきぶりだねと返事をした。
もうひとりはエメトセルクと呼ばれていた。市民のつけている銀の仮面とは違い、赤い仮面だった。
正直、アトラにはカロンも一般市民も見分けがつかなかった。
――エメトセルクのように、皆仮面の色が違っていれば、もう少しわかりやすいのに。カロンは明るいから黄色や、落ち着いた雰囲気と混ぜると明るいレンガ色だろうか。
「エルピスの新作が入ったらしいことを耳にしてね」
「ヒュトロダエウス局長も気になりましたか。私も注文したところです」
「いいねえ」
ヒュトロダエウスとカロンが会話をしているなか、アトラはエメトセルクと目が合った。仮面をしていても、目はうす暗くても見えるものであった。
ヒュトロダエウスの質問攻めは、創造物管理局の外にあるベンチで行われた。
アトラは「この人たち、仕事はいいのか?」と思ったが、ヒュトロダエウスはちょうど仕事が終わった休憩時間だったようだ。カロンに至っては、先の会話で無断外出中だ。
それでも注意されるだけで連れ戻されないのは、カロンにはそういった自由が認められているか、あるいは言っても聞かないと諦められているからだろう。
「めずらしいと思わないかい? ヒュトロダエウス局長は、次元を旅する人の話を聞いたことある?」
「うーん。なくはないけれど、確かに、めずらしいね。ところで、キミは困っている? 例えば、帰りたいとか」
「え?」
話を振られて、アトラは一瞬戸惑った。確かに、帰ってやらなければならないことは多いが、せっかくアーモロートに来たのだから、すぐに帰るのはもったいない気がする。また来ることが保証されているわけでもない。
アトラとしては悩みどころだったが、夢見の力をどう使えるか試している最中だ。そうであれば、今どうするかが重要だ。
「困っているといえば、宿なしですね」
「あー……フフ」
ヒュトロダエウスは確かに、と笑った。
「それについては、私が預かろうと思っているんです」
「カロンの家かい? でもその前に、アニドラスの所長にいろいろと断りを入れておいたほうがいいんじゃないかな。発見したのもアニドラスだっていう話だし、そもそもキミ、今無断外出中だろう?」
「ほんとだ」
カロンはハッとして頭をかいた。
「ヒュトロダエウス。本当にありがとう。そんなわけで、私は戻らなくちゃ」
「はいはい。突飛な行動もほどほどにね。ま、ワタシはおもしろくていいけれど」
カロンは立ち上がって、それに連なりヒュトロダエウスも席を立つ。
ふたりは軽く手を振りあって、別れた。
アニドラスに戻ると、カロンは先ほどすれ違った人物に説教され、アニドラスの所長に報告に行くと、またさらに説教された。
「まるでラハブレア議長やエメトセルク様の苦労を味わっているかのようだ」
所長は荒げたりせず、終始落ち着いた態度でカロンに説教した。
お小言を言われながらも、カロンはあっけらかんとしていた。
「アゼム様が部隊でも立ち上げられたのなら、お前をそっちに移動させたいほどだ」
「いやです。私、イデアを使いたいとか作りたいのではなく、運びたいので」
「それについては助かっているさ。しかし、自由すぎるのは手に余る。このことはヴェーネス様を通じて伝えるべきか……いや、彼女は喜んで終わりか」
話は紆余曲折を経て、アトラをカロンが後見人として預かることが決まった。さらに、所長からの指示で、カロンはアニドラスに突如現れた次元の旅人アトラについて、レポートにまとめることになった。
アトラこと絵理沙は、この古代の文明を利用して元の世界へ帰ることも考えたが、アトラの母親やこの世界で見てきたことが気になり、戻ることをいったん保留にした。
アトラは、仕事の片手間に、カロンと話をした。
「カロンさんは、アニドラスの職員で、運び担当なんですか?」
「そうだね。あっちからこっちへ。必要そうなところに運んで、面白そうなものがあれば集める。そんな日々さ。さっき言ってた、アゼム様にも運んだこともあるよ。イデアの活用方法が、私とヒュトロダエウス局長もおもしろいと思っていてね。それもまたこの仕事のいいところ。その人が欲しいときに、手渡せるのが私の喜びなんだ」
カロンは自分のことがよくわかっている人物だった。
アトラはそんなカロンを見て、まぶしく思った。古代の人々は、心にひねくれたものがない。あったとしても、そのまままっすぐ進み続けている。
「あ、すっかり忘れていた」
手を打って、カロンはアトラに振り向いた。
「君、食事が必要なんだっけ?」
「あ、はい。そうです」
アトラはあらかじめ、初対面の時にエネルギーはエーテルから摂取できないことを伝えていた。
「実は、アーモロートにそういった創造生物をサポートするための食事を出しているところがあるんだ。そろそろ仕事が終わるから、行ってみようか」
カロンの仕事が終わると、アトラはアーモロートのペットカフェに出向くこととなった。
ふたりは食事処の「ハルーメナ ポダラキア」に到着した。日が落ちて、濃紺とオレンジの空にたくさんの宝石の粒が瞬く時間。人々はテーブルを囲み、食事を楽しんでいた。なかには、使い魔や創造生物と食事をしている人もいた。
店内に入り、壁に掛けられたメニューをカロンとアトラは眺める。
カロンは新作の『エルピス発! 花の香りのジュース』という新作メニューに心ひかれたようで、それに決めていた。
アトラはバナナや穀物が使われた焼き物っぽい食べ物をお願いした。
「なんだかすみません。お世話になりっぱなしで」
「いいのいいの。旅人の話も気になるし。これもなにかの縁でしょう。ヴェーネス様もアゼム様も、アニドラスに立ち寄ったとき聞かせてくれる話がすごくおもしろいんだ。そういった旅人を迎えるのも、私の喜びのひとつだよ」
アトラは机に座り、お向かいの椅子にカロンが座る。
ふたりで食事を待っていると、先ほど会ったヒュトロダエウスが、誰かと話しながら「ハルーメナ ポダラキア」の店内に入ってきた。
「最近、エルピスではアゼムの使い魔ってコが噂になってるって話があるんだ。とっても気になると思わないかい?」
「全然。ちっとも。あいつが関わってるなら厄介には変わりない」
「えー。つれないなあ」
カロンはその存在に気付いて、挨拶をした。
「ああ、ヒュトロダエウス局長、エメトセルク様。ふたりがこういったお店に来るのは、めずらしいね」
ヒュトロダエウスのほうも気が付いて、さっきぶりだねと返事をした。
もうひとりはエメトセルクと呼ばれていた。市民のつけている銀の仮面とは違い、赤い仮面だった。
正直、アトラにはカロンも一般市民も見分けがつかなかった。
――エメトセルクのように、皆仮面の色が違っていれば、もう少しわかりやすいのに。カロンは明るいから黄色や、落ち着いた雰囲気と混ぜると明るいレンガ色だろうか。
「エルピスの新作が入ったらしいことを耳にしてね」
「ヒュトロダエウス局長も気になりましたか。私も注文したところです」
「いいねえ」
ヒュトロダエウスとカロンが会話をしているなか、アトラはエメトセルクと目が合った。仮面をしていても、目はうす暗くても見えるものであった。