メイドさんの夢旅行

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この小説の夢小説設定
こちらのFF14用。デフォルトは絵理沙です。

「おや?」

 アトラは体をびくりと跳ねさせた。声のしたほうに振り向くと、仮面とフードを身に着けた人物がこちらを見ていることに気づいた。その人物はゆっくりと、確かめるようにアトラを見つめながら近づいてくる。

「なにかのイデアが発現しちゃったのかなあ……ん。んん?」

 声や体のシルエットから、近づいてきたのが女性であることがわかった。彼女は足元が一段下がっており、それでもヘルメスのように大きな体格だった。どうやらここは古代の世界に間違いないようだ。

アトラは自分の足元を確認して、床ではなく机の上で眠っていたことに気づいた。現在も彼女は机の上に立っていることがわかった。
 
 アトラはまた頭を別の考えがかすめる。この並んでいるクリスタルはおそらく、女性が言った「イデア」だと。

 「もしかして、魂持ちかな? よっぽどじゃないと、偶然で創れるとは思えないけど……」

 女性はアトラをまじまじと観察して、近くの椅子に座る。
 女性を追いかけるように、アトラは向き直った。

「こんにちは。私はカロン。よろしく」
「こ、こんにちは……あっ、アティウスといいます」

 カロンは軽い挨拶として手を挙げた。
 アトラはとっさにお辞儀する。
 
「名前もあるのか。挨拶もなしにすまなかったね。てっきり、創造生物が偶然出現したのかと思って観察しちゃったけど……これだけはっきり目が合うなら、魂持ちの子かな?」
「魂は、あると思います」
「ふんふん……一度、例の局長さんに確認してもらおうかな」

 カロンは周辺のイデアを収納するクリスタルを眺める。どうやら、イデアを点検してアトラが現れたのかどうかを確認しているようだった。

「どれも使用された形跡はないな……」

 アトラはハッとして、カロンに声をかける。
 
「あ、あの!」
「うん?」

 アトラは、ヘルメスの時のような手間を取らせないようにと思い、自分から事情を話した。そのままにしているとカロンにずっとイデアを確認させることになるからだ。
 自分には元居た世界があったこと。
 寝て起きたら見知らぬ場所にいたこと。
 FF14のゲームプレイヤーであること以外のアトラを取り巻く現実を話した。

 話を聞いて一拍。カロンはこぶしをてのひらで打った。

「よし。とりあえずおもしろそうだし、ウチで預かろうかな!」

 落ち着いているのに、意外ととんでもないことを言い出したぞこの人。

 アトラは、カロンの両手で抱えられ、あれよあれよと連れ去られた。

「嘘をついてる危険生物かもしれませんよ」

 アトラが警戒しなくていいのかといった意味でそうカロンに言った。
 カロンはその言葉に爆笑した。

「あっはっは! 危険なもんですか! あっはっは! あ。でもちゃんと確認はします」

 意味は分からないが、「冗談よせやい」というような雰囲気で笑うカロン。なぜだか馬鹿にされたような気分になり、アトラは押し黙った。確認もするとのことなので、とりあえずはよしとした。
 向こうから来る人物が、カロンを呼び止める。

「あれ、カロン。もう帰るのかい。仕事は始まったばかりだよ」
「緊急事態だよ。次元の旅人を拾っちゃった。よくわかんないから、専門家に見てもらわなくちゃ」
「じゃあ預けたら仕事に戻ってくるのかい?」
「もしかしたら休むかも! いってきまーす」

 そう告げて、カロンはさわやかにその場を後にする。

「それでもアニドラスの職員か!?」

 その人物によって、アトラは自分の目覚めた場所が「アニドラス・アナムネーシス」であることを知った。



 カロンは移動を続けて、街に出る。

「ようこそ。ここは私たちの輝ける主要都市、アーモロートさ」

 カロンの両腕に抱えられたアトラは、アーモロートの街を見る。
 燦々と降り注ぐ太陽の光。さわやかに吹き抜ける風。それらが活かされるように作られ、繁栄した街には欠かせない、立派な建造物たち。
 フードとローブ、そして仮面。それらを一様に身に着けて、人々は言葉を交わし、行き交う。

「すごいですね……」

 本物のアーモロートを見た感動で、アトラは言葉を失う。その様子に、カロンは満足そうだった。

「このまま、創造物管理局へ行こう。運が良ければ会えるかも」

 時間はかからず、カロンの足は創造物管理局にたどり着いた。創造物を抱える者、登録に来た者。ここも人であふれかえっていた。
 カロンは受付までまっすぐに歩き、要望を伝えた。
 
「局長はいらっしゃいますか?」
「局長ですか? 今は出ていたと思いますが……」

 受付の人が「そろそろ帰ってくる」と言いたげに言葉を切る。その視線はカロンの後ろにあり、声がした。

「おや。イデアからイデアへ飛んで運んでの君が、イデアではなくワタシ用があるなんて、めずらしいね」

 カロンが振り向くと、そこにはフードからさらりと見える紫の髪を持った、柔和な雰囲気の人物が立っていた。
 そして、カロンとは知り合いであった。

「ヒュトロダエウス局長、ひとつ、頼みたいことが」

 カロンは一度言葉を切って、局長ことヒュトロダエウスの目の前に、アトラを差し出す。

「この子、どうやら次元の迷子らしくて。なにか視えるものがないかな」
「やれやれ。仕事とは関係なさそうだけど……キミ同様、おもしろそうだし、視てみようか」

 ヒュトロダエウスはそう言うと、意識をアトラに集中させる。
 少し間置いた後、ヒュトロダエウスはカロンに言った。

「なんだか、知っているような色もあるけど、知らない色も混ざっているね」
「混ざっている?」
「うん。ひょっとすると、アーテリスのものではないものが混ざっているかもしれない。次元を彷徨っているのは、そういう特性も関係しているかもね」
「なるほど」

 この間、アトラは物言わぬ人形となっていたが、話はもちろん耳に入れていた。傍観者に徹する。

 ヒュトロダエウスの話は興味深かった。そして心当たりがあった。
 つまり、アトラは地球からの転生者、絵理沙としての魂と、アトラの魂が混ざっている状態であると推測できる。アトラ自身も、このことは初めて知った。

「ありがとう。ヒュトロダエウス局長。このお礼はまたいずれ」

 カロンが礼を尽くして膝を折る。
 ヒュトロダエウスはなんでもないようにほほえんで返事をした。

「いえいえ。いつも君の仕事の速さには助かっているし、おもしろいことも多くて楽しませてもらっているから、例には及ばないよ」

 満足そうに、カロンは息を吐いた。
 アトラはひと段落ついた様子に気を抜いていると。

「それで、君はどんな世界から来たんだい?」

 今度はヒュトロダエウスに、自分のいた世界の話をすることとなったアトラであった。
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