【FF14】メイドさんの夢旅行
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ヘルメスに保護されて、一週間が過ぎた。
アトラは、途方に暮れていた。
光の戦士のように戦えるわけでもなく、それどころか、常に誰かの助けがなければ生きていけない存在。管理対象の生物と大差ない。アトラはひとりで動くことすらできなかった。
主に世話を焼いてくれるのはメーティオンだった。
小鳥に餌をやる人間の光景が逆転し、小さな人間に少女のような鳥が食料を与える――そんな滑稽で微笑ましい図だった。
「おいしい?」
「うん。ありがとう」
そのやり取りに、アトラは既視感を覚えた。
(……お母さん、元気にしてるかな。
というか、私、帰れるのかな……)
毎晩眠っても、元の世界に帰る夢を見ることはなく、目を覚ますのは決まってメーティオンのそば、小さなベッドの上だった。
ヘルメスに時間があるときは、アトラは元の世界――もうひとつの世界について語った。
絵理沙として生きていた、魔法のない世界。
そこは今まで暮らしていた雪国よりも緑が多く、海に囲まれ、湿度が高く、八百万の神々が棲むとされる神秘の島国だった。
「アトラアティウス。君に、ひとつ聞きたいことがある」
「はい。なんでしょうか」
改まった声色に、アトラは小さく首をかしげる。
(というか、そうだった。
この世界にファミリーネームの概念はないから、ファミリーネームもファーストネームも全部私の名前だと思われてるんだ……
でも古代人っぽい響きになるし、修正はしないでおこう……)
アトラは訂正せず、そのまま話を聞くことにした。
「生きる意味を、考えたことはあるだろうか」
「生きる意味……?」
ヘルメスは、自らの胸の内を語った。
この世界では、生物は造られ、世に放たれ、世界にとって『よくない』と判断された存在は消される。それが当たり前とされている。
「……自分は、それにどうしても違和感を覚えるんだ。命を……冒涜しているような気がしてね。大げさに聞こえるだろうか」
この世界では、役目を終えれば星に還る。
「死ぬ」という言葉は使われない――それが古代の常識だった。
アトラは少し考え込み、静かに口を開いた。
「生きる意味は……人が自分で作るものなんだと思います」
「意味を作る?」
「はい。命には“終わり”なんて、本当はない。ただ生まれて、死んで、それを繰り返すだけ……もし世界を創った存在がいるなら、あなたたちのように生物を造る人たちもいる。みんな、ただ繰り返しているだけです。
私のように“薄い魂”は、想いを自分で創る。創れるなら、消えることもある。命や世界も、同じようにいつか消えるかもしれない。
――だからこそ、意味だけじゃなく、いろんなものを創り続けるべきだと思うんです」
ヘルメスは「創り続ける、か……」とつぶやき、しばらく考え込んだ。
「ありがとう、アティウス。君の話、参考になった」
「いえ。お粗末様でした。少しでもお力になれれば」
その夜、小さなベッドの上で考え込む。
なぜ自分は過去に来たのか。
何をしたかったのか。
自分に何ができるのか。
答えは見つからないまま、アトラはいつの間にか眠りに落ちていた。
白い靄がアトラを暗闇へと導く。
ぽつんと立つ影が語りかけてきた。
「これからあなたの案内をするよ。夢見の力を持つ人」
アトラは「これは夢だ」と、ぼんやり気付いた。影の方を見る。
「あんた、前も――ていうか、案内? 夢見?」
ファイナルファンタジーXIVの世界に渡る前、この慣れた様子で接してくる影と話した気がする。
『ねえ、あんたがその子になってあげたら?』
アトラは「あっ」と声が漏れた。
あの時泣いていた少女はアトラだった――今の今まで思い出さなかったけれど。
そうして絵理沙である自分は、この影の案内で「アトラになった」のだったと。
(転生するって意味だったんだ……
じゃあ、この世界に来たのは、この影に連れてこられたからだったってこと?)
「そう。なにをしていいやら、よくわかっていないでしょ。
私もサポートするって言ったし」
「まさか、ファイナルファンタジーXIVの異世界転生とは思ってなかったよ……」
アトラは後戻りできないことは理解しているが、ろくに説明されていなかったことに不服だった。
しかも、アトラの生活はハードモードスタートだった。
「もっと早く助けてほしかったよ……」
「そうしたつもりなんだけどね。まあいいや」
アトラは首をかしげる。
知っている人のような、知らない人のような。好きなようで、嫌いなような。
不思議な感覚を抱かせてくる存在だとアトラは感じた。
「私が直接、助けようじゃないか」
影はそれから咳払いをした。
「じゃあ、本題を言うね。そこから抜け出して」
「え?」
「そのままじゃ、ただのペットで終わるから」
アトラは衝撃で口をぽかんと開けた。
よく考えればわかることを言われたからだ。
適切な機関に保護された後はどんな扱いになる?
魔力もなく力もなく小さい。古代の人々と協調できる程度の肉体がなければ、自由に歩くこともできない。
よくて監禁。しかし、星にとって生きていけないほど脆ければ、「よくないもの」として星に還ることになる。
それは古代人には尊く素晴らしいことでも、死ぬ気はないアトラにとってはまずい話だ。
「帝国に居る時よりヤバい気がする!」
「まあそういうこと」
「だからって、手立てなんてないよ」
「手立てに頼るなってこと。感覚でキャッチするしかない。
夢見の力を持つ人。その力を使ってみようじゃないか」
アトラはギクッとした。
なにか手立てがあるなら、それに依存しようと無意識に思っていたからだ。
しかし、アトラは気持ちを改めた。
「うさぎの穴に落ちちゃったんだから、あとは進むしかないでしょ? ハートの女王に捕まってたら、あとは首をはねられるだけ」
夢は薄らいで、現実の感覚がアトラの肉体とつながっていく。
もはや慣れたことだが、夢の中にいる感覚がするときにいつもある白い靄を感じた。
目が覚めると、アトラはまったく知らない場所にいた。
目の前に広がるのは、見たこともない美しい光景だった。
エルピスの緑豊かな景色とは異なり、人工物による整然とした美しさだ。
部屋中には、光り輝くクリスタルが整然と並んでいた。
綺麗にカッティングされ、見事な装飾を施されたクリスタルが、360度、壁一面に並ぶ。圧巻の光景だ。
アトラの体半分ほどのフラスコや試験管も、そばにずらりと並んでいる。
装飾のある硬い床に寝ていたアトラは、立ち上がり周囲を見回した。
ここは「部屋」というより、広大な「施設」と呼ぶべき空間だった。
「どこ、ここ……」
自然の中なら開放的で美しかった光景も、人工物で圧倒されるほどの大きさのクリスタルが並ぶと、アトラには不気味で心細く感じられた。
影の案内人の言葉――「うさぎの穴」を思い出す。
この光景を生み出した存在は、いったいどんなものなのだろう。
「ここは帝国でも、ヘルメスの部屋でもない……メーティオンもいない」
もし夢から覚めて移動したのだとすれば、影の案内人が言っていた「夢見の力」のせいかもしれない。
アトラとして転生した時も、最後の記憶は眠りについた瞬間だった。エルピスに来た時も、城で仮眠をとった後だった。すべて「夢見の力」なのだろうか。
だとしても、わからないことが多すぎる。
魔導城での夜勤のことなど、今はどうでもいいことが頭をかすめた。
「おや?」
アトラは、途方に暮れていた。
光の戦士のように戦えるわけでもなく、それどころか、常に誰かの助けがなければ生きていけない存在。管理対象の生物と大差ない。アトラはひとりで動くことすらできなかった。
主に世話を焼いてくれるのはメーティオンだった。
小鳥に餌をやる人間の光景が逆転し、小さな人間に少女のような鳥が食料を与える――そんな滑稽で微笑ましい図だった。
「おいしい?」
「うん。ありがとう」
そのやり取りに、アトラは既視感を覚えた。
(……お母さん、元気にしてるかな。
というか、私、帰れるのかな……)
毎晩眠っても、元の世界に帰る夢を見ることはなく、目を覚ますのは決まってメーティオンのそば、小さなベッドの上だった。
ヘルメスに時間があるときは、アトラは元の世界――もうひとつの世界について語った。
絵理沙として生きていた、魔法のない世界。
そこは今まで暮らしていた雪国よりも緑が多く、海に囲まれ、湿度が高く、八百万の神々が棲むとされる神秘の島国だった。
「アトラアティウス。君に、ひとつ聞きたいことがある」
「はい。なんでしょうか」
改まった声色に、アトラは小さく首をかしげる。
(というか、そうだった。
この世界にファミリーネームの概念はないから、ファミリーネームもファーストネームも全部私の名前だと思われてるんだ……
でも古代人っぽい響きになるし、修正はしないでおこう……)
アトラは訂正せず、そのまま話を聞くことにした。
「生きる意味を、考えたことはあるだろうか」
「生きる意味……?」
ヘルメスは、自らの胸の内を語った。
この世界では、生物は造られ、世に放たれ、世界にとって『よくない』と判断された存在は消される。それが当たり前とされている。
「……自分は、それにどうしても違和感を覚えるんだ。命を……冒涜しているような気がしてね。大げさに聞こえるだろうか」
この世界では、役目を終えれば星に還る。
「死ぬ」という言葉は使われない――それが古代の常識だった。
アトラは少し考え込み、静かに口を開いた。
「生きる意味は……人が自分で作るものなんだと思います」
「意味を作る?」
「はい。命には“終わり”なんて、本当はない。ただ生まれて、死んで、それを繰り返すだけ……もし世界を創った存在がいるなら、あなたたちのように生物を造る人たちもいる。みんな、ただ繰り返しているだけです。
私のように“薄い魂”は、想いを自分で創る。創れるなら、消えることもある。命や世界も、同じようにいつか消えるかもしれない。
――だからこそ、意味だけじゃなく、いろんなものを創り続けるべきだと思うんです」
ヘルメスは「創り続ける、か……」とつぶやき、しばらく考え込んだ。
「ありがとう、アティウス。君の話、参考になった」
「いえ。お粗末様でした。少しでもお力になれれば」
その夜、小さなベッドの上で考え込む。
なぜ自分は過去に来たのか。
何をしたかったのか。
自分に何ができるのか。
答えは見つからないまま、アトラはいつの間にか眠りに落ちていた。
白い靄がアトラを暗闇へと導く。
ぽつんと立つ影が語りかけてきた。
「これからあなたの案内をするよ。夢見の力を持つ人」
アトラは「これは夢だ」と、ぼんやり気付いた。影の方を見る。
「あんた、前も――ていうか、案内? 夢見?」
ファイナルファンタジーXIVの世界に渡る前、この慣れた様子で接してくる影と話した気がする。
『ねえ、あんたがその子になってあげたら?』
アトラは「あっ」と声が漏れた。
あの時泣いていた少女はアトラだった――今の今まで思い出さなかったけれど。
そうして絵理沙である自分は、この影の案内で「アトラになった」のだったと。
(転生するって意味だったんだ……
じゃあ、この世界に来たのは、この影に連れてこられたからだったってこと?)
「そう。なにをしていいやら、よくわかっていないでしょ。
私もサポートするって言ったし」
「まさか、ファイナルファンタジーXIVの異世界転生とは思ってなかったよ……」
アトラは後戻りできないことは理解しているが、ろくに説明されていなかったことに不服だった。
しかも、アトラの生活はハードモードスタートだった。
「もっと早く助けてほしかったよ……」
「そうしたつもりなんだけどね。まあいいや」
アトラは首をかしげる。
知っている人のような、知らない人のような。好きなようで、嫌いなような。
不思議な感覚を抱かせてくる存在だとアトラは感じた。
「私が直接、助けようじゃないか」
影はそれから咳払いをした。
「じゃあ、本題を言うね。そこから抜け出して」
「え?」
「そのままじゃ、ただのペットで終わるから」
アトラは衝撃で口をぽかんと開けた。
よく考えればわかることを言われたからだ。
適切な機関に保護された後はどんな扱いになる?
魔力もなく力もなく小さい。古代の人々と協調できる程度の肉体がなければ、自由に歩くこともできない。
よくて監禁。しかし、星にとって生きていけないほど脆ければ、「よくないもの」として星に還ることになる。
それは古代人には尊く素晴らしいことでも、死ぬ気はないアトラにとってはまずい話だ。
「帝国に居る時よりヤバい気がする!」
「まあそういうこと」
「だからって、手立てなんてないよ」
「手立てに頼るなってこと。感覚でキャッチするしかない。
夢見の力を持つ人。その力を使ってみようじゃないか」
アトラはギクッとした。
なにか手立てがあるなら、それに依存しようと無意識に思っていたからだ。
しかし、アトラは気持ちを改めた。
「うさぎの穴に落ちちゃったんだから、あとは進むしかないでしょ? ハートの女王に捕まってたら、あとは首をはねられるだけ」
夢は薄らいで、現実の感覚がアトラの肉体とつながっていく。
もはや慣れたことだが、夢の中にいる感覚がするときにいつもある白い靄を感じた。
目が覚めると、アトラはまったく知らない場所にいた。
目の前に広がるのは、見たこともない美しい光景だった。
エルピスの緑豊かな景色とは異なり、人工物による整然とした美しさだ。
部屋中には、光り輝くクリスタルが整然と並んでいた。
綺麗にカッティングされ、見事な装飾を施されたクリスタルが、360度、壁一面に並ぶ。圧巻の光景だ。
アトラの体半分ほどのフラスコや試験管も、そばにずらりと並んでいる。
装飾のある硬い床に寝ていたアトラは、立ち上がり周囲を見回した。
ここは「部屋」というより、広大な「施設」と呼ぶべき空間だった。
「どこ、ここ……」
自然の中なら開放的で美しかった光景も、人工物で圧倒されるほどの大きさのクリスタルが並ぶと、アトラには不気味で心細く感じられた。
影の案内人の言葉――「うさぎの穴」を思い出す。
この光景を生み出した存在は、いったいどんなものなのだろう。
「ここは帝国でも、ヘルメスの部屋でもない……メーティオンもいない」
もし夢から覚めて移動したのだとすれば、影の案内人が言っていた「夢見の力」のせいかもしれない。
アトラとして転生した時も、最後の記憶は眠りについた瞬間だった。エルピスに来た時も、城で仮眠をとった後だった。すべて「夢見の力」なのだろうか。
だとしても、わからないことが多すぎる。
魔導城での夜勤のことなど、今はどうでもいいことが頭をかすめた。
「おや?」