【FF14】メイドさんの夢旅行
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皇帝陛下は偉大なり。
どのナンバーの軍団かはわからないが、鎧を着こんだ兵隊が、帝国の旗を掲げ声をあげて訓練を行っていた。
アトラは魔導城の庭を移動する。
皇帝の存在は遠く、兵たちの声だけが耳に響く。
平民として、この距離はあまりに隔たっていた。
皇帝の勢いを落とすせっかくのチャンスだと意気込んだものの、アトラは皇帝と決定的な交流を持てないでいた。
ディアナを通して会話方法を教えてもらうものの、プロの会話でさえ口説けなかった相手だ。
アトラは職場の先輩上司と共に、皇帝と、会話をする機会はいくらでもあった。
「おはようございます。陛下」
「ああ」
胸が少し高鳴るものの、それ以上の言葉は返ってこない。
朝はこれのみ。
「良い天気ですね」
「ああ」
昼はこれのみ。
「良い夜をお過ごしくださいませ」
「ああ」
夜はこれで終わり。
――絶望的に、とっかかりがない。
平民が皇族に話しかけることは褒められたものではないと知ったアトラの肩は、自然と落ちた。
遠くの兵たちの声が、虚しく響く。
「こんにちは! アシエンさん。ちょっと、よかったら、帝国でやりすぎないでほしいなーって。
国民混沌としちゃって、狂信的だし!
繁栄はものすっごいありがたいんですけど、原初世界を破壊されちゃ元も子もないっていうか~。
正直私たち分かたれた人を生贄にするのはやめてほしいな!」
アホか。
アトラは内心、鼻で笑った。そんな簡単に解決できるなら苦労はない。
それでも、皇室の侍従に任命してもらったことには感謝した。
「あの日、私を皇室の侍従に任命していただき、誠にありがとうございます。陛下のおそばでお仕えできることを、心より光栄に存じます。」
「ああ」
返事は淡白そのもの。夫婦の倦怠期のようで、のれんに腕押しの会話しか返ってこない
一定の会話だけで、皇室付きに抜擢されたからといって期待した交流もなく、アトラは拍子抜けした
チャンスに恵まれても、何も進展せずもどかしい思いが続いた
「もーいい! いったん忘れよう」
仕事に少し慣れてきた頃、アトラは侍従の夜勤で仮眠室に横になる。
夜勤の相方と交代する直前まで、うとうとと眠りについた。
まとわりついた白い靄を払うように、意識が覚醒する。
ふわふわと浮遊する感覚。次に、顔や手元に、しばらく感じていなかった感触がよみがえる。ゆっくりと目を開けた。
気が付くと、アトラは草原にいた。
穏やかな風が草を揺らし、ささやく音が耳に届く。
寝転がる場所は、暖炉前の分厚い絨毯のように暖かかった。
目の前には小さな小川が流れ、せせらぎの音が耳を優しく浄化する。
雪国では滅多に触れられなかった生い茂る草を踏みしめ、皇族だけに許された温室を遠目から見た記憶がよみがえる。
視界にはどこまでも続く緑と青い空、薄く星空がまたたいていた。
アトラは寝転がりながら噛み締める。
常春の匂い、生命の音、暖かな時間――。
春の雪解け水のように、涙が頬を伝った。
赤切れてささくれた手を見つめ、体が回復していく感覚に、思わず身震いした。
しばし夢見心地でいる自分にハッとして、アトラは自分の腕をつねった。
「いった!」
夢なら痛覚はないはずだ。だが痛い。
深呼吸してみる。できる。
咳をしてみる。喉がつっかえる感触。
立ち上がって走ると、ばさばさと侍従の服が足に絡む。浮遊感はなく、しっかりと土を踏みしめていた。
景色にも見覚えがあった。
アトラは『へり』にいた。
空と隔てる石造りの堤防が、整然と並ぶ人工の島――あの場所に、間違いなく立っている。
「エルピスみたい……」
まだ断定はできないが、直感的にそう感じた。
そして、ひとつ問題があった。
「こっち、こっち!」
明るくつたない少女の声。
アトラが声の方向に振り返ると、青い服の人と、黒いローブに仮面をつけた人が駆けてくる。
「メーティオン、詳しく教えてくれないか。おそらく小さすぎて、見当たらないみたいだ。このままでは踏みつぶしてしまう」
「うーんと、んとね。いたら、はいって、返事してくださーい!」
「逆に、怖がらせてしまわないだろうか?」
アトラはそこで、はっと気付いた。
この人たちにとって、アトラは小さいままエルピスにいるのだ。
草原は、彼らにとっては芝生。
アトラはその芝生である草と土に混ざってしまうほど小さいらしい。
転生した絵理沙としての記憶が、この人たちを知っていた。
「ここでーす!」
小さなジャンプをしながら、アトラは返事をした。
やっと気づいてもらえたようで、大きな二人はそっとアトラに近づく。
「いた! ちっちゃい、エンテレケイア!」
「……本当に、小さいね」
「こ、こんにちは」
アトラを発見した二人は、彼女をエンテレケイアと呼び、目線を合わせようとかがむ。
ここがエルピスというのなら、アトラの大きさは彼ら古代人の14分の1。大きな差がある。
「こんにちは。自分はヘルメス。こっちはメーティオンだ。君はどうしてここに? いきなり現れたみたいだけど……」
「うん! いきなり!」
深緑の髪をした青年がヘルメス。青い鳥のような子がメーティオンだ。
二人の目には、まるで新生物と対話するかのような、好奇心と淡い期待が輝いていた。
「君の名前は?」
「……アトラ・アティウスと申します」
アトラは少し戸惑いながらも、自分の名前を名乗った。
どのナンバーの軍団かはわからないが、鎧を着こんだ兵隊が、帝国の旗を掲げ声をあげて訓練を行っていた。
アトラは魔導城の庭を移動する。
皇帝の存在は遠く、兵たちの声だけが耳に響く。
平民として、この距離はあまりに隔たっていた。
皇帝の勢いを落とすせっかくのチャンスだと意気込んだものの、アトラは皇帝と決定的な交流を持てないでいた。
ディアナを通して会話方法を教えてもらうものの、プロの会話でさえ口説けなかった相手だ。
アトラは職場の先輩上司と共に、皇帝と、会話をする機会はいくらでもあった。
「おはようございます。陛下」
「ああ」
胸が少し高鳴るものの、それ以上の言葉は返ってこない。
朝はこれのみ。
「良い天気ですね」
「ああ」
昼はこれのみ。
「良い夜をお過ごしくださいませ」
「ああ」
夜はこれで終わり。
――絶望的に、とっかかりがない。
平民が皇族に話しかけることは褒められたものではないと知ったアトラの肩は、自然と落ちた。
遠くの兵たちの声が、虚しく響く。
「こんにちは! アシエンさん。ちょっと、よかったら、帝国でやりすぎないでほしいなーって。
国民混沌としちゃって、狂信的だし!
繁栄はものすっごいありがたいんですけど、原初世界を破壊されちゃ元も子もないっていうか~。
正直私たち分かたれた人を生贄にするのはやめてほしいな!」
アホか。
アトラは内心、鼻で笑った。そんな簡単に解決できるなら苦労はない。
それでも、皇室の侍従に任命してもらったことには感謝した。
「あの日、私を皇室の侍従に任命していただき、誠にありがとうございます。陛下のおそばでお仕えできることを、心より光栄に存じます。」
「ああ」
返事は淡白そのもの。夫婦の倦怠期のようで、のれんに腕押しの会話しか返ってこない
一定の会話だけで、皇室付きに抜擢されたからといって期待した交流もなく、アトラは拍子抜けした
チャンスに恵まれても、何も進展せずもどかしい思いが続いた
「もーいい! いったん忘れよう」
仕事に少し慣れてきた頃、アトラは侍従の夜勤で仮眠室に横になる。
夜勤の相方と交代する直前まで、うとうとと眠りについた。
まとわりついた白い靄を払うように、意識が覚醒する。
ふわふわと浮遊する感覚。次に、顔や手元に、しばらく感じていなかった感触がよみがえる。ゆっくりと目を開けた。
気が付くと、アトラは草原にいた。
穏やかな風が草を揺らし、ささやく音が耳に届く。
寝転がる場所は、暖炉前の分厚い絨毯のように暖かかった。
目の前には小さな小川が流れ、せせらぎの音が耳を優しく浄化する。
雪国では滅多に触れられなかった生い茂る草を踏みしめ、皇族だけに許された温室を遠目から見た記憶がよみがえる。
視界にはどこまでも続く緑と青い空、薄く星空がまたたいていた。
アトラは寝転がりながら噛み締める。
常春の匂い、生命の音、暖かな時間――。
春の雪解け水のように、涙が頬を伝った。
赤切れてささくれた手を見つめ、体が回復していく感覚に、思わず身震いした。
しばし夢見心地でいる自分にハッとして、アトラは自分の腕をつねった。
「いった!」
夢なら痛覚はないはずだ。だが痛い。
深呼吸してみる。できる。
咳をしてみる。喉がつっかえる感触。
立ち上がって走ると、ばさばさと侍従の服が足に絡む。浮遊感はなく、しっかりと土を踏みしめていた。
景色にも見覚えがあった。
アトラは『へり』にいた。
空と隔てる石造りの堤防が、整然と並ぶ人工の島――あの場所に、間違いなく立っている。
「エルピスみたい……」
まだ断定はできないが、直感的にそう感じた。
そして、ひとつ問題があった。
「こっち、こっち!」
明るくつたない少女の声。
アトラが声の方向に振り返ると、青い服の人と、黒いローブに仮面をつけた人が駆けてくる。
「メーティオン、詳しく教えてくれないか。おそらく小さすぎて、見当たらないみたいだ。このままでは踏みつぶしてしまう」
「うーんと、んとね。いたら、はいって、返事してくださーい!」
「逆に、怖がらせてしまわないだろうか?」
アトラはそこで、はっと気付いた。
この人たちにとって、アトラは小さいままエルピスにいるのだ。
草原は、彼らにとっては芝生。
アトラはその芝生である草と土に混ざってしまうほど小さいらしい。
転生した絵理沙としての記憶が、この人たちを知っていた。
「ここでーす!」
小さなジャンプをしながら、アトラは返事をした。
やっと気づいてもらえたようで、大きな二人はそっとアトラに近づく。
「いた! ちっちゃい、エンテレケイア!」
「……本当に、小さいね」
「こ、こんにちは」
アトラを発見した二人は、彼女をエンテレケイアと呼び、目線を合わせようとかがむ。
ここがエルピスというのなら、アトラの大きさは彼ら古代人の14分の1。大きな差がある。
「こんにちは。自分はヘルメス。こっちはメーティオンだ。君はどうしてここに? いきなり現れたみたいだけど……」
「うん! いきなり!」
深緑の髪をした青年がヘルメス。青い鳥のような子がメーティオンだ。
二人の目には、まるで新生物と対話するかのような、好奇心と淡い期待が輝いていた。
「君の名前は?」
「……アトラ・アティウスと申します」
アトラは少し戸惑いながらも、自分の名前を名乗った。