冥き水底。

石造りの遺構が、寂しがり屋の魔法に縁取られ、より一層失ったものの悲壮を感じさせる。今日もここは静かであたたかく、冥（くら）い。

魔女マトーヤの足取りを追えば、エリディブスが倒れた彼女を連れ去りゆく。そのさいに“見せられた”記憶は、いったい、いつの記憶なのか。

どれだけ、好きな人たちを忘れても、成し遂げたかったことは。


「ようこそ
我が同胞の遺せし、幻影の都へ。」

「ヤ・シュトラは？」

「その前に、課題を遂行してもらおう。」


ひろしは立ち向かう。
それは仲間を救うためか、己を知るためか、はたまた、調停者の記憶をたどるためか。

霊災によって新しき時代となった人々を渡り。

蒼き１０００年の凍った歴史を解かし。

紅い血潮に染まる人の故郷を取り戻し。

今一度、冥い漆黒で星の始まりを追う。


「仲間の姿だというのに倒したか」


最近、ペンダント居住区の自室に出なくなって久しい友の肉体。
その肉体を綺麗にまとった調停者が、ぽつりぽつりと語るように魔法を行使する。

ヤ・シュトラが待っているだろう、カピトル議事堂は、もう目の前だった。


「あんたはまるで、自分のもとまで突き進んできて欲しいように見えるから。」


だから、突き進んだ。
英雄を名乗るにふさわしい、すべての人を救ってきた者は。
今までもそうだったし、これからも変わらない。
だから、相手が誰であろうと。

ふと、思い当たりがない。とでも言うように、エリディブスは目を丸くするが、すぐに瞳の光は影に隠れる。

（突き進んでほしい？
そうして欲しかった？
いいや。まさか。

なぜ、突き進んでほしいのか。
なぜ、自分は止まらないのか。
その答えは。


……わからない。）


「…そのように見えるか？　当たり前だ。この程度で止まっては、裁定する実力に足り得ない。」


エリディブスは、自分の頭によぎった疑問を振り払い、進み続ける者を睨んだ。
その顔にひろしもまた、眼を鋭くする。


「だったらご期待に応えよう。」


もはや語るに及ばず。
言葉はいくらでも嘘をつける。
いくらでも飾ることができる。

だが、行動はその者の真実を語る。
行動でもって、目の前の敵対者に意志を示すほかない。


「そうこなくては。闇の戦士どの？」