最終章 翔べない天使
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ヒースガルド軍司令部を、アームストロングを伴い、マスタングは訪れた。
目的は勿論、一連の事件についてのネムダ准将の追及だ。
証拠は掴んだ。
これ以上の暴走は、止めた方がいい。
しかし、司令部に入ると、思いがけず静かだった。
廊下を歩きながら、眼だけを動かしながら辺りを伺う。
「人が疎らですな。エドワード・エルリックたちの捜索に、出動しているのでしょうか」
「それにしても、少なすぎる。変だな」
マスタングは、前から歩いてきた一兵卒を呼び止める。
「君、何かあったのかね」
「はっ、実はーーそのーー」
大佐の階級章に、兵士は緊張のあまり口ごもる。
「なんだね、ハッキリしたまえ」
「は、はい。ヴィルヘルム教授と娘のアルモニに、逮捕命令が出ておりまして。脱走者の探索に出ていた者も、そちらにまわるところであります」
「何だと?少佐、中尉、准将は後だ。教授の屋敷へ向かうぞ」
ネムダを焚き付けた後、グレタは流れてきた錬金術師たちが屯する酒場へやって来た。
煙草の煙を掻き分け、術師のひとりに声をかける。
アルモニから金を巻き上げていたゲルプだ。背後にはブラオとロートもいる。
グレタの話を訊いたゲルプは、声を荒げる。
「マジっすか!?マジで軍のやつら、ここに攻めてくるんスか?」
「えぇ、間違いないわ。たくさんの兵が、進軍してくるのをこの目で見たんだもの。信じられないくらいの装備だったの。きっと、この街を潰す気なのよ」
「クッソォ・・ちくしょう!なんてこった!!」
「そんなことさせるかよ!街のやつら、全員号令だ!なんとしても、この街を守るんだ!!」
「おうよ!この街は、俺たちにとって、やっと見つけた最後の理想郷なんだ!
軍なんかに潰されてたまるっかよ!!散々世話んなったヴィルヘルム教授のためにも、ここは俺たちが食い止めるしかねぇ」
「そうだそうだ!俺たちゃ、無敵の錬金術師集団だ!!俺たちが教授を守るんだ!!」
息巻く荒くれ者たちに、グレタはニタリと笑う。
「そうね、軍の最終目的は、教授にちがいないわ。国家錬金術師を紛れ込ませ、教授の身辺を調べさせたくらいよ。教授の命も危ないわ」
「国家錬金術師!?あのガキ!!やっぱり軍のスパイだったんじゃねえか!!」
「軍の狗め!クソ、許せねえ!あんなマグレ野郎なんざ、この俺様が今度こそ叩きのめしてやらぁ!!」
「お願い!街を、教授を守って!!あの国家錬金術師を倒せば、街はきっと救われるわ!!」
「おうよ、任せとけ!国家錬金術師だか軍だか知らないが、俺様に刃向かうヤツは容赦ナシだ!」
「よーし、こうなりゃ徹底抗戦だ!!」
仲間を集めに行く3人の後ろ姿を見送りながら、グレタは一層深く笑みを浮かべる。
「ーーーふふふふ。この街を作ったほんとうの理由も知らずに、本当にみんな、なんて素直でおバカなこと。
鋼の坊やに逃げられたのは予想以上に早かったけど、とりあえず、これで全ての準備が整ったわね。
これでもうすぐ、賢者の触媒は私のモノ。あれが本当に手に入るなんて、想像するだけでもゾクゾクしちゃうわぁ。
絶対に、邪魔はさせないわよ。鋼の坊や、エリスーー」
マンホールの蓋を、アルフォンスは下から突き上げた。
外に出ると神父の言うとおり、地下水路は屋敷の中庭に繋がっていた。アルモニは走り出す。
「パパ!パパーー!!」
書斎に飛び込むと、ヴィルヘルムは驚きの表情を浮かべる。
「アルモニ!バカなーーどうして戻って来たんだ!」
「ごめんなさい、パパ・・・」
抱きつこうとしたアルモニは、ヴィルヘルムの叱責に立ち止まり、俯いた。
「それより教授、軍から教授に逮捕状が出てるんです。ボクたちと一緒に、いったんここから離れましょう」
「軍が私を?そうかーーキメラ騒ぎで何かあると思ったが・・ネムダの奴」
「その前に、まず教授に色々説明して欲しいんだけど。逃げる前に、全部、聞かせてくれないかな」
「あぁ・・そうだな。元々、その目的もあって、君たちはここへ来たんだろう。いいだろう。
私も、もうこれ以上、君たちに隠し事など出来ないと思っていたよーーーアルモニ」
「え?あ、はいっ」
「パパはこれから、エドワード君たちと大事な話をしなきゃならない。お前はしばらく、部屋に隠れていなさい」
「あたしも!あたしも、パパに訊きたいことがあるの」
「分かっている。アルモニの話は、あとでちゃんと聞いてあげるよ。だから今は、部屋にいっていなさい」
「パパ・・うん、分かった」
名残惜しそうにアルモニが書斎を出ると、ヴィルヘルムは用心深く扉を閉めた。
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