エピローグ エンディミオンの魔女
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風が渡る丘に、エリスは立っていた。
眼下には、エドワードたちが乗っている列車が煙をあげながら走って行く、
ふたりに別れを告げずに去ったのは、ただ単に面倒だったから。
「死んじゃったな・・グレタ。まぁ、いいわ。代わりなんて、いくらでもいる」
欲深い女など、掃いて捨てるほど。また、誰かをカミラにすればいいーーエリスはフッと笑う。
「お久しぶりです、エリスお嬢様」
廊下で2人きりになると、カミラは白々しく挨拶した。
「・・・言うことはそれだけ?報告することがあるんじゃないの?」
咎める視線に動じることなく、むしろ楽しむように薄ら笑いを浮かべる。
「忙しかったんですよ、色々」
「あんなオモチャを錬成して、街を壊して遊ぶことが?」
「必要なんですよ、賢者の触媒を作るために」
錬金術の腕の良さと、美しい女に有りがちな、美に対する欲深さが気に入り、話を持ち掛けた。
カミラと名乗らせた彼女をヴィルヘルムのもとに送り込んだのは、彼の研究を完成させ、完成品共々セレネを連れ出すためだった。
「私を出し抜こうなんて考えるから」
無知で口喧しい女が多い中で、セレネは物静かで幼いながら博識だった。
無限の時を与えれば、どれだけ聡明な人間になっただろう。
「内気な女神は、逝ってしまったーーか」
結局、アルモニは死んだセレネの肉体に、錬成した魂を容れたのだ。
錬成された魂は、セレネであって、セレネじゃない。
ただアルモニという名前を与えられたひとつの魂。
だから、アルフォンスの魂を連れ戻したエドワードを欲しいと思った。
「セレネの代わりに、エドワード・・・って思ったけど、無理ね。あの子は真っ直ぐすぎて、優しすぎる」
弟を断ち切ればあるいはーーーと考えたが
「そんなことしたら、殺されそうだしーーー死なないけどね」
久しぶりに口にした己の身体を、繁々と眺める。
あの子たちは、どんな大人になるのだろう。気が向いたら見に行こうかしら。
「それはそうと、どうしようかな、これから・・あんな物騒な男がいるんなら、暫くアメストリスを離れた方がいいかも」
東方司令部に切れ者がいると噂は訊いていた。
屋敷で遭って、すぐに危険だと察した。
あんなのに眼をつけられたら、やりにくくなる。
マーゴットーーリザ・ホークアイの洞察力も侮れなかったが。
その時、足下の草が次々と花を咲かせる。あっという間に、辺り一面花で覆われた。
セレネも、花が好きだった。
アルモニが手入れをしていた花壇も、セレネが作ったものだ。
「・・・錬金術の腕は・・まあまあかな」
揺れる花に視線を落とすと、後ろからガサガサと音が聞こえた。
「おい!!」
振り向くと、ゲルプが鬼の形相で立っていた。その顔を見たエリスは、露骨にイヤな顔をした。
「なんだ、まだいたの?しつこいわね」
「うるせえ!あのガキにやられてムシャクシャしてんだ。せめて、てめえを痛めつけて、ウサを晴らさせてもらうぜ」
「好きにすれば」
「コイツーー!!ナメやがって!!」
「花を踏まないで」
エリスは両手を合わせると、地面につけた。その刹那、一歩踏み出した足が、宙に浮いた。
「ーーーー!?」
声を上げる間もなく、ゲルプの身体がパックリ開いた穴に吸い込まれる。
落ちていくゲルプを見下ろすエリスの瞳が、逆光の中で光る。
イエローブラウンとダークグリーンの瞳。
まるで 光と闇を司る女神のように
「さよならーーー」
地面が元通りになると、エリスはヒースガルドで関わった全ての者に別れを告げた。
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