第8章 白い羽根の加護
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「ここだ」
兵士たちを巻き、最上階の指令室に入った。
最高責任者の執務室だけあって、ソファーや置物など、値の高そうな物ばかりなのだが。
調和がとれてなく、ゴテゴテと落ち着きのないインテリアに感じる。
部屋を見渡したエリスが、眉を潜めた。
「成金趣味、丸出しね」
エリスにかまわず、 エドワードはデスクの引き出しを開け、引っ掻き回す。
「確か、ここにーーーあった!!うし、これでもう、こんな所に用はねえ。とっとと出るぞ」
コートのポケットに銀時計を入れ、司令室を出た。
「戻るの?」
「それはもう、うんざりだな」
兵士たちにも、じきに見つかるだろう。腕を組み、非常階段の更に上を見る。
「この先は屋上だね。って、兄さんーー」
さっさと階段を上がっていくエドワードが振り返る。
「行ってから考えりゃいいさ。何か、使える物があるかもしれないしな」
「あなたたちって、こんなに行き当たりばったりで、よく今まで無事だったわね」
「はは・・呆れた?」
「いいえ、慣れたわ」
屋上への重い扉を押すと、厚い雲に覆われた夜の闇が3人を包んだ。少し風もある。
「ねえ、どうやって逃げるの?」
「あぁ、そうだな・・」
屋上の隅に、無造作に積み上げられている、鉄棒やドラム缶に近付こうと歩き出したときーー
「ーーー!?」
突風がおきて、大きな影が頭上を掠める。見上げた3人の目に、巨大な鳥の影が写る。
「お、おい、待てよ・・冗談だろ、アレーー」
「空飛ぶキメラ!?」
「あれも、教授の作品ってか!?ったく、いったいなんちゅーもんを作ってくれたんだ、あのおっさんは!!」
「大したものね」
「感心してる場合じゃないよ!空飛ぶキメラが襲ってくる!!」
「よし、叩き落とすぞ!!」
「何か、キメラと戦うの面倒になってきたわ。エド、あれで大砲を錬成して」
度重なるキメラとの戦闘に、うんざりした顔でエリスはドラム缶を指差した。
「大砲?」
「そうよ。キメラが来るわ、早く」
「あ、あぁーー」
エドワードは隅に積んであるドラム缶を使って、大砲を錬成する。
「ありがと」
エドワードが錬成したにしては、シンプルな大砲が現れた。
いつも趣味が悪いと言われる装飾がないのは、単に材料が足りなかったのかもしれないが。
エリスは大砲の後ろに立ち、砲筒を空に向ける。
「何発撃てる?」
「4発だ」
砲筒の先に、真っ直ぐに突進してくるキメラが見えた。
あっという間に接近したキメラの翼が空を覆う。のびてくる鋭い爪。
エリスは躊躇いなく大砲を撃つ。
ドンッドンッドンッドンッーー!!
「うわっーー!」
轟音とともに、全弾、見事に命中した。墜落したキメラに、アルフォンスは感嘆の声を洩らす。
「エリス、すごい・・」
「旅をしてると、色々出来るようになるのよ」
「どんな旅だよ、それ。にしても、やっぱ、デカいな」
翼を広げたキメラは、屋上を覆わんばかりの大きさだ。
改めて感心していると、他のキメラがそうであったように、身体が揺らぎ始め、消えた。
その後に白い羽が残り、すぐに消えたことを、3人は見逃さなかった。
「小僧!一度ならず、二度までもーーーわしの可愛いキメラを!!」
いつの間に来たのか、背後に准将が兵士を引き連れ立っていた。
「可愛い・・」
「あのキメラの名前は、なんだったのかしら?」
「カエルがジョセフィーヌだから、マリアンヌとか?」
3人のふざけた様子に、ネムダの怒りは頂点に達する。
「貴様ら、何をしている!あの小僧を捕まえんか!!」
「し、しかしーー」
「ええぃ、貸せ!わし自ら処分してくれるわ!」
躊躇する兵の銃を奪うと、エドワードたちに銃口を向ける。すぐに引き金を引くが、アルフォンスにあたった跳弾がネムダの足元にめり込む。
「うわっ」
その隙に、エドワードは踵を返す。
「さて、行くか」
「そだね」
「お、いいもの発見」
翻っている軍旗を勝手に下ろす。アルフォンスは鉄棒を数本拾い上げる。
「小僧、何をするか!貴様、大事な軍旗をーー!!」
喚くネムダを尻目に、2人は屋上の淵に立つ。
「エリス、掴まれ」
「はいはい」
「うおっーー」
背中に抱きついてきたエリスに、顔が赤くなる。
「兄さん、行くよ」
3人は屋上から飛び降りた。驚いて駆け寄るネムダたちの眼に、青白い錬成光が映る。
「じゃ~なーー!!」
軍旗で錬成したハンググライダーが、風に乗って浮き上がる。
舵はアルフォンスがとり、エドワードとエリスは翼の上だ。
「この小僧がーー!!」
みるみる離れていくエドワードたちに一発撃つが、弾は虚しく空を切る。
「くそっーー」
ネムダは銃を投げつけた。
「ムリムリ」
届きゃしないとおどけて云うと、カンーー!!と音がした。
「イタッーー」
「ええ!?」
「あら」
「いい肩してるな~」
「ま、この距離で弾を当てられるのは、ホークアイ中尉・・・・あ~っ!!」
「何よ、大きな声だして」
「おい、アル。マーゴットってーーー!!!」
「なんだ、今頃気づいたの?」
「ねぇ、何?」
訝し気なエリスに、アルフォンスは笑いながら説明した。
「ところで兄さん、どこへ向かう?」
「ん?あそこかな」
「あそこ?あぁーー」
「どこよ?」
ヒースガルドの教会の墓地に、アルモニは佇んでいた。
心配した神父が、教会の中へ入るように何度も促すが、アルモニはうんと云わない。
どうしたものかと思案していると、空を覆っていた雲が風に流れ、月が顔を出す。
月明かりにアルモニの小さな背中が照らされた時ーーー
「おーい」
「え?」
上空から聞こえた聞き慣れた声に、アルモニと神父は顔を上げる。
すると、満月に背に、ゆっくりと旋回しながら降りてくるハンググライダーが見えた。
「おぉ・・あれはーー」
「エド・・」
手を振るエドワードの笑顔に、アルモニは泣きそうになった。
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