第6章 謎
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荒れ果てた屋敷を、アルモニは懐かしそうに見渡した。
「・・・3ヶ月しか離れてないのに、なんだか懐かしいな。あたし、パパとこの街から逃げ出して、ここに来たのは、今日が初めてよ」
「あ・・そうだったんだ」
「ただいま、あたしの家。あんなにきれいだったのに、キメラにやられてすっかりボロボロだね」
「家の中に、キメラはいないみたいだし、持って帰りたい物があったら、今のうちに取って来たらどうだ?」
ガラスのない窓から中を覗き込んだあと、エドワードはアルモニを振り返る。
「うん、ありがとう。でも、それは大丈夫。必要な物は、全部今のお家にちゃんと持っていってるから」
「アルモニ、キメラが現れた時のこと覚えてるか?」
何気なく云ったエドワードの言葉に、エリスは興味深げにアルモニを見る。
「・・あたし、自分の部屋で本を読んでたの。そしたら、グレタさんの悲鳴が聞こえてーー
廊下に出たら、キメラがいて。外に逃げたら、街中にキメラが溢れていたんだ」
思い出すように天を仰いだアルモニの顔が、懐かしさから哀しさに変わった。
「ーーいつか、街からキメラがいなくなって、またこの家に戻って来ることは、出来るのかなぁ」
「今住んでる所の方が、よっぽど立派なんだし、わざわざ戻る必要ないんじゃないの?」
励ますようにアルフォンスは云ったが、アルモニはしみじみと云う。
「ううん、私は帰りたいよ。今のお城のお家も好きだけど、やっぱりあたし、この家が好きなの」
「ここには、セレネもいたんだもんね」
「うん。この家には、小さい頃からの思い出が、パパとの思い出が、たくさんたくさんーー」
急に云い澱んだアルモニを、エリスは見つめる。
「どうしたの?アルモニ。どんな思い出か、教えて?」
必要に迫る エリス に、アルモニは怯えの色を示す。黙って聞いていたエドワードが、助け船をだすように口を開いた。
「まあ、いいじゃねーか。そろそろ帰ろうぜ」
旧市街をあと少しで出ようとしたとき、何気なく後ろを振り返ったエリスが、あっと声を上げる。
「エド、あれーー」
気づかないうちに、籠からエーテルフラウがてんてんと零れ落ちていた。
しかも、その花を猪とワニを合成したようなキメラが、拾って喰べている。
「んなっーーなにぃぃぃいっ!?」
「兄さん、花が!花が食べられちゃった!」
「んなもん見りゃわかる!!大事な花を喰いやがってーー!!アル!腹だ!ヤツの腹に、思いっきりタックルをぶちかませ!!吐き出させるんだ!!」
アルフォンスが鎧の身体を腹にぶち当てると、キメラは花を吐き出し、呆気なく気絶した。
吐き出させるのに成功はしたが、既に花は胃液で溶け始めていて、花びらが数枚残っているだけだ。
「うわぁ・・これじゃ使い物にならないよね、アルモニ・・」
「うん・・多分」
「はは・・なんてこった」
籠の中に残ったのは、たった一輪。
「どうするの?もう一度摘みに戻る?」
「でも、残っていたのは蕾だったし・・」
今日は研究が進められない。中断することで、ダメになってしまう実験もあるだろう。
何年も積み重ねて来たことが、たった1日で無駄になってしまうこともあるのだ。
「教授になんて謝ればいいんだ・・」
「大丈夫だよ、パパはそんなことで2人を責めたりしないよ。あたしからも、事情を説明してあげるし」
「そうは云っても、科学者が自分の思い通りに研究が進められないほど、苦痛なコトはねーんだぞ」
「ボクたちのせいで、教授の研究が少し遅れてしまうんだ。教授の期待に応えられないのも、悔しいしね」
「ふ~ん・・何かよくわかんないけど、何だか大変そうね。そんなことより、ねえ、これなーんだ」
落胆するエドワードの前に、アルモニは弁当が入っていたバスケットを開いて見せる。
中には、白い花びらを開かせた花が数輪。
それを一瞥したエドワードは
「ん?何だよ、そんなのただのエーテルフラウじゃんか。今はそれどころじゃーーって、エーテルフラウ!?」
「そんな、どうして!?」
「実は、あたしも摘んでたんだ。ちょっと小さいけど。これでもないよりマシでしょ?」
「うおおおおっ!アルモニえらい!よくやった!!」
「それで~この花のお礼代わりに、2人にお願いがあるんだけど・・」
踊り出さんばかりに喜ぶ2人に、アルモニはにっこりと笑う。
「おう!この際、何でも聞いてやる!!」
「本当っ!?だったらね、やっぱり錬金術教えて!!」
「え?」
エドワードとアルフォンスは驚いたが、 エリス は肩を震わせて笑いを堪える。
「見るだけでも勉強になるって言ってたけど、エドの錬金術って魔法みたいでスゴすぎて全然わかんないんだもん。だから、やっぱりちゃんと習いたいの。ね、お願い!」
「よりによって、そうきたか・・」
「どうするの、兄さん?」
「どうするって、そりゃあ・・・」
「錬金術が基本は、等価交換ーーよね?」
顔を見合わせて困惑する2人に、 エリス が云った。諦めて教えたらと云いたいらしい。
「はぁ・・ったく、しょうがねえなぁ。わかったよ、教えてやるよ、錬金術」
「本当に!?」
眼を輝かせるアルモニに、エドワードは頷いて見せる。
「やった、やったあ!!ありがとう、エド!!」
「そのかわり、俺の指導は厳しいぞ」
「うん!あたしがんばる!」
跳ねるように歩くアルモニを、微笑ましく思いながらも
「ーー兄さん、本当にいいの?」
「だって仕方ないだろ。それに、あんなに喜んでんだ。今更ダメとも言えねーよ」
「アルは反対なの?」
「そうじゃないけど・・」
「けど?」
「教授が反対している理由が、気になるんだ・・」
温厚なヴィルヘルムが強固なまでに錬金術を禁止するのは、才能の問題だけなのだろうか。
どうしても、それが引っ掛かっていた。それを告げると
「なら、あなたたちが教えることで証明したら?アルモニの才能を」
と、エリスが事も無げに云った。
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