第5章 エーテルフラウ
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客人を見送って重い扉を閉じると、後ろから声が聞こえた。
「教授」
いつ聞いても、嫌な声だ。艶やかで誘うような、それでいて、遥か頭上から見下す声。
どうして、この女を助手にしてしまったのだろう。
確かに、錬金術の知識は目を見張るものがある。
しかし、いつの頃からか、自分を操るようになっていた。
まるで、恐喝者と被恐喝者のようにーー
ヴィルヘルムは、振り返らずに返事をする。
「グレタか・・・たった今、帰ったところだ」
「そうですか。それで、何か言ってましたか?」
「君の造ったモノに、大喜びしていたよ。早速、今晩にでも秘密裏に運び出す予定だ。
これで、またしばらくは、我々の行為に目を瞑ってもらえるだろう」
ようやく振り返ったヴィルヘルムの眼に、勝ち誇った顔のグレタが映る。それが益々、彼の気分を害した。
「それはよかったですね。では教授、研究室に戻りましょうか。
最近は、無駄なモノばかり増えて、あまり研究が進んでいませんよ。もっと頑張っていただかないと」
「無駄なモノを造っているのは君だろう。研究は、ちゃんと進んでいる。試作品だってある」
厚い絨毯に足音が消され、音もなくグレタはヴィルヘルムの前に立つ。
「試作品は、所詮試作品でしょう。オリジナルがあれば、もっと研究が捗るのに。ねえ教授。オリジナルはどうしたんです?」
「言ったろう、オリジナルはとっくに消滅した。もう、この世のどこにもない」
腕を組んで立ちはだかるグレタから視線を反らす。
「・・私に嘘をつくと、最後に損をするのはあなたなんですよ、教授」
「・・・早く研究室へ行け」
「分かりました・・・では、お先に」
これ以上言い争っても無駄だと感じたのか、グレタは大人しく従った。
2人の姿が消えると、柱の影からマーゴットが現れた。
彼女はしばらく考え込んでいたが、やがて、細く白い指でメガネを直した。
「報告書・・・今度も長くなりそうね」
静まり返った屋敷で、マーゴットは呟いた。
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