第4章 錬金術師が自治する街
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「うそつき!うそつき!うそつき!」
「このガキっ!いいかげん離しやがれ!!」
赤茶色の髪を揺らし、力の限り叫ぶ少女を、ゲルプ怒鳴りつけた。通りかかった人々が、何事かと足を止める。
「うそつき!!今日はちゃんと、教えてくれるって言ったじゃない!!」
「うるせえな・・そんな約束、した覚えねえよ」
ゲルプの兄であるロートが、黒い眼帯に覆われていない右目で、ジロリと見る。
「何よそれ・・約束破る気?それじゃあ、この前のお金返してよ!!」
「あ?金なんて知らねえな。何のことだかさっぱりだ。なあ、ロート」
「何それ・・ひどい・・」
「ひゃははははっ!!さっさとおうちに帰んな」
授業料と称して金を要求していたが、はなから約束を守る気などなかったのだろう。
少女を嘲ると、2人は下品な笑い声を出した。
「何が“等価交換”よ!この大うそつきのへっぽこ錬金術師!!もういいわよ!あんたたちなんかに教わらなくても、もっといい先生を見つけるから!!」
「もっといい先生?」
「へっへっへっ、もっといい先生ねえ」
何が可笑しいのか、顔を見合わせると、含み笑いを浮かべる。
「何よ、何がおかしいのよっ!」
「残念ながら、そいつは無理な相談だぜ。この街にゃあ、お嬢ちゃんに術を教えようなんて奴は、1人もいやしねえのよ」
「そ、そんなことわかんないでしょ!!」
「それがわかるんだよ。なんせお前の親父がーーー」
「おい」
得意気にしゃべるゲルプを、ロートが止めた。
「おっと・・・とにかく、諦めることだな」
「え?何?パパがどうしたの?ねえ、教えてよ!!」
「ちっ、うるせえガキだな。もうこれ以上、話すことなんかねえよ!!」
腕にすがりついてくる少女を、ゲルプは乱暴に振り払った。
「ほんと、扉が多い街ね」
扉の向こうへ抜けると、エリスが呆れたように言った。
「面倒でかなわねぇぜ。ただこの先の駅へ行きたいだけなのに、ずいぶんと遠回りをさせられたもんだ」
「ここから先は、何事もなく行けるといいね」
「そう願いたいね」
その時、なにやら声が聞こえた。続いて、いかにもガラの悪そうな男の声。
見れば、人集りが出来ている。
駅はすぐそこなのに、エドワードは好奇心が抑えきれない。
「なんだ?」
そう言うと、人集りの方へ歩いて行く。
「野次馬ねぇ」
「あはは、でも気になるね」
「そうね」
アルフォンスとエリスも、エドワードの後を追った。
「しつこいってんだよ、このガキ!!」
「きゃあーーっ!」
人の輪を掻き分けると、悲鳴と一緒に、少女がエドワード目掛けて弾き出された。
その少女を抱き留めると、顔を覗き込む。
「大丈夫か?あっーー!!」
「あんたーー」
アルフォンスは、散らばってしまった少女が持っていた白い花を、一輪一輪、丁寧に拾い集めた。
「はい」
「あ、ありがとう・・・」
鎧の中から聞こえた優しい声に、戸惑いながらも差し出された花を両手で受け取る。
地面を見ると、千切れた花びらがまだ幾つか落ちている。
少女が摘んだ花は、茎は折れ、花びらも汚れてしまったいた。
セレネの墓に手向けてあった花を思い出し、エドワードとアルフォンスの胸に怒りが湧いてくる。
「おじさん、事情はわからないけど、ちょっと大人気ないんじゃないかな」
静かな口調だが、その中にはっきりとした怒りを、エリスは感じとった。
「なんだてめぇは?」
エドワードたちを見下すゲルプの傍に、ブラオが小走りで駆け寄った。
「あの男、さっきのーー」
ブラオが何やら耳打ちすると、ゲルプは目をむいた。
「国家錬金術師!?」
「えっ!?」
少女は驚いて、エドワードを見る。
「だったら?」
「悪いが、ここを通すわけにはいかんな」
ロートがニヤリと笑った。
「それはちょうど良かったね、兄さん」
抑揚のない声が、アルフォンスの怒りの大きさを表していた。エリスは、少女の腕を掴む。
「え?何?」
「下がるわよ」
2人の落ち着き払った態度が、ゲルプは気にくわない。
「なんだと?」
「あんたたちをぶちのめす、理由が出来た」
両手を合わせ、左腕を鋼剣に錬成した。
「ーー!!」
エリスに腕を引っ張られながら、エドワードを見る少女の瞳が、喜びに満ちた。
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