パーティーへの招待状
ーービター・カルアミルク
彼女は、ほろ苦い彼を甘くとろかす
白いミルクチョコレートーー
待ち合わせ時間の30分前から、ザナルカンド・スタジアムのゲート前に来ていた花楠は、心細そうに辺りを見渡していた。
「ヴィンセント、早く来ないかな。やっぱり、一緒に来れば良かった」
試合が始まるまで、まだ随分とあるのだが
気の早いファンたちは、次々にゲートに入って行く。
そのあまりの人の多さに、花楠は心細そうに空を見上げた。
ミッドガルからここ、ザナルカンドまで送ってくれたシエラ号は、もうとうに見えない。
『ヴィンセントと、一緒に行けばいいじゃねえか。
せっかく、めかし込んだんだからよ』
シエラ号のブリッジで、操縦桿を巧みに操りながら、シド・ハイウインドはドレスアップした花楠を一瞥する。
綿菓子のような、花を描いた甘く柔らかなレースの袖の、ハイウエストのバルーンスカート。
生地は、琥珀色の艶やかなシルク・ジョーゼット。
花楠が身じろぐ度に、橙色の光沢がドレスの上を波打つ。
髪は華やかにカールさせ、左耳の下で、大きめの薄いピンクのリボンでまとめていた。
唇には、ピンクトルマリンのルージュ。
『だって、ユフィやケット・シーに見つかったら、ずぇったい冷やかされるもん』
バルーンスカートの裾に着けられたリボンを揺らして、照れくさそうに横を向く。
『ハハッ!ちげえねえ!』
花楠の言葉に、シドは煙草の煙りを吐き出しながら、豪快に笑った。
「でも、ザナルカンドって…ホント明るいな」
自分を見下ろす、高層ビルの群れを見上げる。
ミッドガルも随分復興したが、まだ、人々の中に廃退した意識があるように思えた。
しかしーー
リーヴさんやバレットも、星の未来の為に頑張ってるし
首を傾げると、耳につけたアーティスティックワイヤーで縁取った、白いシーガラスが揺れる。
難しい顔をしていた花楠は、急に笑顔になった。
「そうだよね、私も頑張んなきゃ!」
「何を頑張るんだ?」
「ひゃあ!!」
突然掛けられた声に、花楠は飛び上がった。
「ヴィンセント!」
「遅くなって、すまない」
漆黒の髪の奥から、珊瑚のような深紅の瞳が、優しく彼女を見下ろしている。
「全部・・見てた?」
「声を掛けるのが、惜しくてな」
唇の端が、僅かに上がる。
百面相を見られた恥ずかしさを誤魔化すように、話題を変えた。
「あ、ねえ、ヴィンセント。珍しいね、スーツなんて」
花楠の問いに、ヴィンセントはタークス時代を想わせる、黒のスーツの内ポケットから白い封筒を取り出した。
「?」
受け取った花楠は、訝し気に中を見る。
いつもの格好で来るな。スーツ着て来い。
「云うことを聞いておかないと、五月蝿くてかなわない」
「あははっ!絢さんらし~!!」
渋い顔をするヴィンセントと、招待主の無遠慮な文章に、花楠は笑い出す。
「花楠、パーティーが始まるまで、歩かないか?」
「え、いいの!?」
笑いすぎて目尻に溜まった涙を、ヴィンセントの指がそっと拭った。
「あぁ・・お前と、見知らぬ街を歩くのも・・悪くない」
艶めくルージュに惑わされ、彼は彼女を誘い出す。
そんな彼の思惑に気づいていないのか、彼女は満面の笑みを見せる。
「うん!」
手を繋いだ2人は、流れに逆らって歩き始めた。
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