Fullmoon
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真昼の月は、うっすら白く
空の青に、微かに浮かぶ
空が見守る大地には、人が造りた月が輝く
月は、頭上に七色の虹を飾る
だが、七色の虹も霞む程、波打つ月は青く澄み、白くさざめく
その月に泳ぐ、夕陽の赤
破れん許り歓声が、自分たちを通り過ぎても
熱い視線の先が、目の前の選手に集まっていても
ただひたすらに
ブリッツボールを追った
赤い色
沈みゆく、夕陽のあか
その赤に、魅せられてーー
【月に添う】
海を掻き分ける船が、ルカの港に近づいた。
この船を歓迎するように、海猫が集まって来る。
煩い程の、鳴き声。
「相変わらず、賑やかな街だな」
甲板のへりにもたれて、ボンヤリとルカの街並みを眺めていると、後ろから声がした。
その声に、ハッとする。
「ワッカさん」
満面の笑みで、名を呼ぶ。ワッカは隣に並んだ。
「アヤ、おまえ、ルカの出なんだろ?練習終わったら、みんなを案内してくれやってくれよ」
ワッカの頼みを、不思議に思った。
「でも、ルカには大会で何度も来てるんでしょう?」
「そうだけどよ。負けた後じゃ、観光する気にならねーだろ?」
そう言うと、ヘリに肘をついて、街を眺める。
「はあ、まあ・・」
そうだった。ワッカ率いるビサイド・オーラカは、もっか連敗記録を爆進中。
あまりに弱過ぎて、練習試合もままならない。
今回も、負けが前提らしい。
「まあ・・案内しても、いいですけど・・」
チラリと見上げ、いつもは出さない甘い声で返事をする。
「そっかあ?わりぃなあ~みんな喜ぶぞ」
そう言って目を合わさずに、バシッと大きくてぶ厚い手で、背中を叩いた。
「いてっ!!」
「じゃあ、みんなに言ってくるわ。おまえもそろそろ、降りる準備しろよ~」
ヒラヒラと手を振りながら、去って行く。
その姿が見なくなると
「ワッカのーーバカ!!鈍感!!」
思い切り、声を張り上げた。
ビサイド・オーラカに入団して1年。
オーラカ唯一のルーキーにして、女性選手。
どこかのんびりムードのオーラカが、彼女の入団で活気づいた。
最初だけ
「あ~あ、せっかくオーラカに入ったのに」
ため息と一緒に零れたのは、思い描いていたことと、あまりにもかけ離れた現在。
「カッコ良かったのにな・・」
プロに志願する前、オーラカの試合をルカで観戦した。
ちょうど、1年前の大会だった。
試合には負けたが、スフィアプールの中でボールを追うワッカに魅せられ、ビサイド・オーラカに入団を決意した。
両親を説き伏せて、ビサイド島に居を移し、ワッカと共に優勝を目指そうと、張り切っていた。
しかし、大会の度にワッカが口にする言葉は
「精一杯、頑張る!!」
「無理だよ・・そんなんじゃ」
試合に勝って、その勢いで一気に距離を縮めたかった。
だって、彼には、想い人がいるからーー
強力なんだよ、あの巨乳は
思わず、ため息と共に、心の中で毒づいた。
荷物を取りに行き甲板に戻ると、後ろから声がした。
「どうしたの?元気ないね、アヤちゃん」
振り返ると、一方的にライバル視している巨乳ーー
じゃない、ルールーの恋人チャップが立っていた。
「あ、いえ。何でもないです」
「そう?」
均整のとれた体付き。
甘いマスク。
落ち着いた物腰。
試合後に群がるファンも、決して邪険にしない。
オーラカ唯一、女性ファンがついている。
どうしてこの人が、ワッカさんの弟なんだろ。顔が違い過ぎる。
「そういえば、少しは進展したの?」
「へっ!?な、何がですか?」
腹の中で、色々黒い想いを巡らせていた為、慌てて返事をする。
「鈍感兄貴のこと」
「えぇえええっっ!?」
驚きのあまり後ずさると、彼はニコニコと見つめる。
「バ、バレてる?」
「うん」
「もしかして、みんなにも?」
「とーぜん」
「アヤちゃんの気持ち、気づいてないの、兄貴だけ」
その言葉に、ため息が出る。
「ですよね・・」
結構、あからさまにやってたからな。バレて当然か。
「でも、ワッカさんはーー」
言いかけて、口を噤んだ。
ーーあなたの恋人が好き
なんて、言えるわけない。
「兄貴、ルーのことが好きだからな」
弾かれたように、チャップを見る。
チャップは、優しい笑みを浮かべていた。
「ずっと前から、知ってたんだ。もし、兄貴がルーに告白して。
ルーが、兄貴の方が好きだって言ったら」
「言ったら?」
真剣な顔で、チャップを見つめる。
「その時は、潔く諦めようと思った。でも、兄貴はルーに気持ちを伝えなかった。
俺が、ルーを好きなの知ってたからかもしれない」
やっぱりーー弟の恋人になっても、好きなんだ。
「でも、この頃思うんだ」
チャップは、近づくルカの港に目をやった。
そのまま口を閉じた彼に、怪訝な顔をする。
「兄貴はーー」
「おう!もう着くな!」
ドヤドヤと足音が響き、オーラカの面々が甲板へ姿を現した。
「アヤちゃん。何、話してたんすか?」
キッパが聞いてくる。
「あ、えっとー、次の大会頑張ろうねって、話してたんです」
笑いながら、ごまかした。チャップも、そうだと頷く。
「次の大会は、是が非でも勝たねえとな」
ワッカが、チャップの肩を叩いた。
初めて聞いた強気な発言に、目を見張る。
「珍しいですね、そんなこと言うなんて」
ワッカは、白い歯を見せて笑った。
「そりゃあ、今度の大会には、プロポーズが掛かってるからな」
「えっ!プロポーズ!?」
港からルカの街へ入ると、取りあえず宿へ向かった。
一週間の滞在予定で、練習と、練習試合をみっちりこなす予定になっている。
スタジアムの前を通り掛かると、ワッカは立ち止まる。一行の顔を見渡すと
「みんな、先に行っててくれ。俺は、事務所で手続きしてから行くわ」
そう言って、独りでスタジアムへ向かおうとした。
「あ、ちょっと待ってよ」
チャップが呼び止める。
「兄貴独りじゃ、頼りないからさ。アヤちゃんも、一緒に行ってよ」
「え?」
「そうだね、ワッカさんだけじゃね」
「アヤちゃんがついててくれれば、安心だね」
「じゃ、よろしく~」
みんなは、口々に言いながら、サッサと行ってしまった。
取り残されて、2人で顔を見合わせる。
「しゃーねえ、付き合えや」
「あ、は、はい!」
気を利かせてくれたのかな
事務所へ向かう彼の後を、慌てて追った。
事務所の中で書類と格闘しているのを待つ間、スフィアプールのあるスタジアムへ行った。
試合が終わったばかりで、プールにはまだ水が残っている。
観客席には誰もいなかったが、プールが記憶した歓声が、今にも聞こえてきそうだった。
太陽が落ちかけて、橙色の日がプールを赤く染めていた。
あの日見た、スフィアプールと一緒だ・・
波打つ月の中に、赤い髪と青いバンダナ
子供のころ、図鑑で見た南国の鳥のように
月の中で、色鮮やかに舞っていた。
「アヤ、ここにいたのか」
横に立ち、プールを見上げた。
「終わったんですか?」
見上げたまま、尋ねた。
「あぁ。今日から使っていいってさ」
今日から使えって言われてもなあ~と、笑った。
「でも、大会ーー勝たねえとな」
その言葉に、ワッカを見た。
「勝って、いいんですか?」
その言葉に、驚いてこっちを見た。
「勝ったら、チャップさんとルーさん、結婚するんでしょう?」
「そりゃあ、いいに決まってんじゃねえか。変だぞ、おまえ・・んなこと言って」
口ごもりながら、俯いた。
「・・・」
その横顔を、じっと見つめる。
嘘つき。ほんとは、動揺してるくせに
「ワッカさん、宿に行く前に、泳いでいきませんか?」
「へ?」
突然の提案に、目を丸くする。
「私、まだ試合経験がないから。慣れておきたいんです。使っても、構わないんでしょう?」
「あ、あぁ・・」
少し強引に説き伏せると、戸惑いがちに返事をする。
「じゃあ、決まり!いこっ、ワッカさん!」
手をとって、入り口へ歩き出した。
プールに飛び込むと、すぐ泳ぎ出す。流石に、泳ぎは綺麗だ。
無駄な動きはないし、体躯がガッシリしている分、ダイナミックだ。
立ち止まると、掌を上に向けて、手招きをする。
自分を抜いてみろ
そう言っているようだ。頷いて、向かっていく。
ゴール前で、両手を広げて行く手を阻む。
水の抵抗で、地上を動くようにはいかない。
フェイントも、うまくかけられない。
先読みされてしまう。
彼の向こうに、ゴールがあるのに。
『このっ!』
万策尽きて、正面からいった。
『い゛っ!?』
避けようとしたが、近すぎて避けきれなかった。
肩が彼の厚い胸板に当たり、弾かれた。
後ろに大きくのけぞる私の腕を、慌てて掴んだ。
その腕を、立たせるように自分の方へ引っ張った。
その勢いで――彼に抱きついた。
『ーー!?』
腕を絡めて見上げれば、驚きに見開かれた瞳が自分を見下ろしている。
首に廻した腕に力を入れ、彼の目線の位置まで身体を持ち上げる。
そのまま眼を閉じて
唇を、彼のそれに押し当てた
触れた腕が 胸が
彼の筋肉が、一気に強張ったのを感じた。
どのくらい、そうしていただろう。
5秒か10秒かーー
さして、長い時間ではなかったと思う。
やがて、息が保たなくなって、彼の唇から離れた。
彼は、唇を押し当てた時からカチカチに固まっていて。
今も、瞬きひとつしない。
少しだけ苦笑して、腕を引っ張っり、プールの真上に顔を出した。
「ブハッ!!」
やっと息を吐き出して、ゼエゼエと肩で息をしている。
彼の前に顔を出し、息を整えた。
彼は、私と目を合わせずに、背中を向けた。
困ったように、頭の後ろに手を当てる。
「あ、あのよ。今のはーー」
「私、本気だから。ワッカさんが、他のひとが好きでも。私はーー」
水の月に、漂うふたり
真昼の月は、すっかり夕日に変わり
彼の髪を、いつもより赤くする
日に焼けた大きな背中は、水に濡れ煌めいて
私の恋心を遮った
「アヤーー勘違いだ。気のせいだよ。今のキ、キスだって、事故だ。だからよ、忘れろ。なっ」
あぁ、そうか。この人はーー怖いんだ。
私の気持ちを拒否して
私に嫌われることが、怖いんだ。
誰からも、嫌われたくない。
独りに、なりたくない。
『この頃思うんだ。兄貴は、
ルーに気持ちを拒絶されたら、辛くて、傍にいられなくなる。
それで、自分の気持ちを打ち明ける事も、出来ないんじゃないかって』
だから、私の気持ちを受け入れることも出来ない。
あの
でもーーハッキリと、拒むことも出来ない。
だから、見ないフリをする。
気づかないフリをする。
ーー狡い人 私をーー
傷つけることすら してくれない
向けられた、貴方の背中に
ポロポロポロポロ 涙が零れる
私の涙は 貴方がいる月に沈むことも出来ず
暗い空に取り残され
ただ、月に寄り添い
貴方に気づいて欲しいと光を放つ
雫石となった
あとがき
ユカ様からリクエストいただきました、ワッカ編です。
ワッカさんの、弱く優しいところが書ければいいなと思いながら話をつくりました。
