Fullmoon
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【夜明けの月】
もう、何時間続いているんだろうか。
この狂乱に近い騒ぎは。
スタジアムを見下ろす高層
会場になっているホテルの、最上階のレストランを借り切って夜通し続いている、ザナルカンド・エイブスのカウントダウン・パーティー。
ホールの中は、エイブスの選手と家族。それに、球団関係者で溢れかえっていた。
真ん中に置かれた幾つかのテーブルには、あたしが食べたことのないような、みるからに高そうな料理が並んでいる。
飲み物は、キレイなバニーガールが、尻尾を揺らして配っていた。
「アヤ、楽しんでるか!?」
「うん、勿論!」
「酒は?遠慮しないで、もっと飲めよ!」
「はーい、飲んでまーす」
「飲んでりゃいいや。遠慮しねーで飲めよ!どーせ、球団の金なんだし」
口々にそう言うと、あたしの話を最後まで聞かずに、ヒラヒラと手を振りながら行ってしまった。
今年ーーじゃない、もう去年か。入団したあたしも、ホールの隅でひっそりと参加していた。
お酒のはキライじゃないし、憧れの選手と一緒に居られるのは嬉しいけど。
流石に疲れてきたな・・・
すっかり壁の花になって、ぼんやりと窓の外を見た。
真夜中だというのに、窓の下に広がる、眩い光の海。
夜の闇は、遠くに見える本物の海の上だけ。
その闇の手前に、一層光り輝くスフィアプールという、地上に浮かぶ満月。
今夜は特別に、夜明けまでライトアップするそうだ。
そのせいか、空に浮かぶ月が、気づかれずに霞んでいる。
あの満月の中で、ジェクトとキスをした。
1年前のことだ。
その後、ジェクトの態度に変わりはなかった。
あたしはというと、なんとなく気まずかったが、変わらないジェクトの態度に、いつしか普通に接するようになっていた。
「アヤーー」
窓ガラスに、ジェクトが映った。
お酒が入っているせいか、いつものガサついた声が、益々嗄れていた。
ジェクトは独りで、このパーティーに参加していた。
愛妻は、もうすぐ出産予定日なので来ていない。
「ジェクトさん・・」
黒のハイネックブルゾンに茶色のパンツ。手には、薄茶色のウールのピーコート。
珍しく、長い髪をひとつに束ねていた。
いつもと違う装いに、つい魅とれてしまう。
「抜け出さねえか?アヤ」
「え?」
「朝までお開きになんねえぜ。最後までいても、つまんねえしよ。ちょっと付き合えや」
言いながら、腕を掴んだ。
白いビロードのワンピースの裾が
あたしの心と同じように、さざめく波のごとく揺れ
胸元のフェイクファーが、期待を煽るようにフワフワと肌を擽る。
耳を飾るダイヤモンドダストを模した、キラキラと光るピアスが
追い立てるようにぶつかり合って、シャラシャラと澄んだ音を立てた。
「あ、あのーー」
履きなれないパンプスによろけるあたしを
半ば強引に、パーティー会場から連れ出した。
ジェクトに連れて行かれたのは、そのホテルの屋上だった。
風は無かったけど、流石に空気は冷たい。
上着を持ってこなかったことを悔やみつつ、腕をさする。
「こっちだ、アヤ」
ジェクトはコートを着ながら、フェンスの傍で手招きをした。
近寄ると、ジェクトはフェンスのすぐ内側に移動する。
あたしは、その隣りに立った。
「毎年、あんなパーティーなんですか?」
少し呆れて聞いた。
「あぁ・・呆れたか?」
ジェクトは苦笑しながらも、どこか楽しそうだ。
「あ、いえ・・」
新人のクセに、生意気なことを言ってしまったと、思わず俯いた。
「年に一度のバカ騒ぎだ。目ぇつぶってくれ」
「すいません、生意気言って」
「まあ、いいさ。気にすんな」
眼前に広がる、ザナルカンドの街。
彼方に、眩い光が現れる。
それは、水平線に沿って暗い海の上を駆け抜ける。
駆け抜けた光が、漆黒の闇を白く染め始めた。
つかの間の夜さえ赦さない
その街の、夜が明けようとしていた。
「キレイ・・」
「あぁ・・」
自然と零れた言葉に、ジェクトが応えた。
白く輝きはじめた空は、薄紅色の彩りを添える。
浮かんだ月が、バラ色に染まり出した黒い空に、徐々に姿を無くしていく。
「あーーっ!」
不意に、ジェクトの大きな掌が
撫でるように、あたしの腰を抱き寄せた。
冷えた身体を温めるように、背中から両手を廻して指を組む。
あたしの身体は、ジェクトのコートの中にすっぽり収まってしまった。
背中に感じるジェクトの温もり
もう、手の届かない
どうしてーー
こんなにも、この人が好きなんだろう
愛しさと冷たい空気に、涙が滲んだ
「アヤ・・あの月が消えるまで・・・俺のオンナになれよーーー」
アルコールの香りが混じる微かな吐息が、耳にかかった。
浮かぶ月が、バラ色に輝く空に溶けかけている。
顔を上げると、ジェクトの紅い瞳が、すぐ傍にあった。
自分勝手な科白
この場だけの愛情
それでもーー
この月が消えるまで
甘く 切ない 我が儘なキスを
あたしにーーー
追記
続 地上の月です。
full moonシリーズは、いつも、最後の科白が決まってから書き始めます。
今回は『あの月が消えるまで、おれの女になれよ』
が浮かんでから書きました。
この話しは、必ず悲恋で終わります。
相手が誰でもです(笑)
