腕の中の幸福
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「何でえ、もう寝ちまったのか」
酒臭い息で、ジェクトは言った。
「がんばって、起きてたんだけどね・・」
出迎えた妻は、苦笑した。
2人の視線の先には、ソファーの上で丸くなる、息子の姿。
ジェクトはソファーの横にしゃがむと、息子の顔を見つめた。
「こうして寝てっと、かわい気があるんだがな・・」
太い節くれだった指で、ツヤツヤとした頬をつつく。
「ぷにぷにしてやがる」
息子の寝顔に、目を細めて微笑んだ。
「試合・・観てたのか?」
「えぇ・・」
妻は、目を伏せる。
ここ数年、ジェクトの成績は芳しくなかった。
年齢による、体力、スピードの低下。その上、練習嫌いに、気まぐれで傲慢な振る舞い。
他の選手との不仲。
とうにレギュラー落ちしても、おかしくない状況だった。
しかし、観客はジェクトを観に来る。
たとえ試合に負けても、スフィアプールの中にジェクトを求めるのだ。
それが、球団がジェクトを解雇出来ない理由だった。
だが往年のスーパースタージェクトも、さすがに引退を囁かれるようになった。
いくらファンがジェクトを望んでも、勝てないのでは仕方がないのかもしれない。
試合に勝たなければ、ジェクトは現役でいられなくなる。
子どもながらに分かっているのか、父親の試合はどんなに遅くても必ず応援していた。
「俺の前じゃ、悪態ばっかのくせに」
それを妻から聞いていたジェクトは、素直じゃねえなと呟く。
「あなた、ベッドに運んでくれる?」
「あぁ、わかった」
ジェクトは起こさないように、そっと抱き上げた。
規則正しい寝息をたてる、腕の中の我が子。
子ども部屋に運びながら、ジェクトは笑った。
素直じゃねえのは、俺の方かーー
コイツの為に、現役で居続けたいなんて
恥ずかしくって、言えやしねえ。
ベッドに下ろすと、毛布をかける。
母親ゆずりの金髪をそっと撫でながら、心の中で囁く。
最後まで、意地ーー張らせてくれや
なあ、ティーダ
【小生意気な幸せ】
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